イタリアのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「CALLIOPE」。 89 年結成。 作品は四枚。 グループ名は、叙事詩を司るギリシャ神話の女神の名から。 美声カンツオーネと 70 年代風のクラシカルなキーボードを持ち込んだけたたましいポンプ・ロック。 三作目で作風をガラリとアコースティック路線に変える。
Massimo Berruti | lead vocals |
Gianni Catalano | drums |
Rinaldo Doro | hammond organ, mellotron, synthesizer, clavinet, solina, arpa celtica |
Mario Guadagnin | electric & acousitc guitars, vocals |
Enzo Martin | bass |
92 年発表の第一作「La Terra Dei Grandi Occhi」。
タイトルは「大地の大いなる眼」。
内容は、つややかな音色で迸るアナログ・シンセサイザー、攻撃的かつ挑発的なハモンド・オルガンらによる、ひたすらエネルギッシュなキーボード・プログレッシヴ・ロック。
普通に歌っても熱くベル・カントになってしまうヴォーカルと、変拍子狂で手数勝負のドラムスに支えられて、黄金期のプログレッシヴ・ロックを現代に復活させんと息巻いている。
ヴォーカルは、もちろんイタリア語。
そこへネオプログレ系メロディアス・メタリック・ギターが乱入、ポンプ・ロックとヴィンテージ・キーボード・プログレが錯綜し、今風なのに古臭いというなんとも不可思議な音になっている。
英国ポンプと異なるのは、ヴォーカリストの力量。
こちらの歌には、古典王道的なコクとうまさがある。
また、キーボードやギターのフレーズには鈍臭くも素朴な情感がこもっており、英国流のヒネクレた粋さとは異なる味がある。
せわしなくたたみかけるプレイが安っぽくならないのは、リズム・セクションのがんばりのおかげだろう。
総じて、演奏力はかなりのものだ。
そこに気づくと、メロディアス・ギターと荒々しくもクラシカルなキーボードの取り合わせも個性に見えてくる。
不思議である。
インストゥルメンタルも歌ものも、すべてに、シンセサイザー、メロトロン、ハモンド・オルガンがぎっしり詰め込まれている。
キーボード・ファンには、音質のチープささえ気にならなければ、なかなか応える内容だろう。
若干残念なのは、プレイそのものへのこだわりが音色へのこだわりほどは感じられないこと。
バンクスがエマーソンに弟子入りしたようなスタイルは分かるが、プログレ・クリシェのようなプレイばかりなところが食い足りない。
また、スリー・コードのロックンロールばっかりだと、さすがに楽器がもったいないような気がするし、それならそれでもっとタメやらグルーヴがないと踊れません。
もっとも、このまま純にプログレな音で突進し続けると、そういった瑕疵は吹っ飛んでしまい、新しい世界が開けるかもしれない。
VINYL レーベルのプログレッシヴ・ロック・リヴァイヴァル・シリーズの第一弾。
「La Terra Dei Grandi Occhi」(8:35)桁外れにけたたましいキーボード・リフで押し捲る。
「Non Ci Credo Più」(5:03)
「Lunario」(3:54)シンセサイザーを主にしたジャズ風のワルツ。
けたたましい音だがゆったりとしたテーマはいかにもヨーロピアン。
インストゥルメンタル。
佳曲。
「Pensieri Affascinanti」(8:54)泣きのギター、クラシカルなキーボード・オスティナート、濃厚なヴォーカル、コラールとシンフォニック・ロックの要素がてんこ盛りの大作。
次々とプログレど真ん中なプレイが現れて呆気にとられる。
ひとまず理屈は捨ててのめり込むと楽しい。
クライマックスでしょう。
「Trick Of The Tail」が「頭脳改革」したような感じ。
「Passi dentro Il Tempo」(4:24)シンプルなビートでハモンド、シンセサイザーが勇壮に走る、70 年代終盤型シンフォニック・ロック。
U.K. でしょうか。
「Avalon」(4:18)ジャジーなバラード風シンフォニック・ロック。
アルペジオ、ベース・ラインなどは AOR プログレの基本を押さえている。
素朴なヴォーカルの味わいとメロトロンに注目。
「L'anima Del Cielo」(6:49)屈折した MARILLION 風のメロディアス・ハードロック。
なぜかここだけ英国風である。
「Mellotronmania」(1:32)その名の通り、メロトロンの多重録音による擬似バロック風小品。
これが一番印象に残ったりするが、果たしてそれでよいのだろうか?
