フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「XII ALFONSO」。 88 年結成。 作品は 2009 年現在ライヴ盤含め六枚。 気品あるニューエイジ、トラッド風シンフォニック・ロック。 2016 年新作は、アフリカの交易都市を扱った作品。
Francois Claerhout | keyboards, guitars, others |
Philippe Claerhout | guitars |
a lot of musicians... |
2012 年発表の第六作「Charles Darwin」。
進化論を唱えた 19 世紀の大科学者チャールズ・ダーウィンの生涯をテーマにしたコンセプト・アルバムである。
ダーウィンの人となりや生涯には詳しくないのでここの音楽がどれだけそれらを描いているかは分からないが、作風としては、ジャズ、クラシック、フォーク(ケルト風味)、ロック、ニューエイジ、歌ものポップスといった枠組みを自由に組み合わせて丹念に織り上げていて、その音は透明感にあふれ、豊かなハーモニーの響くメロディアスなものである。
これまでと同様に今回も、多彩な器楽を動員してフォーキーかつジャジーな美しいアコースティック・サウンド(エレクトリック・キーボードも多用しているが管弦楽器のニュアンスから大きくは外れない)を奏でている。
そのカラフルにして雅、上品なペーソスの味わいが、まず魅力といえるだろう。
しかし、いつになくギターを中心にしたエレクトリックなサウンドとビートも取り入れられており、したがって、ロック・バンドらしいノリも多く、まったりしたニューエイジっぽさ一辺倒が苦手な方(わたしのこと)でも楽しめると思う。
また、GENESIS や PINK FLOYD がわりとダイレクトに見えるところから考えても、やはり創作の基本的な部分にプログレ好きという気質があるのだろう。
マギー・ライリー、ティム・レンウィック、フランシス・ダナリーなどゲストも豪華。
CD 三枚組。
きちんと理解はしていないが、「進化論」というのはきわめて長い時間をかけた生物の種の変化を唱えた理論なので、その時間的なスケールの大きさゆえに、物的証拠による批判、見直しの洗礼を受ける機会がまだ多くないのではないだろうか。
今この瞬間にもどこかで進化している種があるのだろうが、それを知るには何万年も先にその変化が確実なものになって種全体に広がっていることを確認するしかない。
未来の人類が進化論が正しいことを確認できるようにするには、今の人間が資料を残す必要があるだろう。
(XIIALF 07/08/09)
Philippe Claerhout | guitars | Francois Claerhout | keyboards programming |
Stephane Merlin | keyboards | Caroline Lafue | vocals |
Mickey Simmonds | keyboards | Laure Oltra | texts |
Bernard Auzerol | bass | Laurent Dupont | bass |
Dan Ar Bras | guitar | Thierry Volto | drums |
Caroline Monteil | flute | Laurent Sindicq | contrabass |
Thierry Moreno | drums, percussion |
96 年発表のアルバム「The Lost Frontier」。
結成メンバーによる第一作にして唯一作(本作以前にも 93 年にシングルは製作したらしい)。
内容は、透明感あふれる弦楽の音色をフィーチュアしたクラシカルかつノーブルなシンフォニック・ロック。
シンセサイザーによる雄大な管弦楽に加え、エレガントなヨーロッパ・ジャズや癒しのワールド・ミュージック/ニューエイジ系の音をたっぷりと用いた、美しい作品である。
90 年代の音楽の潮流の一つであるケルト色(女性ヴォーカルと合わせて、マイク・オールドフィールドと共通する面もある)もあり。
キーボードによるストリングスや管楽器のサウンド、ニュアンスは本物のオーケストラとなんら区別はつかず、他のバンド系の楽器とのバランスも申し分ない。
リズムレスのインストゥルメンタル・パートは、もはやシンフォニック・ロックというよりもキーボード・オーケストラといった方が、実体をより的確に示しているかもしれない。
7 曲目や 8 曲目はまさにその典型である。
また全体に、叙景的なストーリー・テリングも巧みであり、あたかも台詞の少ないヨーロッパ映画でも見るような安らかな気持で、アルバム一枚を聴き通すことができる。
こういうサウンドだとメロディアス、ハーモニックなあまりに、ダイナミックさや力強さを欠くこともあるが、本作はそういうこともまったくなく、安定感に加えてバンド的な躍動感を備えた演奏になっている。
エレクトリック・ギターの深みのある音色は、ヴォーカルやキーボードの響きとよく照応して豊かなイメージを伝えてくる。
リズミカルな演奏の一部ではネオプログレ風のイージーさ(リズム・パターンやありきたりのギター・ソロなど)も露呈するが、それ以上に美しいサウンドと気品のある雰囲気の印象が強く、そういう点があまり気にならない。
