イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「D.F.A」。 91 年ヴェローナ出身のメンバーで結成。作品は 2008 年現在四枚。 忙しくもしなやかな演奏はやや小ぶりの DEUS EX MACHINA といえる。 ハモンド・オルガンやメロトロンを用いるのがうれしい。 イタリアン・ロックらしいコブシの効いたヴォーカルあり。
Silvio Minella | guitars |
Alberto De Grandis | drums, percussion, vocals |
Luca Baldassari | bass |
Alberto Bonomi | Hammond A-100 with Leslie 760, Fender Rhodes, synth, piano, flute |
guest: | |
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Zoltan Szabo | cello on 4,6 |
Maria Vinventini | violin, viola on 4,6 |
Andhira | vocals on 6 |
2008 年発表の第四作「4TH」。
内容は、カンタベリー・スタイルを正統継承し、現代的な技巧も盛り込んだジャズロック。
粘っこいファズ・ギター、音数の多いドラムス、シャープなオルガン、垢抜けたエレクトリック・ピアノといったカンタベリー・イディオムも揃えた充実のアンサンブルであり、NATINAL HEALTH や INCAHOOTS をパワフルかつシンフォニックに加工したようなスタイルである。
逞しさと弾力のある演奏は、BRUFORD やそこに影響を受けた NATHAN MAHL と共通し、一気呵成の勢いは、やはり DEUS EX MACHINA を思わせる。
また、圧倒的な演奏力を誇示しながらも決して重苦しくはならず、ノーブルかつ軽やかで華やいだイメージがある。
これは、近年の MINIMUM VITAL と同じだ。
変拍子もさりげない。
エレクトリック・ジャズの音を使いながらも、ジャズではなく、弾力に富むドラミングに象徴されるとおりあくまでインテリジェントで変幻自在のロックなのだ。
そして、イタリアン・ロックらしい純メロディアスな美感とクラシカルな風合いも生かされている。
4 曲目「Mosoq Runa」はドラマティックな傑作。
とにもかくにも、いわゆる「フュージョン」にならずにこれだけカッコよくカンタベリー・スタイルを決められるというのは只事ではない。
この路線はイギリスの TANGENT がかなり極めているが、本作品も負けていない。
ファズ・ギターなんて、アラン・ホールズワースがフィル・ミラーを意識しているような演奏だ。
そして、スキャット以外はほとんどインストなだけに最終曲の中世風のイタリア語ハーモニーが鮮烈な印象を残す。
この作品で解散というのは、演奏力や作曲力を考えると本当に惜しい。しかし同時に、ここ以降進んでゆく先が見えなかったというのもうなずける気がする。
「Baltasaurus」(14:19)
「Flying Trip」(7:51)
「Vietato Generalizzare」(6:40)
「Mosoq Runa」(18:57)スケールの大きな傑作。
「The Mirror」(10:15)神秘的で耽美な歌もの。
「La Ballata De S'Isposa 'E Mannorri」(6:16)歌詞はサルジニアの一地方の口承とある。
(MJR 021)
Silvio Minella | guitar |
Alberto De Grandis | drums, vocals |
Luca Baldassari | bass |
Alberto Bonomi | Hammond B3, Mellotron, synthesizer, flute, vocals |
98 年発表の第一作「Lavori In Corso」。
内容は、ハイテンションにしてアヴァンギャルド、歌心もあるテクニカル・ロック。
リズムとアンサンブルを重視し、卓越した運動性を前面に押し出した演奏である。
一般に、現代のテクニック志向のミュージシャンにとって、ジャズロック/フュージョンは音楽的な指標として基本の一つである。
ここでは、そのジャズロック/フュージョンの高度な運動性に、ファンタジックな余韻と若干の脱構築性を付け加えて、独自の色を打ち出している。
