ポーランドのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「ABRAXAS」。 87 年結成。 作品は、ライヴ含め四枚(英語盤は含まず)。 メーキャップから明らかな、お化粧ポンプ第二世代。 ダークでメロディアスな作風は、ポンプを越えて VAN DER GRAAF GENERATOR や ANGE へと迫る(ただしややヘビメタ)。 2000 年発展的解散。
Marcin Mak | percussion, durms |
Rafak Patajczak | bass |
Szymon Brzezinski | guitars |
Marcin Blaszczyk | keyboards, flute |
Adam Lassa | vocals |
96 年発表の第一作「Abraxas」。
内容は、ロンドン・ポンプの再来の如き堂々たる一人芝居ヴォーカルが縦横無尽に活躍する、「泣き」のシアトリカル・ロック。
1 曲目こそ軽快なインストゥルメンタルだが、以降は、しっとりと湿度のある耽美な世界が続いてゆく。
ヴォーカリストは、文学趣味を前面に出し、抑えきれない思いを若気の至りとばかりに遠慮なく迸らせる。
このヴォーカルのスタイルが、ゴシックでグロテスクな第一印象を決定づける。
もっとも、演奏そのものは、ゴシック風味に透明感あるサウンドを巧みに交差させており、爽やかさや可憐さといった演出も怠りない。
そして、テクニシャンぶりは、コンテンポラリーな英国ロックを消化している(U2 風味もあり)ところにはっきりと現れている。
つまり、強烈奇天烈な表情を操るヴォーカルが前面に出ているために、演奏やサウンド面での冴えたセンスが、当初は目立たないのだ。
アレンジの面でも、一歩一歩足をとられる沼地のような濃厚な歌唱による世界に、安易といっていいくらいにアップテンポでためらいなく走る場面を配することで、楽曲の流れにきちんとメリハリをつけている。
また、毒気たっぷりの個性派ヴォーカリストは、その本格的な歌唱法といかつい言葉の響きがフランス語に通じるためか、ANGE のデュキャンを思わせるところもある。
ヴォーカル以外の器楽についても見渡そう。
ギターは上品にむせび泣き、キーボードは軽快、フルートは控えめながらも胸に突き刺さるように流れ、リズム・セクションは弾力がある。
醸し出す雰囲気のわりには、音が軽めなようにも思うが、アンサンブルがよく練れていることに変わりはない。
ピアノやチェロ、アコースティック・ギターによって暑苦しさを抑えたり、エキゾチックなスパニッシュ・テイスト(演歌調ともいう)を散りばめるなど、アレンジにはセンスを感じる。
モロに英国、オランダ系のポンプ・ロック(やはり初期 MARILLION が基本)になってしまう瞬間もあるが、ゴシックな暗さとエキゾチックなねじれをもつことによって、一風変わった個性が出ているようだ。
昨今のロック・グループには珍しく、ハードなアタックはあっても HM 的なクリシェは抑えられている。
個性派メロディアス・ロックの逸品です。
「Before」(1:49)
「Tarot」(8:30)
「Dorian Gray」(5:55)
「Kameleon」(4:30)
「Alhambra」(8:25)あまりに劇的な傑作。
「Inferno」(5:12)
「Ajudah」(9:07)自然な「紆余曲折」がみごとな一大ハード・シンフォニック・ロック・ファンタジー。
硬軟それぞれの表情がカッコよく、朗々と歌うよりも巧みな切りかえを見せ場にしている。
「De Profundis」(4:56)アコースティックなバラード。弦楽がヴォーカルに寄り添う。後半のポジティヴでしなやかな展開もいい。
「Tabula Rasa」(11:15)終盤のフルート、アコースティック・ギターのデュオが紅涙を絞る。
(AMS 007R)
Marcin Mak | drums |
Rafak Patajczak | bass |
Szymon Brzezinski | guitars |
Marcin Blaszczyk | keyboards, flute |
Adam Lassa | vocals |
guest: | |
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Maria Napiwodzka | oboe |
Magdalena Krawczak | vocals |
98 年発表の第二作「Centurie」。
