IL CASTELLO DI ATLANTE

  イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「IL CASTELLO DI ATLANTE」。74 年結成。2019 年現在作品は十枚。 2018 年新作「Siamo Noi I Signori Delle Terre A Nord」は第一作の再録音。
  ヴァイオリン、キーボードをフィーチュアしたメロディアスなシンフォニック・ロック。 70 年代イタリアン・テイストとネオ・プログレ・サウンドをブレンドした、不器用ながらも人好きのするサウンドだ。

 Tra Le Antiche Mura
 
Aldo Bergamini guitars, vocals
Massimo Di Lauro violin
Paolo Ferrarottti percussion, vocals
Dino Fiore bass
Roberto Giordano piano, keyboard, vocals

  2010 年発表の第六作「Tra Le Antiche Mura」。 第五作のアコースティック・アルバムをはさんで、久々のオリジナル新作である。 その内容は、キーボードとヴァイオリンをフィーチュアしたクラシカルな王道シンフォニック・ロック。 凛としたテーマを朴訥で誠実、暖かみのある調子で終始貫く演奏スタイルであり、このグループの基本路線は守られている。 メロディアスにして思慮深く、かつまたメランコリックすぎない主題を巡って、ピアノやヴァイオリン、チェンバロ、金管シンセサイザーなどクラシカルな表現をふんだんに盛り込み、さらには、リズム・セクションを巻き込んだバンドらしい呼吸でのやり取りも見せている。 さりげない変拍子アンサンブル、テンポとリズムの巧みな変化を織り交ぜて、とにかく、誠実で丹念な演奏である。 SITHONIA 亡き後、この路線を貫けるのは、もはやこのグループだけかもしれない。 演奏は、素直なヴォーカルを中心にした穏やかな調子が基本である。 ただし、穏やかなばかりではなく、激走こそしないが、先ほどいったようなリズムやテンポの切り換えなど運動神経のよさも随所に見せている。 したがって、メロディアスな表現であっても、90 年代以降のメロディアス・ロックのグループにありがちなべたつきはまったくない。 そして、テーマとなる旋律が、シンプルながらも英国ロックとはまた異なった独特の翳りを含んでいる。 訥々とした演奏ながらも、安っぽくならないのはこの旋律のセンスのよさによるのだろう。 また、なめらかでバランスの取れたアンサンブル表現のベースにはおそらく GENESIS があるんだろうが、基調である素朴さとやや フュージョン風の演奏になるところで、独自の色が出ている。 また、ノイズとコラールがオーヴァーラップしたり、金管楽器群を思わせるムーグ・シンセサイザー、朗々と響くオルガンなど、いわゆるプログレらしいアレンジも清々しいまでに堂々とおり込まれている。 もう少しコンパクトでもいいかなと思うこともあるが、この世界に入り込めば入り込むほどに、より長く深くと願うようになるのだろう。 今回も表現の上で ARTI E MESTIERI に通じるところが多々あると思う。(エレクトリック・ヴァイオリンのためだけかもしれませんが) ヴォーカルはイタリア語であり、原語の響きこそがイタリアン・ロックの魅力の一つであると再確認できる。 プロデュースは、ベペ・クロヴェラ。

  「Prefazione」(1:55)
  「Tra Le Antiche Mura」(12:26)パノラマのようにさまざま面を見せて展開する佳曲。呼んでは応えるアンサンブルでじっくり聴かせて、9 分辺りから突き抜けるのもよし。
  「Maleborge」(19:29)充実したキーボード・サウンドを活かしたクラシカルな力作。
  「Ancora Suonare Ancora Insieme」(8:25)
  「Leggie E Ascolta」(10:28)
  「L'uomo Solo」(10:49)
  「Epilogo」(2:39)

(ARTP 504)

 Sono Io Il Signore Delle Terre A Nord
 
Paolo Ferrarottti percussion, vocals
Dino Fiore bass
Aldo Bergamini guitars, keyboards
Massimo Di Lauro violin, keyboards
Roberto Giordano piano, keyboard, vocals

