フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「ESKATON」。74 年結成(母体は 70 年結成)。「ZEUHL」と呼ばれる MAGMA サウンド系統の一つ。 作品はカセット含め三枚。
Andre Bernardi | bass |
Gerard Konig | drums |
Alain Blesing | guitar on 8, 9 |
Gilles Rozenberg | organ, synthesizer |
Eric Guillaume | Fender electric piano |
Marc Rozenberg | Fender electric piano |
Paule Klaynnaert | voices |
Amara Tahir | voices |
81 年発表のアルバム「4 Visions」。
録音は 79 年に行われたが、発表(米国のみのカセット・リリース)は「Arduer」の後の 81 年になった。
ジャケットは 95 年の再発 CD のもの。
前半はベースとビートを重視したきわめて MAGMA 風のサウンドながらも、シャープな疾走感とコズミックな幻想性で個性を発揮する。
圧倒的なリズム・セクション(コードを刻み捲くるエレクトリック・ピアノ含む)とシャーマニックなスキャットが全編を貫く。
一方、ギターやキーボードのプレイは、比較的オーソドックスであり、シンフォニックな調子を演出することも多い。
「死」と対峙する 4 曲目では、キーボード中心のサウンドで神秘性をみごとに演出し、5 曲目ではフレンチ・ロックらしいヴォーカルとシンフォニックなシンセサイザーによるミドル・テンポの演奏で EL&P ばりの盛り上がりを見せる。
どちらも、単なる MAGMA クローンでないことを明確に示している。
マイク・オールドフィールドの感性に近いものもあるようだ。
テーマは、さまざまな事象に対する人間の怒り。
この事実上のファースト・アルバムですでに音楽は完成されている。
「Eskaton」(10:24)
「Attente」(10:12)
「Ecoute」(13:00)
「Pitie」(8:44)
「Le Cri」(9:05)
(APM 9511)
Andre Bernardi | bass |
Paule Klaynnaert | voices |
Amara Tahir | voices |
Gerard Konig | drums |
Gilles Rozenberg | guitar, organ, synthesizer |
Marc Rozenberg | Fender electric piano, acoustic piano |
Patrick Lemercier | violin on 1, 6 |
Alain Blesing | guitar on 8, 9 |
Eric Guillaume | Fender electric piano on 8, 9 |
80 年発表のアルバム「Ardeur」。
二声の女性スキャットによるハーモニー、呪術/神がかり的な反復、暴力的なベース・サウンドなど中後期 MAGMA の影響顕著な作品。
本 CD に収録されたシングル盤に続いてこの作品の録音セッションがあったが、発表前に「4 Vision」の収録も行われた。
本家のサウンドの度外れた(汎宇宙的)邪悪さ、素っ頓狂さ、ハミダシもの感覚(ESKATON は「MAGMA 的選民思想」には共鳴できないそうだ)、ドラムスのプレイの迫力などには、さすがに及ばないが、その代わりに、より洗練された明快なサウンドによってプログレの「明」の部分であるファンタジー性や浪漫をアピールできている。
つまり、スタイルは間違いなく MAGMA だが、ATOLL、PULSAR といった、YES、GENESIS、PINK FLOYD らを独自に解釈して発展したプレンチ・シンフォニック・ロックの感覚を持っている。
狂気の蠕動と騒乱の果て、どこへいってしまうか分からない危うい感じではなく、渦を巻きながらも宇宙の彼方を目指して健やかに飛翔しようとしている感じだ。
羽ばたくような感じとポジティヴな躍動感がある。
表面的には、キーボードのオスティナートとともにテンション高くアジテートする、いわゆる MAGMA 風のヘヴィなところと、メロディアスかつダンサブル
なポップス、ジャズ・テイスト(シャンソンってことか?)が、バランスよく混じり合っているということになる。
6 曲目のように、アルバム後半にはドビュッシーの作品を思わせるクラシカルで緩やかな幻想性も出てくる。
ギターは痙攣するような突発的なプレイが主であり、器楽をリードするのは、フレンチロック独特の轟音ベースとピアノによるグラインドするリズム隊、そして Fender Rhodes、シンセサイザー、オルガン(重過ぎない音が却って効果的)らキーボードである。
また、ゲストによるヴァイオリンが、スリルと歌心をともに活かして非常にいい位置を占めている。
特に、ヴァイオリンの煽りたてるようなプレイによって、演奏全体が炎を巻き上げながら飛翔するようなイメージになってくる。
そして、この器楽と緊密に連携したスキャットが全編を貫く。
前作の作品の再録が 2 曲あるが、ギターが抑えられ、キーボードの割合もシンセサイザーからエレクトリック・ピアノに移っているようだ。
この変化も、よりシャープでうねりの少ないビート感を目指すためだろう。
スキャット以外のヴォーカルはフランス語。
ただし、コバイア語と区別はつかない。
本作品以前に録音された 2 曲のシングル曲もカッコいい。フランス語の MAGMA です。
「Ardeur」(2:31)
「Couvert De Gloire」(4:25)シングル曲「If」の翻案。
「Pierre Et L'ange」(4:01)
「Attente」(6:44)「4 Vision」作品の再録。
「Dagon」(10:07)エネルギー満タンで突っ走る傑作。感電しそうな尖り具合がいい。
「Un Certain Passage」(6:48)前曲とのコントラストも鮮やかな、RTF 風の佳作。
優美なヴァイオリンの調べに時おり差し込む翳り。
ドビュッシー「夜想曲」の第三曲をイメージ。
「Eskaton」(6:00)「4 Vision」作品の再録。けたたましいギターによるうねりが特徴的。
「Le Chant De La Terre」(6:22)CD ボーナス・トラック。79 年のシングル盤より。
「If」(4:24)CD ボーナス・トラック。79 年のシングル盤より。
(Soleil Zeuhl 10)
Andre Bernardi | bass |
Paule Klaynnaert | voices |
Amara Tahir | voices |
Gerard Konig | drums |
Gilles Rozenberg | guitar, organ, synthesizer |
Marc Rozenberg | voices, piano, synthesizer |
82 年発表のアルバム「Fiction」。
シャーマニックな混声ヴォーカル・ハーモニー、暴力的に痙攣するベース、音数の多いドラムスなど MAGMA の影響を見せつつもさらにジャジーでアクセスしやすい音へと進む。
キーボードの音は、シンセサイザーを中心にさらに多彩になった。
管楽器風のアレンジやシンフォニック・テイストは、主としてこのシンセサイザーが担う。
本作では、ヴォーカルがフランス語であることが明快であり、時として MAGMA 風の ANGE という奇妙な印象を与えることもある。
全体としては、キーボード・シンフォニック調で軽めの快速 MAGMA といったところ。
デヴィッド・バーン辺りのニューウェーヴ調に聴こえてしまうところも、流行の音というよりは、MAGMA を追いかけてこういう「変さ」をずっと保ち続けてきた果ての、微妙な揺らぎに過ぎないというべきだろう。
フランス語の吐き捨てるような調子も、プログレとニューウェーヴとの間の落差を感じさせないファクターの一つのようだ。
本作以降の作品がボーナスとして収められているが、80 年代中盤にも関わらず攻撃的でシンフォニックなジャズロック・テイストや重量感あるロマンチシズムを失っていない。
シンセサイザーなんてまるで EL&P である。
(Soleil Zeuhl 13)