個性的なヴォーカルときめ細かい器楽のバランスが取れ、デリケートな表情とダイナミックなプレイががっちりとかみ合った好作品となる。
まさしく、青春期のとめどないメランコリーと幻想を体現したような音だ。
「ダークな泣きのメロディアス・ロック、ややメインストリーム寄り」というイメージは、変わらない。
しかし、キーボードやフルート、オーボエによるクラシカルなアクセントが効いており、作品全体に品がある。
演歌そのもののような表現もごく自然なので抵抗はない。
アコースティックな音がヘヴィで濃い目のギターとのバランスをうまく取っている。
英国のメタル系プログレと共通するようなサウンド/作風にもかかわらず、独特の個性が浮かび上がってくるのは、素朴さの中に埋もれた濃密な情念のおかげだろう。
陰鬱さは、欧州の東と西ではやや味わいが異なるようだ。
エキセントリックな表情をやや抑えたヴォーカル(それでも十分個性的)は大成功、本格的な歌唱力で演歌ロックを支えている。
前作の「ドリアングレイの肖像」に続く「ノストラダムス」のようなバラードでは、その歌が生きてくる。
また、控えめな表現ながらも、ロックに欠かせない運動神経があり、ポップ・テイストもセンスよく散りばめられている。
これだけ切々と訴えながら自己満足風ではないプロっぽさがあるのも、この辺に起因するのだろう。
そして何より、全編にわたり哀愁あふれるメロディに磨きがかかっており、特に、アルバムを通して流れるテーマがすばらしい。
そのテーマを抱えたまま、すべては名曲「Pokuszenie」のソロ・ギターへと流れ込む。
幼子には未だ見得ぬ哀しき愛の予感を与え、若さを謳歌するものには愛のほむらに身を焼く苦悩を与え、老いたものにはぬぐえぬ哀しき愛の思い出を与えて心をかきむしる。
哀感へと流れ過ぎぬようメタリックなプレイでアクセントをつけるなど、すでに風格すらある。
「Spiritus Flay Ubi Vult」(3:27)
「Michel de Nostredame - Mistrz z Salon」(6:47)泣きのバラード。
「Velvet」(4:07)
「Excalibur」(7:44)
「Kuznia」(1:49) ヘヴィ・メタリックな小品。
「Czakramy」(10:25) 7th 系のジャジーな音が新鮮な大作。正攻法で押し切る。追憶のオーボエがテーマをささやく。後半はギター・ロック調の轟音で突っ込む。
「Pokuszenie」(12:00) 苦悩そのもののようなテーマが印象的な代表作。
中盤でド・マイナーのアンサンブルが爆発し、アコースティック・ピアノへと吸い込まれる。そして、満を持して迸るド演歌ギター・ソロ。
「Nantalomba」(4:21)ティンパニと管弦楽風のキーボードによる力強きエピローグ。
ADIEMUS みたいですが、直前までの悲壮感とはうって変わったポジティヴな余韻が残ります。
(MMP CD 0052D)
Marcin Mak | percussion, durms |
Rafak Patajczak | bass |
Szymon Brzezinski | guitars |
Marcin Blaszczyk | keyboards, flute |
Adam Lassa | vocals |
98 年発表の第三作「99」。
内容は、音響派風の生々しいドラム・ビートが特徴的な、ダークでメロディアスなシンフォニック・ロック。
凶暴なロマンチシズムでいっぱいの作風であり、ANGE やアメリカの DISCIPLINE に通じる、危うさをほのめかすところもある。
ポンプ・ロック王道風にキテレツな表情を操るヴォーカルのしつこさは今回も変わらないが、原語の不可思議な響きを活かした曲間の憂鬱なモノローグが、若気の至り風の歌唱といいコントラストを成して活かされている。
ひそひそとつぶやくモノローグは、タルコフスキーの映画のような寒々しいシーンを思い出させる。
冒頭、KING CRIMSON をヘヴィメタ・バンドがカバーしているような、やや「プログメタル・ステレオタイプ」気味の演奏が飛び込んでギョッとするが、おそらくこれは、ギターが HR/HM 型のプレイに終始するためにすぎない。
本格派としての GENESIS 直系の耽美な詩的イマジネーションは、気品ある弦楽奏のように広がるキーボードと朗々たるヴォーカルに悠然と渦巻いている。
さらには、いかにもプログレらしく脈絡をぶった切ってそのまんまといった、イタリアン・ロックも真っ青な大胆な展開もしかけられている。
そのギターも、一度切ないフレーズを歌い出すと、攻撃的なリフを刻むときとは別人のようになる。
また、シンセサイザーによるアンビエント風味も新しい点ではないだろうか。
