フランスのキーボーディスト 「Benoit Widemann 」。 弱冠十代で 70 年代中盤から MAGMA を支えたキーボーディスト。 78 年 MAGMA を脱退しソロ活動へ。 作品は三枚。
Benoit Widemann | keyboards |
Kirt Rust | drums on 1,2 |
Sylvain Marc | bass on 1,2,5,6 |
Francois Laizeau | drums on 3,4,5,6 |
Dominique Bertram | bass on 3,4 |
84 年発表の第三作「3」。
演奏は、自らのキーボードとドラムス、ベースのみの編成による。
したがって、アルバムのタイトルは「三枚目の作品」という意味だけではなく「トリオ」ということも意味しているのだろう。
内容は、エレクトリック・キーボードをフィーチュアした整然たるジャズロック、フュージョン。
スピーディに、軽妙に振舞うシンセサイザーと鋭く重みのあるリズム・セクションのコンビネーションによる演奏である。
はち切れそうな弾力でバウンスして、熱いロマンチシズムで訴えかけてくるが、セクシー、グルーヴィ、ファンキーといった表現ではいい尽せないインテリジェンスが感じられる。
反復パターンやサウンドにデジタルでやや無機的なタッチがあるためかもしれない。
一方リリカルなピアノ・トリオのパートも決して悪くはないが、どこかで聴いたような気がしてならない。
やはり、不思議のソプラノ・サックスのようなアナログ・シンセサイザーでレガートなフレーズを、華やかに、ときにもの悲しく奏でるところが一番の魅力である。
最終曲は、シンセサイザー独奏による雄大な小品。
「L'Ile Du Docteur Z」(5:18)ウケ狙いか?と勘ぐりたくなる堂々たるメイン・ストリーム・フュージョン。ナベサダ。
「Des Iles」の再録音。
「Six Pour Trois」(7:51)ラテン風のグルーヴもあるが、まろやかで繊細なキーボード・サウンドやえもいわれぬ緊張感はプログレのもの。終盤のハイテンションのプレイがカッコいい。
「Les Nocturnes」(5:27)躓きそうな変拍子のエレクトリック・モダン・ジャズ。
スペイシーなシンセサイザー・サウンドが印象的。
R&B テイストが強い大胆なキーボードサウンドはスティーヴィ・ワンダー的。
「Compromis Historique」(6:47)挑戦的なドラムス、大胆なベースが取り巻くコンテンポラリー・ジャズ風の作品。
アコースティック・ピアノをフィーチュア。
サイケデリック感覚のモダン・ジャズ。
「Risque Calculé」(4:20)「草競馬」を思わせる快速チューン。
カラカラコロコロしたシンセサイザーがインパクトあり。
なんとなく音楽センスがキース・エマーソンに近いような。
「Douceur Céleste」(6:09)ニュース番組のジングルでも使えそうなロマンティックなフュージョン。
ただし、どうしてもピコピコ気味になってしまうようだ。
「Entre Les Lignes」(1:05)クラシカル、シンフォニックな小品。
「The Seventh Sight」(4:53)ボーナス・トラック。キーボード独奏による 2009 年の新作。さりげない変拍子。
(CY Records 733 614 / SJBW-1)
Benoit Widemann | instruments | Guy Delacroiz | bass on 4,6 |
Jean-Pierre Fouquey | Oberheim polyphonic on 4 | Patrick Gauthier | chevalets, Minimoog on 4 |
Patrice Tison | guitar on 4 | Bruno Menny | Rythmus system on 5 |
Hugues De Courson | vocals on 7 | Emmanuelle Parrenin | vocals on 7 |
Clement Bailly | drums on 1,4,6,7, percussion on 4, timpani on 7, vocals on 7 |
