アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「AD INFINITUM」。 94 年結成。作品は一枚。
Todd Braverman | keyboards |
Craig Wall | guitars |
Goose(Mike Seguso) | vocals |
IIan Goldman | keyboards |
Dave Beers | bass |
Don Dipaolo | drums |
98 年発表のアルバム「Ad Infinitum」。
内容は、70 年代プログレ復古を志したキーボード主体のシンフォニック・ロック。
ヴォーカルの唱法やギター・プレイはさすがに現代的だが、目指しているコンテンツは完全に往年のプログレッシヴ・ロックである。
基本的には、カラフルでていねいなキーボードと安定した(たまに暴れ気味になる)リズム・セクションが支える、落ちつきと上品な美感のある演奏である。
美声ヴォーカリストの歌唱スタイルが、HR/HM 流というかやや大仰というか、おどろおどろしいのが気になるだけだ。
YES や中期 GENESIS のエキセントリックな面を抑えてマイルドな面のみを取り出したようなイメージ、あるいは英国ネオ・プログレから英国流の暗さの水気を振るい落としてアメリカで乾燥機に入れたイメージもある。
ただ、アコースティックなサウンドを散りばめても埃っぽいカントリー調にならず、ほのかな哀愁と幻想に浸ったフォークソングになる。
このウェットな抒情性は非常に英国風だ。
そういった感性とアメリカンなオプティミズム、スカッと突き抜けた感じが羽根を伸ばして大空を飛翔するような伸びやかで若々しいイメージにつながっていて、結果メロディアスなシンフォニック・ロックとして実を結んでいると思う。
若々しい健やかさとともに大人な落ちつきがあるところも特徴だ。
テンポの変化が激しくなく反復が多いこと、キーボードのソロが長いこと、ヴォーカル表現のバリエーションが少ないことなどから、最初は一本調子に聴こえるが、よく聴くと細やかな音のテクスチャに気がついて、作曲とアレンジがとてもしっかりしていることも分かる。
ただし、長い作品が多いため、そこに気づくまで集中力がもたずに飽きてしまう危険がある。
大作でも、テンポやリズム、アンサンブル、音量の変化をわかりやすくつけて展開すれば、場面切り替えのタイミングでリスナーの注意を惹くこともできるはずだ。
しかし、本作のスタンスは、あえてそれをやらずに、じっくりとした語り口についてこられる人のみを対象としているような気がする。
ケレン味なんてなくても、メロディとハーモニーで真っ向勝負できるという自負なのかもしれない。
しかし、そもそもそのケレン味というか、意外な展開こそがプログレの醍醐味(というか基本的にエンタテインメントの重要な要素)だと思うので、それをあえて捨ててしまうというのは、いささか大胆すぎないだろうか。
ただし、メロディやサウンドそのものはとても練られているので、ハマるとかなり陶酔できるのも間違いない。
個人的には、荒々しさが加わるともっとセクシーになったと思います。
アメリカンな抒情味あふれる佳作ですが、リスナーを選ぶ作品といえるでしょう。
スティーヴ・ハウやスティーヴ・ハケットを現代的にしたようなギター(それはゲイリー・チャンドラーということか?)、まろやかな CP-80、キコキコと小気味いいハモンド・オルガン、きらめくシンセサイザー、微熱にうかされたようなメロトロン、波紋のように透明感と揺らぎのあるアコースティック・ギター・アンサンブルなどいい音はたくさんあります。
(もっとも、21 世紀に入った辺りからロックのフィールドでは 60 年代風の音が主流を占めつつあるので、ここでの音は、後には 90 年代の典型といわれるのかもしれない)
GLASS HAMMER や CAIRO といった 90 年代初期から活動するアメリカン・プログレ・リヴァイヴァル派の中においてもなかなかの力作。
80 分近く楽しめます。
ジャケットは御大ロジャー・ディーン。
「Ad Infinitum」(8:26)この作品のみ HM/HR な御郷が透けて見える気がする。
「Immortality」(7:02)
「Waterline」(11:00)
「Physician Heal Thyself」(4:23)
「A Winter's Tale」(10:22)アメリカン・プログレ。
「Rain Down」(3:21)
「Overland」(8:43)
「All Hallows Eve」(8:29)かなり GENESIS だが力作。
「Neither Here Nor There」(11:19)変化のふれ幅が大きい傑作。
「Ad Infinitum (Reprise)」(2:27)
(KINESIS KDCD 1022)