ノルウェーのプログレッシヴ・ロック・グループ「WOBBLER」。99 年結成。1969-1974 年のプログレッシヴ・ロックの再現を目指すグループ。2023 年現在作品は五枚。最新作は 2020 年発表の「Dwellers Of The Deep」。
Lars Fredrik Froislie | vintage keyboards, vocals | Martin Nordrum Eneppen | drums, percussion |
Kristian Karl Hultgren | bass, sax | Morten Andreas Eriksen | guitars |
Tony Johannessen | lead vocals | ||
guest: | |||
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Ketil Vestrum Einarsen | flute, backing vocals | Ulrik Gaston Larsen | theorbe, baroque guitar |
Pauliina Fred | recoder | Aage Moltke Scholi | percussion |
2005 年発表のアルバム「Hinterland」。
内容は、メロトロン・ストリングス/フルートとハモンド・オルガンを多用、アナログ・シンセサイザーを効果的なスパイスに配した陰鬱なシンフォニック・ロック。
強い哀感と深い苦悩を緩急の急激な変化とクラシカルで枯れたアコースティック・サウンドを使って描く作風は、ANGLAGARD に近いものあり。
ただし、ダイナミクス、つまり嘆きの奈落の深さと昂揚の爆発力のスケールは絶頂期のかのグループらほどではなく、何もかもを振りほどいて立ち上がり突進する瞬間よりも、うつむいてぶつぶついっている時間が長い。
序盤で落差の大きな曲調の変化が暴力的に響くこともあるが、それ以降は、暗くメランコリックでデリケートな手触りの音ながらも、荒々しいタッチよりもポップな甘みやなめらかさの方が強く感じられる。
重苦しげな音にもかかわらず、YES や GENESIS といったお里がそのまま出てきてもあまり驚かないのは、そういうこなれたポップ・テイストが基調にあるからだろう。
これは良し悪しで、たとえば、タイトル大曲では重厚かつ悲哀に満ちた表情と荒々しいダイナミクスを KING CRIMSON 風の表現に倣っているが、前者が相応の説得力をもつのに対して、後者はそのブチキレ度合いの甘さのおかげで前者ほどのインパクトを与えていない。
ANGLAGARD はもっと狂っていた。
また、アナログ・シンセサイザーはアクセントとして要所を締めているが、突出すると一気に EL&P になってしまうから面白い。
そこまでくると、「ひょっとして生粋のプログレ・ファンか?」という疑問が当然浮かび、ハーモニーも GENTLE GIANT への意識と思えてしまう。
(ただし、声量不足などから技巧よりも頼りなさが先にたつ)
もちろん場所によっては、そのハーモニーに代表される、エグいまでの存在感がないことやアクもさほどでないことが、ANEKDOTEN の場合と同様に機能して、かえって切迫し、追い詰められた心情を表すのに効果を発揮しているとも思う。
そして、90 年代に散々試されたスタイルではあるが、不思議なほどに手垢がついた感じがなく、哀感にも切実さと清潔感がある。(若さの特権。メンバーの年齢は知らないが)
ミドル・テンポを大きく揺らさずに、素朴さを基調にしてシンフォニックなプログレさまざまな意匠を盛り込んだ作品である。
タイトル大作は、全体を通してじっくり味わうよりも、ヌケのいい場面やぐっと泣かせるところなどシーンごとに楽しむべきと思っている。
(作り手側もドラマというよりは融通無碍な即興風の作品という認識でいるのではないだろうか)
最終曲まで来ると、耳が慣れてくるせいか、各所の味わいが分かってくるようだ。
フルート、リコーダー、テオルボなどの古楽器はゲストによる。
全体に、なんというか、もうチョット感強し。
それでも、ものさびしい旋律が貫くパートの説得力はみごと。
タイトルである Hinterland は「後背地」を意味するらしい。プログレの港へ豊かな資源を供給する「Hinterland」的なバンドという自画自賛?
