イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「THE TANGENT」。 2003 年結成。作品は、五枚。元 PARALLEL OR 90 DEGREES のアンディ・ティリソンのグループ。
Andy Tillison | keyboards, vocals |
Roine Stolt | guitars, vocals |
David Jackson | sax, flute |
Sam Baine | piano |
Zoltan Csorsz | drums |
Jonas Reingold | bass |
Guy Manning | acousitc guitars, mandolin, vocals |
2003 年発表の第一作「The Music That Died Alone」。
ティリソンのソロ作品として製作が始まったが、リード・ヴォーカルも取るロイネ・ストルトら THE FLOWER KINGS のメンバーを迎えたため、TFK との合体プロジェクトのような作品になった。また、ティリソンのアイドルの一つ、VAN DER GRAAF GENERATOR のデヴィッド・ジャクソンが管楽器奏者として参加して、変わらぬ鋭いタッチでアクセントをつけている。
アルバムは、70 年代プログレッシヴ・ロックへの憧憬を、その雑多で幅広い音楽性をそのまま取り込んで、大胆に表明した力作である。
YES のアンサンブルの密度を高めてジャジーなスパイスとモダンなサウンドで仕上げた(というか今の TFK 風の)大作、カンタベリー・ジャズロック、PO90D の作風のままのぶっ飛びキーボード・ロケンロー(リズム・セクションがグレード・アップしているのですごい迫力)まで、英国ロックらしいメランコリックでペシミスティックなトーンやシニシズムを貫きつつも、音楽はあくまでカラフルでアトラクティヴであり、悠然とした構えである。
サウンド、プレイ、スタイル、すべてにこわだりを見せているが、音楽のグルーヴが作者の思いや気難しさを若干上回ったおかげで、とてもカッコよく、聴きやすい作品になったと思う。
2 曲目では、クールな音楽と裏腹にもう矢もたてもたまらずに HATFIELDS、NATIONAL HEALTH への思いの丈をぶちまけて、デイヴ・スチュアートが憑依する。
サム・ベインのエレガントなピアノがマニアックな粘り気をさらりと拭い去って、いい感じに仕上げていると思う。
また、4 曲目第二部のヴォーカル・パートでは、すっきりした英国ポップ・テイストが新鮮だ。
サイケ、ハードロック、プログレなどさまざまな音楽にどっぷり浸った濃密な時代の汗をジャズのシャワーで洗い流したら、ネクタイを締めてまた街に出ていこう、そんなことを思わせる音です。それから、この音が世に出られたのは TFK とのラッキーな邂逅があったからでしょう。
それにも感謝しなくてはならない。
「In Darkest Dreams」(20:06)
「The Canterbury Sequence」(8:06)
「Up-Hill From Here」(7:11)
「The Music That Died Alone」(12:45)
(INSIDE OUT 6 93723 65992 3)
Andy Tillison | organ, synthesizer, glissando guitar, theremin, piano, vocals |
Roine Stolt | guitars, electric piano, percussion, vocals |
Sam Baine | piano, synthesizer, vocals |
Jonas Reingold | bass, spanner |
Zoltan Csorsz | drums, percussion |
Theo Travis | sax, flute, small dog |
Guy Manning | mandolin, acousitc guitars, vocals |
2004 年発表の第二作「The World That We Drive Through」。
おそらく本家が始動したためデヴィッド・ジャクソンが、「21 世紀のジミー・ヘイスティングス」セオ・トラヴィスと交代。
内容は、TFK 路線を基調に、前作のカンタベリー・タッチよりもややアダルトな現代風のジャズ・タッチを交えた、テクニカルかつエモーショナル・ロック。
今回は、従来のサイケデリックなタフネスをフュージョン風のなめらかな音にごく自然に収めることに成功している。
シュアーなリズムで走るインストゥルメンタルをニューエイジ風の清潔感あるフルートの調べやピアノ、クールなヴォイスが鮮やかに彩っている。
また、独特の素朴さあるティリソンの歌を前面に出して、その歌の表情のままに器楽を自在に操る VdGG ばりの展開や、メロトロンやアコースティック・ギターが音を散りばめるポスト・ロック調もある。
この時期、圧倒的な演奏力を解き放って疾走していた TFK だが、ティリソンは自らのイマジネーションをカンバスに描くため、その技量を十分活用している。
ここにあって TFK にないもの、それは当たり前だが、ティリソンの感性であり、私達にはいかにも英国らしく思える憂鬱さ、暗さ、湿気、感傷である。
サックスやオルガンが高鳴り、アコースティック・ギターがささやくときの、JETHRO TULL や THE NICE、VdGG、GENESIS を思わせる演奏が、わたしのようなオッサンにはどうにもたまらない。