  92 年発表の第一作「Sono Io Il Signore Delle Terre A Nord」。 内容は、華やかにしてメロディアスなシンフォニック・ロック。 シンセサイザーを中心とした華美なサウンドと、リリカルなアコースティック・アンサンブルを組み合わせた、優しげな語り口が特徴だ。 基本スタイルは、軽快なネオ・プログレッシヴ・ロックであり、そこへクラシカルなヴァイオリンやキーボード、ヴォーカルらによるヨーロピアンなエキゾチズムをアクセントとして散りばめている。 古くは QUELLA VECCHIA LOCANDA、そして P.F.M らを辿り、そのままネオ・プログレ時代まで生き延びたような風格のある音だ。 ヴォーカルはイタリア語。 イタリアン・ロックながら、フォーキーな歌メロよりもフュージョン、ニューエイジ・タッチの音が目立つところが、いかにも現代の作品らしい。 SYNDONE らとともにラテン・ポップス、フォークなどの要素を持ち込んでプログレ復権を狙っているようだ。

  「Tirando Le Somme」(7:04) イージー・リスニングすれすれのシンセサイザーとピアノ、そしてギターによる爽快で軽やかなシンフォニック・ロック。 インストゥルメンタルが中心である。 強烈なグルーヴや挑戦的なプレイはなく、ひたすら素直でメロディアス。 リズムの切れやメリハリもないため、いろいろ音があるわりには安易な感じがする。 ヴォーカル・パートではイタリア語の響きがなんとか素朴な力強さの魅力をもたらすものの、全体としては、クラシカルというにはやや軟弱で惹きつけるものがない。 ネオ・プログレッシヴ・ロックとイージー・リスニングには不分明な境界があるが、本曲は、若干ではあるが、その一線を踏み越えてしまったようだ。 ピアノの 3 連とオーボエ調のシンセサイザーのアンサンブルによる中間部や、ファンファーレ調のシンセサイザーなど、もう一工夫すれば、また違った味わいがあっただろうに、なぞと余計な思いを抱く。 全体に腰のすわらない軽さが気になるが、これぞモダン・シンフォニック・ロックを特徴付けるものなのだろう。

  「La Foresta Dietro Il Mulino Di Johan」(8:29) ストリングス、ピアノをフィーチュアし、次々と場面が変転するスリリングなシンフォニック大作。 憂鬱なヴォーカルと苦悩するようなヴァイオリン、ストリングスによるロマンティックな雰囲気を軸に、随時緊迫したアンサンブルを交えて進んでゆく。 終盤には、マドリガル風の多声コーラスもあり。 鮮烈なソロ、せめぎあうアンサンブルを組み合わせており、緩急・強弱の変化もしっかりしている。 ヴォーカルがオペラ的な歌唱を見せるところもあるが、全体としては、演劇的というよりは華麗に流れてゆく絵巻物というイメージが近いかもしれない。 全体を通して音が引き締まっており、エンディング近くで、その緊張感が一気に音になって噴出する。 巧みなインストを交えた歌ものという印象は、まさにイタリアン・ロックの王道ということであり、前曲の印象を覆す力作といえる。 ロマンティックに歌い上げるヴァイオリンと華やかなシンセサイザー・ソロがみごと。 特に、ヴァイオリンは曲の頭と終わりに巧みに配されて大いに盛り上げている。 オープニングの鮮烈な決めが ARTI+MESTIERI 風なのは意識的?

