ポーランドのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「QUIDAM」。
92 年活動開始。
96 年アルバム・デビュー。
2002 年現在ライヴ盤含め作品は四枚。
コケテッシュな女性ヴォーカルを透明感あるサウンドで彩る叙情的なメロディアス・ロック。
シンフォニックにして、どこまでもエレガント。
やっぱりヴォーカルの魅力が大きいでしょう。
Emila Derkowska | vocals, backing vocals | Zbyszek Florek | piano, keyboards |
Rafal Jermakow | drums, percussion | Maciek Meller | electric & acoustic guitars |
Radek Scholl | bass | Jacek Zasada | flute |
guest: | |||
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Monika Margielewska | oboe on 1 | Milosz Gawrylkiewicz | flugelhorn on 2 |
Grzegorz Nadolny | bass on 8 | Robert Amirian | mandolin on 5 |
Michal Maciejewski | accordion on 5 |
2002 年発表の第四作「The Time Beneath The Sky」。
メロディアスで透明感あふれるサウンドへ、ほの暗い神秘性も加えた傑作。
アニー・ハズラム、マギー・ライリーの衣鉢を継ぐエミラ・ダーコウスカのクリスタル・ヴォイス(美声とともに安定した歌唱が圧巻)を軸に、優美なギターと深みのあるキーボードと心震わせるフルートらが描く、ファンタジーとロマンにあふれるロックである。
CAMEL はおろか、PINK FLOYD にすら接近するエモーショナルな筆致が、70 年代ロック・ファンの琴線に触れないわけがない。
ネオ・プログレという観点では、PENDRAGON らと比べると、あくまでアコースティックで素朴な響きを忘れておらず、フォークの逞しさを携えている。
ヴォーカルはポーランド語。原題は「Pod Niebem Czas」。原語表記の CD もあり。
「Letter From The Desert I」(6:12)
「Still Waiting(Letter From The Desert II)」(4:48)
「No Quarter」(11:44)いわずと知れた LED ZEPPELIN のプログレ大作のカヴァー。みごとです。
「New Name」(4:45)透明感あふれるヴォイスを活かした美しいバラード。
「Kozoiec(For AgaPe)」(5:00)「Trip To The Fair」を思わせる快活にしてほのかな哀愁の漂うアップテンポのフォーク・ソング。後半のフルートとギターの交歓は、CAMEL の「Snow Goose」を彷彿させる切ない美しさ。
素朴なブズーギ、トラッドなパイプもいい。
「The Time Beneath The Sky」PINK FLOYD の翻案とすらいえそうな重厚な作風。そしてその重みから解き放たれたときの空へと突き抜けるような爽快感がいい。
「Credo I」(8:04)
「Credo II」(5:13)
「You Are(In The Labyrinth Of Thoughts)」(4:31)
「Quimpromptu」(9:35)
「(Everything Has Its Own)Time Beneath The Sky」(3:59)
(FGBG 4441.AR)
Ewa Smarzynska | flute | Zbyszek Florek | keyboards |
Maciek Meller | guitars | Radek Scholl | bass |
Rafal Jermakow | drums | Emila Derkowska | vocals, backing vocals, cello, flute |
guest: | |||
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Monika Margielewska | oboe on 1,7 | Kamila Kaminska | chorus on 4 |
Mirek Gil | guitar on 2 |
96 年発表の第一作「Quidam」。
内容は、たおやかにしてエモーショナルな叙情派シンフォニック・ロック。
透明感あるソプラノ・ヴォイスにフルートやオーボエ、ピアノ、アコースティック・ギターらが寄り添い、色鮮やかなシンセサイザーと優美に歌うギターがきらきらと星をひいて舞う演奏である。
音楽には、素朴さを昇華したエレガンスとデリカシー、そして何人をも寄せつけない凛とした空気と切ないまでに優しく温もりあるタッチがある。
そして、全編にファンタジックな歌が満ちている。
