スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「GALADRIEL」。 86 年結成。 2008 年現在作品は四枚。 サウンドは、女性的な繊細さと透明感をもつヤサス・フィラルディのヴォーカルを中心とした清冽なファンタジック・ロック。 2008 年 12 月、約十年ぶりの新作「Calibrated Collision Course」発表。 「指輪物語」の桃源郷ロリアンに住まうエルフの奥方の名前をグループ名とするだけあって、音楽的にも MARILLION の影響大。
Jesus Filardi | lead vocals, keyboard programming | ||
Javier Ingo | drums except 1 | Andy Sears | backing vocals |
Jean Pascal Boffo | guitars on 1,4,5,6,7 | Santiago Perez | piano, keyboards on 2,3,4,6 |
Javier De Las Heras | guitars on 2,3 | Chema Arribas | guitars on 5,6 |
Miguel Afonso | accordion on 6 | Gloria Montero | vocals on 6 |
Veronica Filardi | vocals on 5 | Jose Bautista | bass, keyboard programming |
2008 年発表の第四作「Calibrated Collision Course」。
十年ぶりの作品は、サウンドの透明感はそのままに、明確な輪郭のある運動性の高い作風となった。
ゆったりとしたファンタジー調よりも熱くたたみかけるような調子が主となり、特徴的であったなよやかな風情や深宇宙を思わせる音響は、さほど目立たなくなっている。
その代わり、それらを含めさまざまなスタイルやサウンドを盛り込んできっちり整理し、アラや角を落としてアクセスしやすいロックとして仕上げている。
いわゆる昔のプログレのクリシェを総動員するような方向には向かっておらず、現代のポピュラー・ミュージックを意識した上で逸脱ギリギリまで多彩な音(たとえば、エキゾティックな音や意図的と思えるデジタル風のサウンド、生楽器の音、ヒップホップ調、ジャズ風の音など)を取り入れている感じだ。
これはまさしくかつてのプログレッシヴ・ロックのアプローチだし、そういう意味では今の MARILLION に近い姿勢だろう。
また、いつものことだが、メイン・ストリームがブラック・ダンス・ミュージックと懐古調を基本にしているので、こういう「ロック」が新鮮に感じられてならない。
いってみれば、もはや「ロック」にはプログレッシヴ・ロックしかないのだろう。
個性的なヴォーカルはまったく変わらないので、バンドとして記名性は高い。
ヴォーカルは英語。
5 曲目「View From A Greenhouse」は前作を思い出させるカッコよさ。
元(現か?)TWELFTH NIGHT のアンディ・シアーズがヴォーカルで参加している。
(MUSEA FGBG 4790)
Manolo Macia | electric & acoustic guitar | Manolo Pancorbo | electric, acoustic & classcal guitar, bass, percussion |
David Aladro | synthesizer, piano, organ | Pablo Molina | bass |
Cidon Trindade | drums, percussion | Jesus Filardi | vocals, percussion |
guest: | |||
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Angel Romero | backing vocals, percussion | Ernest Filardi | vocals, percussion |
Alfred Garcia | violin |
88 年発表の第一作「Muttered Promises from an Angeless Pond」。
内容は、透明感のあるヴォーカルをフィーチュアした YES、GENESIS 系のシンフォニック・ロック。
女性的な FISH というべき繊細かつ表情豊かなヴォーカルを支えるのは、アナログ・キーボードおよびピアノなど、アコースティックな音を交えた切れのいいアンサンブルである。
