ブラジルのクラシカル・ロック・グループ「QUATERNA RÉQUIEM」。 90 年結成。 作品はライヴ盤含め五枚。最新作は 2012 年発表の「O Aruiteto」。 キーボードとヴァイオリンをフィーチュアしたメロディアスなクラシカル・ロック。
Elisa Wiermann | keyboards |
Claudio Dantas | drums, percussion |
Marco Lauria | bass |
Jones Junior | electric & acoustic guitars |
Kleber Vogel | violin |
guest: | |
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Adauto Vilarinho | oboe on 1 |
Roberto Meyer | flute & recorder on 1 |
92 年発表のアルバム「Velha Gravura(Old Grave)」。
90 年発表の LP に曲を追加して CD 化した作品である。
内容は、キーボード、ヴァイオリンをフィーチュアし、室内楽風から交響曲風まで幅広いスタイルを模したシンフォニック・ロック。
多彩なキーボードに加えてエレガントなヴァイオリン、ゲストのオーボエやフルートも交えてアンサンブルを構成する、たおやかで優美なクラシカル・スタイルである。
楽曲の成り立ちを支えるのは鍵盤楽器である。
さまざまな音で背景やステージを作り上げて、フロントのギターやヴァイオリンをバックアップし、時にヴィヴィッドに反応しあい、単独で展開をリードする。
ヴァイオリニストはかなりの名手らしくフレーズや音に説得力があり、なおかつバンドにおける存在感が自然である。
エレキギターが朴訥とした味わいのあるプレイをするところも特徴的だ。
全体に演奏は丹念で節度と落ちつきがある。
何かが極端に突出して不自然になることはない。
音量や速度のダイナミクスもパートのバランスも曲想に照らして適切である。
ていねいな語り口と清潔で優しげなサウンドはリスニングを繰り返すことで次第に染みてくる。そういうタイプである。
エレクトリック・キーボードをフルに生かしたクラシカルなシンフォニック・ロックとして、かなりの好作品ではないだろうか。
一方難点は、キーボードの音質が若干チープなこと、ベース・ラインがきわめて紋切り型であること、リズム・セクションがヨタること、ギターの表情がぎこちないことなど。
この種のクラシカルなスタイルの作風では、リズム・セクションの冴えのなさが全体のノリを損なう(打ち込みっぽくなってしまうこともある)ケースが多々あるが、本作もその例にもれない。
クラシックの素養を保ちつつロックなノリも忘れないというのは、本当に数少ない天才型のミュージシャンにしか成しえない荒業なのだろう。
ANGLAGARD のような、攻撃性を前面に打ち出した前衛クラシカル・スタイル以外で、打楽器や低音部を含めてメロディアスかつ厳かで真にポリフォニックなアンサンブルを追及するグループは、なかなか見当たらない。(同国の POCOS AND NUVENS というグループは惜しいところまでいっている)
3 曲目で知れるように、作風の原点は CAMEL の「Snow Goose」と GENESIS のトニー・バンクスらしいが、CAMEL がちゃんと身に付けていたロックとしてのカッコよさも追いかけてほしい。
作品全体ににじみ出る上品さと愛らしさが特徴の佳作。
少し沈んだ表情を見せるときのピアノやヴァイオリンの表現に本格派の力量を見ます。
切なく美しい音が聴きたい向きにはお薦め。
全曲インストゥルメンタル。
「Romoniana」(6:20)フルート、リコーダー、オーボエらをフィーチュアしたクラシカルで愛らしいアンサンブル。後半はリズム・セクションも参加し、にぎにぎしい村祭りのダンスのようになる。
「Aquartha」(5:04)ヴァイオリン登場。ジャジーなスリルのあるシンフォニック・チューン。
明快なテーマがやや性急で突っ込み気味の演奏を救う。
「Velha Gravura」(12:17)若々しくロマンティックなアンサンブルを序章にしたメロディアスなシンフォニック・チューン。
伸びやかなヴァイオリン、ギターとともに飛翔する。ストレートな高揚感。
5 分辺りからモロに "Snow Goose" CAMEL になります。ムーグも活躍する無窮動で迫る終盤のがんばりは好感度大。
ギタリストはリッチー(コッツェンじゃないよ)ファンか?
「Tempestade」(10:13)RENAISSANCE を思わせる悩ましげな作品。ピアノがさざめく。よく聴くとヴァイオリンはあまりクラシック風ではない。強いていえばジャンリュック・ポンティか?
