EMBRYO

  ドイツのプログレッシヴ・ロック・グループ「EMBRYO」。 69 年 クリスティアン・バチャードを中心に結成。 アジア、アフリカの音楽を取り入れた、元祖ヒッピー・エスノ・フュージョン。 永遠のオルタナティヴを一貫し、今この瞬間も世界のどこかを放浪する。

 Steig Aus
 
Mal Waldron electric piano
Jimmy Jackson Mellotron, organ
Dave King bass
Christian Burchard drums, marimba, vibes
Jörg Evers electric bass
Edgar Hofmann violin
Roman Bunka guitar

  73 年発表の第五作「Steig Aus」。 内容は、パワフルなエスノ・サイケデリック・ジャズロック。 冒頭のうさんくさげな SE (タイトル通りラジオのエアチェックなのだろうが) から、骨太で着実なドイツ・ロックにエスニック風味をふんだんに交ぜこんだ、怪しくてカッコいいジャズロックが繰り広げられる。 ジミー・ジャクソンのオルガンとメロトロンが特に大きくフィーチュアされるが、他のメンバーのプレイもイケイケである。 ウードの名手ロマン・ブンカのインド個性的なギター・プレイ(KRAAN の名手ペーター・ウォルブラントとスタイルが似ている)、バチャードのパワフルなドラミング、ジャズ・ピアニスト、マル・ウォルドロンの毒々しいファズ・エレクトリック・ピアノなど、各パートの「濃さ」は、並ではない。 そして、ノイジーで毛深く野蛮なサウンドにもかかわらず、演奏そのものはテクニカルで緻密であり、多彩な表現には洗練された面も見える。 マイルス・デイヴィス、WEATHER REPORTSOFT MACHINE といった一線級に迫る音楽性であり、KRAAN のもつしなやかな運動性と AMON DUUL の危うさが合わさったような魅力がある。 ウード、ヴァイブ、ヴァイオリンといったアクセントの効きもよく、そして、何より 1 曲目の主題を貫く轟音メロトロンには腰を抜かす。 全編インストゥルメンタル。

  「Radio Marrakesch / Orient Express」(9:46)疾走感あふれるエネルギッシュなジャズロック。 体を預けていっしょに走りましょう。
  
  「Dreaming Girls」(10:28)ヴァイオリンをフィーチュアしたジャジーでメランコリックな作品。 ハモンド・オルガンによるノイズが不気味にうごめき、ヴァイブがにじむ。 粘っこくざらざらしたサウンドとは裏腹に、曲想は「クール」である。 トーン設定の誤りや音割れなど録音上の問題はあるが、あまり不自然に聴こえない。 突如、「激昂」するアンサンブルがカッコいい。
  
  「Call」(17:21)オムニバス大作。なかなかダンサブルなファンク・チューンから、ソウル・ジャズロック、そしてメロトロン入りの SOFT MACHINE へ。 ブラスの代わりはファズ・メロトロンとヴァイオリン。 パワフルなドラムスがグラインドするビートを支える。
  
(Brain 1023 / PMS 7078-WP)

 Rocksession
 
Christian Burchard drums
Dave King bass
Jörg Evers bass
Edgar Hofmann sax, violin
Mal Waldron electric piano
Jimmy Jackson organ
Siegfried Schwab guitar

  73 年発表の第六作「Rocksession」。 内容は、前作とほぼ同様なエスノ・ファンク・ジャズロック。 力強いドラミングが進行を決め、ワウ、ファズに漬かり切って何の楽器か判然としないが、各パートがソロを廻す。 しなやかで力強いリズム・セクションを筆頭に、安定した推進力をもつオルガン、ロマン・ブンカと比して小粒だがテクニカルなギターもいい感じだ。 ホフマンは今回サックスも操り、2 曲目の後半では SOFT MACHINE に挑戦するような展開もあり(さすがにさほどの技は見せないが)。 もっとも、リフは変拍子ではなく、R&B 風味が格段に強い。 今回はメロトロンはなし。 非常にロマンティックな 3 曲目、冒頭のマリンバ、ヴァイブはマル・ウォルドロンによるのだろうか。 こなれた演奏の中でヴァイオリンだけが妙に怪しい。 全編インストゥルメンタル。
  
