ウズベキスタンのプログレッシヴ・ロック・グループ「FROMUZ」。2004 年結成。2013 年現在作品は四枚。最新作は「Sodom And Gomorrah」。 圧倒的な演奏力を活かしたミクスチャー・ロック。
Vitaly Popeloff | guitars, vocals |
Albert Khalmurzayev | keyboards, 12 string guitar, vibraphone, vocals |
Evgeny Lopelov | keyboards, vocals |
Andrew Mara-Novik | bass |
Vladimir Badirov | drums |
2013 年発表のアルバム「Sodom And Gomorrah」。
内容は、往年のハードロックをほうふつさせる荘厳なシンフォニック・ロック。
現代的なヘヴィメタルの表現はあるのだがイクストリームではなく、根っこには DEEP PURPLE と同列の、今となってはかなり緩めのハードロック路線の芸風である。
ギターの運動による展開が主であり、キーボードを多様に配した重厚でスペイシーな交響楽的表現は全体を整える役割を果たしている。
後期の KING CRIMSON のシンフォニックな作品との共通性は感じられる。(メロトロン風のオルガンあり)
興味深いのは、たまにブルーズ・ロック的なニュアンス(古臭さの原因か?)を露わにすること、インサーションやカットアップ的なアクセントがあること。
また、東欧、中央アジアらしい素朴なフォーク・タッチはあらゆる旋律にひそんで独特のペーソスを浮かび上がらせている。
前々作までのリズム・セクションがメンバー復帰している。
強烈さ、ぶっ飛び感、エキセントリシティはさほどでなく聴きやすい作品です。
激辛フードに慣れている人には物足りないかも。
ヴォーカルは英語。
プロデュースは、イゴール・イオシス。
(10T10040)
Vitaly Popeloff | guitars |
Albert Khalmurzayev | keyboards, guitars, vocals, harmonica |
Andrew Mara-Novik | bass, producer |
Vladimir Badirov | drums, percussion |
2007 年発表のアルバム「Audio Diplomacy」。
内容というかその作風は、端的にいうと「ハードロック版 AFTER CRYING」である。
または、FERMATA や JAZZ Q 、PROGRESS 2 といった往年の東欧の名グループの作品のような、ジャズ系の卓越したプレイヤーによるテクニカル・ノンジャンル・ミュージックといってもいい。
全編、変拍子やポリリズムを駆使したリズム・セクションとやや古めの HM ギターによる込み入ったアンサンブルが、クラシカルな哀愁を帯びつつ、肩をいからせたまま力走する。
ニューエイジ・ミュージック風のアンビエントなシンセサイザーがたなびくかと思えば、やや古めの電子音楽風になったり、HIP HOP 調やビッグ・バンドやモダン・ジャズ・コンボなどオーセンティックなジャズにも様変わりするなど、音楽的なヴァリエーションはきわめて広い。
そして、これだけ込み入ったアンサンブルを安定感抜群で操るのだから、メンバーの技巧は相当なものである。
唐突にジャジーな音やノイズ、叙景的な SE、管弦楽などさまざまな変化も交えてぐいぐいと進むが、練られた物語というよりは、アイデアとエネルギーの噴出たる即興がバカテクのおかげで瞬時で物語の体を成した感じがする。
したがって、スタジオ盤にもかかわらず、ライヴをそのまま写し取ったような雰囲気である。
唸りを上げるギターが語り部となっているところなど、フランスの NEMO を思い出したが、NEMO のようなエモーショナルに揺れるストーリー性は無い。(ヴォーカルがないせいもあるだろうが)
反対に、一瞬のテンションでガッと一幅の絵、物語を刻み付けるような、失敗が許されない緊張感はある。
巷で言うほどにはいわゆるジャズロックという感じもしない(ギターなど完全に哀愁のハードロックである)が、音楽の内容よりも演奏技術に力点がいってしまう辺りは 30 年位前のフュージョン・バンドとよく似ている。