3 曲目「Jezebel」は、初期 KING CRIMSON の無常感とイタリアン・ロックのロマンチシズムをいいところ取りしたような正調シンフォニック・ロック。傑作。
5 曲目「Spowiedz」は、挑みかかるような調子に中に冷ややかで薄暗く、ほのかに PORCUPINE TREE 風味もある泣きのメロディック・チューン。ダークな COLLAGE であり、まさにこのグループらしい作品。後半のトリッキーなドラムスがカッコいい。
6 曲目「Anatema, Czyli Moje Obsesje」は、厳かなコラール/ストリングスの響きとへヴィなギターの調べが一つになった重厚な作品。硬軟の変化に富み、ヴォーカルのみならず器楽も大胆な音を放ち、表情を見せる。間奏部では、ギターが意外なまでに表情を変えて豊かな歌心を見せる。終盤は、メロディアスなヴォーカルとともにオプティミスティックな響きが強まるが、全体としては、破壊的な力を感じさせる作品である。
7 曲目「Petla Medialna」は、凶暴な HM ギターとパーカッション系キーボード・サウンドによるインダストリアル・ミュージック風の小品。
8 曲目「Noel」は、変拍子リフで奏でる感傷的な響きの作品。へヴィなアクセントを経た後半は、いかにもポンプ・ロックの後継者らしい、息せき切るような性急な調子になる。
9 曲目「'37 」は、キーボードによる重厚なレクイエム風のインストゥルメンタル小品。タイトルが 1937 年だとすると、肉親に捧げたものでしょうか。
10 曲目「Medalion」は、MARILLION を思わせるスタイリッシュな作品。
ヴォーカルも表情のデフォルメを抑えてクールに迫る。ギターの走りも快調。怨念をまぶしたような作品が多いので、とても新鮮。
11 曲目「Iris」は、不可逆変化で突き進む大胆な作品。終盤に破断点があり、世界がひっくり返る。
PINK FLOYD からの孫引きのようなところも。
12 曲目「Oczyszczenie」は、チャーチ・オルガンが重苦しいモノローグを呼び覚まし、その苦悩する魂をシンセサイザーの崇高な調べが解き放つ厳粛な作品。どちらかといえばこちらが終曲。
最終曲「Moje Mantry」は、「'37 」のテーマをギターでリプライズするインストゥルメンタル。
エピローグ的な色彩である。時おりはさまるソプラノのスキャットが美しくも神秘的である。
全体的には、荘厳かつ包容力あるキーボードと泣きじゃくるギター、運動性能抜群のリズム・セクションの組み合わせによる耽美な演歌調シンフォニック・ロックといえるだろう。
COLLAGE のブリット・ロック路線に比べると、こちらは格段にサイケ、ポストロック寄りのマインドが強いようにも思う。
最終曲にはあのギター・ソロが再び。
(MMP CD 0102)
Marcin Mak | percussion, durms |
Rafak Patajczak | bass |
Szymon Brzezinski | guitars |
Marcin Blaszczyk | keyboards, flute |
Adam Lassa | vocals |
2000 年発表の最終作「Live In Memoriam」
は、活動の集大成といえる充実したライヴ盤。
スタジオ作における繊細さの代わりに、ダイナミックな力強さを押し出して成功している。
特にヴォーカル・パフォーマンスは圧巻。
みごとな存在感である。
ギターはついついメタルな手癖が先走るが、メロディを歌わせる泣きのプレイは冴えている。
新曲もあり、ベスト盤としても機能する傑作といえるだろう。
クライマックスはやはり名曲「Pokuszenie」。
冒頭、何を言っているのかさっぱり分からないポーリッシュ MC の最後、「Abraxas!」という言葉が聴こえた瞬間になんともいえぬカタルシスあり。
「Zapowiedz」(2:31)冒頭の MC。
「Drian Gray」(5:21)名曲。第一作より。
「14 Czerwga 1999」(2:47)
「Anathema」(7:36)
「Tomasz Fray Torquemada」(10:31)
「Pokuszenie」(12:32)看板曲。第二作より。
「E'Lamachiwae」(3:39)
「Czakramy」(9:26)第二作より。
「Medalion」(6:13)第三作より。
「Tarot」(6:38)第一作より。
「Spowiedz」(4:50)第三作より。
「Moje Mantry」(6:05)第三作より。
(JK2000CD01)