  「A Place To Go 」(4:06)サイケデリックなサウンドによる星の尾を引くような疾走感ある佳品。
  「Entrances」(15:37)腰にくるグルーヴィなファンク・チューン。ジャジーな乱調ギターもフィーチュア。
  「Warm Canto」(10:08)リリカルなバラード調の作品。ヴァイオリンをフィーチュア。
  「Dirge」(9:43)幻想夢調ではあるが、音的にわりとオーソドックスなジャズロック。ヴァイオリンをフィーチュア。最後のオルガンがカッコいい。抑制のクールネス。
  
(Brain 1036 / PMS 7077-WP)

 We Keep On
 
Christian Burchard drums, percussion, vocals, marimba, vibes, Hackbrett, mellotron
Roman Bunka guitar, saz, vocals, percussion, bass on 2
Dieter Miekautsch fender rhodes, piano, hohner clavinet
Charie Mariano soprano & alto sax, flute, nagasuram, bamboo flute

  73 年発表の第七作「We Keep On」。 バチャード、ブンカの使用楽器を見ても明らかなように、さらに強まるアフロ/アジア・エスノ志向、そして同時に、エレクトリック・キーボードによるクロスオーヴァー・サウンドも充実する。 なんとも怪しいが、持久力と逞しさを誇示する本格的な演奏が、そういうキワモノ臭さをぶっ飛ばす。 電化マイルスから呪術性を取り除いて、ファラオ・サンダースとサン・ラに少し寄って、さらに軽めのノリを加えたような、それでも十分に濃密でスリリングな世界である。 アルバムは、ヴォーカル入りのアフロ/インド・サイケで気まぐれな小曲と、スリリングなテクニカル・ジャズロック大作ややアフリカ風味、から構成される。 メロトロンも復活。 大作は、いずれも、パワーとスピード感に満ちた大傑作。 名手チャーリー・マリアーノがゲスト参加し、フルート、サックスで鮮やかとしかいいようのないプレイを見せる。 このマリアーノの力を得て、3 曲目の大作で、遂に SOFT MACHINE と並び称せられる位置へ登る。 そして、ボーナス・トラックでは、SOFT MACHINE を超越している。

  「Abdul Malek」(3:15) アフロ・ファンク。
  「Don't Come Tomorrow」(3:48)訛った英語ヴォーカルによる毛むくじゃらながらもセンチメンタルなバラード。 クールなフルートとヴァイブ、ピアノをフィーチュア。 メロトロンも豪勢に。
  「Ehna, Ehna, Abu Lehe」(8:43)アフリカの民族音楽がエレクトリック・キーボードが加わった辺りから、すさまじくスリリングな 5 拍子ジャズロックへと変身。 マリアーノのサックス、ブンカのギターも鮮烈。

  「Hackbrett-Dance」(3:54)スティール・ドラム、マリンバのような鍵盤打楽器、クラリネット風の管楽器(ナガスラム)が主役のアフロなインストゥルメンタル。
  「No Place To Go」(12:32)ワイルドで性急なドラム・ビートが導くヘヴィ・ジャズロック。 ブンカのギターが強引さ丸出しでマクラフリンばりに火を噴く。 マリアーノの流麗なソプラノ・サックスも熱気を帯び、一気に SOFT MACHINE に迫る。 ミステリアスなピアノの演出もいい。
  「Flute And Saz」(5:57)JADE WARRIOR を髣髴させるアンビエントなエスニック・チューン。
  「Ticket To India」(15:42) ボーナス・トラック。弩サイケ・ジャズロック。長い長い坂道を登るような盛り上がりがいい。ドラムス、カッコいいです。
  「Flute, Saz And Marimba」(8:40) ボーナス・トラック。
  
  
(DISC 1936 CD)


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