PARALLEL OR 90 DEGREES

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「PARALLEL OR 90 DEGREES」。96 年結成。 作品は六枚。 リーダーのアンディ・ティリソンは THE TANGENT なるユニットでも活動。 サウンドは、サイケデリック感覚と抜群の演奏力を活かした躍動感あふれるシンフォニック・ロック。 グループ名は、BO HANSSON の名作「Magician's Hat」中の一曲の副題から。

 Unbranded
 No Image
Sam Baine synthsizers, piano
Ken Senior bass
Andy Tillison vocals, organs, synthesizers
Gareth Harwood guitars
Alex King electric & acoustic drums
guest:
Martin Orford flute

  2000 年発表の第四作「Unbranded」。 内容は、ややハードなサウンドと、サイケデリックな音響も使った、モダン・シンフォニック・ロック。 リスペクトというクレジット通り、THE FLOWER KINGS にも迫る、しなやかにしてゴリゴリと力強くカラフルなパフォーマンスである。 しかし、THE FLOWER KINGSYES/GENESIS 系とすると、こちらは VdGG/ EL&P(もしくは THE NICE)系のハードな面が強調された演奏である。 実際、初期作品には THE NICE のカヴァーもある。 シンセサイザー、ピアノ、オルガンのプレイはエマーソン流、ヴォーカルのスタイルはウォーターズやハミル(怪しげな声色もある)、そして楽曲のノリは、前述通り VdGGJETHRO TULL の影響を感じさせる。 70 年代プログレへの傾斜はかなり大きそうだ。 演奏をリードするのは、二人のキーボーディストであり、センシティブなアコースティック・ピアノからダイナミックなタッチのシンセサイザー、ワイルドなオルガンまで、目いっぱいのプレイが詰め込まれている。 荒々しくもクラシカルなプレイばかりか、ジャジーなフュージョン風のプレイも得意そうだ。 基本的に、パート毎の見せ場というよりは、全体演奏の分厚いサウンドでグイグイと迫るタイプであり、その上で緩急や音の厚みを自然に変化させている。 ドラムスはきわめて今風だ。 最も特徴的なのは、サウンドにサイケデリック・タッチがあることだろう。 濃い色彩を強引に塗りたくるようなところから、パステル・カラーの渦巻きが無数に宙に舞うようなところまで、独特の酩酊感を演出している。 ファズ、ジェットマシン系の音がよく似合うといってもいい。 このサイケ・テイストも、ひょっとすると THE NICE の影響なのかもしれない。 執拗なビートが繰り出すクランチなリフの上で、シンセサイザーが、ギターが、宇宙に向けて飛び捲くる。 このサイケなプレイに、適宜、ピアノやヴォーカルによるリリカルなアクセントを交えてゆくところに、このグループのセンスが感じられる。 また、うっすらと漂うフルート、ストリングスによる夢幻世界の巧みな演出や、何があろうと遮二無二刻まれるスネア・ビートには、ジャム・バンド系のタフネスもある。 本作の作風からして、このグループは、HR/HM ですらハードな切迫感よりもメロディアスな泣きのスタイルが隆盛するイギリス・シーンにおいては、幻惑的で苛ついた轟音ロマンを感じさせる稀有の存在といえるだろう。 ただし、ヴォーカルが弱いのが難点。 別に美声である必要はさらさらないが、もうちょっと声そのものに存在感があった方がよかった。 IQ のマーティン・オフォードがフルート奏者として参加しており、ざらついたサウンドに潤いを与えている。 ギタリストも ANGE のブレゾヴァルを思わせる歌心を見せる巧者。

  「Gods Of Convenience」(9:10)THE FLOWER KINGSSPOCK'S BEARDDREAM THEATER も真っ青のシンフォニックかつサイケデリックなハードロック。 挑戦的ながらも懐の深さを感じさせるサウンド・メイキングである。

  「Migraine」(8:19)

  「Unbranded」(8:37)ヘヴィなサウンドにジャジーなヴォーカル、ピアノが無造作に放り込まれた、多面的な魅力あふれる傑作。 不思議なことに ANGE のイメージあり。

  「Shoulder To Shoulder」(11:26)PINK FLOYDJETHRO TULL を交ぜたような重厚な作品。 ヴォーカルはかなり FLOYD 風。

  「Space Junk」(10:39) OZRICS に迫るハード・サイケデリック・チューン。 ドラムスがすごい。

  「An Autopsy In Artificial Light(Afterlifecycle Part 2)」(25:05)ボーナス・トラック。サイケ・インプロ、メロトロンの高鳴るバラード、クラシカル・シンフォニック・ロックなど何でもありの果てに「悪の経典#9」と「You」が合体したようなものすごい盛り上がりのエンディングを迎える。 ポジティブな余韻は、THE FLOWER KINGS に迫る。 エマーソンばりのオルガンがカッコいい。
  
(CYCL 092)


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