アメリカのミュージシャン「Ken Watson」。 作品は三枚。最新作は 2000 年発表の「A Little Chin Music」。
Ken Watson | guitars, keyboards, percussion |
David Webb | drums on 1-6 |
Craig Riches | drums on 7-9 |
Buddy Stewart | bass on 1 |
Greg McPherson | piano on 3 |
Terry Morgan | keyboards on 3 |
85 年発表の第一作「Assembly」。
内容は、HAPPY THE MAN や DIXIE DREGS ら北米ジャズロック勢と BRUFORD、NATIONAL HEALTH などの 70 年代末カンタベリー系ジャズロックをともにほうふつさせる変拍子ジャズロック・インストゥルメンタル。
シンプルな旋律のテーマをマニアックな変拍子で展開するアンサンブルにギターやキーボードがクールなフレーズでスリリングに切り込んでゆく。
リズミカルな調子が主であり、その上で明快なフレーズが反復されながら幾重にもおり込まれてゆく。
クリアーで輪郭のはっきりしたサウンドは巷間のフュージョン風なのだが、大きな違いはソロやテーマのつかみやすさよりも、やさしげなメロディを使いつつもアンサンブルの表情を細かく作りこむことに重きを置いているところだろう。
こういう作品は、口ずさめるメロディがなくとも、一種知的な興奮を与えてくれる。
特徴的なのは、人懐こく溌剌とした健やかさとややキチガイじみたメカニカルな目まぐるしさが自然と同居しているところ。
せわしない場面が多いが、演奏は安定しており表情付けもきわめて自然だ。
一番似ているのは、HAPPY THE MAN の二作目と、リリカルな瞬間の BRUFORD。
ギターはテクニカルながらも技巧に走らず、スムースでキュートなフレーズをよく歌えている。
また、キーボードはパーカッシヴなサウンドとアナログ・シンセサイザーの存在感ある音をうまく活かしている。
ギターのデリケートな表現やほのかなユーモアなど、明るいのに能天気にはならないところは、不思議なほど英国ロックの血を引いている。
自主制作系プログレとしては上級の内容といえる。
全曲インストゥルメンタル。
画像は、93 年発表の CD-R リイシュー盤のもの。このリイシュー盤には 3 曲のボーナス・トラックがついている。
この 3 曲については、オリジナル・アルバム中の作品と比べると「やや普通」のテクニカル・フュージョン調である。
「Skeleton In Armor」(3:54)
キュートで複雑なカンタベリー風フュージョンの佳作。
フレーズもリズムも神経症的な細かさが特徴的。
イントロ部分は中期 RETURN TO FOREVER 風だが、フィル・ミラー風のギターの登場とともに一気にカンタベリーにワープする。
「Next X」(3:37)
「Assembly Part.1-5」(11:17)五部構成の大作。HAPPY THE MAN に酷似。
「Yuppie Jazz」(4:40)キース・エマーソンばりのシンセサイザーがカッコいい。
「Beating Swords Into Pilowshares」(6:55)
「Elroy's Poem」(9:31)
「Prelude To Beating Swords Into Plowshires」(3:55)CD ボーナス・トラック。未発表作品。
「Next X Part.2 」(11:03)CD ボーナス・トラック。未発表作品。
「Barking At The Moon」(5:46)CD ボーナス・トラック。未発表作品。
(KDCD 1010)
Ken Watson | guitars, keyboards, computer |
99 年発表のアルバム「The Twinkle Factor」。
内容は、完全宅録のシンフォニック・ジャズロック・インストゥルメンタル。
ピアノとパーカッション/ホイッスル・サウンドのキーボードを大きくフィーチュアしたアタックの強い音楽である。
変拍子によるミニマルな表現の多用、透明感あるサウンド、小気味良いフレージング、火を噴くようにスピーディな演奏が特長だ。
ギターの割合は高くないが、キーボード・サウンドとの対比が際立つようにうまく使われている。
陽気な表情を持つ音楽だが、音が詰め込まれているために、その密度の高さに息苦しくなるところもある。
当然のように、ジャズ、フュージョン、クラシック、ロックの様式を利用しつつも、いずれの意匠にも縛られない自由な音である。
(ほのかな西海岸フュージョン風味はある)
おそらく、本人の嗜好/人格をそのまま音楽に写し取れる才能のあるミュージシャンなのだろう。
メロディアスなテーマもあるが、全体としては、現代室内楽的な緊張感のあるパーカッシヴな音楽である。
ラジオや TV のジングルとして使用されていきなり耳を釘付けにする、そういうタイプの音でもある。
宅録ながら決してこじんまりとまとまってはおらず、むやみなスケール感があるところもユニークな特徴だ。
EGG、HAPPY THE MAN や RASCAL REPORTERS、A TRIGGERING MYTH ファンは一度トライするといいでしょう。
個人的には、宅録でここまで広がりやインパクトのある音を作れることにも感動している。
「Shifting Sands」(18:09)三部構成の快速変拍子ジャズロック。躍動感ある溌剌とした作品である。完成度高し。最終章はド迫力。
「The Admirable Chinnie」(7:06)フュージョン風の明るい音色にもかかわらず、情報過多気味でリスナーに緊張感を強いる作品。力作ではある。
「Stutter」(1:13)
「Fragmentasia」(13:44)三部構成による現代クラシック調の作品。険しさとエネルギッシュな力強さが拮抗するシンフォニック・ロックである。
「Imp」(5:16)即興か?
「Wind Quintet #1」(1:30)
(自主制作)