  「Il Saggio」(5:03) エキゾチックなエレジー風のバラード。 ピアノ、ヴァイオリンによるやや東洋風の短調のアンサンブルはどこまでも物悲しく、ヴォーカルはメランコリックにして朗々と語り続ける。 ベタベタの哀愁ではなく、重厚さと厳粛なムードがある。 そして、ドラムレスのパートと躍動する演奏とのコントラストが劇的効果を生む。 ヘヴィなアクセントを叩きつけるも、全体のイメージは、このヴァイオリンと歌が決めているようだ。 リズムが入った後のメイン・パートにおけるギターやストリングスが、やや凡庸なせいもある。 ほんのり東洋風のピアノから想像するに、Il Saggio (賢人) とは、「東方の賢人」を意味するのだろうか。

  「Semplice Ma Non Troppo」(5:17) ヴァイオリンをフィーチュアした軽やかな快速インストゥルメンタル。 タイトル通り無窮動。 ヴァイオリンのリードによるイージー・リスニング・オーケストラ風の作品であり、「決まらなさ」のおかげでユーモラスで愛らしい味わいがある。 シンセサイザーの現れるまでの序盤の演奏で、その後がかなり心配になるが、ヴィヴァルディ調のヴァイオリンが現れてからは、開き直ったように雰囲気が一貫し、演奏に軸ができてくる。 ピアノもリチャード・クレイダーマンのように美しい。 ベースはもう少しフレーズを考えてもいいような、そして、ドラムスはもう少しパターンがあってもいいような。

  「Il Pozzo」(5:49) トラッド風のダンス・チューン。 フォルクローレの哀愁が七割、ルネッサンス宮廷調の雅が三割といった配分だろう。 エレクトリックな音は薬味であり、メインは完全にアコースティックだ。 ギター(名手です)、ヴァイオリン、ピアノ(スピネットもあるかもしれない)そしてヴァイブである。 そして、全体を貫くのが、素朴な旋律を歌うヴォーカル。 このテーマ旋律が繰り返されて、曲ができている。 もっともっと田舎臭くてもよかったかもしれない。 フィル・コリンズ風のドラミングと曲調との相性は今一つ。

  「Non C'e Tempo」(5:04) リズミカルなジャズロック調のシンフォニック・ロック。 SYNDONE と同じように、ノリのいいラテン・テイストたっぷりの作品である。 今回はメロディアスなギターが活躍する。 ドラムス、ベース、ピアノらが織り成す跳ねるようなリズムと、ギター、トラッド調のヴォーカルのなめらかなテヌートが、対比しながら進み、終盤になると、全体が太く力強い流れにまとまってゆく。 民族風のコーラスが入ると BANCO のような往年のイタリアン・ロックのイメージも出てくる。 さまざまな要素を叩き込み、強引な変化をつける姿勢が似ているのだろう。

  「Estate」(7:55) ピアノ・ソロをフィーチュアしたメランコリックな歌ものからスピーディなシンフォニック・ロックへと変転する。 前半は、ピアノの独壇場であり、美しい音色で哀しき夢物語を綴ってゆく。 デリケートな表情をもったすばらしい演奏である。 中盤、ストリングスの調べとともに、朗々たる歌がようやく現れる。 トラジックな重みにほのかな希望を浮かべた、みごとな歌唱である。 後半になって、リズムとともに一気にクラシカルなシンフォニック・ロックが立ち上がる。 メロディアスなギター、ビッグバンド調のゴージャスなテーマを繰り返しながら、最後までピアノのささやきや木管風のオブリガート、ギターらによる全体演奏が続いてゆく。 エンディングは、ダメを押すように緊迫したアンサンブルで攻め上がる。 テーマそのものは最初のピアノからすでに提示されていたようだが、最初と最後が全然違うというイタリアン・ロックによくあるスタイルである。

  「Il Vessillo Del Drago」(5:24) 再びヴァイオリンのテーマをフィーチュアした一気呵成、あっさり目のシンフォニック・ロック。 前半は,ヴァイオリンのなめらかさに抵抗するような手数の多いドラミングが特徴的だ。 ヴァイオリンのテーマは,ややフォーク、民族風であるのに対し、シンセサイザーのテーマは勇壮でクラシカル。 せわしなく走ってきただけに,中盤のアコースティック・ギターとメロディアスなヴァイオリンのデュオによる「引き」のパートがしっとりといい感じだ。 後半も,ヴァイオリンの調べによるリードのままに,リズミカルに進んでゆく。 マイナーのテーマと躍動するリズムのコンビネーションが,劇的な効果を生んでゆく。 オープニングとエンディングのテクニカルな決めは、P.F.M を意識しているのかもしれない。


