RAW MATERIAL

  イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「RAW MATERIAL」。 69 年結成。 NEON レーベルからセカンド・アルバムを発表後、71 年解散。
  サウンドは、翳りあるテーマを管楽器やキーボードによるジャズ・テイストを交えて奏でるユニークなアートロック。 サイケデリックな毒気と VAN DER GRAAF GENERATOR に通じる暗鬱な詩情がある。 不思議なことにイタリアのグループを思い出してしまう音だ。

 Raw Material
 
Mick Fletcher sax, flute, harp, vocals
Colin Catt keyboards, vocals
Phil Gunn bass
Paul Young percussion
Dave Greene guitars

  70 年発表の第一作「Raw Material」。 内容は、ビート・グループの R&B 調を強めた初期型ジャズロック。 ファズ・ギターとくすんだオルガン、ピアノが憂鬱なヴォーカルを取り巻き、きらめくヴァイブと荒々しいフルートが足音高く踊る。 明確な音色によるソロをフィーチュアするジャズ・スタイルと、シンプルなリフとヴォーカルと緩めでパワフルなドラム・ビートによるヘヴィ・ロックが、みごとにぶつかり合っている。 器楽を大きくフィーチュアするスタイルは、CREAM が発明し、KING CRIMSON が確立した路線を受け継ぐ、正統的なものだ。 そして、すべてが陰りと憂いを湛えている。 ただし、器用過ぎるのか欲張りなのか、時にバランスを失って、HUMBLE PIE ばりのハードロックへと突っ込んだり、メランコリーの極致のようなフォークソングで空ろな表情を見せたり、JETHRO TULL そのものになったりする。
   ヴォーカルは、繊細さと張りのあるダイナミックさを、矛盾なく併せ持つ逸材。 特徴的なところはないが、荒々しい演奏の中にあっては、線の細さが意外な魅力になる。 また、ファズ・ギター、管楽器はともに長大なアドリヴを楽々こなすタフな演奏力の持ち主だ。 さらに、リズム・セクションは安定感抜群、特にドラムスは、ジャジーなプレイを苦にせずアフロなパーカッションも披露する、なかなかのテクニシャンだ。 そしてキーボーディストは、オルガン、ピアノ、メロトロンをプレイし、オードックスなバッキングから気の利いたオブリガート、さらにはかなり大胆な表現も見せている。 全体に何でもないような古めかしいサウンドだが、フルートとサックスが耳に残り始めると、かなり中毒性があることが分かる。 まさしくある時代を象徴する音であり、ブリティッシュ・ロック特有の魅力をしっかりと手渡してくれる作品である。 特に、オープニングの二曲の聴き応えはなかなかのもの。 難点は、アルバムを通した雰囲気が一貫しないこと。 謝辞のクレジットによると、管楽器奏者のフランク・リコティが参加している模様だ。 Evolution レーベル。

  「Time And Illusion」(7:31)フルート、オルガンを用いたニューロック大作。 メロディアスでセンチメンタルなヴォーカル・パートとオルガン、ヴァイブ(リコティと思われる)がリードするジャジーでサイケデリックな器楽パートで迫る。 オルガンとヴァイヴは熱っぽくもクールダウンしたダンスフロアの男女の視線のようにどうしようもなくすれ違う。その感じがいい。

  「I'd Be Delighted」(5:07)荒々しいフルートが執拗に絡みつく ROLLING STONES 風の R&B ロック。 サビの投げやりなハーモニーは、いかにも 60 年代。 後半にジャジーなサックス・ソロもあり。 終盤、脈絡をぶった切ったバリトン・サックス、オルガンらによるラウンジ風の演奏に意表を疲れる。

  「Fighting Cock」(3:49)物憂くエロティックなバラードが突如 8 分の 5 拍子のサイケデリック・ロックへと様変りし、度肝を抜かれる。 サックス・ソロあり。

  「Pear On Apple Tree」(3:00)シャフル・ビートで走るブルージーなロックンロール。 ブルージーなギター、ピアノが躍動する。

  「Future Recollections」(3:55)ヴァイブをフィーチュアした憂鬱なバラード。 余韻を活かすような沈んだ曲調と、手数の多いドラムスのミスマッチがおもしろい。 ヴァイブのソロではラウンジ風味が強まる。