安定したリズム・セクションに象徴されるように、演奏そのものも、バランスが取れたみごとなものだ。
ミドル・テンポのバラードは当然ながら、アップ・テンポの作品でも、ヴォーカルを軸に気品にあふれ、自然な溌剌さと品のよさがうまくバランスしているのだ。
英国ネオ・プログレッシヴ・ロックと比べると、端正な優美さや様式からの自由さという点で、はるかにレベルが上であり、音楽的な差ははかり知れない。
フォーク・ソングを基調とした音に、クラシック風味とリズム・セクションを加えたスタイルは、RENAISSANCE と共通する。
そして、流行のケルト・トラッド/ワールド・ミュージック風の土臭い力強さを、正面切って押し出すのではなく、あくまでポップス的な聴きやすさのための手法としている。
そのさじ加減が、いかにもプログレである。
RENAISSANCE でいえば「Ashes Are Burning」に近いニュアンスだろう。
モダンな音を結集したにも関わらず、シンフォニック・ロック・ファンへの配慮も行き届いているというべきかもしれない。
正にメロディアス・ロックの一級品であり、ヴォカリーズのメロディに漂うほのかなポップ・テイストが、シンフォニックな感動を何倍にも膨らませてくれる。
透き通るようなヴォイスの美感は、COCTEAU TWINS 辺りを思い出してもいいかもしれない。
また、キーボードを中心とした透明感のある演奏には、80 年代以降のニュー・エイジ/ヒーリング系の作品や PAT METHENY GROUP のような高級フュージョンを思わせるところもある。
たしかにシンフォニックなスタイルを気負うところもある。
しかし、それ以上に、きめ細かい音響への配慮と素直なメロディ・ラインがあり、全体がステレオタイプのプログレ然とせず、優美さと親しみやすさで勝負できるポップ・センスがある。
そして、コケットにしてピュアーな美声ヴォーカルが加わった楽曲は、そよ風のように優しく爽やかであり、瑞々しさではちきれんばかりなのだ。
ヴォーカルは、シリアスなシーンでの悩ましい表情も悪くないが、ストレートな明るさを出して歌い上げるときの方がより声質の美しさが素直に映えるようだ。
ギターは、現代メロディアス・ロックの基本であるスティーヴ・ハケット流の翳のあるロングトーンに加えて、溌剌とした明るさとほんのりブルージーな表情の入り交じった機敏なプレイを、みごとに披露する。
メロディの美しさは、ヴォーカル・パートに勝るとも劣らない。
作品としては、オープニング・ナンバーとエンディング・ナンバーが曲展開/メロディ・ラインともに優れている。
両作品とも 10 分近い作品にもかかわらず、ヴォーカルと器楽のバランスがよく澱みなく最後まで流れてゆく。
よみがえる RENAISSANCE といっていいでしょう。
「Sanktuarium(聖域)」(8:57)本曲の魅力は、何といっても、緊張感あるオルガンのイントロからメロディアスなギターへと流れ込むシーンにおける、開放感と仄かな哀愁だろう。
KING CRIMSON の「Epitaph」から SANDROSE まで思いは飛躍し、遂には、往年のイタリアン・ロックの最高級品なのではと視界がにじんでくる。
思わず目をみはり、そして、あまりに美しく華奢なヴォーカルに酔わされるうちに、知らず知らず曲に入り込んでしまう。
熱く高まるアンサンブルに興奮させられ、表情を変化させつつ流れるせせらぎのようなヴォーカルと、典雅なアコースティック楽器の響きに酔わされる。
きらめくような美しさと哀愁、叙情に満ち、さらに悠然たるシンフォニックな響きももった、感動的な傑作だ。
ヴォーカルがなければ、本当に 70 年代のグループの秘蔵テイクかと思わせる内容です。
フルート、オーボエ、チェロの調べも美しい。
「Chocbym(イーヴン・イフ...)」(7:05)前曲の密やかなエンディングに重なるように、おだやかなアルペジオとフルートが湧き上がり、次第に翼を広げてゆくオープニング。
いつしか、力強い鼓動とともに、ギターとシンセサイザーが切なく泣き叫ぶ。
この辺りは、ニューエイジ調かもしれない。
ヴォーカル・パートは、透明なヴォイスのクールネスと AOR/ポップス調のメロディ・ラインの生む暖かみがいいバランスだ。
ギターによる間奏は、前曲と同じく切なく泣くスタイル。
クレジットによれば、COLLAGE のミレク・ギルのプレイである。
ピアノに導かれるブリッジでは、やや神秘的な翳りで変化をつけている。
そして、後半は、ゆったりと広がるストリングス系の音を背景に、ソウルフルなヴォカリーズとギターが熱くせめぎあう。
最後はエレガントなピアノが幕を引く。
前曲よりも典型的なシンフォニック・ロック色を抑えて、よりナチュラルな歌心を出した傑作。
一般には、こちらの方がうけそう。
「Bajkowy(妖精)」(3:42)愛らしいリコーダーと調べとほんのりフュージョン・タッチの演奏が可憐なヴォーカルを支える小曲。
ベースがフィーチュアされている。
後半のインストゥルメンタルは、COLLAGE そっくり。
メロディアスなギターとキーボードの交歓はここでもみごと。
「Gleboka Rseka(ディープ・リヴァー)」(8:03)ドリーミーなシンセサイザーのソロがスピーディなアンサンブルへと流れ込む GENESIS 風のスリリングな作品。
