François Thollot

  フランスのミュージシャン「François Thollot」。 MAGMA の音楽を継承する Zeuhl 系の作家。 作品は二枚。近年はグループ SCHERZOO として活動か。

 Ceux D'en Face
 no image
François Thollot guitar, bass, drums, piano

  2002 年発表のアルバム「Ceux D'en Face」。 内容は、アコースティック・ピアノを主役にした反復と無調性、不協和音、変則リズムが特徴的なへヴィ・チェンバー・ロック。 演奏は、ロック・バンド編成ながらもビート主導オンリーではなく、パートが交錯する室内楽的なアンサンブルを構成して、ぐねぐねととぐろを巻くスタイルである。 ピアノは主として打楽器的なアタックを強調したプレイであり、アブストラクトなパターン反復によって通常の情感や脈絡を拒否、あるいは拒絶する。 ギターは強い歪みのかかったロング・トーンによる、ミニマルで抽象的、無機的な変拍子フレーズを繰り出すスタイルである。 ベースもギター並みの歪みトーンによる高音部に駆け上るフレージングを駆使し、魔物の蠢動のような低音パターンとともに、不気味なイメージを示す。 とにかく、凶悪、邪悪、異形、妄想、偏執的、魔術的、非人間的といったワード(碌な言葉ではない)が似合う音である。 そして、これだけ悪意に張り詰めた音の奔流に透徹な響きやリリカルな瞬間(フォークなど伝承音楽風である)が浮かび上がれば、どうしても印象深くなる。 そういったときに、ギターやピアノの一つ一つの音は美しく、ときに、にわかには信じられないが、可憐なのである。 もっとも、抽象性や無機性を携えたままの美しさではあるのだが。
   圧迫感ある演奏や唸りを上げるベースの音など、音楽スタイルが MAGMA に依拠するのは間違いない。 より個別には、70 年代後半の UNIVERS ZEROPRESENT といったチェンバー・ロック系と同じ感触のサウンドと楽曲だと思う。 演奏は、粘りつくような瘴気を発しつつも重厚、孤高であり、いま自分の立っているところが正しい場所なのか、自分は本当に自分なのかといった根源的な存在の不安をあおり、心を揺さぶり、怖気を震わせる力がある。 弱点は、一人多重録音のためか Zeuhl サウンドの威力たる低音の圧迫感がいまひとつであること。 そして、特にドラミングについていえるが、安定はしているが無茶なプレイを入れ込める勢い、パワーがない。 などと文句はいったが、数多くの「宅録 MAGMA」系としては出色の作品である。 全曲インストゥルメンタル。

  「Ceux D'en Face」(4:31)
  「Enilek」(6:26)
  「Invasion」(4:51)
  「Expérimentations Sentimentales」(6:08)
  「Marilyn-Antionette」(6:04)
  「Vingt Trois」(5:47)
  「Voyage Au Bout De La Nuit」(12:15)脱力の果てに狂気が見えるという恐るべき作品。本当に怖い百鬼夜行は発狂したチンドン屋の様にけたたましいのだ。
  
(Soleil Zeuhl 07)

 Contact
 no image
François Thollot guitar, piano
Philippe Bussonnet bass
Daniel Jeand'heur drums, piano on 2,3, synthesizer on 10

  2002 年発表のアルバム「Contact」。 内容は、ファズ・ベースがリードする圧迫感あるパターン反復とヒステリックなロングトーン・ギターが特徴的な MAGMA 系ヘヴィ・ロック。 挑発的、暴力的なイメージの強いパフォーマンスである。 リズム・セクションの専任メンバー化に伴って、室内楽的な面よりもワイルドでヘヴィなロックの面が強調されている。 ONE SHOT のように MAGMA 系ながら MAHAVISHNU ORCHESTRA 風のジャズロックに寄るスタイルもあるが、こちらは、ロバート・フリップ直系の Diminish なギター・プレイのおかげで KING CRIMSON 的な虚無的へヴィ・ロック面を追いかけているように感じられる。 (エレクトリック・ピアノが抽象的な変拍子のリフを刻んでリードする場面では、SOFT MACHINE 的なニュアンスもあり) グループ編成になり、演奏には自然な呼吸が生まれた。 切り込み隊長役のベースのプレイがアグレッシヴかつチンピラ風でとにかくカッコいい。 リフのグルーヴが生む勢いあまってか、リズム・セクションがパンクっぽい方向へ流れるところがおもしろい。 また、圧迫感オンリーでなく、音の薄さを逆手に取ったようなスペイシーで幻想的な表現も効果的に入れてくる。
   全曲インストゥルメンタル。

  「Ascension」(6:03)
  「Histoire Triste」(4:50)
  「Promenade Urgente」(4:18)
  「13e Parallèle」(5:38)
  「Etude Plombée」(4:11)豪快なベース乱れ弾き。
  「Blues Du Crabe」(4:00)
  「Cyclopède」(4:39)
  「Léon Le Hérisson」(3:36)
  「Cabanon Oriental」(3:39)
  「Indéfiniment」(4:35)
  
(Soleil Zeuhl 09)


  close