お姉ちゃんヴォーカルのやや安っぽい「しな」は表現としてはあまり合わないと思うが、ひょっとするとこれは、アカデミックで固すぎるというイメージを抱かれないための工夫なのかもしれない。
同じキーボード主体の作風でも、CHANCE がいかにもエレクトリック然とした音を駆使したシンフォニック・ロックの最右翼とするならば、こちらはアコースティックなタッチを活かしたシンフォニック・ロックの筆頭といえるだろう。
特に、誠実なアルペジオを奏でるアコースティック・ギターとピアノそして木管系のシンセサイザーの表現は出色である。
元 CAMEL のミッキー・シモンズがゲスト参加。
ヴォーカルは英語。
ISILDURS BANE や TRIBUTE のファンへもお薦め。
「Hadrian's Wall Overture」(5:08)ややお約束の感あるも GENESIS 調のアコースティック・ギターのアルペジオが美しい序曲。
「Hello You」(4:18)女性ヴォーカルと器楽の美しい音色を活かしたポップス。しっとり目。
「Mist」(5:06)
「Minstrel's Tale」(8:27)
「The Ghost's Song」(4:03)
「Lazy Day In Haltwhistle」(3:32)
「Back To Northumberland」(3:33)美しきクラシカル・ロック。
「Edges Of Empire」(2:29)
「Diving Into The Coal Womb」(2:29)
「Breathing, Scarcely」(5:49)
「Wheels Of Change」(4:58)
「Another Day In Haltwhistle」(2:17)
「Health」(5:14)
「Revival」(3:50)
「Thirteen Winds」(5:06)
「Anthem」(4:48)
(MUSEA FGBG 4183.AR)
Laure Oltra | lyrics | Tito Correa | lyrics | Jean Luc Payssan | mandolin, bass pedals |
Judith Robert | vocals | Sandrine Rouge | vocals | Philippe Rouge | percussions, lithophones, flute |
Antoine Tome | vocals | Laurent Dupont | bass | Thierry Moreno | musical glasses, drums, percussions, lithophones |
Bernard Ozerol | bass | Lionel Gibaudan | bass | Francois Claerhout | keyboards, lithophone, rainstick, cymbales, percussion, programming |
Michael Geyre | keyboards | Stephane Merlin | keyboards | Philippe Claerhout | bass, vali, lithophones, vocoder, e bow, keyboards, chapman stick, kora, balaphone |
Mickey Simmonds | keyboards | Stephane Rolland | guitar | Stephane Barrincourt | guitar |
Dan ar Braz | guitar | Thierry Payssan | organ | Julio Presas | guitars, bass, vocals |
1999 年発表の第二作「Odyssees」。
内容は、効果音など劇的な演出と透明感のあるサウンドによる、みずみずしくオシャレなシンフォニック・ロック。
メロディアスなロック・サウンドに、フレンチ・ヴォイスによるシャンソン・テイストからアフリカン、アジアンなワールド・ミュージック調、骨太なフォーク・タッチまで多彩な音楽性を入れ込み、アコースティックで透明感のあるイメージでまとめている。
ファンタジーというと暖かみが先立つような気がするが、本作のファンタジー性は、無常感ともいうべきクールネスをたたえている。
大人向けの音といえるだろう。
映画音楽に近いニュアンスも感じられる。
いわゆる「ロック」なビート感はさほど強調されていないが、全編パーカッション系の音に工夫を凝らしているところがおもしろい。
ギタリストは三人参加しているが、マイクオールド・フィールドとスティーヴ・ハケットの中間のような、メロディアスで弦の響きを大切にしたいいプレイを聴かせてくれる。
アコースティック・ギターの説得力ある演奏が光る。
また、ヴォーカリストは、前作の女性から別の三人の女性に代わり、男性ヴォーカルもフィーチュアしている。
今回もフランス語の響きがいい感じだが、9 曲目の訛りのある英語による男臭いバラードも悪くない。
アルバムは、スリーヴの写真やイラスト、曲名など判断して「未知への旅」、「探検」といった主題をもつと思われる。