特に、ベースがリードする演奏と奔放なギターのプレイ、凝ったリズムによるアンサンブルは、YES によく似ている。
70 年代のグループならともかく、ポンプ・ロック以降の世代にして YES クローンというのは、かなり珍しいような気がする。
また、YES そのもののようなプレイに加えて、圧倒的な演奏力を持つピアノや GENESIS 直系というべきアコースティック・ギター・アンサンブルなど、繊細な美しさをもつ表現を得意とする。
せせらぎのように清らかなアコースティック・サウンドは、かなり新鮮だ。
現代の吟遊詩人のようなイメージをもつヴォーカリスト、ジーザス・フィラルディを中心に、清涼感あふれる雰囲気をもち、華やかなアンサンブルでファンタジックなストーリーを綴ってゆく作風である。
なににせよ、プログレど真ん中な作品であるのは間違いない。
アコースティック・ギターのアンサンブルやギター・ソロなどのメロディアスな演奏には、抜群の安定感があり、展開もきわめて自然である。
ポンプ・ロック系としては、破格のグレードだろう。
ユニークなのは、ヴォーカルの声質に象徴されるように、全体に、独特の高貴で清潔な雰囲気があるところ。
また、柔らかな雨の音などの SE を交えた情景描写的でソフトな演出が多いだけに、いざハードな演奏が走り出したときの迫力、疾走感も印象的だ。
ネオ・プログレ系のグループとしては、清潔で透明なサウンドと巧みな語り口によるドラマ演出のうまさが、ずば抜けている。
本家イギリスのグループで、このグループほどに美しい YES、GENESIS 風のアンサンブルを聴かせるグループが今あるだろうか。
前半に「The Day Before The Harvest」、後半に「The Year Of The Dream」と副題がついているが、これは作曲時期を示したコメントなのかもしれない。
CD では LP に二曲追加し、完全版となった。
「The Day Before The Harvest」
「Lagada」(8:50)オープニングのたたみかけるようなトゥッティから、すでに目一杯 YES を彷彿させるドラマティックな作品。
YES のセカンド・アルバムや名作「Relayer」を思わせる演奏が随所に現れる。
それでいて、ギターはエレキ、アコースティックともにかなりハケット、そして、いかにもアナログなシンセイサイザーはバンクス風である。
つまり、ドラムレスのなだらかなアンサンブルは GENESIS になってしまうのだ。
新鮮なのは、ヴァイオリンの音と優美なヴォーカル。
ヴォーカルはジョン・アンダーソンよりもさらにぐっと女形っぽい。
YES + GENESIS + ニューエイジな作風といえばいいだろう。
「Mirginal」(2:26)GENESIS そのものといっていいアコースティック・ギター・アンサンブル。
エレキギターのエコーのかけ方が本家に酷似。
「To Die In Avaron」(10:00)ピアノをフィーチュアしたクラシカルかつヒーリング・ミュージック風の作品。
ドラムレスで水面を漂うような幻想的なムードにあふれる。
ロマン派、印象派調のグランド・ピアノとハケット・ギターのポルタメントがオーヴァーラップする。
「南の空」の中間部のピアノが聴こえてきそうな雰囲気である。
重厚なシンセサイザーが全編を支える。
「The Year Of The Dream」
「Limiar(Winter's Request)」(1:26)
さざ波のようなアコースティック・ギターの上で、シンセサイザーが舞い、リズム・セクションが鋭くアクセントするいかにもプログレらしいワクワク感のあるオープニング。
「Landhals Cross」(20:04)5 つのパートから成る組曲。
アルバム前半に比べるとぐっとポンプ・ロック調。
一発録り風の荒っぽさや音処理のチープさなどがあるも、目まぐるしく変化する演奏はなかなか聴かせる。
後半のインストゥルメンタルがスリリングだ。
70 年代プログレの伝統をそのままキープした力作である。
最も古い時期の作品なのかもしれない。
「Summit」(11:27)再び前半に近い雰囲気に戻った、透明で幻想美あふれるニューエイジ風 GENESIS/YES。
序盤はピアノ、ギターらによるゆったり広がる波紋のような演奏に支えられ、優美な歌が綴られてゆく。
重厚なキーボード・オーケストレーションがダイナミックな演奏を呼び覚まし、ピアノはウェイクマンばりの華麗な指さばきを見せる。
ヴォーカルはフロリダのグループ BABYLON によく似ていることに気がついた。
後半は、再びクラシカルで劇的なピアノをフィーチュアする。
ここのピアニストのように両手でしっかりと演奏するプレイヤーは意外に少ない。
