ベルギーのプログレッシヴ・ロック・グループ「ISOPODA」。 74 年結成。 82 年解散。 作品は二枚。 グループ名は等脚類(フナムシやダンゴムシの類)という意味。 もう少し可愛げのある虫でもよかったのでは。 キーボードとギターらによる技巧的なアンサンブルとマイルドなヴォーカルが特徴の、YES、GENESIS 路線の叙情派シンフォニック・ロック。 メンバー名からすると北部フラマン系(オランダ語系)でしょうか。
Dirk De Schepper | lead & backing vocals, percussion |
Arnold De Schepper | bass, bass pedals, electric & acoustic & 12 string guitar |
Walter De Berlangeer | lead & rhythm & acoustic guitar, backing vocals, percussion |
Geert Amant | grand piano, Fender Rhodes, organ |
string-emsemble, backing vocals, compac piano | |
Marc van Der Schuerren | drums, percussion |
guest: | |
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Guido Rubrecht | organ on 2, 6 |
William Souffreau | backing vocals |
78 年発表の第一作「Acrostichon」。
94 年に盤起こしして CD 化。
ジャケットも新たに製作し直している(右側がオリジナル)。
内容は、メロディアスでおだやかなシンフォニック・ロック。
キーボードを中心にしたクラシカルなアンサンブルやたたみかけるように技巧的な演奏、アコースティック・ギターの多用など、YES や GENESIS の影響が強い。
いや、強い、というよりも YES 風のダイナミックな 1 曲目から GENESIS 風 12 弦ギターを多用する 2 曲目以降まで、ほぼ本家のままである。
ただ、それでも、全体としては鋭さよりはまったりとした穏やかさが感じられる作風、演奏である。
ヴォーカルは、ピーター・ゲイブリエル風を目指しているようだが、声に癖があり、好みは分れそうだ。
ゲイブリエルに憧れる外人という点で、P.F.M のベルナルド・ランゼッティに通じるところもある。
ドラムスは若干不安。
しかし、デリケートな器楽は、英国プログレ(FRUUPP が近い)の影響を受けつつも大陸独特の憂愁とおおらかさを秘めており、特にゆったりした場面では、美しい響きをもっている。
全般に、ソフトな叙情的な曲調が主だが、キーボードが盛り上げるシンフォニックな曲も悪くない。
野暮ったさに悩まなければ、かなり楽しめるだろう。
ヴォーカルは英語。
6 曲目はさまざまな演奏をもりこんだ劇的な大作。
「Acrostichon」(9:20)
何もかも詰め込んだオープニング・シーケンスの気合(長過ぎ)とリッケンバッカー・ベースの唸りが特徴的な YES 風シンフォニック・ロック。
パストラルなオープニングからミステリアスなテーマまでのテンポ、調子の大胆な変化が面白い。
このミステリアスな調子が、全編通して現れて、甘ったるい曲調のアクセントになっている。
ヴォーカルは、ややなめらかさに欠けるが、器楽アンサンブルはメロディアスで張りがある。
リッケンバッカー・ベースを活かした、スキップするようなヴォーカルのテーマが愛らしい。
キーボードとギターを中心にした丁寧なアンサンブルもよし。
特に、ギターは、派手さはないが、堅実でいいプレイを見せる。
5 拍子の怪奇なアンサンブルもアクセントとしては秀逸。
もう少し何かありそう、と思ったところでフェード・アウトするのが残念。
なんとなくかったるい感じはあるものの、誠実な演奏に好感を持てる佳作。
「The Muse」(7:31)若さゆえの苦悩をロマンティックかつ幻想的に描いたシンフォニック・バラード。
メイン・パートは、悩ましげなバラード歌唱をアコースティック・ギターとピアノが丹念に彩る。
ピアノは、全編を通じて愛らしい音色で飾っている。
転調とともにほのかに色合いを変えつつ進み、サビでは、一気にメジャーに転調して、高揚するさまを表現する。
メロトロン、フルートによる受け、オブリガートが染み入るような効果を上げる。
希望あふれる終盤の展開が(若干ふらつきはするが)いい。
主役のヴォーカルがもう少し巧みに表情を操れていれば、流れがさらにグンとよくなったと思う。
叙情性を思い切り出した力作。
「Watch The Daylight Shine」(5:19)
前曲をさらにアコースティックにした、ドリーミーなバラード。