サム・ベインはデヴィッド・ベノワばりのオシャレなピアノでも大活躍だが、一人 NORTHETES も買って出ている。
ティリソン氏のヴォーカルも、若干、若干ではありますが表現力が増しております。
派手な 70 年代オマージュで度肝を抜いた前作ほどの衝撃はないが、音楽そのものの深みは本作品が勝ると思う。
個人的には、もう少し TFK タッチを抑えたときに、ティリソンの色がどうなるのかも見てみたいです。
カヴァー・アートは、ロジャー・ディーンのイラストを写真にしたような美しいもの。
また、前作に続き深刻な響きのある体現止めタイトルがいかにも私小説風ですが、英語圏の方にはどのような印象を与えるのでしょう。
「The Winning Game」(11:10) ギターが前面に出たほとんど TFK な、しかし名作。
「Skipping The Distance」(8:57)
「Photosynthesis」(7:40)
「The World That We Drive Through」(13:00) 明快なテーマがカッコいい佳作。TFK や SPOCK'S BEARD の諸作品とともにモダンなプログレの代表作の一つになりそうだ。
「A Gap In The Night」(18:20) 畢生の傑作。ドラマがある。
冒頭のピアノはベインではなく、ティリソンではないだろうか。リック・ウェイクマンに似てるので。
中盤、マニングのヴォーカルが入る。この人がリード・ヴォーカルでも全然いい。
「Exponenzgesetz」(14:00) ボーナス・トラック。 ミニ・ムーグ、モジュラー・シンセサイザー、メロトロン、ピアノによる TANGERINE DREAM ばりのインストゥルメンタル。1 時間半で完成した作品だそうです。
(INSIDE OUT 6 93723 00392 4)
Andy Tillison | organ, Moog synthesizer, piano, less good guitar, principal vocals |
Sam Baine | piano, synthesizer, vocals |
Jonas Reingold | bass |
Theo Travis | soprano & tenor sax, flute, alto flute, clarinet, recorder, vocals |
Guy Manning | acousitc guitars, mandolin, assorted overdub, vocals |
Jaime Salazar | drums |
Krister Jonsson | guitars |
2006 年発表の第三作「A Place In The Queue」。
ロイネ・ストルト、ソルタン・ショーズの離脱に伴い、ギタリストとしてクリスタ・ジョンソン、ドラマーとして元 TFK のハイメ・サラザーが加入する。
内容は、多彩なキーボードを大きくフィーチュアし、70 年代プログレへの憧憬を押し出したテクニカル・ロック。
洗練された現代的なジャズ・フィーリング、ワイルドで小気味のいいロック・ジャム、ノスタルジックなポップ・テイスト、一種現代音楽的な緊迫感ある即興など、音楽的な充実度はまったく変わらない。
ジャジーな演奏に今までになくメロディアスなテーマが浮かび上がったり、フルートに象徴されるようにクールでいながらデリケートでリリカルなタッチも盛り込むなど、ストレートな表現に自信が感じられる。
その一方で、KING CRIMSON ばりのテンションのあるヘヴィなジャズロックもあるからおもしろい。
本作は、YES を引き合いに出して一向かまわない緻密な世界感のある作風ながらも、おそらくはロイネ・ストルトが主導した劇的なストーリー・テリングよりも、演奏面での音楽的な振れ幅の広さと明快さを堪能すべき内容だと思う。
そして、オプティミスティックなメロディにうつむくような表情がよぎることがあるが、それが少年というよりは、曲折を経てタフになった男のものに思える。
内省的なムードを保ちながらも、甘ったるいファンタジーとは決定的に異なる、大人向けのドライな感触がある。
そこが新鮮だ。
ディヴ・スチュアート、キース・エマーソン直系の噛みつくようなオルガンも完全に甦っている。
4 曲目では変わらぬカンタベリー好きを全開にして、リスナーをにんまりさせるしかけを随所に施している。あたかも HATFIELDS にリック・ウェイクマンとジョン・アンダーソンを参加させたような痛怪作だ。
6 曲目は、どうにも微笑ましい 70 年代調のグラマラスなブラコン、ディスコ・チューン。
ブラス、ストリングス・アレンジがイイ感じだ。
7 曲目、25 分にわたるのタイトル大作は、KING CRIMSON(ソプラノ・サックスがメル・コリンズを思わせるだけだという話もあるが...)のもつ感傷的でいながら硬質な叙情性をなぞるテーマを中心に、PINK FLOYD 風のブルージーな懊悩も交えて、淡々とドラマを綴る英国プログレ王道な傑作。個人的に昔のフランスの PULSAR を思い出しました。
演奏面では、リズム・セクションの大仰さがなくなった分、演奏全体のバランスがよくなった。
また、新加入のギタリストは、プレイの記名性はストルトに譲るものの、モダン・ジャズ、フィル・ミラーからホールズワース、モダンなロック・ギターまでそつなくこなす大逸材。
(INSIDE OUT SPV 48750 DCD)