今回も 70 分たっぷりのオディッセイであり、ロックらしさは前作を凌ぐ。
MINIMUM VITAL のペイサン兄弟も客演。
さて、3 曲目に LITHOPHONE という楽器がクレジットされているが、写真によると、鍾乳洞の岩を叩いて音を出すことのようだ。
(MUSEA FGBG 4303.AR)
Laure Oltra | lyrics |
Francois Claerhout | keyboards, acoustic guitar, percussions, brushes,drum sampling & programming |
Philippe Claerhout | guitars, e-bow, bass, oud, lute, harmonica, keyboards, glockenspiel, gongs, percussions |
Michael Geyre | keyboards, accordion, sampled percussions |
Thierry Moreno | backing vocals, whistle, percussions |
2001 年発表の第三作「Claude Monet Vol.1」。
日記や書簡に基づいて画家クロード・モネの暮しを活写した作品。タイトルから第一部ということらしい。
フレンチ・ヴォイスとアコーディオンやギターといったアコースティックな音の質感を活かした、メロディアスでややノスタルジックな音楽である。
アコーディオンの響きとシャンソンなど、間違いなくフランスらしい音だが、どちらかといえば、都市部の小粋な、小洒落たエレガンスというよりは、田舎のお祭りのダンスのような素朴なフォーク風味があり、そしてそれを内省的で厳かなクラシカル・タッチが底辺で支えている。
ピアノのほかにエレクトリック・キーボードもフル回転しているが、シンセサイザーもアコースティックな質感のサウンドを発している。
全体としては、ほのかな哀愁の漂う緩やかでアンビエントな歌もの室内楽といっていい。
それだけだとシンフォニック・ロックといえなくなってしまうが、そこはそれ、壮大なストリングス、シンセサイザー・オーケストレーションをフルに活かした、重厚にしてロマンティックな作品でバランスを十分に取っている。
後半へゆくにしたがい、多彩な音楽性にびっくりさせられる作りになっているのだ。
8 曲目は御伽噺を語るような調子がすてきな歌もの。ピアノはブレンデルのハイドンのようです。
一転、弦楽奏とシンセサイザー・シーケンスによるスリリングな小品の 9 曲目からピアノとギター、管弦によるロマンティックな 10 曲目、トラッド調アンサンブルの 11 曲目への流れは感動的。
技巧的なアコーディオンと木管風のシンセサイザーが印象的だ。
マイク・オールドフィールドへの意識は相当強そうだ。
14 曲目はこの作品では異色の存在だが、ラテン・タッチのあるメロー・フュージョン。何かふっ切れたようなカフェ・アプレミディである。
もっとも、イントロとアウトロをクラシカルなソロ・ギターにするところがニクい。
また終曲は、オーケストラとともにジャジーな音も活かし、奔放な音使いでパノラマのようにアルバムを回想する、きわめて個性的な名曲。
エレクトリックな音を散りばめるセンスもすばらしい。
ピアノ(YAMAHA の電子ピアノ含む)、アコースティック・ギター、木管系の音が美しい。
アンニュイなナレーション、女性ヴォーカル(フランスものらしい演劇調もあり)、一部のギターにはゲストを迎えている。
カバー、ブックレットも非常に美しいです。
(MUSEA FGBG 4397.AR)
Laure Oltra | |
Francois Claerhout | |
Philippe Claerhout | |
Michael Geyre | |
Thierry Moreno | |
and more ... |
2005 年発表の第四作「Claude Monet Vol.2」。
画家クロード・モネを題材とした作品の第二部。
ちなみに、副題に「1889-1904」とあるが、1904 年は没年ではない。
1904年、睡蓮の画作に煮詰まったモネはスペインへの旅行を敢行し、ゴヤ、ベラスケス、エル・グレコの作品と見える。
そこで再び強いインスピレーションを得、製作を続けたそうだ。
さて、内容の方は、アコースティックな肌合いの音をすみずみまで行き渡らせた、クラシカルかつジャジー、フォーキーなシンフォニック・ミュージック。
叙景的な小品を連ねた映画音楽に近く、高級な B.G.M といってもいい。
淡く透明感あふれるファンタジックなサウンド・スケープをキャンバスに、ラグタイム、モダン・ジャズ、フュージョン、クラシック、民族音楽、教会音楽、電子音楽、モンド/ラウンジ、ヴォードヴィル、アニメーション映画音楽、などあらゆる音楽を盛り込み、フランス語のモノローグを散りばめて、躍動する筆致で描いたみずみずしく神秘的な夢物語である。
ミクスチャーというのではなく、要素をそのまま巧みにパッチワークして新しい音楽を生み出そうとしていると思う。
音楽の係り結びもかなり独特であり、あてどなく流れるかと思えば突如強固なベクトルで進むなど、気まぐれな思考のように自由闊達、融通無碍である。