77 年発表のアルバム「Stress!」。
MAGMA の朋友パトリック・ゴーシェやクレメント・ベイリーらに加えて、トラッド・フォーク界からもゲストを迎えたソロ第一作。
いわゆるジャズロックを基調に、モノ/ポリ/ストリングス・シンセサイザーを丹念に用いた、スペイシーかつミステリアスな音響風の作品から、モダン・クラシック風の無表情な作品、ブラック・ファンク風の強靭なリズムによる作品まで、幅広い音楽性を披露する。
バンド演奏と一人多重録音の割合は半々くらい。
TANGERINE DREAM からヤン・ハマー、チック・コリア、さらにヒップ・ホップもあり、といった感じだろう。
グルーヴィでファンキーな表現や呼吸のよいインタープレイといったフィジカルな痛快さを、サウンド・スケープにとけ込ませたような作風はなかなか珍しい。
ベンディングを駆使した痛快極まるムーグのプレイと、沈痛といっていいほど物憂い空気を激しく行き交うさまは、何か切実なものを訴えかけているようだ。
そして、その振幅の広さから見えてくるのは、MAGMA 的とも独自のシリアスさとも解釈し得る、ダークで透徹な世界である。
シャープな技巧で跳ね回るジャズロックは、いつのまにか、えもいわれぬ暗く硬質で冷え冷えとした演奏へと変化してゆく。
空間を塗りこめるキーボードと、その中で存在を誇示するようにエレクトリックなノイズを放つリード楽器が一つになり、歪なまま、結局はともに深淵を目指して突進してゆく。
フィナーレのピアノが示すのは、鎮魂のための安寧 = 永遠の漆黒なのか、モノクロでほの暗い現実なのか。
音数ほどには語られるイメージはなく、宙ぶらりんのまま置き去りにされるような聴き心地である。
ジャズロックというスタイルをとりながら、欧州らしいクラシカルな重さと暗さを織り込んだ佳作。
BALLON NOIR レーベル。
「Baleze」(3:25)シンセサイザーをフィーチュアした、メカニカルな変拍子ファンク・ジャズロック。
硬質なサウンドが迫る。リズム・セクションもすごい切れ味。きわめて「Blue Wind」的。
「Herbes Sol」(6:50)アコースティック・ピアノをフィーチュアしたダークなサウンド・スケープ。
シーケンサが漆黒の渦を巻く。後半からのロマンティックなテーマが映える。
「Stress!」(1:56)多彩なキーボードのみによる緊張感あふれる小品。
変拍子のシンセサイザーの主題は 6 曲目で再現される。こういうテーマのフュージョンが死ぬほどありましたっけ。
「Le Camp Du Drap D'or」(4:03)ファンキーながらアブストラクトなイメージをもつジャズロック。
ヤン・ハマーばりのシャープなごり押しシンセサイザーが、ベースの刻むリフの上で突っ走る。
ソロは痛快の一言。
奇妙なテンション・ノートをもつテーマのせいか、リズミカルなのに無表情なところもおもしろい。
「Demi-final」(1:22)シンセサイザーによる打撃音を使用した実験的な小品。
今ならエレクトロニカと呼ばれるような作品だ。
「Quaternaire」(5:53)
オルガンをフィーチュアした軽めの SOFT MACHINE。
ピアノの低音で変拍子のリフが刻まれ(3 曲目のテーマ)、その上をオルガンが走ってゆく。
中盤からの主役は、シンセサイザーかエフェクトされたオルガンか判然としない。
終盤の速弾きはクラヴィネット、最後はチック・コリア風のシンセサイザー・ソロ。
ベースはどうしても MAGMA になるらしい。
「Spirale」(4:32)MAGMA 的な重厚さながら、より透明感をもつ大傑作。
高尚にして圧倒的なアコースティック・ピアノ、突進するリズム。8 分の 5 拍子の生み出す独特の疾走感。
そして、爆発的なドラミングによる扇動。
同じレーベルの MALICORNE のユーグ・ド・クールソン、フォーク・シンガーのエマニュエル・パールナンをスキャットに迎えている。
シンプルな展開にもかかわらず聴き応えがある。
「Fete Au Septieme Plan」(5:04)
静寂と運動が反発し合い緊張感を生む、現代音楽風の作品。
重厚なストリングスを背景に、ファズ・ピッコロ・ベースのリフ/アドリヴが狂おしく続く。
後半、取り残されたストリングス(ポリ・シンセサイザーだろうか)は鎮魂歌のように気高く深く哀しい。