「Nunca De Nophe」(3:12)アコースティック・ギターの美しいアルペジオが伴奏するファンタジックなバラード。
小さなエピローグ風の終曲だが意義は大きい。
ヴォーカリストが初めてスペイン語で歌っているのだ。
ここの歌には美しさとともに表現に微妙な呼吸が感じられる。
わたしは、歌い手が母国語で歌うときに最も美しい音楽になると思うのです。
(MUSEA FGBG 4020.AR)
Manolo Pancorbo | guitar, keyboard, percussion | Alfredo G.Demestres | keyboard, violin |
Alcides Trindade | drums, percussion | Marco Do Santos | bass |
Jesus Filardi | lead & backing vocals, keyboard, percussion | ||
guest: | |||
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Javier Quero | keyboards | Santiago Perez | keyboards |
Peter Oteo | bass | Antonio Alfara | guitar solo |
Josete Ordonez | spanish guitar | Pepe Milan | acoustic guitar |
Xavier Turull | tabla | Pau Martinez | cajon, caxixis |
91 年発表の第二作「Chasing the Dragonfly」。
「YEN コノミック・アニマル」としてハートを失った日本人を描き、ユニークな日本観を見せる(日本語モノローグあり)、透明感あふれるファンタジック・ロック。
メンバー交代を経て、前作以上にバンドとしてのまとまりを感じさせる作品になっている。
個人的には前作のピアニストがいないのが残念だが、多彩な技を持つギタリストがそれを補って余りある。
ヴァイオリンの存在感も見逃せない。
音楽的には、前作での繊細なファンタジック路線にオリエンタル、エキゾチックなサウンドを取り込む積極性を見せており、演奏も充実/複雑化している。
淡くにじんだ色彩をもつニューエイジ風のシンセサイザーを活かしたドリーミーなシーンに加えて、タイトなリズムで躍動感あふれる演奏を見せるシーンも増えている。
メリハリや起伏という意味では飛躍的な進歩だ。
さらにフュージョン・テイストのあるギターやヴァイオリン、さらにはフラメンコからドビュッシーに代表されるクラシックの影響も見逃せない。
最後の曲のオープニング、重厚なストリングス・シンセサイザーとエキゾチックなスチール・ドラムスに伴われてヴォーカルが歌い、スパニッシュ・ギターがオブリガートするところに、この作品のエッセンスが凝縮されている。
あたかも映画を観るように情景美を楽しむことのできる作品だ。
個人的には、なによりこのヴォーカルの声質に魅せられている。
「Senshi」(9:16)ワルツのリズムとほんのりジャジーなインストで綴られるメロディアス・ロック。
メイン・パートは、ヴォーカルを中心に優美でドリーミーな雰囲気を貫く GENESIS 調ネオ・プログレであり、間奏部はギター、ヴァイオリンを中心にかなりジャズ・タッチである。
歌詞には日本語がちりばめられ、日本語のモノローグも入る。
ジャズからフラメンコ、アコースティックまでギタリストが多彩なプレイを見せている。
「Passport To Tora」(2:19)インストゥルメンタル。
シンセサイザーと朴訥なギターによるイノセントで柔らかなシンフォニック・チューン。
70 年代辺境発掘もののようなニュアンスです。
クレジットはないが、ギタリストはおそらく前曲とは別人。
「Alveo(Bolero)」(7:56)再び 8 分の 6 拍子によるクラシカルで優美な作品。
キュートな表情を見せるヴォーカル、素朴にしてクラシカルなヴァイオリンのオブリガート、そしてボレロを刻むドラムスなど、ヨーロッパの片田舎のカーニバルのイメージです。
イタリアン・ロック的でもある。
「Under A Full-Coloured Sky」(3:09)シタールやヴィブラフォンを使用したエキゾチックな作品。
インストゥルメンタル。
「Merciless Tides」(6:36)シンセサイザーとギター、ドラムスによる軽やかにしてトリッキーなプレイの上を安らぎのヴォーカルが流れてゆく。
中間部では再びドリーミーな調子で切々と歌い込み、ヘヴィなプレイの応酬をきっかけにリズミカルなニューウェーヴ調へ。
