スペインのプログレッシヴ・ロック・グループ「MÚSICA URBANA」。 バルセロナ出身。76 年結成。二枚の作品はカタルーニャ風カンタベリー・ジャズロックの秀作。
Joan Albert Amargós | Steinway piano, Fender piano, Horner clavinet, Moog, sax, clarinet, flute, trombone, whistle, violin |
Lluis Cabanach | electric guitar, spanish guitar |
Carles Benavent | bass, contrabass, acoustic guitar, percussion, vocal effects |
Salvador Font | drums, assorted percussions, vocal effects |
guest: | |
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Aurora Amargós | castanet |
Lucky Guri | Steinway piano, Fender piano, Moog |
76 年発表のアルバム「Música Urbana」。
内容は、サラセン/スペインの旋律/和声を多用した、分かりやすい「スペイン、フラメンコ風味」たっぷりのジャズロック。
(もっとも、バルセロナはフランス寄りの国際都市なので、ここまでローカリズム/土着性を強調するのは受け入れやすさに配慮した巧妙な「作戦」の可能性がある)
気まぐれで精緻、アカデミックにして土臭く、アブストラクトなのに美しく、そしていつもほのかなユーモアを湛える未曾有の秀作である。
スパニッシュ・テイストを散りばめた多彩なプレイと華麗なサウンドと時にコミカルですらある表現で演奏をリードするキーボード(クラヴィネットの使い方のうまさはそのままプログレ嗜好の物差しとなる)、意図的な垢抜けなさ(フィル・ミラーか?)で洗練されたキーボードとのコントラストを図るエレキギター、堅実かつヴァリエーションあるパーカッション・プレイを駆使し重さで胃もたれさせない打楽器、的確なビート感のキープとファズによるフレージングでアンサンブルのリードも鮮やかにこなすベース、などなど、各エリアのテクニシャンたちが、冴えた楽曲を得て、しっかりと身の詰まった演奏をしている。
特に、管楽器を含め多彩過ぎる音色(ムーグ・シンセサイザーが抜群にいい)を自在に操るキーボーディストのセンスとギタリストの生音・フルピッキング志向がこの音楽を他のスペイン風ジャズロックと区別する強い個性になっていると思う。
ギターについては、アコースティック・ギターによる「モロな」アラビア風味も悪くないが、フラメンコから発想したと思われるエレキギターの訥々としたプレイが特にいい。
独特のモードや和声を使いつつも、アンサンブルそのものにはクラシカルな整合性があり、ユニゾン、ハーモニー、それらを支えるリフ、反復のパターン、受け答え、押し引き、旋律とリズムとの有機的な関連など、即興パートの挿入も含めて、きわめてしっかりとした作曲がなされているようだ。
一糸乱れず連なって目まぐるしく変化するアンサンブルには GENTLE GIANT と同じプログレ・センスを感じるし、諧謔味や「ボケ」や「ドタバタ」のようなユーモアある表現については、英国カンタベリーと同質である。
特に、最後の二曲は非常に面白い。
そして、ひとたびメロディアスなプレイになれば、鮮やか過ぎる明晰さで歌い、繊細な情感を湛え逞しい主張を成すことも自在である。
キーボードのソロなどから思うに、ネタ元は RETURN TO FOREVER があるのだろうが、「フラメンコ・テイストを交える」というその応用としての充実度合いは、英国カンタベリーの一派とも肩を並べるものである。
プログレ・ファン、ジャズロック・ファンに自信を持ってお薦めできる大傑作だ。
プロデュースはラファエル・モル。
BARCELONA TRACTION の鍵盤奏者ラッキー・グリがゲスト参加。
「Agost」(6:54)自由奔放にして濃密なるスパニッシュ・カンタベリー。
ISOTOPE か SOFT MACHINE がジプシー音楽をやっているようだ。
次々と音が飛び込んでキツキツになっているようで、どこか余裕が感じられる。
