フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「SANDROSE」。 フランス・ニュー・ロックに先鞭をつけたグループ「EDEN ROSE」を母体に結成。 72 年にアルバムを発表し、解散。
Rose Podwojny | vocals |
Jean-Pierre Alarcen | guitar |
Christian Clairfond | bass |
Henri Garella | organ, mellotron |
Michel Jullien | drums, percussion |
72 年発表の作品「Sandrose」。
内容は、ソウルフルな女性ヴォーカルをフィーチュアした初期型シンフォニック・ロック。
ジャジーなオルガン・ロックにテクニカルで洗練されたギター・プレイを交えた、熱く叙情的なサウンドである。
メロトロンの幽玄なる響きは初期の KING CRIMSON、GENESIS を
連想させ、そこへ女性ヴォーカルが入ったような感じといえばいいかもしれない。
ただし、ヴォーカルは、ジュディ・ダイブルさんのようなフォーク系ではなく、濃い目の R&B 系である。
英語はたどたどしいが、パンチのある声質が十分に生かされている。
そして、演奏面では、なんといってもアラルサンのギター・プレイ。
テクニカルにして繊細な歌心もある、ドエラいプレイヤーである。
熱いオルガンと技巧的なギターのコンビネーションにソウルフルなヴォーカルが加わった、70 年代のリアルな息吹でいっぱいの好作品である。
「Vision」(5:22)
パンチのあるヴォーカルを活かしたテンポのいい歌ものロック。
ごくラフでストレートな演奏だが、オルガンやギターの何気ないプレイに気合が入っているのが分かる。
オープニングは、アコースティック・ギターによる、投げやりかつスリリングなコード・ストローク。
そして、パンチのあるヴォーカルが一気に攻め、テンションを上げてゆく。
攻めては悠然と引くを繰り返す演奏は、シンプルだがかなりカッコいい。
繰り返しを経て、一転して落ちつきを見せるヴォーカルとメロトロンもよし。
か細くも凛とした表情と色っぽくエレガントに沈む表情の落差に痺れっぱなしだ。
間奏では、幻想へと沈み込んでゆくアンサンブルが、ギターとオルガンにひっぱられて走り出す。
快感。
ロックでありジャジーなグルーヴもあり、それが独特の軽さを生んでいる。
山下毅雄の作品のイメージにきわめて近い。
エレクトリック・ギターのプレイは、テリー・キャスから荒っぽさを除いた感じか。
アラルサン作。
「Never Good At Sayin' Good-Bye」(3:05)
マイナーからメジャーへの転調が印象的な、正調英国ロック風のバラード。
CRESSIDA や AFFINITY を思い出して正解である。
エレ・アコ風のギターがつぶやくジャジーなオープニング。
密やかに鳴るオルガンとギターのアルペジオに支えられて、ヴォーカルもささやくように歌いだす。
マイナーな調子で始まり、オルガン・ロックらしいメジャーに転調するが、再び力強くマイナーなメロディを叩きつけて、メロトロンが一気にほとばしる。
内省的なギターのオブリガート。
この繰り返しのみであり、1 曲目と同じく、その落差に胸焦がす。
泣きのメロディとメロトロンがノスタルジックな感傷を呼びさますバラードの名品だ。
ガルラ作。
「Underground Session(Chorea)」(11:05)
ハードなギター、ジャジーなオルガンのプレイをふんだんに盛り込んだ、タイトルとおりセッション風のインストゥルメンタル大作。
オルガンとギターが響きわたるスケールの大きなオープニングから、ジャジーなインストゥルメンタルやヴォカリーズを経て、ギター・ソロへと突っ込んでゆく一大スペクタクルである。
ジャズロックから始まり、後半に向かうにしたがってヴォーカリーズやメロトロン・フルート、メロトロン・ストリングス、重厚なアンサンブルなどシンフォニックな響きが強まってくる。
前半では、オルガンとなめらかなギターによる緊迫感あるインタープレイが白眉であり、後半は、メロトロンとギターのヴァイオリン奏法による CAMEL 風のきわめて叙情的な演出が冴える。
ルーズなようでいて、全体が一つの大きなドラマになっているような感じもある。
終盤は、KING CRIMSON の名曲「Epitaph」にも匹敵する胸を熱くする演奏が続いてゆく。
アラルサン作。
「Old Dom Is Dead」(4:38)
祈りのように繰り返されるヴォーカルが印象的なフォーク・タッチのバラード。
