フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「EDITION SPÉCIALE」。 75 年結成。作品は三枚。ギタリスト、キーボーディストはジャズ畑で活動。テクニシャンながらも技巧より音楽を大切にしたセンスのあるグループです。
Ann Ballester | keyboards, vocals |
Mimi Lorenzini | guitars, vocals |
Josquin Turenne Des Res | bass, guitars, vocals |
Jean-Francois Bouchet-D'angely | drums |
76 年発表のアルバム「Allee Des Tilleuls」。
内容は、ヴォーカルもフィーチュアしたファンキーなジャズロック。
キャッチーなテーマの歌ものをメインにしつつも、ギターを中心とした演奏は押しが強く、演奏力で聴かせようとする姿勢がよく分かる。
テクニカルでフレージングにキレのあるギター、カラフルなサウンドによるジャジーなキーボード、音数の多いドラムスらが全編自信に満ちた技巧的プレイで迫り、ポップというにはあまりに重量感のある、ドスの利いた作風になっている。
特に、ソロを大きくフィーチュアしたタイトル曲は、その演奏力を解き放った力作である。
そして、R&B を基調に、ややハードロック調だったり、サイケデリック・ロック、フォーク、あるいはファンク調だったりなど、さまざまなスタイルを柔軟に練りこんでいる。
全体としてはこの時期らしい洗練されたポップスとして仕上げているといえるだろう。
垢抜けきらない女性ヴォーカルが前面に出るとカトリーヌ・リベイロのバンドものやキャロル・キングを思わせるところもあるし、シンセサイザーのサウンドをのぞけば五年遅れの井上堯之バンドといった趣もある。
いずれにしても 60 年代、70 年代の音楽ファンには懐かしい音だと思う。
洗練されたフュージョンに到る前のちょうどいい感じのストリートっぽいカッコよさのあるジャズロックであり、個人的にはこのスタイルが一番。
ヴォーカルはフランス語(3 曲目のみ英語)。プロデュースは、エディ・アダミスとフレデリック・レイボウィッツ。
MUSEA の CD にはオリジナル LP 収録曲三曲のデモ音源(76 年録音)がボーナス・トラックとして付く。
「Rock & Roll」(3:40)
「Rêve, Rêve」(5:26)
「Tomorrow Mourning」(4:25)
「Un Coup Je Te Vois」(6:32)
「Tu Naîtras Demain」(5:28)
「Marie Qui Te Maries!」(4:25)
「Monsieur Business」(2:58)
「Allée Des Tilleuls」(3:45)
以下 CD ボーナス・トラック。
「Marie Qui Te Maries!」(4:14)
「Tu Naîtras Demain」(6:37)
「Allée Des Tilleuls」(7:48)
(UAS 29.965 / FGBG 4412.AR)
Ann Ballester | keyboards, vocals |
Mimi Lorenzini | guitars, vocals |
Josquin Turenne Des Res | bass, guitars, vocals |
Alain Gouillard | drums |
77 年発表のアルバム「Aliquante」。
内容は、テクニカルでハードな「うるさい」ジャズロック。
爆発的な演奏力をそのまま解き放って諧謔味もある快作である。
もろに中期 RETURN TO FOREVER であり、さらに細かくいえばスタンリー・クラークの作風である。
さらには、カンタベリー勢から ISOTOPE や BRAND X のイメージもある。
とにかく技巧も洒落もぎゅう詰めにして押して押して押し捲る演奏である。
痛快だ。
カンタベリーのようなひねくれつつもポップといった味わいもあるのだが、それ以上に、アメリカ産ジャズロックのハイテクでアブストラクトなタッチだけを(逆にいうと自然なファンキーさを取り除いて)取り出して冷凍したようなところがある。
東欧圏のグループにこういう音があったと思う。
もっとも RETURN TO FOREVER から明らかなラテン/スパニッシュなメロディとファンク色を取り除くと、みんなこうなるのかもしれないが。
前のめりなリズム・セクションやメタリックなキーボードをしたがえるのは、圧倒的な力量をもつギタリスト。
ヘヴィな音質でブルーズ・フィーリングたっぷりのソロを縦横無尽に取り捲る。
アコースティック・ギターのプレイは、ほとんどスペイン色のないデメオラ。
ベーシストも自己主張たっぷりで、前に前にと飛び出してくる。
キーボーディストは弩派手なサウンドのシンセサイザーで機を見ては前面に飛び出し、チック・コリアばりのテクニカルなプレイを放つ。
その太いサウンドが、モダン・ジャズとは異なる叙情性とスリル(プログレらしさ)をしっかりと演出している。
何より演奏の文脈に突如おおいかぶさるような派手な登場が強烈だ。
全体として、面白さは、もてる技巧を詰め込んで少しはみ出し気味になっているのはお構いなし、とりあえず突っ走ろうという潔さと、インテリっぽい翳りとロマンティシズムが拮抗していることだろう。
それは、アメリカンなラフさ加減とヨーロピアンなクールネスのせめぎ合いといってもいい。
まろやかなフランス語ハーモニーもあり。
二曲のボーナスは次作「Horizon Digital」のプロトタイプから。
私大の軽音楽部がこぞってこういう音を出していた時代もあったっけ、なんてことを思わせる内容です。
「Vedra」(6:35)ファンキーだがサウンドがへヴィなのでものすごい重量を支えながらバウンスするイメージの力技ジャズロック。