「Violeta」(8:20)こんがらがった序奏から一気に弾けるカタルシス。
一つ一つの楽器のおしゃべりに洒落と悪意がたっぷりでうれしくなる。
グラマラスで野心満々で美しい佳曲。
「Vacas, Toros Y Toreros」(4:41)
「Font」(4:47)尖ったところだけではなく、リラックスしたところもチラ見せしてくれる作品。
「Caramels De Mel」(5:24)完全にカンタベリー、というか HATFIELD AND THE NORTH または、あまり現代音楽っぽくない PICCHIO DAL POZZO。
「El Vesubio Azul」(8:24)カンタベリーから一歩進んで別世界に突入。
つまりジャジーな現代音楽である。
ドラム・ソロは痙攣か乱心か。
イタリア人以上にスペイン系の人々の芸術的な感覚の鋭さに驚かされる。
(UM 2033)
Jaume Cortadellas | piccolo, flute |
Salvador Font | drums, percussions |
Matthew Simon | trumpet, flugelhorn, onoboen |
Carles Benavent | bass, contrabass, cuica |
Jordi Bonell | electric guitar, spanish guitar |
Joan Albert Amargós | keyboards, alto & soprano sax, clarinet, bass clarinet, whistle |
78 年発表のアルバム「Iberia」。
若干のメンバー交代を経て、管楽器の種類が増え、ジャジーでメロディアスな口当たりの良さとオーケストラルなスケール感の加わった作品となった。
フルート、ホルンらによって音の厚みが増し、エキゾチズムに目覚めたクラシックである印象派の管弦楽曲に近いニュアンスのアンサンブルもある。(印象派や現代音楽の作曲家に献呈する作品なので当然といえば当然)
フラメンコ色はやや後退したものの、代わりにハリウッド映画のサウンド・トラックのようなゴージャスな広がり、抱擁感がある。
雄大で爽快なタッチのサウンドはメインストリーム・フュージョンへの傾倒に感じられてしまう(新ギタリストが前任者ほどはフィル・ミラー風ではないためというのもある)が、独特の忙しなさや変拍子、リズム・チェンジへのこだわり、楽曲の構成などにカンタベリー風の凝り性とユーモアは健在である。
売れセン・フュージョンっぽくなったというよりは、ボサノヴァや南米ラテン音楽を逆輸入して取り入れ、オーケストレーションを活かしたアプローチを取ったというべきだろう。
フルートをフィーチュアしたラウンジ風の演奏などはむしろフリー/クロスオーヴァー以前のモダン・ジャズ、スイング・ジャズの流れにあり、そこへ多彩極まる音色と目まぐるしいリズム・チェンジを縦横無尽に盛り込んだところがユニークである。
ジャズロックという意味では、ジャコ・パストリアスとテルマサ・ヒノが後期の RETURN TO FOREVER と共演しているような 1 曲目「En Buenas Manos」。
ヒンデミットに捧げる 2 曲目「Invitation Au "Xiulet"」は、ディズニー映画の音楽としてもいけそう。
ストラヴィンスキーに捧げる 3 曲目「"Pasacalle" De Nit」は、色とりどりのインコやフラミンゴが飛び交うような南米風の作品。ヒナステラ、ヴィラ・ロボス的ワールドでもある。
ファリャに捧げる 4 曲目「Pasodoble Balear」は、神秘的なスパニッシュ・テイストを粋で上品なラウンジ風味に仕上げた上に、エレクトリック・キーボードと管楽器をフィーチュアしたカンタベリー・ジャズロック、ピアノ協奏曲、果てはモダン・ジャズにまで展開するプログレッシヴな作品。名曲。
5 曲目「Vacances Perdudes」は、雄大なドラマのあるオーケストラ調の大作。1 曲目のジャズロック調も再現。終盤、ソロ楽器同士の交歓がみごと。エンディングはド派手でカッコいい。
クインシー・ジョーンズで有名になったマウスピースを使ったヴォイス・エフェクトのような音は、クイーカという楽器によるらしい。
ザッパのビッグ・バンドのファンにもお薦め。
(NM 15 645 CDM)