音/演奏ともに、いかにもなネオ・プログレである。
新しいのは、メイン・ヴォーカル・パートがヒーリング系に近いサウンドになっているところ。
リスナーの年齢によって評価の分かれそうな作品だ。
タイトルは、結成時のグループ名と同じであり、おそらく古いレパートリーと思われる。
「Nocne Widziadla(悪夢)」(7:21)ゴージャスな歌謡曲風ポップス。
コーラスやイコライジングしたモノローグを散りばめつつ、キャッチーなメロディを堂々たる歌唱でこなす。
シンプルにして躍動するリズムと分厚いデジタル・シンセサイザー。
個人的にはあんまり興味のないスタイルですが、ハマるとたいへんなことになるやも。
中盤のフルート・ソロ以降はシンフォニックな重みが加わり、リザ・ストライクを思わせる力強いヴォカリーズが、まさしく PINK FLOYD 的な翳りのある幻想性を高める。
と思いきや、再び元気な演奏へ戻って拍子抜け。
「Niespelnienie(満たされない気持ち)」(9:44)重厚なロマンに満ちた傑作。
アルト域の厳かな表情から悩ましげなため息、そして神々しいクリスタル・ソプラノまで、ゆったりとしたキーボードに支えられたヴォーカルが冴え渡る。
ミドル・テンポで歩む曲調に、SANTANA、CAMEL 的なブルージーなプレイのギターが、いいアクセントになっている。
終局は再び PINK FLOYD 調を経て、意外なアンサンブルへ。
それにしても、こんなお姉さんにそんなこといわれてもって感じのタイトルですな。
「Warkocze(おさげ髪)」(4:07)オーボエとフルートが美しい可憐な作品。
アコースティック・ギター、ピアノ伴奏で SSW 風の内省的な表情も見せる。
サビは、ストリングスが高まりシンフォニック。
ギターの見せ場もあり。
あまり知りませんが、竹内まりやとかに近いのでしょうか。
「Bijace Serca(心の高鳴り)」(1:53)アコースティック・ギター、ピアノとチェロの三重奏。
インストゥルメンタル。
「Plone(燃えている)」(14:09)オープニングはクラシック・ピアノとフルートによる哀調のアンサンブル。
ほのかな明るさを示して静かに去るアンサンブルとクロス・フェードで立ち上がるは、朗々たるギターがリードする高らかな全体演奏。
ギターを支えるのは、コラールのようなシンセサイザー。
ヴォーカルは、抑えた伴奏の上で、可憐な表情を見せる。
軽やかなステップで舞い、爽やかな微笑をふりまくような歌唱であり、エンディングが名残惜しくなる。
明快な演奏だ。
優美なギター、キラキラと光るキーボード、がっちりと脇をかためるリズム・セクションなど、いかにもモダンなメロディアス・ロックである。
シンセサイザーとギターが優雅に歌う間奏は、マーティン・オーフォードとスティーヴ・ロザリーも真っ青のすばらしさ。
ラティマー/バーデンスの伝統はここに生きている。
沈み込む演奏は、オルガンとギターの静かな交歓からヘヴィな和音の轟きを経て再び緩やかに動き出す。
ここのシンセサイザーがいい音だ。
再びギターとキーボードが軽やかにして緊密な絡みを見せ、オプティミスティックな光が差す。
ギターは堂々たるテーマを繰り返し、高く低く歌い続ける。
ギター、シンセサイザーのリフとともにリズミカルに動き始める演奏。
アコースティック・ギター、ピアノ、フルート、チェロらによるエレガントなアンサンブルをはさみ、リズム・セクションをフィーチュアしたパーカッシヴな演奏から、再び、ギターのテーマが現れる。
柔らかなキーボードに囲まれてブルージーなソロを奏でるギター。
いつしかアコースティック・アンサンブルが甦り、テーマへとおだやかに重なってゆく。
ストリングスの調べ。
ロマンティックな余韻を残して静かにすべてが消えてゆく。
終曲に相応しいメドレー風の大作。
さまざまな演奏を総括しつつ聴きやすく明快な調子が保たれており、いかにもカーテン・コール風の粋なはからいである。
RENAISSANCE の「A Song For All Seasons」や CAMEL の「Snow Goose」に近い世界である。
(AMS 005R)
Zbyszek Florek | keyboards | Rafal Jermakow | drums, percussion |
Maciek Meller | guitars | Radek Scholl | bass |
Jacek Zasada | flute | Emila Derkowska | vocals, cello, backing vocals |
guest: | |||
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Michal Wojciechowski | basson | Witold Ekielski | oboe |
Malgorzata Lachowics | violin | Karolina Chwistek | violin |
Magdalena Wrobel | viola | Dominika Miecznikowska | cello |