  モダンなシンセサイザー、ギター・ワークながらもヴァイオリンとピアノを活かしてジャズ、クラシック・テイストをふんだんに盛り込んだプログレらしい内容である。 軽めの作品もあるが、そういう作品でもメロディ・ラインに歌心を感じさせるところはさすがイタリアものである。 特に、フォーク・タッチのアコースティックな歌ものの味わいがすばらしい。 また、曲構成にはさほどこだわらずにその場その場のフレーズと勢いで突っ込むのが得意なようだが、ジャズロック風のエキサイティングな曲ではそれが大成功。 そして、やはりヴァイオリンの存在感が大きく、ネオ・プログレ然としてしまいそうなところを,パワフルなサステインと高速スライダーのような変化球でしのぎ、全体にダイナミックさを加味している。 思い切ってヴォーカル捨ててジャズロックにするか、アコースティックな歌ものに徹するか、どちらかにすればよかったんではないか。 楽曲に意外な流れや調子の変化などがもっとあればいいのだろうが、今のままでは技巧だけが先走りしているようなイメージも強い。

(VMNP 03)

 Passo Dopo Passo
 
Paolo Ferrarottti percussion, vocals
Dino Fiore bass
Aldo Bergamini guitars, keyboards
Massimo Di Lauro violin, keyboards
Roberto Giordano piano, keyboard, vocals

  94 年発表の作品「Passo Dopo Passo」。 内容は、76 年から 84 年にかけて収録された、古いライヴ音源からの編集/リマスターである。 70 年代において、すでに高い完成度をもつ楽曲を演奏していたことが分かる。 よくぞ発掘してくれた、と拍手喝さいの内容である。
  さて、各曲に製作年月日がないために正確なことはわからないが、全般にいえるのは、複数のシンセサイザー(デジタル/アナログ混在と思われる)をフル回転させた、カラフルで軽快なナンバーが多いこと。 70 年代風の粘りつくようなサウンドよりは、80 年代風の音を使ったポンプ・ロック路線に近いようだ。 リズムもかなりシンプルである。 アコースティック・ギターを使ったヴォーカル・ナンバーに往年の雰囲気を嗅ぎ取ることは可能だが、それすらも、若干スタジオ補正によって現代風の立体感、エレクトリックな音響効果が与えられているようだ。

  1 曲目「Ouverture Per Un Concerto」は、コンサートのオープニング・ナンバーらしい。 クラシック調のギターをフィーチュアした派手なアンサンブルとモノ・シンセサイザーをうまく使ったヘヴィな演奏は、かなり濃厚な味わいだ。 シンセサイザーとゴリゴリ・ベースによる抑えたユニゾンが、なかなか渋く決まっている。 勢いよく飛び出してはグッと沈み込むパターンは、いかにもプログレらしい展開といえるだろう。

  2 曲目「Cavalcando Tra Le Nuvole」 ベースをフィーチュアしたイントロが面白い。 シンセサイザーやギターによるアッサリ目のリフ/演奏と、リズムの軽快さが目立つ、ネオ・プログレらしい演奏だ。 アコースティック・ギターのコード・ストロークの伴奏でヴァイオリンが入ると、アンサンブルはさらに飛ぶような軽やかさをもち始める。 後期の P.F.M に近いかもしれない。 ツルンとしたギターはハケット風といわざるをえない。

