イタリアのジャズロック・グループ「DEDALUS」。 72 年結成、TRIDENT レーベルよりアルバム・デビュー。 74 年ベーシストが脱退、トリオ編成で実験色の強いエレクトリック・ミュージックである第二作発表。 同年解散。 グループ名は、ミノタウロスを迷路に閉じ込めた英雄ダイダロスの意か。
Fiorenzo Bonansone | cello, electric piano, synthesizer |
Marco Di Castri | guitars, tenor sax, percussion |
Furio Di Castri | bass, percussion |
Enrico Grosso | drums, percussion |
Rene Montegna | african percussion (AKTUALA) |
73 年発表の第一作「Dedalus」。
内容は、SOFT MACHINE や RETURN TO FOREVER に強い影響を受けたと思しきクロスオーヴァー/ジャズロック。
変拍子を繰り出すシャープなリズム・セクションとエレピ、ファズ・ギターら中心にしたタイトな演奏にエレクトリックな音響処理による実験色を盛り込んだ野心的な作風であり、さらにいいえば、現代音楽というパズルの一ピースとして「ジャズロック」を取り上げているという印象もある。
特徴は、キーボーディストが奏でるチェロによる大胆なサウンドのプレイを要所で活かすところ。
本作のサイケデリックなタッチはこのエフェクトににじむチェロによるところが大きい。
また、サックスはギタリストが兼任だが、テーマでもアドリヴでもそつなくこなしている。
全編インストゥルメンタル。
アフリカン・パーカッション担当のレネ・モンテグナは、エスニック・ポップス・グループの AKTUALA のメンバー。
カンタベリー・ファンにはお薦め。
1 曲目「Santiago」(9:13)
カンタベリー調の変拍子ジャズロックを現代音楽風にアレンジした作品。
テーマではトレモロで揺らぐローズ・ピアノやファズ・ギターなど典型的な音が現われる。
自信に満ちた逞しいアンサンブルと後半からのフリーフォームの大胆な音響空間(電気処理されたチェロによるノイジーな長大な即興パート)が特徴だ。
フリー系らしきアルト・サックスと変拍子リフを執拗に刻むベースのプレイは初期 SOFT MACHINE そのもの。
始まりはジャズロックだが、終わりは現代音楽。
2 曲目「Leda」(4:30)
耽美にして独特の世界律、調和を感じさせるジャズロック。
トレモロで揺らぐドリーミーなエレクトリック・ピアノとさざめくシンバルによる「静」のパートは、RETURN TO FOREVER そのもの。
(唯一違うのはファズ・ギターが和音をなぞること)
そして、手数の多いドラミング、サックスとともに走り出す「動」のアンサンブルは、SOFT MACHINE や NUCLEUS のイメージである。
エレピ、ベース、ドラムスらの抑えの効いた、しかしきっぱりとしたやり取りがいい。
するするっとなめらかなアンサンブルの動きは凄腕のベーシストに負うと思う。
3 曲目「Conn」(3:48)
打楽器系のサウンドをフィーチュアした即興メインの作品。
電子音とシンバル、パーカッションによる不気味な序奏を経て、電化マイルス直系のリム・ショットとベースのパターンが秩序を提供し、そのステージで、肉感的なサックス、きつつきのようなアフリカン・パーカッション、エレクトリック・チェロの絶叫が思うさま駆け巡る。
享楽的なのに緊張感もあるという不思議な世界。
4 曲目「C.T.6」(14:02)
器楽のソロを連携した大作。
エレクトリック・ピアノによる幻想的なイントロから一気にシャープな演奏が立ち上がり、次々とソロを回して疾走し続ける。
ソロの順番は、ジャジーなギター、テナー・サックス(ドラムスはフリーな打撃から、ヒップホップ調のグルーヴィなビートに変化する)、アコースティック・ピアノ(エレクトリック・ピアノとのデュオ)、再びヘタウマ・ギター、躍動感あるクラシカルなチェロ、ベース(ここまで演奏を引っ張った貢献度大、そのお礼。モダンなドラミングにも注目)、そしてトリは現代音楽調にして華やぎのあるアコースティック・ピアノ(弦を直接弾く内部奏法もあり)。
フィナーレは、サックスとエレクトリック・ピアノでクールにジャジーに電化マイルスにまとめる。
展開を保たせているのは、ソロの面白さはもちろんだが、それよりもダイナミックなリズム・セクションである。
エンディング近くのピアノ・ソロは実験精神にあふれている。
前半、アコースティック・ベースのせいか、ヴィトウス在籍時の WEATHER REPORT への連想も。
5 曲目「Brilla」(5:39)
爆発力を活かしたアグレッシヴなジャズロック。
コンパクトな中に沈静したテーマ部と激昂する展開部を配し、あたかも感情の起伏を模したような作風である。
サックスがリードする SOFT MACHINE 調のテーマ部は、美しくも抑制の効いたアンサンブルである。
一方、展開部では、爆発的なリズム・セクションとともにエレクトリック・チェロの過激なアドリヴから始まって、次第にファズ・ギターの攻撃的なアドリヴ(フィル・ミラーではなく、もはやロバート・フリップの域)へと移行してゆく。
ベースのフレージングも攻めている。
メリハリの効いた作品だ。
オーソドックスなスタイルに依拠しつつ、大胆な音響処理を加え、即興演奏を拡大し、さらには現代音楽調のアカデミックな手法を盛り込んだ野心的なジャズロック。
スタイリッシュながらも類型化することを潔しとしない硬派なスタンスがいい。
テクニカルなリズム・セクションがキープする緊張の糸の上を、逞しいテーマと奔放なソロが駆け巡る。
ベーシストは、アクロバチックなテクニックを披露するわけではないが、クールなフレージングと緻密な運動性から卓越したプレイヤーであることが分かる。(グループ解散後、ジャズ・プレイヤーとして活躍するとのこと)
(VM 009)
Fiorenzo Bonansone | cello, piano, Fender piano, voice, accordion, synthesizer, soprano ocarina, electric mandolin, plastubofono, bottle |
Marco Di Castri | tenor & soprano sax, guitars, harmonica, flute, Moroccan oboe, plastubofono with reed, voice |
Enrico Grosso | drums, percussion, noise on 1-6,10-14 |
97 年発表のアルバム「Materiale Per Tre Esecutori E Nastro Magnetico」。
75 年発表の第二作「Materiale Per Tre Esecutori E Nastro Magnetico」に、未発表曲を追加した内容。
ベーシストのフリオは脱退し、トリオによる録音である。
10 曲目から 14 曲目が第二作のナンバーであり、それ以外は 76 年録音の未発表曲。
なお LP 最終曲 14 曲目のエンディングの即興パートは短縮されている。
いわゆるジャズロックのスタイルからは離れ、ノイズやヴォイス、生活音、即興演奏を駆使した実験色の濃い内容となる。
電子音楽的な面も強まり、完全に現代音楽である。
14 曲目で突如のどかな演奏が始まり、度肝を抜かれる。
(ELICA OPP 3220)