枯れ果てたメロトロン・ストリングスとギターのハーモニーがゆるやかに、しかし確実に流れ続け、ヴォーカルを支える。
シンフォニックな熱気の高まる終盤は、ドラムスは乱れ打ち、ギターによる官能的なオブリガートがヴォーカルにからみつく。
アラルサン作。
「To Take Him Away」(7:02)
メロディアスなギターが冴えるシンフォニックかつアーシーなバラード。
アメリカン・ロック調でなかなかポップなメイン・パートから、ギター、メロトロン・ストリングスがとうとうと流れて、哀愁の裾野を広げてゆく。
落ちつき払ったミドルテンポ進行は、やはり「Epitaph」のイメージである。
オルガン、ストリングスが夜明けを告げる終盤は、目の前に雄大な景観が広がるような演奏である。
アラルサン作。
「Summer Is Yonder」(4:46)
幻想的でデリケートな英国ロック風のメロディアスな作品。
泣きそうなほどに哀感は強く、それでいて、空ろで醒めきったような視線もある。
「Metakara」(3:22)
オルガン、チェンバロ、ギターをフィーチュアしたジャジーなロック・インストゥルメンタル。
ギターは、鮮やかとしかいいようのないソロを軽やかに披露する。
後半は、ジャジーなオルガン・ソロ。
ギター、オルガンに応じて機敏に動くベースも見逃せない。
ガルラ作。
「Fraulein Kommen Sie Schlaffen Mit Mire」(0:32)
ギターと管楽器、オルガンによるリズミカルでユーモラスな民族音楽風の小品。
ガルラ作。
(POLYDOR 2393 030 / MUSEA FGBG 4003)
Jean-Pierre Alarcen | guitar, keyboards |
Francis Lockwood | keyboards on 5 |
Jean-Paul Asseline | keyboards on 1,2 |
Serge Millerat | percussion |
Claude Arini | keyboards on 4, orchestra direction 3,6 |
Michel Zacha | chorus on 4 |
Alain Rivet | chorus on 4 |
Gerard Cohen | bass |
Jean-Lou Besson | drums, percussion |
78 年発表の作品「Jean-Pierre Alarcen」。
SANDROSE のギタリスト、ジャン・ピエール・アラルサンによるソロ作品第一弾。
その内容は、ラテン・フレーヴァーあふれるロマンティックなジャズロックとモダン・クラシカル・テイストを表裏一体にまとめた個性的なものである。
パーカッションも加えたリズム・セクションの生み出す個性的なユニークなグルーヴをしたがえて、サンタナばりの熱く小気味のいいギターとニートなエレクトリック・ピアノが華やいだステージを繰り広げる。
また、中期 RETURN TO FOREVER 直系の、ギターとキーボードをフィーチュアしたスパニッシュ・テイストあふれる展開もある。
心地よいナチュラル・ディストーション・サウンドのギター、転がるようなエレクトリック・ピアノ、弾力あるベース・ライン、パーカッションを効かせたリズム・セクションらによる抑制された反復の多用とファンタジックなソロを組み上げた演奏は、このスタイルの典型であり、なおかつ、その典型における高水準を極めている。
そうかと思えば、ゆったりと深みのある空間に、あたかも現代人の心象のように空ろな表情の調べが響き渡る。
巧みな弦楽奏の挿入によって一気に別世界に引き込む。この手腕は鮮やかだ。(この手法をさらに推し進めたのが次回作だと思う)
ジャズロック・スタイルでも汗臭く、俗っぽくならないところに芸術のバックグラウンドの深さが見える。
また、アブストラクトなところやリフの反復、バーバリックなタッチといった近現代クラシック的なニュアンスに、MAGMA や SOFT MACHINE と共通するものを感じる。
そして何より最大の魅力は、歌わせ方を心得たギターのプレイである。
ロックギターのスタイルのままジャジーに歌ってもまったくぶれないところは、往年のジェク・ベックに通じる。
スキャット以外はインストゥルメンタル。
CD は次作アルバムとの 2in1。
「Sambaba」(6:56)RETURN TO FOREVER 風王道クロスオーヴァー。
「Salut Besson」(3:58)
「Mon Amour, Mon Amour...!?」(3:42)