そして、その展開に追従していこうとのめり込むよりも、少し距離を置いてそれとなく鑑賞する方が正しくこの音楽をとらえられるだろう。
(つまり、美術作品を鑑賞するのに似ている)
全体に前作よりも躍動感が強調されていて、エレクトリックなシンフォニック・ロックといえる場面も多い。
ジャジーでファンキーな面すら見せている。
したがって、CAMEL のようなメローでファンタジックな音が好きな方にはお勧めできると思う。(15 曲目の中盤など)
基調はライトなフュージョン・タッチとワールド・ミュージック、といってしまうと重要な特徴である「凛然とした気品」を打ち消しそうでこわいが、ジャジーなテイストを活かした軽快で爽やかなロマンを湛える作風である。
映像的な演出の効果音を含め、じつにさまざまな音がある。
楽器の音色や使われ方で特に印象的なのは、アコースティック・ギター(深い残響をかけるのが得意)、フルート、チェロ、美しい木管楽器(ハインツ・ホリガーの諸作を連想)、アコーディオン(ノスタルジックな演出には不可欠)。
エレクトリックなサウンド・メイキングは、ノスタルジックな演出をカットバックし、アコースティックな音を美しく聴かせるためのツールとして利用しているという感じだ。
変わったところでは尺八のような音も入っている。
また、エレクトリック・ギターというのは、喧しくなければ、管楽器的なニュアンスも生まれてじつにいい楽器だと再認識した。
(脱線。きわめて私見だが、エレクトリック・ギターによるロックのアドリヴのニュアンスというのは、ジャズ、特にフリージャズのサックスのアドリヴに端を発しており、ジャズ・ギターとは異なる流れに位置していると思う)
1 曲目は、全体を見渡すような躍動感あふれるミュージック・オムニバス。
2 曲目は、バス・クラリネットだろうか、低音の管楽器とさえずるようなフルートによるノスタルジックなオールド・ジャズ。
3 曲目は、管楽器風のキーボードとピアノ、オルガンらによるスイング・ジャズ。エレクトリックなサウンドの薬味が効く。
4 曲目は、まろやかでファンタジックな、HAPPY THE MAN、CAMEL 風の作品。ラグタイム調のピアノやケルト風味をはさむ。
5 曲目は、小曲ながら、めまぐるしくさまざまな音楽をゆきかう名作。厳かなコラールに驚く。
7 曲目は、ヘヴンリーなギター・アンサンブル。アコーディオンの調べがやさしい。
8 曲目は、昔の VIRGIN レコード(というかマイク・オールドフィールドか)の作風を思わせる、きらめくようなシンフォニック・チューン。
今回も画集そのものといっていい美しいブックレット付き。
今の世ならば、こういう一種のジャンル超越の総合音楽のような作風のアーティストがもっといてもいいと思うが、意外に多くないようだ。
クラルホー兄弟のインスピレーションと編集力というのは、並々ならぬものなのだろう。
(MUSEA FGBG 4540.AR)
Francois Claerhout | keyboards, guitar, sampler, percussion, pan-flute |
Philippe Claerhout | acoustic guitar, guitar, bass, bouzouki |
Michael Geyre | keyboards, accordion |
Thierry Moreno | snare, percussion on 1,4,8,9,11 |
Dominique Caubet | fretless bass on 1,3,6,8 |
Fabien Lo Cicero | fretless bass on 2,3,4,5,6,7,8 |
2009 年発表の第五作「Under」。
意表を突く、アコースティックな器楽をふんだんに交えたエレクトロニカ調の作品である。
エキゾティックな舞踊調のメロディや哀愁のアコースティック・ギターも奏でられるが、ジャケットの水泡のような電子音/ビートによって背景が常に彩られている。
ただ、その電子音は、シーケンスという用語のイメージとは離れた、あまりに優しく精妙なタッチの音である。
マイク・オールドフィールドのミニマルだがアナログなタッチをシンセサイザー・ミュージックにうまくブレンドして馴染ませたといってもいい。
80 年代のニューエイジ・ブームの際にもこういうアプローチがあったのかもしれないが、個人的にはかなり新鮮だった。
また、ヒップホップ風のリズムとともにフェンダーローズやアナログ・シンセサイザーがジャジーに跳ねるシーンや、ハモンド・オルガンが唸りをあげてキバを剥くようなシーンもある。
プログレというバックグラウンドを十分活かしてモダンなクラブ・ミュージックを作り上げているというわけだ。
そして、さまざまな録音音源がパッチワークのように織り上げられて、電子音の背景とともに、あたかも夢の世界を漂流するような効果を上げている。
昆虫の複眼のようなレンズ群にさまざまな映像が散りばめられたイメージは、ダグラス・トレンブルの古い映画を思い出させる。
テーマは、真実の表層下にこそ真実があるのでは?という重厚な問いかけである。
CD を取り出した空のトレイには巨大な原子爆弾の写真があり、最終曲では、マーティン・ルーサー・キングの有名な演説が引用される。
(MUSEA FGBG 4814.AR)