(VMNP 01)
Massimo Berruti | lead vocals |
Gianni Catalano | drums, vocals |
Rinaldo Doro | hammond organ, mellotron, synthesizer, piano |
Mario Guadagnin | electric & acousitc guitars, vocals |
Enzo Martin | bass |
guest: | |
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Elsa Barbero | vocals |
Pippo Soldano | tenor sax |
93 年発表の第二作「Citta Di Frontiera」。
タイトルは「国境の街」。
前作と同じメンバー、プロデューサーによる第二弾である。
前作よりもギターが前面に出てリズムはモダンになり、全体にややハードな仕上がりになっている。
濃厚なヴォーカルとヴィンテージ・キーボード、パワフルな演奏による凝った曲展開は変わらない。
リズム・セクションは、前作よりも飛躍的に音数が増えてパワフルになり、おかげで演奏全体がガッチリ引き締った。
ネオ・プログレッシヴ・ロック+ヴィンテージ・キーボード・ロックから、ハードなモダン・プログレへと移行した感じだ。
攻め込む演奏には、テクニックでこそやや引けをとるものの、D.F.A や SPOCK'S BEARD 辺りに近いニュアンスもあり。
1 曲目「La Prova」(8:21)
けたたましいギターとシンセサイザーが情熱的なヴォーカルを支える快速ハード・チューン。
勢いある 3 連符フレーズで飛び跳ね、ギター、キーボード、逞しいヴォーカルが絡み合いながら渦を巻いて疾走する。
ハモンド・オルガンの丸みを帯びた音と極太のヴォーカルは、懐かしきイタリアン・ロックの勇姿のままである。
新しいのは、ヘヴィなギターのオブリガート。
きわめつけは、アナログ・シンセサイザーとドラムスがたたみかけるムニエラ風の 2 拍 3 連。
中盤、一転して曲調をメロディアスでレガートに変化させ、伸び伸びとした演奏を繰り広げる。
ネオ・プログレ風ながらも線が太い。
3 連シャフルがいかにもイタリアらしい押し捲りのハード・プログレッシヴ・ロック。
2 曲目「Sarajevo」(6:42)
挑発的なハモンド・オルガンとヘヴィなギターのリフがドライヴするスピーディーなイントロダクション。
メイン・パートの始まりは、ヴォーカル、オルガン中心にスロー・テンポで重厚に迫るが、展開部では一気に加速する。
オブリガートのオルガンとヴォーカルのユニゾンがスタイリッシュに決めている。
ギターも終盤など要所で吼えるが、演奏の主役はハモンド・オルガンだろう。
1 曲目もそうだったが、意図的にベースを前面に出して目立たせるところがある。
終盤は、ギターを中心にしたレガートな演奏がストリングスやオルガンの伴奏で続いてゆく。
スピーディなオルガン・ハードロック。
3 曲目「Margherita A Rodi」(6:59)
VENTURES 風にコンプレスとエコーを効かせたギターとメロトロン・ストリングスの響きで始まる、哀愁のバラード。
イタリア語のヴォーカルのせいか、バラードになったときに無闇に熱っぽく甘ったるくなる。
英国ではこういうことはない。
ラヴ・ソングなのだろうか、ピアノもストリングスも甘く、女性ヴォーカルがハーモニーで加わる。
展開部では、ギターがジャジーなナチュラルトーンのアルペジオ中心のプレイで伴奏する。
ギターもヴォーカルと同じく口説きモードに入っている感じだ。
メロトロン・ストリングスがさりげなく二人を包む。
後半のギターは泣き泣きのハードロック系メロディアス・バラード調、そして驟雨のようにロマンティックなピアノの調べ。
ここでもメロトロンがざわめいているが、これだけ甘めだと音があまり活きない。
この調子では AOR になってしまいそうだが、熱いラテン魂を包むヴォーカルと歌謡曲ギターは、意外に正統的なロマンティシズムを感じさせるのだ。
さすがである。
4 曲目「Terra Di Nessuno」(7:53)
暴れ馬の如きパワフルでクセのあるリズムで進む BANCO 風のハード・プログレ。
ドラムスは手数の多いリズム・パターンを次々と繰り出して、テンポやアクセントを変化させる。
メロディは主としてヴォーカルが担うが、暴れるボトムになんとかしがみついているような感じがあり、さほど魅力的ではない。
そして、やや一本調子かもしれない。
それでも、全体を貫き、安定感をもたらすのはこのヴォーカルだ。
またオープニングの派手な YES 風のプレイから、ヴォーカル・パートのメランコリックなソロ、中盤のヘヴィなリフまで、ギターはソロよりも楔を打ち込むようなリフで大活躍である。
キーボードは、マリンバやクラヴィネット、メロトロンも用いた多彩な音色のバッキング、および中盤のワイルドなハモンド・ソロとそれに続くシンセサイザーのオスティナートでフィーチュアされる。
終盤のワルぶったリフから入るメロディアスなギター・ソロと続くヴォーカル・パートがおちついて聴こえるほど、せわしなく展開する作品だ。
リズム・アクセントをどんどん変化させながらも一貫した流れが保てるかどうかの実験のような作品だ。
5 曲目「「Senza Pretese」(0:49)アコースティック・ギター・ソロによるルネッサンス風の小品。
