フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MEMORIANCE」。作品は二枚。フランスでは珍しい部類に入るメロディアスなシンフォニック・ロック。
Jean-Pierre Boulais | guitar, vocals |
Jean-François Périer | keyboards, vocals |
Didier Guillaumat | guitar, vocals |
Didier Busson | drums, percussion |
Michel Aze | bass, vocals |
76 年発表のアルバム「Et Aprés」。
内容は、メロディアスでファンタジック、ほのかにサイケデリックなタッチもあるシンフォニック・ロック。
バッキング、リードを問わず、ギターがけたたましくも歌心のあるみごとな表現を見せ、演奏をリードする。
ブルージーな dim/aug のパッセージを乾き目のライトな音色で奏でていて、スリリングかつ、メランコリックに沈み込み過ぎない陽性の響きがある。
このギターを主役に、器楽パートでは、リズム・チェンジも含め、音の配置と動きの立体感を生かしたアンサンブルで巧みにストーリーを描いている。
長丁場のインストゥルメンタル・パートがまったく中だるみしない。
そして、やはりきっかけや軸となるのは、ギターのスリリングなフレーズである。
さらに、YES や GENESIS への表現上の直接的な依拠もまったく感じられない。
これは珍しいことだ。
安定したメロディアスな表現だけではなく、B 面では目まぐるしくエキセントリックな表現にもチャレンジしている。
破裂しそうな勢いで一気に集中する、かなりの迫力のある演奏だ。
そして、そういうところでは、ANGE ばりの血が上ったようなフランス語のモノローグ風のヴォーカルが冴える。
最後は、ギターに勢いがつきすぎて尻切れトンボのようになっているが、それだけ、ギターの存在感が大きいということだ。
また、ティンパニ的な表現からジョン・ハイズマンばりのオカズ、ラテン風のパーカッション、SHYLOCK のようにコワレたロールまでがんばりを見せるドラマーの存在も重要。
比較的洗練されたイメージは、フランス語の響きによるシャンソン・テイストからくるのだろう。
熱気と冷気が交差する感じは、カナダのケベックのグループの作品に通じるものもある。
オランダの FINCH と同じくギター主体のシンフォニックなプログレの逸品です。
「Je Ne Sais Plus」(8:47)
ATOLL にも通じる青春抒情風の 70 年代らしい作品。
凶暴なイントロとは裏腹に、メイン・パートは泣きのバラード。
位相系エフェクトでねじれるストリングス・シンセサイザー、メロディアスなハーモニーとスキャット、整ったピアノのリフレインなどエモーショナルな演出はばっちり。
ベースは唸りをあげてオブリガートでアクセントする。
テンポや調子の変化が巧みであり、クラシカルな味つけもうまい。
要は、プログレのコツをつかんでいるということです。
「La Grange Mémoriance」(11:00)
序盤は、憂いある二つのギターが切々と訴えかける。
クラシカルなキーボードのリフレインをブリッジに、沸き立つドラミングとともにギターも力を得て、勢いのある演奏へと展開する。
しかし、ようやく現れたヴォーカル・パートには絶望感漂う、けだるくうつろな響きが。
それでも、アンサンブルにはクラシカルでテンションの高い、プログレらしさ満載。
終盤は再びギターの主導でスタイリッシュに決める。
ブルーズ・フィーリングを強く感じさせるシンフォニック・ロック大作。
「Et Aprés... 」(10:23)
アラビア風のエキゾティズムを醸す序章。
ギターのプレイはロバート・フリップをなぞるような無調のフレーズをもちい、神経質で攻撃的でアナーキーなイメージを突きつける。
展開も過激であり、メロディアスなシーンから破壊的なシーンへの唐突な切り替えが何度も繰り返される。
ヴォーカルは声色パフォーマンスで、不気味な表情の一人芝居風を繰り広げる。
終盤は、テクニカルでタイトなアンサンブルにもかかわらず、一貫して不安でミステリアスである。
安定を欠いた不気味な世界で怒りを募らせているような狂気じみた作品である。
「Tracsir 」(4:48)
ツイン・ギターがエモーショナルなフレーズをつむぐのになぜか勢い任せのけたたましい演奏になってしまう、このアンバランスさ。
ドラムスの責任も大きいが、あえて整理されるのを避けているような展開である。
クラシカルなキーボードがまとめに入るもこの収拾のつかなさ、ギターは思いつきのアドリヴだろう。
テクニカルなブギーというべき乱調気味の作品。
インストゥルメンタル。
(EURODISC 913 084)
Michel Aze | bass, vocals |
Jean-Pierre Boulais | guitar, vocals |
Christophe Boulanger | drums |
Didier Guillaumat | guitar, vocals, chorus |
Pascal Libergé | keyboards |
Jean-François Périer | keyboards, vocals |
79 年発表のアルバム「L'écume Des Jours D'apres Boris Vian」。
ボリス・ヴィアンの通俗小説「うたかたの恋」(60 年代後半にフランスを中心にヨーロッパでかなり流行ったらしい。フォルガー・クリーゲルのようにヴィアンに作品を捧げたミュージシャンもいる。ちなみにヴィアンはジャズ・トランペットも能くした)をモチーフにしたトータル作品。
内容は、メロディアスなテーマを歌うヴォーカル/ハーモニーをエフェクトされたギター、エレクトリック・キーボードらによるアンサンブルで丹念に支え、クラシカルで優美、なおかつ勢いよく、時にハードロック風に時にジャジーに聴かせるシンフォニック・ロックである。
SE やモノローグ/ダイアローグといったアクセントも配しているが、終始なめらかに展開してゆくところが特徴だろう。
小曲を数多くつないだ構成も、一つの大きな物語としての色調の統一感がある。
屈折した感じはあまりなく、感情表現をストレートに音に置き換えている感じだ。
全体に、適度な荒さはあるもののやさしげなタッチであり、イメージ的には昔から CAMEL の「Snow Goose」に喩えられている。
ただし、素朴さから荒削りなところや骨太さ(太いベース音やワイルドなギターの表現など)が現れてくると、FRUUPP の方が喩えとしては適切に思えてくる。
キーボーディストが一人増えているのは、音の種類を増やしてより微妙なニュアンスを表現するためだと思う。
ANGE ばりにヴォーカルが芝居っ気を発し、ギターもぐいぐいとうねるハードロック的な表現もあるが、一番の魅力的なのは、アコースティック・ギターのキラキラしたアルペジオに管楽器風のムーグ・シンセサイザーの旋律が寄り添う、穏やかで優しげだがサウンドは面白い、といった場面である。
そういえば、フランス語のアクの強い響きもさほどには感じられないし、フランス・ロックに多い芝居っぽいモノローグ調のヴォーカルは控えめである。
原作を読んだことがないので、文学の音楽化として優れているかどうかは分からないが、ロックの支流としての音楽的な魅力は確かにある。
エネルギッシュにしてメロディアスなシンフォニック・ロック作品であり、たいへん聴きやすいアルバムです。
「Préface」(0:57)
「Colin」(2:12)
「Une Fille Demain」(2:23)
「Chloé Et Colin」(3:34)
「Le Nuage Rose」(2:14)
「Chloé」(2:10)
「Oui Oui Oui」(1:48)
「Une Femme Si Bête」(4:23)二つのギターとエレクトリック・ピアノが交歓するジャジーなタッチから変拍子による偏屈な曲調へと展開するプログレらしい作品。
「Le Nénuphar」(2:30)
「Diagnostic」(0:39)
「Renvoyé」(2:45)
「La Chambre」(0:32)
「L'administration」(1:43)
「Vers Une Ile」(5:43)
(BT-8120)