「Nationale 20」(7:14)反復とファズ・ギター、シリアスさと軽妙さのブレンドなど、フュージョンではなく、カンタベリーのニュアンスの強い作品。
「Soir」(5:13)ギターとシンセサイザーが主役の憂愁のバラード。ギターはマクラフリン、ジェフ・ベック系を意識している様子。カール・ジェンキンズを洒脱にしたような、みごとなムーグ・シンセサイザーのソロは、ゲストのフランシス・ロックウッドによる。
「Vieux Garcon」(4:28)次作に直結する厳粛なキーボード管弦楽奏。
(ESC 371 / MUSEA FGBG 4407)
Philippe Leroux | drums, percussion |
Daniel Goyone | keyboards |
Jean-Pierre Alarcen | guitar, keyboards |
Gerard Cohen | bass |
Jean-Lou Besson | drums, percussion |
79 年発表の作品「Tableau N゜1」。
ギタリスト、ジャン・ピエール・アラルサンによるソロ作品第二弾。
内容は、ロング・トーンが美しいギターとストリングス系キーボードをフィーチュアした、きわめてクラシカルかつシリアスなシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
アルバムは、三つの楽章から構成されている。
ロマンティックながらも思弁的な管弦楽と燃え上がるようにダイナミックなジャズロックを巧みにつなぎ合わせた、ユニークな作品であり、THE ENID の諸作や イタリアン・ロックの名作群とともに、シンフォニック・ロックという奇妙なジャンルを代表する作品の一つである。
このエリアの音があまり多くないフレンチ・ロックだけに、本作品は PULSAR の第三作とともにシンフォニック・ロックのフランス代表といえるだろう。
フォーレやドビュッシー、果てはマーラーのような薄暗くも芳しき弦楽のうねりに、魂の震えのようなヴィヴラートを効かせたギターの調べが寄り添い、厳粛にして幽玄な世界が描き出されてゆく。
さらに、クラシカルなアンサンブルによる叙情的で高尚な表現とともに、前作でも見せたジャズロック的なスリルと熱気もたっぷりと盛り込まれている。
その様子は、まるで THE ENID に RETURN TO FOREVER が切り込んでゆく、いわば荘厳なキーボード・オーケストレーションとハードでスリリングなジャズロックの奇跡的な融合であり、GOBLIN を超えるカタルシスがある。
アラルサンはプレイヤーとしてのみならず、作曲者としての超一流であることがよく分かる。
そして、このオーセンティックなクラシカル、交響楽テイストと下世話なまでにテクニックを応酬するジャズロックの間を矛盾なく取り持つのが、不思議なほどイノセントな響きを持つファンタジックなサウンドのトーンである。
ここぞというタイミングでのアンサンブルの集中度合いや抑制力もみごとだが、筆致をフルに活かしきるための色調の選択にも入念な仕込が感じられる。
ダニエル・ギョーネというキーボーディストの鍵盤捌きもみごとというべきだろう。
何にせよ、音による「ドラマ」としての格調が段違いに高い。
それにしても、管弦をシミュレートするサウンドの感触がこれだけ THE ENID に似ているのは、使用キーボード類の機材が共通するせいだろうか。
全曲インストゥルメンタル。
卓越した演奏力と楽曲、サウンドの魅力が手を取り合ったクラシカルなインストゥルメンタル・ロックの大傑作である。オール・インストゥルメンタル。
作曲はアラルサン。
「Tableau N゜1 - Premier Mouvement」(15:42)力強いロマンチシズムとデリケートなファンタジーが織り合わされた作品。
アレンジまで THE ENID 風の傑作。
レガートなギター・プレイに鳥肌。静かで決然としたオプティミズム。エンディングのジャズロック的展開もカッコいい。
「Tableau N゜1 - Deuxieme Mouvement」(5:29)トラジックな緩徐楽章。鎮魂歌のように厳粛で神秘的、なおかつ美しいバラード。
「Tableau N゜1 - Troisieme Mouvement」(20:34)
序盤は、MAGMA や EL&P を思わせる、邪悪な攻撃性と不気味なパワーをはらんだ運動性にあふれる作品。中盤は神秘的なスペクタクル、第一楽章のテーマも華麗に回顧しつつ、重厚な演奏を繰り広げる。
(Scoppuzzle ZZ001 / MUSEA FGBG 4407)