つまり、リスナーそっちのけでやっている方だけで楽しむ、もしくは没入するタイプの音楽である。
英国ロックのような面白みや粋さは皆無だが、積み上げた音の高みから見下ろすような威圧感はきわめて独特であり、無闇とオオゲサな物言いが流行る現代によく似合うプログレだと思う。
HM を子守唄にする世代にはまた格別の面白さがあるかもしれない。
全曲インストゥルメンタル。70 分以上の大作。聴き通すのにはかなりの体力が要ります。
不思議なことに、ジャケット・アートまでがいかにも昔の東欧ロック風である。
CD と同内容にボーナス曲を二つ加えた DVD 付き。
「Intro」(6:09)
「From Fromuz」(10:03)
「Wax Inhabitants Town」(12:33)
「Gameplay Imitation」(8:15)
「Spare Wheel」(8:35)
「Familiarization Results」(7:31)
「Harry Heller Theater」(12:11)
「Babylon Dreams」(9:16)終章であるためか、やや態度は軟化し、メロディアスに決めてくるところが増える。
()
Vladimir Badirov | drums |
Albert Khalmurzayev | keyboards,sampling |
Andrew Mara-Novik | bass |
Vitaly Popeloff | guitars, guitar synth |
2008 年発表のアルバム「Overlook」。
内容は、へヴィでテクニカルなビッグバンド風プログレ・ヘヴィメタル。
4 ピースなのにビッグバンドに聴こえるのは単位時間当たりの音数が多く、それぞれの音の主張が極端に強いためだと思われる。
ギターの演奏で喩えれば、ソロもバックも何もかもトレモロ、のような演奏スタイルである。
強烈だしすさまじい旋回性能で鋭角高速ドリフトを繰り返すが、メリハリがないため畢竟一本調子になる。
ただし、そうした基本的な作風は前作と変わらずも、より西アジア、中東色が露になるとともに、音楽の展開、流れが自然になった。
おとなしくなったわけでは決してなく、ぶっ飛んだ音楽的振れ幅や唐突さはそのままに、一つ一つの場面とその展開に安定性が出たため、リスナーとして呼吸を合わせやすくなったのだ。
したがって、スリリングな演奏をストーリーを追ってよりしっかりと味わうことができる。
演奏は、弾けるようにタイトなアンサンブルであると同時に即興も大幅に取り入れられている。
軸となっているギターの轟音リフなど、常に力づくな感じのする演奏ではあるが、急激なテンポの変化や変拍子、ポリリズミックなアンサンブルをやすやす決めるなど運動神経は抜群だ。
ポスト・ロック、エレクトロニカ調もごくナチュラルに取り入れられている。
個人的には前作を凌ぐ傑作といいたい。
ただし、わたしはこの作風を「フュージョン」と呼ぶことにはメキシコの ICONOCLAST の作品をそう呼ぶ以上に強い抵抗がある。
たまにギターがジャズ、フュージョンらしきソロを奏でたり、往年の Virgin レコード的展開もあるが、唐突過ぎて舞台設定が理解できずピンとこない。(4 曲目のトランペットらしき音にはなんとかついていけた)
あえていえば、「ジャズ/フュージョンは好きだが EL&P はもっと好き」といったタイプの現代のスタジオ・ミュージシャンが全力で演奏するとこういう感じになるのかもしれない。
やはり特徴は強引さと音の稠密性であり、そこから何か新しいものが見えてくるのかどうかがリスナーとしてのこれからの個人的な課題である。
スキャット以外は全編インストゥルメンタル。
70 分弱はかなり長いが、最終曲が力作なのでなんとかそこまでたどりつきましょう。
プロデュースは、イゴール・イオシス。
インナースリーヴには、曲ごとにそのイメージらしき画像が掲げられているが、正直よく分からないセンスである。
「Stone Salad」(15:17)
「Other Side Of The Water」(14:08)
「Crashmind」(10:51)このエンディングは何でしょう?