心地好い気分転換です。
6 曲目「Windsor」(9:39)ギターが朗々と歌い上げるハードかつミステリアスな HM 風のオープニング。
一転してシンセサイザー、ギター、サックスが変拍子のトゥッティで走り出す。
シンセサイザーのファンファーレが高鳴り、変拍子トゥッティはなめらかな音色にもかかわらず邪悪なムードを高める。
続くギターのリフレインは、先ほどのシンセサイザーのファンファーレに呼応するクラシカルなもの。
メロトロンも流れている。
ヘヴィながらもクラシカルである。
一転ヴォーカルが入って、メロディアスでジャジーなアンサンブルへ。
ここの雰囲気の切りかえは鮮やか。
すっかり AOR 調ながらハモンド・オルガンがしっかり厚みをつける。
ギター、ベースもしっかりヴォーカルに寄り添う。
ミドル・テンポの演奏は、完全にメイン・ストリームのアダルト・ロックである。
ギター・リフ主導で軽やかにテンポ・アップ。
ヴォーカルは普通のポップス。
リズムが小気味いいので聴き心地がいい。
ドラム・フィルもカッコいい。
サビの高まりもナチュラルかつ俊敏。
メタル風のパワー・コードもアクセントならば許す。
そのメタル・リフに引っ張られて演奏はハードロック化。
それでもリズムのキレはよく、軽やかでファンキー。
ブレイクを経たエンディングは、フルートのようなシンセサイザーとシンバルの神秘的な交歓がヘヴィなギターとハモンドで断ち切られる、痛快きわまるもの。
ミステリアスなオープニングからキーボード・ギターの疾走するクラシカル・プログレ、AOR 調の熱いヴォーカル・パート、ハードロック炸裂、そして神秘の谷間と目まぐるしく変化する超大作。
くるくるせわしなく動きながらも、場面展開がナチュラルなのが強みである。
終盤の疾走はハードロックといい切るには惜しいくらいカッコいい。
軽やかなタメの効いたリズムは、ほとんどファンク。
モダンなプログレッシヴ・ロックといっていいでしょう。
名曲。
7 曲目「L'attesa」(2:26)
フルートのようなシンセサイザーとアコースティック・ギターが伴奏する弾き語りフォーク風の小品。
嵐のような70 年代イタリアン・プログレのアルバムに、必ず入っていた穏かな春風のような作品である。
初めて聴いても懐かしい。
素朴な旋律のヴォーカル・ハーモニーを暖かいメロトロンが彩り、気分はすっかり田園風。
ヴォーカルの声質が AOR 調のため純朴さを欠き、したがって、あたかもポッと出の女の子をだます詐欺師の趣である。
それでも、だまされてみようかという気になる佳曲。
8 曲目「Il Ritorno」(7:00)
前曲から間髪いれずにハモンドが唸りを上げ、ドラムスとヘヴィなギターが轟く。
ギター・リフがドライヴする、完全 HM 調のオープニングである。
ヴォーカルは、ハイトーンのシャウトというわけにはいかず、いつものテノールで無理やりメタル唱法へチャレンジしている。
やがてツーバス・ロールも始まって、ギターがドラムスと同期して轟き始め、さらにヘヴィな演奏へとシフト。
伸びやかなヴォーカルと金切り声のようなオブリガート。
伴奏がギターのアルペジオへと変わりテンポも落ちる。
ヴォーカル中心にメロディアスな演奏が続く。
間奏は、泣きのギター・ソロ。
かなり MARILLION 、もしくはその子分の ENCHANT である。
リズム・パターンに変化をつけつつ進むが、基本はメロディアスなヴォーカルとメタル・ギターのコンビ。
シンセサイザーやオルガンは背景を厚く彩る。
ヴォーカルの切実な繰り返しを経て、おだやかなピアノのリフレインへ。
ギターのアルペジオ、ストリングスも加わって広がりができる。
激しいドラムス。
そしてフェード・アウト。
鳥のさえずりが聴こえる。
前作の最後から二番目でも見せた、ステレオ・タイプのプログレ・メタル。
ベル・カントとメタル・ギターのミスマッチの面白さはあるものの、他の曲に比べるとやや平凡である。
もちろん部分部分ではいいところもある。
しかしながら、どこかで聴いたようなパターンを無理やりつなげているため、流れはよくない。
「回帰」というタイトルでこの作風だと、今後が心配です。
なお 前曲のエンディングに本曲のオープニングが食い込んでいると思います。
タイムから見ても CD 製作上のミスでしょう。
楽曲の充実に目を見張る第二作。
ヘヴィな面が強調されており、一部明らかにプログレ・メタル的な方向へ進んでいるところもあるが、それ以上にコンテンポラリーなロックと 70 年代プログレ的な要素を自然に組み合わせたものという印象がある。
全体に、語り口の明解さと充実した曲展開のある力作である。
キーボードは、派手なサウンドを詰め込むだけではなく、的確かつ洒落っ気あるプレイで演奏の芯となっている。
そして、ギターのスタイルは前作のポンプなメロディアス路線に自然なハードロック趣味を加えており、甘めになりがちな演奏にアクセントを効かせている。
全体としては、ハードロックもパーツとして取り込んで、構築性とロックらしいルーズさのバランスを、意識的か無意識か知らないが、うまく取っている。
ヴィンテージ・キーボードの音だけを売りにしていた第一作からは、大きく成長している。
これで演奏に俊敏さやしなやかさやワサビの効いたユーモアが備わったら、たいへんなことになりそうだ。
走り気味でせわしない変化をする演奏でも、歌がいいとかなりイメージ上がるようです。
(VMNP 04)