そして、そのやり方が、偶然にも往年のプログレに近くなったという事情だと考える。
演奏はとにかく痛快だ。
変拍子を弾き飛ばすリズム・セクションとともに、ヘヴィかつスピード感あふれるギターと古典的なハモンド・オルガンが小気味よく、エネルギッシュにひた走る。
腹に応える重さ、空へと突き抜ける弾力、生命力あふれる駆動感など、いわゆるカッコいいロックの必要条件をすべて充たしている。
と同時に、HR/HM やいわゆるテクニカル・フュージョンよりも遥かに人間臭く、暖かみがある。
やや線は細めながらもコブシの効いたヴォーカル・ハーモニーとギュウギュウに中身の詰まった演奏は、無機性に走りがちな現代ロックにイタリアン・ミュージックの伝統が熱い血潮を吹き込んだといわんばかりである。
もちろん、アコースティック・ギターとフルートによる「引き」のプレイでも、AOR やフュージョンを咀嚼したエクスタシーを生み出している。
おまけに、熱いハモンド・オルガンから尺八ムーグ、悠然たるストリングスまでヴィンテージ・キーボードが舞い踊るときては、もはや拒む術はない。
はっきりいって痺れっぱなしである。
挑戦的な変拍子、シャープなリフ、超絶ソロ、そしてしなるような粘りを見せるアンサンブルは、久々の百点満点だろう。
カッコいいものを求める方には、無条件でお薦めです。
アルバム・タイトルは「おきまりの仕事」の意。
スタジオでの加工は最小限でライヴの勢いをそのままとらえた録音になっていると思う。
そう考えると、ジャズ・ジャム・バンドとして見ることもできそうな音だ。
リズムに凝るテクニカルなロック・アンサンブルという意味で、GENTLE GIANT のファンへはお薦め。
忘れかけていたハードロックの暴走と大人のジャズロックの粋さを両立させたハイパー・プログレであり、ワンパターンなテクニカル・メタルやメロディめそめそのポンプを遥か何光年も引き離した音楽である。
こういう音が次の時代のロックなら、世の中も捨てたもんじゃない。
ややワンパターンではあるものの、弾けるようなカッコよさはファン層を選ばない気がする。
6 曲目は LED ZEPPELIN やフランク・ザッパを思わせる過激にして美しいハード・ジャズロック・インストゥルメンタルの傑作。
最終曲は、映画音楽のように雄大な美しさ、重厚さ、血湧き肉踊るせめぎあいなどが交錯する新世代のフュージョン。
シンセサイザーが大活躍し、エンディングはド・シンフォニックな昂揚に胸焦がす。
「Work Machine」(7:09)「Glass House」あたりの GENTLE GIANT を思わせる、楽器が追いかけあうポリリズミックな変拍子アンサンブルと幻想的なシンセサイザーが交差し、やがてジャジーなグルーヴを生んでゆく傑作。
つまずきそうなリズムと抜群の呼吸。
神秘的なコーラス・ハーモニーも GENTLE GIANT を思わせるところがある。そういう流れにストレートなジャズ/フュージョン・タッチが現れるところが新しい。
「Collage」(7:06)ギターのパワーコードが血潮のように轟き迸るも、なめらかで疾走感あふれるテクニカル・ヘヴィ・フュージョンの傑作。
あおるようなライド・シンバル、大胆なヴォリューム・チェンジやリズム・チェンジがいい。
凶暴な、唸るような演奏の谷間に、ふと透明な瞬間が訪れる。
近年 HM 系の作品にも多いテクニカル・フュージョンに「歌」が入ると、音楽的に一つ上のグレードに進む気がする。
終盤のハイテンションに唸らされる。
「Pantera - La Sua Anima」(8:48 + 4:03)オルガン、メロトロン・フルートをフィーチュアした 8 分の 5/6/7 拍子ジャズ・コンボへ HM ギターのパワー・リフが突っ込んで沸騰する痛快作。
無茶な展開ながらも、グルーヴとスピード感を失わない。
モダン・ジャズ風のサスペンスフルな雰囲気に、思い切り現代的なリズムとハードロックなリフを放り込んでいる。
ギターは、ホールズワースとフリップの中間くらいの粘っこいソロを披露。
小気味よくリフを放つオルガン、そしてムーグは時おり目の醒めるような切れ味のオブリガートを放ち、突き抜けきらない謎めいたソロを繰り広げる。
さて、尾を引くようなストリングスが優美につなぐと、後半 4 分は、オヴェーション・クラシック(ただしエレクトリック・ギターと比べるとやや格落ち)とフルートがリードする、あまりに意外なアコースティック・アンサンブル。
ライル・メイズ風のホイッスル系シンセサイザーが加わると、ニューエイジなムードも高まり、ほとんどパット・メセニー・グループと化す。