伴奏は竪琴を思わせるアコースティック 12 弦ギターのアンサンブルである。
最高で 4 本くらいのギターが聴こえる。
背景はうっすらと流れるオルガンとストリングス・アンサンブル。
ギターのプレイは GENESIS 直系から、ジャジーになったりクラシカルになったり、いろいろな幅をつけている。
白昼夢見るようなヴォーカル・ハーモニーもいい。
ゆったりとした表現だけではなく、巧みなインタープレイやアドリヴもあり。
GENESIS を越えてブリティッシュ・フォークを思わせる、もしくは、イタリアン・ロックのアルバムのブリッジによくあるようなフォーク・タッチの作品。
誠実な歌唱とブリティッシュ・フォーク調がマッチした素朴な味わいにファンタジー色を加えた佳作である。
安定感は前曲を越える。
「Don't Do It The Easy Way」(12:03)
ハードで攻撃的な面を強調した 初期 "The Knife" GENESIS を連想させるシンフォニック・ロック。
メイン・パートの垢抜けないトラッド調にずっこける(新鮮ではある)が、シャープなプレイで持ち直す。
アルペジオやオルガンの音色と調べが、もろ CAMEL だったりもする。(ちなみに、CAMEL は GENESIS フォロワーである)
中盤は、叙情的なアンサンブルで妖精や地霊が跳ね回るような牧歌世界を描いている。
ミドル・テンポの危うさはさておき、さまざまなプレイをつないだ劇的な構成に引っ張られて、エンディングまで楽しみながらたどってゆける作品である。
「Considering」(7:58)
ローズ・ピアノのおかげで AOR タッチになってしまった異色のシンフォニック・チューン。
キーボード以外のパートはあまり変わらないので、「音と結びついているイメージ」とはこわいものだとつくづく思う。
よく聴けば、フルートなど今までと同じファンタジックな感触だし、クールネスとは対極にありそうな暖かいエモーションも流れている。
ベースが唸るヘヴィなインスト・パートも他曲と変わらない。
メロディアスなバラード調の前半に対して、後半にはストリングスとともにヴォーカルが歌い上げ、シンフォニックに盛り上がる。
エンディングは、ファルセットのコラールも交えて、高々と飛翔するようなみごとなものだ。
ソロ・ピアノがテーマを格調高く回想するエピローグもいい。
ごくストレートだが、いい曲です。
「Male And Female」(4:43)ボーナス・トラック。
オルガン、ピアノとじんじんのファズ・ギターによるクラシカルな作品。
どちらかといえば 60 年代末のビートグループによる作品のようだ。
愛らしく甘いメロディは、やはり大陸のロックならではだろう。
チェンバロ、アコースティック・ギターなど、音は豊富なだけに、リード・ギターのデリカシーを欠いたファズがちょっと残念。
もっともこれは単にミックスの問題かもしれない。
アコースティック・ギターやピアノなど、生音を多く用いた叙情的なシンフォニック・ロック。
ストリングス・アンサンブルを決めどころに取っておき、ギターとピアノで静々と進んでゆくところはなかなかのセンスである。
アコースティック・ギターのアルペジオとピアノで曲ができてしまうところは、よく GENESIS を研究した結果なのだろう。
叙情的な面ばかりではなく、4 曲目の大作や LP 最終曲では攻め込むような激しいプレイも見せており、前半のゆったりとした曲調と対比させている。
ヴォーカルの癖やリズムの座りの悪さは確かにあるのですが、一回聴いてやめないでぜひ何度か聴きましょう。
(MUSEA FGBG4140.AR)
Luc Vanhove | organ, synthesizer, string ensemble, electric piano |
Walter De Berlangeer | guitar |
Arnold De Schepper | double neck bass & 12 string guitar, guitars, vocals |
Dirk De Schepper | lead vocals |
Marc van der Schuerren | drums, percussion |
80 年の第二作にして最終作「Taking Root」。
キーボードがメンバー交代。
シンセサイザーの多用(第一作のセールスのおかげで入手できたそうである)したアレンジや明るくナチュラルなポップ・テイストなど作風面で若干の変化がある。
溯ること 5 年、GENESIS の「Selling England...」から「Lamb...」への変化と同じである。
ヴォーカルは、自然なメロディを歌っている分には、かなりの歌唱力である。
ただし、前作のようなクラシカルでスケールの大きなシンフォニック作品は姿を消し、キャッチーなテーマをシンセサイザーとシンプルなリズムで強調したアリーナ・ロック系の作品が並ぶ。
曲の長さも最大 6 分程度にコンパクト化。