軽めだがテクニカルな切れのあるリズムの変化を軸に、さまざまな表情を見せる、ネオプログレらしい作品だ。
「The Gray Stones Of Escalia」(18:40)六章から成る大作。後半のピアノを使用した演奏が美しい。
終盤は、IQ のような快速アンサンブルで突っ走る。
(MUSEA FGBG4049.AR)
Jesus Filardi | lead & backing vocals, keyboard programming, Sound FX |
Jose Bautista | Warr guitar, keyboard programming |
Nacho Serrano | electric & acoustic guitar |
Alex Roman | piano, keyboards |
Renato di Prinzio | drums |
97 年発表の第三作「Mindscrapers」。
遂にオリジナル・メンバーは、ヴォーカルのジーザス・フィラルディのみとなる。
本作の主題は、いかにもプログレらしく SF チックであり、内宇宙すなわち人間の脳/心の探索ということらしい。
精神版「ミクロの決死圏」と思えばいいのだろうか。
内容は、独特の繊細さをもつニューエイジ風ネオ・プログレであり、長いキャリアで吸収した様々な音楽の影響が感じられる。
演奏は、女性的で繊細な表情をもつヴォーカル、シンセサイザー、メロディアスなギターを中心としており、透明で清潔感あふれる表現を得意としている。
特に、キーボードの布陣は充実しており、クリアーなサウンドに豊かな広がりと深みをもたらしている。
また、ヴォーカルは透き通るように冷ややかな声質を活かしており、シアトリカルな表情や熱い訴えかけにもヘヴィさ、ワイルドさはよりも、凛とした気品がある。
そして、タイトル作に代表されるように、メロディ・ラインに独特のコブシというか抑揚をもたせている。
そのおかげで、単なる美麗歌メロに終わっていない。
これが特徴だ。
ギターは、これぞネオプログレというべきスティーヴ・ロザリー・スタイルながらも、歌わせ方を心得たかなりの名手である。
ストーリーを補う SE も自然で効果的。
フュージョン・タッチのアコースティックな音やワールド・ミュージック調のエキゾチズムなどの演出も効いていて、いかにも現代のロックというイメージである。
つまり、ロックの本能のような疾走感/ドライヴ感よりも、きらびやかなストーリー・テリングを重視しているのは間違いない。
全体に SFX のしっかりしたファンタジー映画という趣である。
結論は、ドラマティックを極めた神秘的にして清涼感あふれる映像型モダン・シンフォニック・ロック。
これもまたポンプ・ロックの進化形の一つでしょう。
ロマンティックなタッチの中に漂う無常感は、THE FLOWER KINGS にも通じるような気がします。
最終曲が切なくもほろ苦いあと味を残します。
ヴォーカルは英語。
「The Probe」(6:54)シアトリカルなポンプ・ロックとしては出色の作品。力強くエキセントリックなリズムがいい。インダストリアル調のサウンド。
「On The Verge Of A New World」(5:23)ニューエイジ・ミュージック風の作品。なよやかだが耽美なよどみがある。
「Soft As A Feather」(9:19)ジャジーな AOR 調のバラードをファンタジックなサウンドで彩った作品。
透明感あるパーカッション系のシンセサイザーとピアノが印象的。
最終部、鳩の鳴き声に導かれて始まるインストゥルメンタルは情感のこもったみごとなもの。
「Mindscapers」(16:01)SE を多用したドラマ風の作品。全体のメリハリのためにもテンポアップする場面がほしかった。
「Homeland」(7:57)GENESIS 風のドリーミーな弾き語り作品。エレクトリック・キーボードがおだやかなサウンドで包み込む。
「Run For Cover」(11:37)かなりサイケデリックなヘヴィ・サウンドと予想のつかない展開で迫る異色作。
YES、GENESIS 系だと思っていたが、本作だけはどちらかといえば KING CRIMSON 、PINK FLOYD の「Animals」辺りのワイルドなテイストである。
ピアノ、オルガン、シンセサイザーそしてギターが典型的なサウンドで登場してヘヴィ・シンフォニックの基礎を固めるが、それをさらに大胆に切り貼りしてゆくところが本作の面白み。
得意の透明な音とのコントラストもみごと。
「Last Train To Wonderland」(3:29)ペーソスあふれるエピローグ風の小品。この列車には乗り遅れたくないですね。イメージは銀河鉄道かな。
(MUSEA FGBG4233.AR)