「Trip On Metro」(6:33)「傾いたような」イメージの変拍子アンサンブルによるインストゥルメンタル。
ギター・リフとベース・パターンを中心に、熱狂的でリズミカルながらも無機的に迫る。
メカニックな演奏をエモーショナルなシンセサイザーが横切り、最後まで「GENTLE GIANT による 80'KING CRIMSON」調でひた走る。
レガートなギター・アドリヴが細切れ風のリフと鮮やかにコントラストする。
ドラムスの乱れ打ちにも注目。
「Space Ace Man」(9:47)一転かなりレガートでエモーショナルなオープニング。
シンセサイザーのアドリヴを経て、結局はリズミカルなアンサンブルへと突っ込んでゆく。
プログレメタル、KING CRIMSON 的な暗黒パワーとモダン・ジャズのサスペンスフルネスをブレンドしたヘヴィ・フュージョン。
ディミニッシュ/オーギュメント・コードの響きと弾力ある変拍子が呪文となって、未知の扉を啓いてゆく。
ハモンド・オルガン好きにはたまらないプレイが満載。
叙景的な展開には YES の影響が見える。
ヘヴィなパターンとやや引き気味の演奏を、それぞれデフォルメをきつめにしてうまく対比させている。
インストゥルメンタル。
「La Via」(16:19)
ヒリヒリとした緊張感を抱えながらも、メロディアスでシンフォニックな展開を繰り広げる、大人な大作。
(SCL 001)
Silvio Minella | guitar |
Alberto De Grandis | percussion, keyboards, vocals |
Luca Baldassari | bass |
Alberto Bonomi | keyboards, vocals |
guest: | |
---|---|
Alberto Piras | vocals in Esperanto |
Giorgia Gallo | vocals in Malia |
99 年発表の第二作「Duty Free Area」。
内容は、前作をさらに洗練したアブストラクトでドラマティックでしなやかなハイパー・テクニカル・ジャズロック。
ヴォーカル表現はゲストに任せ、卓越した演奏力を生かした魅力的なパフォーマンスのために作曲とアレンジに力を注いでいる。
リズム・セクションもギターも抜群の弾力とざらついたエッジのままに変拍子パターンをぐいぐいと突きつけてくる。
そういう音に取り囲まれるとキーボードのソロも不思議なほどフュージョンにならない。
荒々しさはあっても荒削りではない、といえばいいだろう。
どこを押しても弾けそうな音で満ちたアンサンブルなのだ。
技巧的でロマンティックという、いかにも芸術の国イタリアらしいスタイルのロックである。
前作で D.E.M の弟分と勝手なことをいっていたら、なんとゲストにホンモノのアルベルト・ピラスが現れてしまった。
(エスペラント語のヴォーカル、さすが)
「Escher」(10:48)
80' KING CRIMSON と共通する質感のスペイシーでミニマルなテクニカル・チューン。
変拍子によるポリリズミックな展開をしなやかに貫くギターがカッコいい。
リズム・セクションはストリートっぽい凶暴さ、軽薄さとアカデミックで重厚な技巧を両立させて迫る。
後半のシンセサイザーとギターが挑発しあうアンサンブルから終盤に向けてのテンションがすごい。
タイトルは「だまし絵」のエッシャーのことか。
インストゥルメンタル。
「Caleidoscopio」(9:34)
間奏部でハードなインストゥルメンタルが沸騰するジャジーなバラード。
うつむき加減で表情も暗いがメロディアスに歌い上げることが基本にある。
管楽器風のシンセサイザーとヴィヴラフォンが、メランコリックな雰囲気を演出する。
酷薄なギターが刻む変拍子リフとスペイシーなシンセサイザーが交錯し、ギターとキーボードが細かな文様を成す。
急激な音の集中によるアグレッシヴで張り詰めたインストゥルメンタルが繰り広げられるが、基本的な雰囲気は序盤の「歌もの」からの流れにある。
4 分半すぎからのテクニカルかつハードなインストゥルメンタルは、BRAND X の現在形である TUNNELS と共通する、情報量で勝負した演奏である。
要所でのハモンド・オルガンのキレと冴えは前作と同じ。
小刻みな変拍子リフレインが主にあるので、しなやかなサスティンのギターとまろやかなハモンド・オルガンのフレーズがひときわ輝く。
タイトルは「万華鏡」?