  3 曲目「Danza Sulla A Strada」 風の音から、電気処理されたヴォーカルがセンチメンタルに歌い出すオープニング。 伴奏はメローなエレクトリック・ピアノ。 救急車のサイレンとともに、シンセサイザーのリフレインが始まり、ヘヴィなリズムが加わる。 ギターも入ってきて、ハードなアンサンブルが走り出す。 強力なリフで突き進み、シンセサイザーが受けとめる。 ビートの効いたエレピによるクリアな伴奏でギターとヴォーカルが歌う。 ハードにして透明感があり、音の粒が明快な演奏が、ネオ・プログレッシヴ・ロック「らしさ」を強調する。 ヴォーカルは伸びやかな歌唱を見せ、メカニカルなシンセサイザーと情熱のギターらが歌を取り巻き、あくまで端正なイメージで曲が展開する。 再び、リズム・セクションの強力な推進力に押されて、アンサンブルが走る。 硬質なリフで攻めたてるが、うねりがないのでメカニカルなイメージだ。 そして、バランスを取るかのように、人間臭さを前面に出すヴォーカル表現。 ドラマチックなネオ・プログレ大作である。 IQMARILLION にも匹敵し、色彩感ではこちらに分があるかもしれない。

  4 曲目「Alice」 コーラスとエレアコ・ギターが美しいロマンチックなナンバー。 こういう歌心ある作品には、年代はあまり関係がないようだ。 いかにもイタリアンな情熱と肉感がある。 シンセサイザーの音がデジタルっぽいのは、あきらめるしかないだろう。 リズムが加わって以降は、ただただ派手で熱気ある演奏が繰り広げられる。 エレアコ・ギターのプレイにはラテン・フレイヴァーがあふれ、コーラスは吐息が聴こえそうなほど熱っぽい。 おそらくラヴ・ソングでしょう。

  5 曲目「Omer」 シンプルなリズムで走るシンセサイザー・ポップ・ナンバー。 無機的な伴奏やリズミカルなリフレインなど、いかにも 80 年代的軽薄さを象徴するような音である。 この軽薄な音に、イタリアン・ロックらしいラテンの濃厚さが注ぎ込まれて、なんとか薄まり過ぎないようにバランスを取っている。 楽しいが何も残らない合コンのような曲です。

  6 曲目「Epiciclo」 エレクトロニックな演奏がフェード・イン。 シンセサイザーがなめらかに流れ、ギターやオーボエらがさまざまに歌う。 しかし、すべてはシンセサイザー主導の流線型かつ玉虫色のアンサンブルへととけていってしまう。 そして、そのままフェード・アウト。 きらびやかなイルミネーションをつけた謎の宇宙船が地球軌道に接近したが、あまり興味も示さずにそのまま飛び去ってしまったような感じである。 一種のエレクトロ・ポップだな。 項垂。

  7 曲目「L'ombraTANGERINE DREAM 風シンセサイザー・ビートで始まる軽快な作品。 演奏はシンセサイザーだらけであり、そのシンセサイザーの伴奏で色っぽいヴォーカルが気持ちよさそうに歌いあげる。 まあ普通のポップスである。

  8 曲目「Il Cortile」 電子音から、一転アコースティック・ギターの渋い伴奏が始まり、よき時代が甦るヴォーカルが歌いだす。 後処理ディレイはやり過ぎ。 派手な演奏が多い中で、ホッとさせてくれる小品である。

  9 曲目「Passaggio」ヴァイオリンのカデンツァ。 音があまりよくないが健闘している。 ヴィヴァルディ風クラシック、現代音楽、ロック的なリフとさまざまに駆けずり回って、熱い演奏を繰り広げる。 音程は若干危うい。

  10 曲目「La Guerra Dei Topi」 フルートとアコースティック・ギターがリードする歌心あふれるイントロダクション。 リズムとともに、ハモンド・オルガンとシンセサイザーを得て走り出す。 ドラマチックな展開だ。 シアトリカルなヴォーカル、引きのメロトロンやワウ・ギターなども魅力たっぷり。 プログレ的な醍醐味あり。 おそらく 70 年代の録音。