  「Traveller Man」(6:14)ハーモニカ、ギターを用いた、JETHRO TULL そっくりのブルーズ・ロック。ヴォーカルはそっくりさんか? ギシギシに歪んだギターが圧倒的な存在感を見せつける。

  「Destruction Of America」(2:20) 暗いポエトリー・リーディングをメロトロン、ヴァイブらが支える異色作。 絶望感と無常感にあふれる。「天ではなく地上の現実に目を向けろ」と米国の宇宙開発政策を批判しているようだ。

  「Time And Illusion(different version)」(3:11)ボーナス・トラック。
  「Hi There Hallelujah」(2:46)ボーナス・トラック。
  「Bobo's Party」(3:13)ボーナス・トラック。
  「Days Of The Fighting Cocks(different version)」(3:08)ボーナス・トラック。

(Evolution Z 1006 / HBG 123/2)

 Time is...
 
Colin Catt vocals, keyboards
Phil Gunn bass, acoustic guitar
Dave Greene electric & acoustic guitars
Paul Young percussion
Michael Fletscher sax, flute, vocals

  71 年発表の第二作「Time is...」。 内容は、トラッド・フォーク調のテーマを管楽器をフィーチュアしたジャジーなサウンドで奏でるヘヴィ・ロック。 JETHRO TULLVAN DER GRAAF GENERATOR そのもののようなところも多い。 ワイルドなギターとハイトーン・ヴォイスによるハードな調子に、フルート、サックス、オルガンやピアノらを使って、ジャズやトラッド風味を加え、独特の世界を作り上げている。 ジャジーなサックスが一本筋を通し、フルートが哀愁たっぷりに歌い、ハモンド・オルガンが渋く守り立てるアンサンブルは、地味ながらも変化に富み、いわゆるハードロックからもサイケデリック・ロックからもはみ出した、ユニークな存在感を示している。 また、ジミヘン調のヘヴィなリフから生音っぽいジャズ・タッチのソロ、さらにはアコースティック・ギターのストロークまで、多彩ながらもどこか乾ききった感じのあるギター・プレイも特徴的だ。 ヴォーカルは、さほど個性は感じられないが、ハイトーンのシャウトが決まる本格派。 細かく変化する凝った展開や組曲形式の大作など、楽曲も中身が濃い。 本作を最後に音楽界から姿を消し、幻のグループとなってしまったのは、なんとも残念だ。 サックスが VdGG のデヴィッド・ジャクソンのプレイに似ていることに気がつくと「VdGG によるハードロック」といえるし、 ヴォーカルのコブシとフォーク・タッチの表現に目が向くと「サックス入りの JETHRO TULL」という感じがする。
   プロデュースはミッキー・クラーク。NEON レーベル。

  「Ice Queen」(6:45) 吹きすさぶ風の音から、サックスとオルガンのユニゾンによる強力なリフで幕を開ける。 VdGG そのものといっていいメイン・パートの押し込むようなリフと青白くも熱気あるヴォーカルに対し、ギターのオブリガート/間奏は各段に枯れた味わいがあり、やはりマーティン・バレ風。 このメイン・パートのアンバランスが、なんとも奇妙な感じだ。 重苦しいミドル・テンポから、寒風とともにリズムはジャジーな 8 分の 6 拍子へと変化し、野暮ったいリフに支えられてピアノが軽妙に舞う。 イタリアン・ロックを思わせる過激な雰囲気の変化である。 もっとも、ピアノを追いかけるトゥッティは、ヘヴィでたたみかけるような調子をもっており、野蛮な感じは一貫する。 決めの連続からヨレたギターが現れ、三度寒風の吹きすさぶ中、サックスの野太いリフとともにメイン・ヴォーカルへと帰ってくる。 最後のインスト・パートでは、荒々しいギター、ヘヴィなオルガン、ピアノのバッキングでフルートが奔放に演奏をリードする。 たたみかけるトゥッティと対照的に沈み込むフルート、そして熱狂する演奏をフルートが切り裂く。 吹きすさぶ寒風。
  熱にうかされたヴォーカルと粘りつくオルガン、野蛮なサックスのリフがマジカルなムードを高めるインパクトたっぷりのハードロック。 リフは粘っこく野卑であり、オルガンやフルートのプレイは酩酊の中にエキセントリックな覚醒を感じさせる。 オープニングの風の SE と演奏が VdGG の「Darkness」に似ているなあと思ったら、サックスのリフはなんと「Killer」そのもの。 さらに、メイン・ヴォーカル・パートでのギターのオブリガートやフルートなどの展開は、JETHRO TULL 風であり、ジャズ風の間奏の凝り方はきわめてイタリアン・ロック的。 今頃気づきましたが、氷の女王ですから「寒風」というよりはブリザードでしょうか。