98 年発表の第二作「Angel's Dream」。
内容は、エミラ・ダーコウスカ嬢のヴォーカルを中心とした透明感あふれるメロディアス・ロック。
作風は、前作よりも軽快でポップなタッチに変化した。
楽曲も 70 年代シンフォニック志向をやや抑えて、ヴォーカルの美しさを素直に活かした、ストレートでキャッチーなものが主となっている。
その中心は、リズミカルで快活な表情をもつヴォーカル・パートであり、キーボードやギターはあくまで歌のテーマをしっかりと支え彩る役割を担っている。
インストゥルメンタル・パートももちろんある。
しかし、いわゆるプログレ然としたものではなく、素朴なメロディを歌い上げるストレートなものだ。
また、フルートのプレイを代表に、ニューエイジ調というかヒーリング・ミュージック調というか、華やぎとともにエキゾチックな色調が加わったのも、今回の特徴だ。
そういう中でロックな快活さとドライヴ感を失わないのは、前作以上に巧みなリズム・セクションとナチュラル・ディストーションを活かしたギターのプレイのおかげだろう。
ドラムスは、音数こそ抑えているが、堅実でツボを押さえたプレイで、骨格をしっかりと固めている。
また、ギターは CAMEL と同じく、シンプルにして親しみやすく歌のあるフレージングを見せている。
湧き出る思いのたけをもどかしげに綴る、スティーヴ・ロザリーやニック・バレットに並ぶ情熱的なスタイルである。
そして、よりシンプリファイズされた楽曲のなかで、ヴォーカルの存在はさらに際立っている。
伸びやかな美声にもかかわらず、押しの強さではなく、あくまで素朴さと控えめな表情で訴えかけてくる。
そこがいい。
耳にやさしい調べのうちから、やがてじっくりと音の声が聴こえてくる、そんなタイプの作品だろう。
オープニングとエンディングは、鳥たちのさえずりである。
ナチュラルで素朴な美感とオプティミズムは、南米のグループとの共通性する。
本 CD は英語盤であり、ヴォーカルは「Awakening」と「There Is Such A Lonesome House」(BUDKA SUFLERA のカヴァー)をのぞいて、すべて英語。
この二曲が非常に美しい。
一部木管、弦楽アンサンブルもフィーチュアされている。
フルーティストは新メンバー。
「Awakening」(1:43)
「Angels Of Mine」(4:21)
「An Apple Dream」(5:17)
「Cheerful」(6:59)
「Little Bird With No Legs」(4:06)
「One Small Tear」(4:56)
「Behind My Eyes」(13:57)
「Awakening(Dawn Of Hope)」(4:07)
「There Is Such A Lonesome House」(5:31)
(FGBG 4256-AR)
Emila Derkowska | vocals |
Zbyszek Florek | keyboards |
Rafal Jermakow | drums, percussion |
Maciek Meller | guitars |
Radek Scholl | bass |
Jacek Zasada | flute |
99 年発表の第三作「Baja Prog - Live in Mexico '99」。
メキシコで収録された、初のライヴ・アルバム。
第一作、第二作収録のオリジナル作品以外にも、DEEP PURPLE の「Child In Time」や CAMEL の「Rhayader」を演奏するなど、いかにもフェスティバルらしい、リラックスした雰囲気のライヴである。
CAMEL はともかく、DEEP PURPLE は風貌とあいまって、お里が知れる。
それでも、優美で軽やかな演奏とコケットにしてしっとりしたヴォーカルのコンビネーションは、ライヴでも完璧。
フルートも大活躍し、ギターもとても美しい。
そして、何よりエミラさんのたどたどしいスペイン語の MC が、めちゃくちゃ可愛いのです。
「Przebudzenie」(2:47)第二作より。
英題は「Awakening」。
「Gleboka Rzeka」(7:10)第一作より。
「Chocbym」(6:12)第一作より。
「Plone / Niespelnienie」(18:17)第一作より。
「Jest Taki Samotny Dom」(5:37)第二作より。
英題は「There Is Such A Lonesome House」。
「Rhayader / Rhayader Goes To Town 」(10:02)CAMEL のカヴァー。
「Sanktuarium(including guitar solo from "Firth Of Fifth" by GENESIS)」(10:48)第一作より。
微妙なニュアンスも表現しきった一世一代の名演。
「Angels Of Mine(including excepts from "La Cucaracha" & "Cielito Lindo")」(6:10)第二作より。
「Child In Time」(9:43)DEEP PURPLE のカヴァー。
(RSCD 060)