「13th August」(11:53)
「Return To Wax Inhabitants Town」(17:00)
(10T10031)
Vitaly Popeloff | guitars, vocals |
Albert Khalmurzayev | keyboards, 12 string guitar, vibraphone, vocals |
Ali Izmailov | drums, percussion, marimba, tubular bells |
Igor Elizov | keybords, grand piano, vocals |
Sur'at Kasimov | bass, double bass |
2009 年発表のアルバム「Seventh Story」。
内容は、トータル色の強いへヴィ・メタリック・シンフォニック・ジャズロック。
ジャズやクラシック、民族音楽への振れ幅も大きく「ミクスチャー」と呼ばれることも多い作風だが、往年の名グループとの違いは、ジャンルの「クロスオーヴァー」よりもジャンルの「トラヴァース」になっているところであった。
したがって、各ジャンルの演奏の全体の中での位置づけは単なる通過点となって相対的に弱まり、音楽総体としての効果は、70 年代の名作のような驚天動地のものではなかった。
たとえば、LATTE E MIELE や LOS CANARIOS が壮麗なる書割的擬似バロック音楽で成し遂げたような音楽的な主張にはなっていなかった。
「なんでもできる」というのは「ただ一つが卓越しているが、それ以外は箸にも棒にもかからない」はもとより「全部中途半端だがどこか凄みがある」というのにすら勝てないような気がする。
(3 曲目後半のモダン・ジャズなどみごとに本格的だが、だからといって感動はない)
スリリングで聴覚を刺激する音であることは間違いないが、サスペンス・ドラマの背景に採用されるような「ライブラリー・ミュージック」に近い存在感の音であった。
しかしながら、本作品での新機軸、すなわちヴォーカルのフィーチュアとモノローグ、ダイアローグも取り入れた演劇的な演出によって、従来からの硬軟多彩な表現にストーリーが結びつき、音楽は一気に魅力を得た。
抽象的なイメージの強かった作風は、一転して、エモーショナルな重みを備えた濃密な物語をダイナミックな筆使いで描く作風となる。
こうなると、メロディアスなソロのみならず、へヴィなリフによる攻撃性も神秘的な分散和音の響きも「意味」をもって迫ってくる。
リスニングに集中させるだけの説得力が音楽に生まれ、あふれ出る音を無我夢中で追いかける痛快さは元気なころの EL&P の作品に匹敵し、音楽的なストーリー・テリングの巧みさは PINK FLOYD の作風を思わせる。
非常に技巧的でプレイに余裕のあるギタリストが一音いくらで契約しているようなプレイ・スタイルを改めてもっと音楽について思いをはせると、さらなるブレイクスルーがありそうだ。
(弾け過ぎるというのは一種の呪いのようなものなのだろう)
リズム・セクションがメンバー交代し、鍵盤奏者が新加入している。
テクニカル・フュージョン、HR/HM のファンには抵抗なく入ってゆく演奏だと思う。
トータル性もある傑作。
ヴォーカルは英語。
プロデュースは、イゴール・イオシス。
「Perfect Place 」(4:02)SE とダイアローグをカットアップした序章。
「Parallels」(20:01)ドラマティックな傑作。アコースティックな音による演出やミステリアスな演出が分かりやすく取り付きやすい。
KING CRIMSON なリフとPINK FLOYD な語り口のプログレ・メタルか。
「Desert Circle」(16:13)いろいろいったがここの中盤のジャズはカッコいい。アリーナ・ロック風の展開も生きる。全体にエンタテインメント性高し。
「Bell Of The Earth」(3:16)
「Taken」(18:09)
「Influence Of Time」(11:50)演奏力をフル回転させたテクニカル・チューン。
フュージョンというイメージとしては重過ぎるが確かに序盤のギター・リードの展開はテクニカル・フュージョン風。
中盤の哀愁ある厳かなブリッジを経て、KING CRIMON 風のインダストリアルで硬質な演奏になだれ込む。
「Perfect Place」(4:40)フラッシュ・バックのような映像的終章。哀切のバラード。
(10T10040)