シンセサイザー主導の第二テーマが油が滴りそうなほどメカニカルなのがおもしろい。
そして、ギター・ソロはブルージーなジャズギターにハードロック風のペンタトニックでがベンディングが交じる。
さまざまなミスマッチ、アンバランスがスリルを生む作品である。
「À La Source Du Rêve」(7:45)ロマンティックなアコースティック・ギター、ピアノのプレイがシャープなアンサンブルを呼び覚まし、クールで翳りのある演奏が展開する。
スペイシーなシンセサイザーとギター・ソロが緊迫したやり取りを繰り広げ、調子を変化させながら技巧に凝ったプレイを次々と放つ。
ドラムスのキレもみごと。
力作。
アコースティック・ギターをフィーチュア。
「So Deep Inside」(5:45)シンセサイザーを多用したカンタベリー・ジャズロックの傑作。
女声ヴォーカル(おそらく英語)、スキャットあり。
緩急自在の込み入った展開、ザッパ的超絶ユニゾン連発。
アコースティック・ピアノをフィーチュア。
「Le Temps D'Un Solo」(5:43)つまづきそうな変拍子ファンキー・チューン。後半のギター・ソロが胸にしみる。
「La Ville En Béton」(5:00)テクニカルにしてメローでファンキーな佳曲。
DJ 御用達。
ヴォーカルあり。
陳腐ですが、今更ながら、いい曲といいオンナは何かが似てる。
「La Fille Du Ruisseau」(6:45)ルノーでドライヴしたくなる歌もの、しかし変拍子。
ここでもメロウネスと対立するのは豪快なるシンセサイザーのオブリガート。
ふと気づけば再び RTF ばりのエンドレスな超絶演奏へ。
エフェクトされたギターとシンセサイザーががバトルする。
「Alone, Completely Unknown」(6:55)
いい感じで疾走するロックなジャズロック。
またも、シンセサイザーがいきり立つ。
後半はひょろひょろと舞うシンセサイザーの独壇場。
ヴォーカルが訛った英語になった途端にユーロロック・テイストが強まるのがおもしろい。
以下 CD ボーナス・トラック。次作より。
「Camara」(9:24)
「Aurore」(4:45)
(RCA PL37069 / MUSEA FGBG 4415.AR)
Ann Ballester | keyboards, vocals |
Mimi Lorenzini | guitars, keyboards, vocals |
Francois Grillot | bass |
Alain Gouillard | drums |
Mireille Bauer | vibraphone, marimba, percussion |
78 年発表のアルバム「Horizon Digital」。
GONG のミレーユ・ボエが参加。
内容は、パーカッションとギターをフィーチュアしたまばゆい音色の変拍子偏屈ジャズロック。
輝くような音色が愛らしいイメージを掲げて官能的なスキャットでシャンソン風に迫るが、アンサンブルそのものは非常にメカニカルでチャレンジングであり、なおかつヴォーカル含めて一つところにまとまるを潔しとしない奇天烈さがある。
特に、複雑に込み入った上に強圧的なドライヴ感のあるリズム要素と、それにもかかわらず驚くほどのアンサンブルのキレのよさ、そしてさまざまなスタイルをさらりとこなすギターのプレイは特筆すべき。
そのこんがらがったリズムの上を、あたかも角だらけの岩の上をせせらぎがたばしるがごとく、ヴォーカル、ヴァイブ、シンセサイザー、ギターらがみずみずしい音を個性的な旋律へと紡いでゆく。
フランス語の女性ヴォーカルも変わらずフィーチュア。
皮肉なユーモアにも長けており、カンタベリーに通じる諧謔味がある。
フュージョンっぽいのに常にどことなくスタイルのパロディのような感じがつきまとう、いや、ステレオ・タイプに収まることに満足せず何か変わったことをやってしまおうという気概や茶目っ気が感じられるというべきか。
録音もなかなか凝っている。
フュージョン・ファンよりも、カンタベリーやフレンチ・プログレのファンにすすめたい作品だ。
MUSEA の現行 CD には 80 年録音のボーナス・トラックが五曲つく。
「Aurore」(5:48)カンタベリー・テイスト満載の快速陽性屈折ジャズロック。
それらしいユニゾンで始まるが、中身は転げ落ちるように性急な変拍子アンサンブル。
「Camara」(9:26)アコースティックな音も交えたヴォーカル入りのロマンティックなシャンソン・ジャズロック。初期の RETURN TO FOREVER をひねったようなニュアンスあり。60、70 年代的な女性ヴォーカルがいい。
「Ma Vie Dégénère」(2:59)ワイルドなファズ・ギターが伴奏する時代遅れの歌ものサイケ・シャンソン。
「Daisy」(7:06)逸脱調がおもしろいフレンチ・ロックらしさ満点の傑作。間奏部は技巧的な変拍子ジャズロック・アンサンブル。
「Jungle's Jingle」(6:33)MAGMA がライトなフュージョンになったようなエネルギッシュな変拍子ジャズロック。一つにはひねくり回すようなベース・リフが目立つせいだろう。キーボードもノイジーなアドリヴで迫る。短いテーマこそ開放感があるが、全体としてはぐねぐねと絡み合うような気持ち悪さのある作品である。
「Confluence」(4:55)抜群のドライヴ感と弾力を誇るジャズロック。鍵盤パーカッションも大活躍。
以下 CD ボーナス・トラック。
「Rouge Champs」(4:03)
「ES Blues」(4:23)
「Open It Up」(4:50)
「Babylone」(7:15)
「Time Will Make It Better」(6:19)
(RCA PL37215 / MUSEA FGBG 4418.AR)