やや録音に難あり。
1 曲目「Taking Root」(5:01)
こってり濃い目のキーボード・サウンドと伸びやかなヴォーカルがマッチした GENESIS、GREENSLADE 風のシンフォニック・チューン。
シンセサイザーのオブリガートが強烈。
2 曲目「The Usual Start」(4:31)
アコースティック・ギターのストロークにトニー・バンクス直系の ARP シンセサイザーのオスティナートがオーヴァーラップする牧歌調のイントロダクションは、やはり GENESIS 由来だろう。
甘めのヴォーカル・ハーモニーもイタリアン・ロック風のフォーキーかつメロディアスな調子に合っている。
さりげないシンコペーションもいい。
ドラムス、ヴォーカルなど録音がやや中音域を強調しすぎだが、暖かみのあるいい作品だ。
3 曲目「Endless Streets」(5:04)
開放感があるようなないような、微妙なポップ・ロック。
演奏は、シンセサイザー、ギターによる華美にしてクラシカルなものであり、歌メロはシンプル、ビート感もいかにも 80 年代風である。
マイナーへの転調、ピアノ伴奏も、やや陳腐なクリシェに聴こえる。
間奏部、シンセサイザーとギターのやりとりからソロへの展開など、まるで ASIA のよう。
こういう曲調だと屈折気味のこもった声質が活きない。
4 曲目「Sunset Alley」(3:17)
ストリング・アンサンブルを背景にせせらぎのようなギターのアルペジオを聴きつつ ARP シンセサイザーが霊妙なる調べを奏でてゆくインストゥルメンタル。
ファンタジックなサウンド・スケープと切なさ満点のシンセサイザー、甘いトーンのエレキギターが印象的。
CAMEL 風。
ややニューエイジ風味もあり。
5 曲目「Harbinger」(1:52)
ドライヴ感あふれるインストゥルメンタル小品。
湧き立つスペイシーな電子音にシンセサイザーの調べが重なるイントロから、シャープなギターのリードでアンサンブルが走り出す。
人力とシーケンスを組み合わせたドラムス・ビートながらもフィルに気合が入っている。
東欧辺りのジャズ系シンフォニック・ロックを思い出す。
一瞬で終わり。
6 曲目「Girls Will Be Girls」(3:38)
THE BEATLES を思わせる小噺調のリズミカルなポップ・チューン。
軽やかというにはリズムがあまりにモタつくが、雰囲気はいい。
ユーモラスなシンセサイザーの音が多用されている。
バッキングでは、意外にオルガン、ストリングス、エレピなどが分厚く使われている。
ファズをかけたような音はベースだろうか。
垢抜けないムードと英語の発音が FRUUPP を思わせる。
ハーモニーは THE BEACH BOYS 風。
7 曲目「The Fall」(5:36)
シンセサイザーをフィーチュアした、明朗さにほのかな翳りが浮かび上がる中期 GENESIS 風シンフォニック・ロック。
キレのあるリズムとストレートな歌メロがいい。
低音を強調した演奏やヤケになっているかのように手数が多いドラムスも本家に則っているようだ。
ただし、ヴォコーダや TV ゲーム調の電子音の古臭さは否めない。
さえずるようなシンセイサイザーのソロ、エフェクトされたギターとともに疾走するアンサンブルは、GENESIS から単なるロケンローへも変化するが、性急な変化を求めるスタイルは、やはりプログレ魂のなせる業だろう。
目まぐるしく変化するが、メイン・パートの流れが説得力をもつ重心となっている。
8 曲目「O.K. With Me」(3:11)
普通のエレポップ。
どことなく SANTANA 風だったり、ELO 風だったりする。
エレピのせいだろうか。
ギターは珍しく「普通の」ソロを披露する。
9 曲目「Join With The Stream」(5:53)
MACHIAVEL を思わせる派手さと夢見るようなふわふわ感、そしてしなやかな歌心が共存するシンフォニック・エレポップ。
勇壮でメロディアスなギターがみごと。
ドラムスは、なぜかアルバム後半になってからうるさい。
クリスマス・ソングのようにも聴こえる。
もう少し洗練されると KAYAK に迫ったはず。
「Your Flower」(4:54)ボーナス・トラック。79 年発表のシングル盤。
シンフォニック路線からやや方向転換を図った作品。
中期以降の GENESIS を感じさせるメロディックな演奏が顕著である。
シンセサイザーもオルガンも活躍するが、シンプルな作りの曲には叙情性よりも躍動的なポップ・テイストが強く感じられる。
ELO や APP のような 80 年代ハードポップ的なストレートさといってもいいだろう。
思い込みが先行していた前作よりは技術的にも作品的にもまとまったようだが、クラシカルなシンフォニック色が減退したのは残念である。
前作のような作品を熟練したテクニックで再現してほしかった。
(MUSEA FGBG4282.AR)