  11 曲目「Babel」 激しく暴れるハモンド・オルガンとうねるギター・リフ、メロトロンの重厚な響きで始まる一大ページェント。 ギターと絡みあうスリリングなヴォーカル・パート、メロトロンから一気に轟々たるアンサンブル、そして泣きのギターと徹底したプログレ語法で攻めまくる痛快な内容だ。 爆発するインプロヴィゼーションから、一気に引いてメロトロンが憂鬱に夜空を満たし、フルートとヴァイオリンがクラシカルなメロディを奏でる。 息を呑む展開である。 そして、再び感情の高ぶるまま演奏は動き出し、フルートとヴァイオリンが交互にリードして、メロディアスなプレイが続いてゆく。 壮大なスケールを持ったシンフォニック・ロック大作。 かえすがえすも音質が残念。

  12 曲目「Chorale I」 メロトロンを中心にしたヴァイオリン、オルガンの荘厳なクラシカル・アンサンブル。 ギターのアルペジオ、エレピの演奏は、いかにもクラシカル。 最後は、リズムとともに、メロトロンの響きにひたりつつも、シンセサイザーがリードする重厚な演奏へと移ってゆく。 スケールの大きなシンフォニック・ロック・インストゥルメンタルだ。


  第一作の成功あってのこの音源発掘だろうが、これだけのものが日の目をあびて本当によかった。 オープニングと 3 曲目のドラマチックな大作以外、前半はネオ・プログレ前哨のような軽めのエレクトロ・ポップで占められている。 しかし、70 年代の作品と思われる最後の三曲は、すべてハイ・クオリティのシンフォニック・ロックである。 どれも正統的な重みを持ちドラマチック。 この内容を味わってしまうと、第一作でのネオ・プログレ調が少し残念だ。 しかしながら、シンフォニック・ロックの道を歩み続ける姿勢には感服です。 思い出のアルバムを開いたら、意外や面白い写真が一杯出てきたという感じでしょう。 もう少し録音よければ、まさに至福の一時といえた。

(VM 045)

 L'Ippogrifo
 
Aldo Bergamini guitars, vocals
Massimo Di Lauro violin
Paolo Ferrarottti drums, vocals
Dino Fiore bass, 6 string bass
Roberto Giordano keyboards, vocals

  96 年発表の第二作「L'Ippogrifo(ヒッポグリフ-グリフォンの怪物)」。 新譜としては二作目。 内容は、一作目をさらにメロディアスにした牧歌調シンフォニック・ロック。 エモーショナルながらもおだやかな表情が主であり、すべての楽器がレガートに歌い上げ、その中でヴォーカルも朗々と歌唱する。 キーボードやギターがリードするアンサンブルはクラシカルで優美であり、テンポやダイナミクスの大きな変化はあえて用いていないようだ。 緊迫感や厳粛さといった演出もほとんどない。 その代わり、透き通るようなデリカシーと明快にしてファンタジックなタッチがある。 10 分を越える長丁場を、強いアクセントや力技をほとんど感じさせずに乗り切るのだから、これは特殊なスキルといえるだろう。 自己陶酔か自己愛過多か分からないが、趣味を貫き、緩徐楽章だけでここまでの長編をものにできたことは天晴れである。 こういったマッタリした世界にひたりたいときには絶品であり、何物にも代えがたい。 ヴァイオリンは文脈的にはフィドルのように活発に走ってもいいところだが、頼りなげな風情で可愛らしくヴォーカルを彩ることに徹していて、そこが新鮮である。 音色や音程にもう少し配慮があるとさらによかっただろう。 ピアノやギターのプレイ、特にアコースティックな演奏には正直胸に迫るところも多い。 タイトル・ナンバーは力作。
  タイトルの「ヒッポグリーフォ」はグリフォンと馬の合いの子。なかなか興味深い含意があるらしい。

  「Lab Vittoria Di Er」(10:17) ややバラバラな感じのする演奏ながら、適度な緊張感とファンタジックな広がりがあるバラード調の作品。 おそらくテンポが中途半端なのだろう。 のびやかなベル・カント、朴訥なギターが印象的。 終盤のアコースティックなシーンは秀逸。