  「Empty Houses」(7:32) 8 分の 6 拍子による宙ぶらりんなギター・リフにサックス、オルガンがオーヴァーラップ、どこか不安定なイメージの JETHRO TULL 風オープニング。 一瞬のブレイク、荒々しいファズ・ギターがかき鳴らされてドラム・ピックアップとともに 8 ビートへ、一気に熱いヴォーカルが飛び込んでくる。 ベース・ラインがカッコいいストレートなハードロック調である。 高らかにシャウトを決めては抑えた低音で受けとめる一人かけあい風のヴォーカル。 王道風でカッコいい。
  一転、間奏部では、教会風のオルガンとメロディアスなサックスによる慈愛に満ちた演奏へと変化。 サックスを支える巧みなベース・ライン。 この鮮やかな変転と落差は、やはり VdGG のイメージである。 アコースティック・ギターがビートを刻み、オルガンが和音を高鳴らせ、サックスが滔々と流れてゆく。 次第に電子処理で変調してゆくサックス、端正なベース、鐘の音のようにギターの和音が荒々しく重なる。 ドラムスが抜け、オルガン、ギターだけでおだやかな演奏が助走のように数小節続くも、すぐにヘヴィなギター・リフ(GENTLE GIANT 風)が飛び込んでくる。 野太いサックスも追いかけてきて主張を始め、再び重苦しい 8 分の 6 拍子の世界となる。 やがて、序奏のギター・リフが復活、サックスとオルガンも加わって元の世界への永劫回帰。 唯我独尊調でかき鳴らされるギター、熱っぽいヴォーカルに応じてヘヴィな演奏が甦る。
  独特の和声やリズムの変化などは JETHRO TULL から、くすんだ幻想性と詩情は VdGG からいただいたようなヘヴィ・チューン。(そういえば曲名も VdGG っぽい) メイン・パートはシャウトの決まる王道ハードロックだが、間奏部の牧歌調によってイメージはふくらみ、スケールも大きくなる。 いわば LED ZEPPELIN のような風格が出てくる。 ヴォーカルは声質と「濃度」こそ異なるが、表情にはイアン・アンダーソンばりの演出が感じられる。 プログレッシヴなハードロックの佳品。