HELDON にも通じる凶暴にして知的な世界だ。
「Final-part one」(2:44)クラシカルなピアノ・ソロ。
「Final-part two」(2:18)ジャズ・ピアノが次第にサティ風に変化する。
(Ballon Noir BAL 13002 / FGBG 4238 AR)
Benoit Widemann | instruments |
Jean-Paul Ceccarelli | drums, percussion |
Andre Ceccarelli | Fire Ext, percussion |
Remy Dall'anese | bass, piccolo bass |
Gilbert Dall'anese | soprano & tenor & baritone sax |
Jean-Pierre Fouquey | Oberheim polyphonic, Minimoog, Moogbass, Rhodes, piano |
Jean-Pierre Grasset | guitar |
79 年発表のアルバム「Tsunami」。
ソプラノ・サックスの音色によって一気に明るさが増した第二作。
ヴィデマンのシンセサイザーは今回も目いっぱいフィーチュアされ、テクニカルなソロをキュートに決めている。
ヘヴィさはやや抑えられて、軽快で「ナベサダ」なメイン・ストリーム風の音が主となっている。
緻密なリズム、華麗なユニゾン、歌うようなムーグ・ソロ、ソフィスティケートされたアンサンブルなど、ジャズロック、クロスオーヴァーはすでに通過して、「フュージョン」の域に入っている。
ただし、テクニカルなソロやシーケンスやリズムなど、どこかに独特の圧迫感がある。これが特徴だろう。
RETURN TO FOREVER 以降のメジャーなフュージョン・サウンドに十分匹敵する美感と躍動感に、フランス風のヒネリを効かせて推し進めた佳作。
キーボード中心のジャズロック・ファンへはお薦め。
BALLON NOIR レーベル。
「Tsunami だー!」、「逃げろー」という声が聞えてきそうなカワいいジャケットもグー。
「Des Iles」(7:39)
フュージョン化の典型であり、ラテン風のグルーヴを取り入れつつもさまざまなイメージを提示する傑作。
前作で見られたダークな面は、神秘的なシンセサイザーがおりなす幻想性とピアノの演奏に片鱗を残すか。
エレクトリック・キーボードの濃密なサウンドや、パーカッションも含めたド派手なリズム・セクションなど、ソプラノの軽快なテーマとは対照的な圧迫感が意外とある。
リズムレスのブリッジにもけっこう音が詰め込まれている。この「重さ」は独特。
「Cecile」(6:21)
シンセサイザー独演であり、幻想、夢想性の好例。
ミステリアスなシーケンスの前でさえずるムーグのなんと可憐なこと!
プログレならば「Breathless」あたりの CAMEL か HAPPY THE MAN といったところ。
「Fifteen For Me!」(4:39)
RETURN TO FOREVER とよく似た変拍子のテーマをもつエネルギッシュなナンバー。
切れ味鋭いシンセサイザーがリード。
中間部では不気味な表情も見せる。
「The Proud Mongol」(7:49)
ピアノ、ベースがいかにもフレンチ・ジャズロックな傑作。
メロディアスでスピーディながらも、シンセサイザーのテーマがややうつむいており、どことなく全体に翳がある。
中盤 4 ビートのピアノ・トリオへ雪崩れ込み、それがまた過激に変化してゆく。
終盤のシンフォニックなトゥッティは、Pekka Pohjola の作品のようだ。
物語がある。
「Let's Go, Kids Of The Dream」(4:33)
中盤にファンキーかつジャジーなムーグ・ソロをもつも、主題部は緊迫感あるピアノのリフレインによる威圧的な演奏。
こういうところがただのフュージョンではないと思わせる由縁である。
「Tsunami」(6:15)シンセサイザーとドラムスのみの作品。
ペンタトニック・スケールによる童謡風のテーマがモアレを成す。
(Ballon Noir BAL 13014 / FGBG 4271 AR)