  「Volta La Pagina」(8:21)アコースティック・ギターのアルペジオにメロトロン・フルート、ヴァイオリンのハーモニーが重なるオープニングはファンには応えられないもの。 ヴォーカル・パートではピアノも伴奏に加わってくる。 まさしく 70 年代王道風のみごとな展開だ。 間奏での 3 拍子の舞曲風のアンサンブルへの切りかえ、ぐっと迫ってはふとリズムを外して力を抜く、などの呼吸もいい。 クラシカル・アコースティック・プログレの傑作。

  「L'Ippogrifo」(11:07) ジャジーなポップス調を主に、パノラマのようにさまざまな場面が移り変わってゆく作品。 いわば、クラシカルなアクセントを効かせたイージー・リスニング調ロックである。 1 曲目よりもテンポがいいせいか演奏に一体感があり、音がしなやかに力強く流れてくる。 ヴァイオリンのオブリガートも全体の雰囲気に合っている。 中盤、キーボードによるオーケストラ風の演奏から、アコースティック・ギター、オルガンのリードする演奏への展開はみごと。

  「E Recito Anch'io」(9:03) メランコリックなバラードが、スリリングなキーボードによって劇的な展開へと進む、モダンなタッチのネオ・プログレ秀作。 いわば、ヴァイオリンのある MARILLION。 まったりメロディアスなだけではなく、後半はかなり屈折した展開も見せる。 いきむヴォーカルがイタリアン・ロックらしさ満点。

  「Pioggia」(2:50)気品あるピアノ、ヴォイスが導く厳かで悠然たるシンフォニック小品。 キーボードによる管弦楽。

  「Chrysalis」(6:14)ピアノ、ヴァイオリン、エフェクトされた明るい音色のベースらが特徴的なイタリア音楽らしいクラシカル・ポップス。

  「Chorale II」(6:43)ロマンティックにして雄々しいクラシカルなインストゥルメンタル。若々しく真っ直ぐな目線に好感。 哀愁に傾きすぎないのがいい。

(VMNP 013)

 Come Il Seguitare Delle Stagioni
 
Paolo Ferrarottti percussion, vocals
Dino Fiore bass, vocals
Aldo Bergamini guitars, vocals
Massimo Di Lauro violin
Roberto Giordano piano, keyboard, vocals

  2001 年発表の第三作「Come Il Seguitare Delle Stagioni」。 演奏と曲想にバランスの取れた、現時点の最高傑作。 ARTI E MESTIERI の ELECTROMACTIC レーベルへと移籍した模様だ。 演奏スタイルや音使いはさほど変わらない(ただしドラムスのパターンが増え、オルガン系の音が加わっている)が、おっとりと朴訥に歌い上げるスタイルをポジティヴに活かした、みごとな音楽になっている。 粘っこいギター、垢抜けないシンセサイザーとクラシカルなピアノ、荒削りなリズム、なめらかなヴァイオリンが一体となった演奏には、ドン臭さを超越した、熱っぽく真っ直ぐなロマンティシズムがある。 そして、てんこ盛りの、出し惜しみのないアレンジでさまざまなシーンを描いていく。 ネオ・プログレ的なサウンドを使って、70 年代のドグサレたプログレ風味をかもし出すのに成功しているといってもいい。 同じくベテランの C.A.P と同じく、もっさりとしたイメージから次第に豊穣なヴァイブレーションが伝わってくる。 ハモンド・オルガンは、ひょっとするとミキシングに加わったベペ・クロヴェラ氏のプレイでは。

  「Sotto Il Ponte」(10:23)スティーヴ・ハケット氏を思わせる素朴にまろやかに歌うギターを中心に、叙情的にしてエネルギッシュな演奏が繰り広げられる傑作。 冒頭でヴァイオリンとギターで提示されるテーマは、シンプルながら、なんともいい味わいをもつ。 バタバタ・ドラムスやゴテゴテしたキーボードの応酬にクラシカルな音をアクセントとして放り込みながら、胸を張って迷わず進んでゆく。 朴訥な真っ直ぐさをフルに生かした作品として、SITHONIA の近作にも通じる内容です。 一貫したストーリーというよりは、絵本を一ページずつめくっては味わうような楽しさがある。