「Esperanto」(8:10)
パワフルでしなやかなヴォーカルをフィーチュアした開放的で躍動感あるテクニカル・ロック。
凶暴なパワーコードからクランチなリフなどキレキレのプレイとしなやかなフレージングとで演奏をリードするのはギター、そして、ふと訪れる間隙をていねいにうめるのは多彩なサウンドのキーボード。
そのギターとハモンド・オルガン、スペイシーなシンセサイザーをやんちゃ過ぎるリズム・セクションがかついで疾走する、得意のスタイルである。
メローなエレクトリック・ピアノ・ソロ、さりげない不協和音と無調フレーズによる緊張感の演出などアレンジの妙もある。
豊かな声量を誇るヴォーカルはアルベルト・ピラス。
DEUS EX MACHINA といっても通りそうな内容だ。
「Ascendente Scorpione」(4:31)
ライトなファンク感覚を生かしたカラフルなテクニカル・ロック。
技巧を感じさせない自然な展開とジャズっぽくなり過ぎない、ロックなインパクトの硬さが特徴である。
主役らしきキーボードがスタカートのリズミカルなフレーズで舞うので、後半現れるギターのしなやかさが際立つ。
フェード・アウトが惜しい。
インストゥルメンタル。
「Ragno」(11:26)
シンフォニックな響きの中に挑戦的な表情が一貫するアッパーなテクニカル変拍子チューン。
YES をフュージョン寄りにした、つまり、BRUFORD や U.K. に通じるスタイルである。
ギターもホールズワース風に聴こえてくる。
あたかも猛スピードで迷路を通り抜けるように、目まぐるしく込み入った演奏だ。
そしてうまく通り抜けるたびに訪れるカタルシス。
中盤は神秘的でスペイシーな緩徐パート。
クールダウンととともに、次の展開への不気味なエネルギーを蓄積する。
インストゥルメンタル。傑作。
「Malia」(5:27)
神秘的な色合いを帯びるも洗練された歌もの。
相聞歌のように男女のヴォーカルが交差する。
バカラックを憂鬱でクールにしたような曲であり、スタイリッシュなアルバム・エンディングを彩る。
やや洗練された印象はあるものの、基本的に前作の延長にあるハイパー・プログレ・ジャズロック作品。
重量感たっぷりのワイルドなアンサンブルは変わらずお化粧直しをした表層の陰でさらに力を蓄えているような気がする。
そのエネルギーがリークして爆発する瞬間のカッコよさといったらない。
演奏はジャズロック的なテクニカルなものであり、まさしく D.E.M に迫る勢い。
特にドラムスは若々しさのある達人。
1 曲目はやおら KING CRIMSON でびっくりするがその後どんどん独自の世界に突っ込んで行くのでご安心を。
唯一思うのは、もっともっと過激に暴走してもよかったかもしれないということ。
もっとも、完成度が高まるということはそういった要素が減ることと同義に近いから、しょうがないのかもしれません。
(MMP 373)
Silvio Minella | guitars |
Alberto De Grandis | drums, vocals |
Luca Baldassari | bass |
Alberto Bonomi | keyboards, vocals |
2001 年発表のライヴ・アルバム「Work In Progresss Live」。
2000 年 6 月 17 日 NEARFest 2000 での演奏を収録。
ニ枚のオリジナル・アルバムから、驚くことに難曲、大曲ばかりが選ばれている。
度肝を抜くような即興の爆発力はさほどでないが、ハイ・テンションの演奏が複雑さをものともせずに安定感抜群で進んでゆく。
ここで提示されている音は、コンテンポラリーなロックとプログレ的感性の結合ではないか。
キーボードが演奏の軸となって延々続く緊密にしてルーズな(?)インタープレイのグルーヴは、PHISH などのジャム・バンドのイメージに通じるところがある。
そして、シンセイサイザーの変拍子パターンの上でギターがうねりだすと、80' KING CRIMSON 風の緊張感も生まれる。
パフォーマンスはフュージョン、アレンジはプログレ、サウンドはサイケデリック。
ワイルドさよりもデリカシーが強いところも好感度大。
それは「まじめなカッコよさ」とでもいいましょうか。
個人的には、ファンキーなノリのドラムスが大好き。
「Escher」(10:08)第二作より。
インストゥルメンタル。
「Caleidoscopio」(9:16)第二作より。
「Trip On Metro」(6:36)第一作より。
インストゥルメンタル。
「La Via」(15:25)第一作より。
「Pantera」(10:08)第一作より。
前半部。
「Ragno」(11:12)第二作より。
(MJR 003)