ノルウェーのプログレッシヴ・ジャズ・グループ「CRIMETIME ORCHESTRA」。 ヴィダル・ヨハンセン、ヨン・クレテ、ブッゲ・ヴェッセルトフトらを中心としたフリージャズ系ビッグ・バンド。作品は二枚。
Vidar Johansen | sax | Jon Klette | alto sax |
Kjetil Møster | tenor sax | Øvind Brekke | trombone |
Sjur Miljeteig | trumpet | Anders Hana | guitar |
Bugge Wesseltoft | synthesizer, effects | Ingebrigt Håker Flaten | bass |
Paal Nilssen-Love | drums | Bjørnar Andresen | double bass, effect |
2004 年発表のアルバム「Life Is A Beautiful Monster」。
内容は、管楽器をフィーチュアした 10 人編成のビッグ・バンドによるエレクトリック・フリー・ジャズ。
重量感あふれるブラス・セクションによるいななくような絶叫にギターやベース、シンセサイザーらのノイジーなエレクトリック・サウンドを重ねたものであり、徹底してサイケデリックで挑戦的、暴力的な音になっている。
エレクトリックなノイズも思い切りぶちまけており、酸味の効きもハンパではない。
ストラトキャスターの金属的でざらざらした音がじつにかっこいい。
ごく稀に、管楽器のエモーショナルなソロによってモダン・ジャズ風のビッグ・バンドに接近することもあるが、基本は、重層的なブロウがたぎり、交錯し、ドラムス乱打、重低音ベースとガチでぶつかり合うタフで緊張感あふれる演奏か、弛緩の果てに意識の残滓が電気の火花を散らすようなミステリアスで危険な即興演奏である。
素っ頓狂に爆発しっ放しの状態から、祝詞や声明を思わせる静謐でスペイシーな表現まで、個人的には往年の Keith Tippett のビッグ・バンド・ジャズロックを思い出さざるを得ない。
サックスがエルトン・ディーンに聴こえるのもまたむべなるかなである。
要所ではジャズ的なパワーとダイナミズムで演奏を「締めて」いるが、意外や、カッコよさはそういった「ジャズ」をガラガラと音を立てて崩してゆくさまにあったりする。
そして、そのシーンには SOFT MACHINE と同質のスリルと知的な興奮がある。
ヴェッセルトフトは、エレクトリック・ノイズによる執拗な攻撃と不意打ちだけではなく、オルガン系シンセサイザーのぐにゃぐにゃとしたソロでも展開をリードしている。
若干頼りないが味はある。
ファズベースやギターの特殊奏法のような飛び道具もあり。
4 曲目 16 分あたりからの展開は痛快そのもの。
本アルバムはレコーディング・セッション直後に急逝したベーシストのビョルナ・アンデルセンに捧げられている。
「Life Is A Beautiful Monster(Part 1-7)」
「Rest In Peace」
(JARCD009)
Vidar Johansen | baritone sax | Jon Klette | alto sax |
Gisle Johansen | tenor sax | Kjetil Møster | tenor sax |
Øvind Brekke | trombone | Sjur Miljeteig | trumpet |
Hild Sofie Tafjord | french horn, sampling, noise | Anders Hana | guitar, noise |
Bugge Wesseltoft | piano, synthesizer | Per Zanuzzi | bass, effect |
Ingebrigt Håker Flaten | bass | Mats Eilertsen | bass, electronics |
Per Oddvar Johansen | drums, electronics | Paal Nilssen-Love | drums, percussion |
Sonny Simmons | guest soloist | Erlend Skomsvoll | narration |
2009 年発表のアルバム「Atomic Symphony」。
クラシカルな弦楽をフィーチュアしたロマンティックかつアグレッシヴなビッグ・バンド・フリージャズ。
なめらかな弦楽奏の奔流と絨毯爆撃状態のパワフルなリズム・セクション、管楽器群、ギターも含めたエレクトリック・ノイズのミスマッチ/コンビネーションが生み出すスリリングな演奏であり、サディスティックにして、雄大な情景を連想させるオーケストラルな規模感のあるパフォーマンスである。
前作よりもドラマ性を強調していると思う。
即興による激情のうねりとコンポーズによる慈愛の響きがぶつかり、飛び散りながら、やがておだやかな眠りを誘う浪漫の辺土へと導く。
ストリングスやフルートのおかげで、いわゆるジャズのビッグ・バンドとは一味違う管弦楽風の劇的なメリハリ、というか秩序または係り結びがある。(CD 二枚目の二曲目などに顕著)
サックスを中心にソリストも力演するが、どちらかといえば、挑戦的なプレイでぶつかりあう即興アンサンブルとケイオティックに轟々と鳴り響いてはバラバラにはじけ飛ぶような全体演奏に魅せられる内容だ。(だから、3 曲目も 26 分あたりからの展開に興奮する)
CD 二枚目ではモダン・ジャズ的なクールネスを出発点に現代音楽風のアブストラクトで神秘的な情景も開けてくる。そして期待をはるかに上回るドシャメシャ祭りも。
作曲は、ヨン・クレテとヴィダル・ヨハンセン。
プロデュースは、ヨン・クレテとライダル・スカール。
CD 二枚組。
Mike Westbrook の作品、マイルス・ディヴィスのエレクトリック作品のファンにお薦め。
個人的には KING CRIMSON の「Lizard」も思い出す音です。
(JARCD043)
Ingebrigt Flaten | double bass, acoustic bass on 2-6 | Anders Engen | drums |
Jonas Lönna | vinyl, drum programming | Paolo Vinaccia | percussion |
Marius Reksjø | double bass on 1 | Håkon Kornstad | tenox sax on 3 |
Bugge Wesseltoft | grand piano, Fender Rhodes, synthesizer, sample, programming, voice |
2001 年発表のアルバム「Moving」。
「New conception of jazz」を標榜したブッゲ・ヴェッセルトフト率いるプロジェクトの作品。
内容は、ドラムスとパーカッション、ベースによる強力なデジタル・ダンス・ビートの上でフェンダー・ローズやピアノが爪弾かれる、俗っぽくも小洒落た元祖フューチャー・ジャズである。
エレクトリックなビートとアコースティックな音の並立/対比効果を狙った調合の巧みさが特徴である。
サイケデリックでヒプノティックな音響効果が主、そしてアコースティック・ピアノによるキース・ジャレットばりの癒しの音もあり。
ヴォイス表現や叙景的な SE も積極的に取り入れられている。
クラブ・ミュージックというべき内容だとは思うが、オールド・ファンは「現代に甦った SOFT MACHINE(いや、M.ヴィトウス在籍時の WEATHER REPORT か)」と納得して悦に入るべし。
クールに扇動するビートが確かにカッコいい。
(013 534-2)