なににせよ、ANGLAGARD、SINKADUS らに並ぶメロトロンを駆使したヘヴィ・シンフォニック・ロックの好作品である。
プロデュースは、グループ、WHITE WILLOW のヤコブ・ホルム-ルポ、オイスタイン・フェサス。
「Serenade For I652」(0:41)
「Hinterland」(27:47)終盤の EL&P な音で目が覚めた。
「Rubato Industry」(12:45)佳曲。
「Clair Obscur」(15:37)ピアノとフルートによる序盤の語り口、終盤のメロディアスなテーマ演奏はみごと。
(LEI04I)
Morten Andreas Eriksen | guitars, voice | Lars Fredrik Froislie | keyboards, vocals |
Kristian Karl Hultgren | bass | Martin Nordrum Eneppen | drums, crumhorn, recorder, piccolo flute |
Tony Johannessen | vocals | Aage Moltke Schou | vibraphone, glockenspiel, percussion |
Ketil Vestrun Einarsen | flute | Sigrun Eng | cello |
2009 年発表のアルバム「Afterglow」。
内容は、オルガンやピアノ、メロトロン、アナログ・シンセサイザーなどのヴィンテージ・キーボードを駆使した正調 70 年代型プログレッシヴ・ロック。
攻撃的にたたみかけ、陰鬱ながらもメロディアスに歌い、フォーク風の枯れた叙情も醸し出す演奏である。
総じて演奏は余裕と安定感があり、独特な「歪さ」の演出もバランスよく行われている。
狂気や攻撃性を打ち出したところの迫力や躊躇のない哀愁の迸りは前作を凌いでいる。
鍵盤打楽器やチェロ、リコーダーによるアクセントもいい。
北欧の奇跡、ANGLAGARD と共通する作風である。
ただし、いま一つ芸術的な詰めが甘いような気もする。
たとえば、3 曲目、アコースティック・ギターのリードするアンサンブルのアレンジには、明らかに完成し切らなさがある。
楽曲そのものにもヴィンテージ・サウンドへのこだわりと同等のこだわりを入れてほしかった。
サウンド面で ANGLAGRAD や SINKADUS を思い出させるところが多いのだが、前者ほどの鬼気迫る感じや深刻さはない。
かのグループのような、思い込みが技術を超えたときの一種のたどたどしさというのも、重厚な雰囲気作りには重要なようだ。
一方、キース・エマーソン流のジャジーでパーカッシヴなオルガン・プレイが盛り込まれていて、それにリードされるところはかなり新鮮である。
メロディアスにたゆとう弦楽調の音もこういうアグレッシヴな音との対比によって生きてくる。
全曲、作曲は 99年 には完成していたようだ。
全曲ほぼインストゥルメンタル。
ヴォーカルは英語。
プロデュースは、ラーズ・フレドリク・フレイスリー。
収録時間は 35 分弱であり、CD としてはかなり短め。
おそらく、往年の音楽をそのフォーマット込みで再現することを心がけているのだろう。
インナーの写真からは、メンバーは木こりや猟師、または山賊を生業とする方々にしか見えない。
「The Haywain」(0:55)古楽アンサンブル風の序曲。大袈裟な感じがいい。
「Imperial Winter White」(15:02)初期 KING CRIMSON 風の序盤で吹っ飛ばされる。フルートも存在感を示す。前半のクワイヤ中心のメロトロン攻撃は圧倒的。
ヴォーカルは中盤でようやく登場。
後半のタイトなリズムで進む展開は意外。その辺りから GENESIS ファン気質丸出しになる。
展開は徹底して細切れであり、当たり外れが大きい。
「Interlude」(2:35)アコースティック・ギターとダブルベース、チェロによるトリオ。
「In Taberna」(13:10)
「Armoury」(3:00)
(TERMOCD 003)
Morten Andreas Eriksen | guitars |
Lars Fredrik Frøislie | keyboards, marxophone, backing vocals |
Kristian Karl Hultgren | bass, sax, glockenspiel |
Martin Nordrum Kneppen | drums |
Andreas Wettergreen Strømman Prestmo | vocals |
guest: | |
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Hanne Rekdal | bassoon |
Ketil Vestrum Einarsen | flute |
2011 年発表のアルバム「Rites At Dawn」。
内容は、ハイトーンのヴォーカル・ハーモニーが朗唱するフォーク、牧歌調メロディを弾けるようなリズム・セクションが支えるのが特徴的なテクニカル・シンフォニック・ロック。
70 年代初頭の YES のイメージが頭をよぎる、いや、正確には 70 年代中盤以降アメリカ辺りに多かった YES 影響下のバンド(「Relayer」好きが多かった)のパフォーマンスのイメージである。
メロトロンや管楽器らによる古めかしく素朴な味わいを基本に、アナログ・シンセサイザーなどのキーボードによってリズミカルかつきらびやかに化粧し、サックスやギターによって抜群の運動能力を誇示する。
緻密なアンサンブルによる立体的に込み入った音像を構成してぐっと息をこらえたまま無窮動でひた走る、このエネルギッシュで忙しない演奏はプログレならでは。
そこから一気に弛緩して、広がる地平線を悠然と眺めるような開放感もまたプログレならでは。
特に、打ち沈んだ表情に、英国ロック本流と同質のメランコリーやヒポコンデリーやヒステリーがある。
が
主としてヴォーカルによる中性的な印象とリズム・セクションによる骨太な逞しさのハイプリッドにも神秘的で妖しい魅力がある。
後追い系にありがちなドラッグ・クィーンを思わせる派手なニセモノ感が漂うことなど気にせず、ほとばしるメロトロンの哀愁とばちばちと跳ねる花火のようなリズムに身を任せると、桃源郷と煉獄が重なって見えてくるような気がする。
王道的な復古スタイルのシンフォニック・プログレッシヴ・ロックであり、倍速 YES なパフォーマンスの中で英国プログレのなんでもあり感を忠実に再現している。
そこに滲む透明感や清潔感は北欧ロックの味わいだろう。
復古スタイルそのものも、長い時間をかけて進化しているのだ。
ヴォーカルは英語。
「Lucid」(1:40)
「Lá Bealtaine」(7:52)
「In Orbit」(12:30)
「This Past Presence」(6:14)
「A Faerie's Play」(5:19)
「The River」(10:04)
「Lucid Dreams」(2:19)
(TERMOCD 008)