  「Printo Respiro」(2:44)ヴァイオリン、ピアノによるデュオ。短調のクラシカルな小品であり、哀愁に満ち、ひたすらロマンティック。

  「Ad Un Amico」(8:59)P.F.M 系のアコースティックなシンフォニック・ロック。序盤は美しい朝焼けをイメージさせる希望に満ちた演奏である。 テンポ、リズム・チェンジも自然である。 力強くもメロディアスなアンサンブルを経て、終盤、クラシカルなフレーズにまとまってゆくところがカッコいい。

  「Danza In Re Maggiore」(2:33)エレアコ・ギター、エレキギターによる、ほのかに南欧風のジャジーなアンサンブル。フランコ・ムッシーダをリスペクト?

  「Giudizio」(11:56)ロマンティックで情熱的な語り口はそのままに、テンポや調子の変化など現実感を薄めるような演出が繰り広げられる幻想的な作品。

  「Secondo Respiro」(2:05)

  「Stava Scritto」(16:10)

(ART 402)

 Quintessenza
 
Paolo Ferrarottti percussion, vocals
Franco Fava bass, vocals
Aldo Bergamini guitars, vocals
Massimo Di Lauro violin
Roberto Giordano piano, organ, keyboard, vocals

  2003 年発表の第四作「Quintessenza」。 内容は、再び、クラシカルでロマンティックなイタリアン・シンフォニック・ロックの王道。 GENESISJETHRO TULL を遠景に、母国のエース P.F.M を受け継ぐギター、深みのあるアコースティック・ピアノなどのキーボード、ARTI+MESTIERI のように朗々と歌うヴァイオリンらによる演奏である。 もったりとしながらも誠実で素朴な味わいのある音楽は、LOCANDA DELLE FATE 同様、いわば、大人の密やかな楽しみといったところ。 そういえば、切ないヴォーカル・ハーモニーなど懐かしの GS 風味も。 キーボードによる管弦楽調も、適度な音の「薄さ」がかえって味わい深い。 作風の特徴は、いくつかのテーマを巡りクラシカルで明快な係結びでさまざまな表情を見せてゆくところ、そして常に素朴で自然な情感が漂うこと。 ヴァイオリンによるなめらかでレガートなタッチを生かした叙情的な作品としては、近年まれに見る出来ではないだろうか。 ヴォーカルは、もちろんイタリア語。 1 曲目では、ARTI の直接的な影響も。


  「Non Puolfingere」(12:19)朴訥なギターのリードによるテーマを中心にアコースティックな音を交えた叙情派大作。 ARTI+MESTIERIP.F.MGENESIS など懐かしのプログレらしさ満載。

  「Il Marinen Forgla Il Sampo」(7:50)メランコリックなバラード調を基調とする作品。 発展の仕方が初期 GENESIS 風である。 ギターは再びハケット氏風の素朴でメロディアスなプレイが主。田舎風のにぎにぎしさと宮廷音楽調のアンサンブルがすんなりとけあうところがイタリアン・ロックの醍醐味である。

  「Il Tempo A Venire」(3:25)カンタゥトーレ風のヴォーカル、エレアコ・ギターとエレピの爪弾きによる穏かな伴奏。

  「Cavalcando Trale Nuvole」(7:06)ネオ・プログレらしい作品。リズムはかなり甘いが、リズミカル。

  「Questo Destuno」(14:59)無常感のあるバラード調の大作。 冒頭のシンセサイザーがカッコいい。厳かな讃美歌風のハーモニーが LOCANDA DELLE FATE 風のアンサンブルとともに明るさを取り戻してゆく様子に感動。

  「Il Tempo A Venire」(1:15)同名曲のリプライズ。こちらはティンパニが鳴り響く勇ましい終曲である。

(ART 112)


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