  「Insolent Lady」(8:53)三部構成のフォーク・ロック組曲。アコースティックなシンフォニック・ロックである。
  「By The Way」前曲までの空気を一変させるパストラルな英国フォーク・ソング。 優しげな表情を微妙に変化させるヴォーカルを、アコースティック・ギターとやわらかなフルートが取り巻く。 冬空の田園風景を思わせる物寂しく切ないアンサンブルだ。 間奏は、歌メロを朴訥なピアノの調べがなぞってゆき、うっすらとフルートが寄り添う。 ドラムスが加わると、ピアノもややジャジーに広がり始め、ささやくようなフルートとともにソフト・ロック調の演奏が続く。 再びドラムスが消え、アコースティック・ギターとピアノ、フルートによるおだやかなアンサンブルへ。 湧き上がるストリングスのチープな響きはイタリアン・ロック風。 珠玉のフォーク・バラードだ。
  「Small Thief」 パーカッションの軽やかな響きが呼び覚ますのは、サックスの野太く力強いリフ。 鳴り響くベース・ライン、そしてヴォーカルもいつもの調子に戻って、演奏は一気にエネルギッシュに変化する。 サックスと激しいドラムスにあおられるヴォーカル・リフレイン。 ブレイク、今度はばたばたとしたドラミングとともにピアノとギターのハーモニー。 アヴァンギャルドなユニゾンとユーモラスな決め。 この素っ頓狂な大胆さも VdGG 風である。 ふいに沈黙、そして突如湧き上がるシンバルの響き。
  「Insolent lady」 アコースティック・ギターの力強いコード・ストロークが刻まれる。元の平和な世界に戻ってきたようだ。 果たしてどちらが現実なのか。 裾を翻すようなピアノが加わりオルガンが高鳴ると牧歌調の世界が帰ってきた。 おだやかなリズム、やや野卑だが抑えの効いたサックスも加わり、郷愁を誘うテーマを繰り返す。 ヴォーカルは二楽章の記憶のままに熱気をはらみ、穏やかな世界を異なる視点で見られるようになった。 悠然と広がり、消えてゆくアンサンブル、そして最後はアコースティック・ギターがかき鳴らされて、ドラム・ロールとともに終わり。
   アコースティックな牧歌調ソフト・ロックに乱調美を盛り込んだ大作。 しっとりとした情感あるフォーク・ロックにジャジーでアヴァンギャルドなスパイスを効かせて、新しい世界を拡げようとしている。 最終章で単純に一楽章に回帰するのではなく、二楽章の記憶/エネルギーを携えてくる辺りの演出がいい。 何度もいうが、フォーク風のテーマ、ぶっ飛んだ展開、荒々しさに透けて見えるデリケートな思いのわりにはなぜか垢抜けない音など、イタリアン・ロックとの共通点が多い。 サックスの音を聴いていると OSANNA やその分派の CITTA FRONTALE を思い出す。

  「Miracle Worker」(4:47) 伸びやかなサックスのブロウをオルガンが追いかけギターのハンマリングを交えたアルペジオが支える、逞しいテーマのオープニング。 イアン・アンダーソンの唱法に影響されたらしきメイン・ヴォーカルは、ペーソスあるメロディ・ラインを伸びやかに、お涙頂戴風にひねくり回す。 伸びやかなのにどこかいかがわしいところが本家に通じる。 パワフルだがデリケートなアンサンブルは、フォークやジャズも呑み込んだ英国ロックらしいものだ。 オブリガートのギターはペラペラのナチュラル・トーンによるネジを巻くように忙しないプレイでバックとポリリズミックな絡みを見せる。 そして急き立てるようなトゥッティからオープニング・テーマへ。 小刻みなギターのフレージングとレガートなテーマや歌メロとの対比がいい。 ヴァースの繰り返しから、ギターのアドリヴとたたみかけるようなテーマ変奏をきっかけに間奏スタート。 後拍にアクセントのある跳ねるようなバッキングの下、エレクトリック・ピアノによるじつに頼りなげな、トラッド風といえなくもないソロ。 時折ファズも通して変化をつける。 続くギター・ソロは、やや歪ませたトーンでオクターブを巧みに使った、いわばクリス・スペディング・スタイルのジャズ・ギター。 後半は、ブルーズ・ギターっぽい表情も交えてくる。 このモダン・ジャズ・スタイルを模したプレイはじつに妙な印象だ。 間奏部は力強く叩きつけるトゥッティで終わり、めまぐるしいギターとともにオープニング・テーマが復活して、メイン・ヴァースへと回帰する。 エンディングはわりとあっさりめ。
  ジャジーなギターをフィーチュアした JETHRO TULL そっくりのクラシカルなトラッド・ロック。 TULL への傾倒の仕方含め、アンサンブルのテンポの変化やアコースティックな音質などがイタリアン・ロック(CITTA FRONTALE など)のタッチに酷似する。 コブシを効かせたなまめかしきヴォーカルは、やや美声であることを除けばイアン・アンダーソンに似ている。 田舎のお囃子、あるいはフォーク・ダンスのような曲調を貫くも、ギターとオルガンがもつれるオブリガートに代表されるように、シンプルなようでいて細やかに変化するアンサンブルの妙がある。 性急で変わったところにアクセントするリズム・キープは本アルバムを通した特徴だろう。