「Madrugada」(10:32)基本はピアノとヴァイオリンのデュオ。哀愁と救済。SAGRADO 風。こういう作品のほうが良さが素直に出る。ドラムレス。
「Toccata」(6:00)攻撃性も見せるドラマティックなバロック音楽風の作品。チャーチ・オルガン風のキーボード乱れ弾き。
厳かなイントロもいい。
「Carceres」(3:46)
「Elegia」(4:43)
(FCD-01)
Elisa Wiermann | keyboards |
Claudio Dantas | drums, percussion |
guest: | |
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Fabio Fernandez | bass, acoustic guitar |
Jose Roberto Crivano | guitars |
94 年発表のアルバム「Quasimodo」。
ギタリスト、ベーシスト、ヴァイオリン奏者が脱退し、二人編成となる。
ギターとベースはゲスト・ミュージシャンを迎えている。
内容は、キーボードを中心としたクラシカルかつメロディアスなシンフォニック・ロック。
中世からバロック周辺をイメージさせるアンサンブルによる優美なサウンドを基本にして、そこに攻撃的なアンサンブルでアクセントをつけてゆくスタイルである。
前作と比べると、クラシックとロックのブレンドのバランスは無難になり、それとほぼイコールといえるかもしれないが、ネオ・プログレ色が強まっている。
(そうなればなったで、前作の、CAMEL のコピー以外は何風ともいえない独特の作風が懐かしくもある)
ヴァイオリンを欠いたのは、音の個性、表現ヴァリエーションの縮退という意味ではきついが、じつは、巷に多いヴァイオリン・マニアでもない限りは、それをあまり気にはさせない内容になっている。
必然的に演奏の主役は、シンセサイザーを始めチャーチ・オルガンやチェンバロまでも駆使して音に厚みをつけるキーボードとアンディ・ラティマー直系のメロディアスなギターの二人になった。
シンセサイザーのプレイは、管弦(木管風の音もいい)をイメージさせつつ、独特の透明感や光沢を生み出して演奏をリードしている。
トニー・バンクス風の変拍子オスティナートの多用はいうまでもない。
手数多く攻め込む、勢いのいいリズム・セクションとともにキーボードとギターが互いに高めあうアンサンブルはシンフォニック・ロックの真骨頂といえる。
じつは、優美で女性的なサウンドにもかかわらず、せわしなくドラムスとキーボードが重なり合うアグレッシヴな場面の方がカッコよかったりする。
3 曲目の後半はまさにそういった例だ。
一方、音色のヴァリエーションをキーボード一人が負うことになり、微妙な色合いやアコースティックな深みが薄らいだきらいがある。
そして、その主役がパターン反復に過剰にハマってしまうと、絡んでくる楽器が多くないために奥行き、立体感が出てこない。
ドラムスとキーボードの呼吸でいい感じの演奏になっているところも多いだけに、惜しいところだ。
全体に、やや平板なプロダクションと不調法な変拍子オスティナートさえ気にしなければ、AFTER CRYING や RUMBLING ORCHESTRA を細身にしたような世界が楽しめる内容である。
上品さと伝法な感じが微妙な均衡を見せています。
聖歌のほかは全曲インストゥルメンタル。
「Fanfarra」(5:33)タイトル通り勇壮なるファンファーレ。
「Os Reis Malditos」(13:07)クラシカルなキーボード・オーケストレーションをフィーチュアした作品。ドラムスもティンパニ風である。西アジア風のエキゾティックな味付けもあり。中盤からはネオ・プログレな展開となるが、べたつきすぎずクラシカルなテイストを活かして、CAMEL、GENESIS 路線を進む。
「Aquintha」(6:06)ヴァンゲリスばりのシンセサイザー、オルガンのポリフォニーに強力なリズム・セクションが反応する技巧的な作品。粘っこい弾力とスリル。
「Irmaos Grimm」(11:02)序盤のバロック風のアンサンブルを展開するしなやかなクラシカル・チューン。
金管風のシンセサイザー、小太鼓風のドラムス、チェンバロ、荒々しいバンド演奏、矢継ぎ早な転調でドラマを、やや忙しないながらも、描く。後半しっとり落とすところもいい。ベースががんばっている。傑作。
「Quasimodo」(38:59)GRYPHON タッチも悪くない、有名な物語を描いたと思われる千変万化の超大作。もちろん 5:00 辺りでノートルダムの鐘も鳴る。コンソート、聖歌、チャーチ・オルガン、バンド、オーケストラ、何でもアリ。
前曲はこの曲のためのウォーミング・アップだったに違いない。大傑作。
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Elisa Wiermann | keyboards |
Claudio Dantas | drums, percussion |
Jose R. Crivano | guitars |
Fred Fontes | bass |
Kleber Vogel | violin |
99 年発表のアルバム「Livre」。
1997 年のライヴ録音。どの楽曲も生演奏の活気がある分だけ聴き応えがあり、スタジオ盤よりもイメージがよくなる。
特にギターに存在感が曲を引っ張っている印象あり。キーボードはリードを取るところのサウンドがやや貧弱だが、ギターと呼応するアンサンブルは悪くないし、深みのある色合いとデリケートなタッチによる叙景的なシーンの組み上げ方がいい。
全曲インストゥルメンタル。
「Fanfarra」(5:41)第二作より。壮麗なキーボード・オーケストレーションとメロディアスなギターによる序曲。
「Quasimodo」(19:03)第二作より。大作のコンデンス版。ヨーロピアン・トラディショナル風味たっぷりの音絵巻。バロック調とヘヴィ・ロックの交錯もダイナミックで意外にイイ。ハードな展開はほぼ DEEP PURPLE ですが。
「Triade」(4:27)シンセサイザーをフィーチュアしたエキゾチックな EL&P 風の作品。
「Irmaos Grimm」(11:26)第二作より。にぎにぎしさ、祝祭感がバロック管弦楽をイメージさせる佳曲。後半のファンタジックな世界の描写もいい。ロック・バンドによるクラシカルな演奏という点では出色。
「Solo De Bateria」(6:04)ドラム・ソロ。
「Velha Gravura」(23:06) 第一作より。ヴァイオリンをフィーチュアしたメロディアスでみずみずしいシンフォニック・チューン。
ギターが飛び出してシャフル・ビートになっちゃうとやはり DEEP PURPLE です。
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