  「Religion」(4:27) 奔馬を駆るようにギターとベースで押し捲り、サックスが雄たけびを上げるシャフルのオープニング。 ベースのリフとともにヴォーカルが絞り出すように歌い出し、やがてシャウトで決める。 リフを尻目に、クールな声質を活かして伸びやかに歌うヴォーカル。 しきりと煽りたてるリフとサックス。 ヴォーカルとアンサンブルのかけ合いからドラムスが暴れ、ブレイク、オルガン、サックス、エレピ&ギター、ドラムスと順繰りに戻ってきて、荒々しいユニゾンを決める。 叫び、刻みつける様に歌うヴォーカル。 思わせぶりな一瞬のブレイク、そしてやおらグサッとリフを決める。 シャウト、下品なサックスが雄たけびを上げる。 再び歌と演奏のかけ合いから、今度は、ギターがリードによってアンサンブルが一気に駆け出す。 シンプルなリフがしなやかに叩きつけられて、繰り返されて、消えてゆく。
  シャフルのリズムで跳ね飛ぶように走ってゆくハードロック。 前のめりの野蛮なリフとなまめかしいヴォーカルの奇妙なコントラスト。 全体にパワフルで直線的だが、リズム、テンポの変化を中心にトリッキーなアクセントをつけている。 間奏のオルガン、サックスからトゥッティへと膨らむヘヴィな演奏は、完全に VdGG。 すべてを放り出すような終盤の疾走が痛快。

  「Sun God」(11:14) 三部から成る幻想大作。 宗教的なテーマをもつようだ。
  「Awakening」 穏やかにして物寂しげなアコースティック・ギターのアルペジオ、そして柔らかなフルートの調べ。 氷雨のようなエレキギターの旋律は、あまりにセンチメンタルであり、柔らかく取り巻くストリングス・アンサンブルも慰めようがない。 メイン・ヴォーカルは、きわめて空ろな表情であり、どこまでも密やかである。 トラッド系弾き語りフォークの世界。 デリケートな表現がいい。 エレキギターによる複数の旋律は、果てない思いのように悩ましく、切なくからみあう。 アコースティック・ギターの調べは、和音を伴いながら、意外なことに、長調へと転調し、明るさをもち始める。
  「Realisation」 サックス、オルガンによるシンプルかつヘヴィな(前曲と比すると、やや無神経な)リフ。 今度のメイン・ヴォーカルは、電気処理で毛羽立った、狂乱シャウトである。 ここまでの流れを考えると、なかなか強烈なアクセントだ。 ところが、突如リフはフェード・アウト、再び前曲のようなメランコリックなアコースティック・ギターがかき鳴らされる。 そして、エレキギターがエキゾチックな調べを切々と歌いだす。 イタリアン・ロック顔負けの大胆な変化である。 ベースの反応も強調され、切れ切れのモノローグも聴こえる。 EAST OF EDEN に通じる、荒っぽくも繊細な表現である。 やけくそ気味のギター・アドリブ、そしてフロア・タムが打ち鳴らされ、金属的なストリングスがびりびりと高鳴る。
  「Worship」 すべてがかき消され、再び、序章のアルペジオとセンチメンタルなギターの調べが帰ってくる。 そして、あまりに寂しげなメイン・ヴォーカル。 間奏では、ストリングス・シンセサイザーが高鳴る。 序章の末尾と同様にアコースティック・ギター・デュオが、寂しさを振り払うように、長調へと転調する。 最後は、ややヘヴィな全体演奏が高まり、ハイトーンのヴォカリーズとドラムス乱れ打ちのままに、シンフォニックな大団円を迎える。
   きわめて内省的な弾き語りを、無理やり膨らませて盛り上げる力作。 繊細にしてエキゾチックなタッチを交えたアンサンブルによる、サイケデリックなドラマの妙が楽しめる。 感傷的、妄想的な空気にエキゾチズムを交えた序章、そして呪術めいたヘヴィ・ロックの第二章、第三章は序章の再現とともに第二章との合流を明快に果たし、楽想を一段上へと引き上げる。 全体になかなか神秘的だ。こういうオカルティズムめいた主題を、「まじめに」ロックに取り込むという姿勢は、現代ではあまり見当たらない。 そういう意味では、本作は、ミステリアスなプログレといえる。 イタリアに PINK FLOYD がいたらこんな感じでしょう。 安っぽいストリングスがメロトロンだったら、名曲として扱われていたに違いない。


(RCA Neon NE 8 / REP 4469-WP)


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