アルゼンチンのプログレッシヴ・ロック・グループ「REDD」。77 年結成。81 年解散。2002 年に再結成。作品は三枚。
Juan Escalante | drums, keyboards, lead vocals |
Luiz Albornoz | guitars, voice |
Esteban Cerioni | bass voice, ARP string ensemble |
79 年発表のアルバム「Tristes Noticias Del Imperio」。
内容は、けたたましいドラムスとクリーントーンのギターの込み入ったプレイをフィーチュアしたアヴァンギャルドなシンフォニック・ロック。
技巧はさほどではないが、独特の緊迫感と乱調子、耽美な味わいが KING CRIMSON と共通する。
アルゼンチン・プログレに共通する優美なハイトーン・ヴォイスのヴォーカリストは、フォーキーなメロディの歌唱表現がうまくハーモニーも美しく決める。
アコースティック・ギターのアルペジオが緩やかに響く場面も多い。
にもかかわらず、この繊細なヴォーカルが無調風の奇妙な旋律を歌い、叙情的なメロディに突如として鋭角的で攻撃的な演奏が突き刺さる。
やたらとスネアをロールするうるさいドラムスから連想されるのは、元祖 KING CRIMSON フォロワーであるフランスの SHYLOCK や北欧の雄 TRETTIOARIGA KRIGET であり、それらをややおとなしくした感じというのが適切な喩えだろう。
HELDON 風の無機性や暴力性も見せるが、技巧も思い込みもそこまでではない。
ギタリストはいわゆるロックギターの語法ではなく、コード主体のリフやトレモロに近いプレイでテンションをあげ、分散和音の響きで緩衝域を作るアナーキーなスタイルである。
ちょうどロバート・フリップからヒステリックなロングトーンのアドリヴを取り除いたような感じだ。
コード・プレイにさまざまな工夫を凝らしている。
シンセサイザーは、要所で、生々しい電子音による抉り込むように強烈なアクセントをつける。
うっすらと流れ、時おり高まるストリングス・アンサンブルは、小気味よく音を刻むギターや手数の多いドラムスによる忙しない調子との均衡をタイミングよく取っている。
そして、空間を粘っこいうねりで満たすのはベースの役割だ。
ギターとの対位的なアンサンブルもトリオならではの技だ。
この、暗黒に頼りなく光点が漂うような景色は、フランスの PULSAR にも似ていないだろうか。
ただし、過激さは後半に向かうに連れて、アコースティックで穏かな表情へと変化してゆく。
かように、最小のトリオ編成でも、音の使い分けが巧みだとしっかりとドラマが作れるのである。
全体にシンプルなプレイを効果的に積み上げて明快な流れを作っており、音楽の質が演奏力をはるかに上回るという快挙を成し遂げている。
1 曲目の力作「Sad News From The Empire」はパワフルなリズム・セクションとギター・リフ、アルペジオだけで 10 分近くをしっかりもたせる。
また、4 曲目「Matinee」ではセンチメンタルな歌心をストレートに出したモダン・ジャズ調の作品も披露する。この作風はそのまま次作につながる。
なかなかほかに類を見ない個性派だと思います。
再発 CD では四曲のボーナス・トラックつき。CD は LP と曲順が大きく異なる。
余談。日本ではロックといえばハードロックだった。いろいろなロックがあることに多くの人が気づいたのは、もはや洋楽にこだわらない世代が出てきてからだ。
ハードロックにはお仕着せを振り捨てて魂のままに荒ぶるような力があった。
しかし、そういうところ自体が、戦うことすら怠けたい者にとっての格好の隠れ蓑になった。
僕がプログレに惹かれたのはハードロックとは違う何かがあると感じたからだ。
その何かは、いまだによくは分からないが、あらゆる安定感を拒んで突き進んだ果てにどうなるのかを示してくれそうなものであった。
異端の極みに生きるものの、最後の縁といってもいい。
「Tristes Noticias Del Imperio / Sad News From The Empire」(9:20)尖鋭的で攻撃的、なおかつ逸脱感も半端ないヘヴィ・シンフォニック・ロック。
緊張感あるリズム・セクションとヒステリックで破格なギターなど、KING CRIMSON の影響下の作風だろう。
ジャジーなヴォーカルは繊細な声ながらも空ろでニヒリスティックな響きがある。オリジナル LP では B 面二曲目。
「Kamala」(4:11)シンプルなテーマ、リフが生むサスペンスと抒情性がいい、美しいロック。
一曲目から攻撃性と虚無色を取り除いたようなイメージ。
キメどころのギターのアルペジオが「Epitaph」風。オリジナル LP では A 面三曲目。
インストゥルメンタル。
「Reyes En Guerra / Kings On War」(5:20)ジャジーだがなぜかギターだけガレージ調なバラード。
ストリングスを交えている。
少ない音で雰囲気を作り上げるギタリストのセンスたるや並みではない。
緩急、疎密の効果がドラマを綴る。
オリジナル LP では A 面一曲目。
「Matinee」(8:01)モダン・ジャズのブルーズ・フィーリングとフォーキーな幻想が一つになったアルゼンチン・ロックらしさあふれる歌もの。
佳作。
MARK-ALMOND や McDonald & Giles と同じアコースティックなアダルト・ファンタジーである。
後半、スライド・ギターやアコースティック・ピアノも登場。
オリジナル LP では B 面一曲目。
「Nocturno De Enero / Nocturne January」(3:30)ピアノ、アコースティック・ギター伴奏によるフォーキーなソフト・ロック。
ヘヴィな間奏のアクセントも効果的。
オリジナル LP では A 面四曲目。
「Parche Marmonico」(3:45)ボーナス・トラック。
「Kamala II」(4:07)アコースティック・ギターとキーボードのサウンド・エフェクトによる田園幻想風のインストゥルメンタル。
ニューエイジっぽい。オリジナル LP では A 面二曲目。
「Intro」(1:40)MC はスピネッタ。ボーナス・トラック。
「Despues De Un MesIntro」(4:20)ボーナス・トラック。
「Kamala III」(5:00)ボーナス・トラック。
(EGS - 1001 / PRW 036)
Oscar Imhoff | vocals |
Marco Pusineri | drums |
Juan "Pollo" Raffo | keyboards |
Luiz Albornoz | guitars |
Esteban Cerioni | bass, backing vocals |
96 年発表の第二作「Cuentos Del Subsuelo」。1980 年に録音されるも未発表にとどまり、CD として初めて発表された。
ドラムス、ヴォーカル担当のジュアン・エスカランテ脱退に伴い、グループは五人編成へと拡大する。
ドラムスの交代によって過激なスタイルはやや方向が変わり、全体としてはたおやかなヴォーカル(逸材!)をフィーチュアした薄暗いながらもシンフォニックな歌ものという印象が強まる。
もっとも、歪みの少ないギターの個性的なプレイによる攻撃的なアクセントや、無調風の奇妙なメロディはここでも積極的に取り入れられているし、奇妙なユーモアやシンセサイザーやファズ・ベースによる凶暴な音もある。
こういったアヴァンギャルドで硬派な音と、アコースティック・ピアノやストリングス、ハーモニーなどのメロディアスでファンタジックな音の対比を活かしたストーリーを、たおやかな声質による独特のコブシを効かせた歌がまとめあげている。
このヴォーカリストの歌唱は、アルゼンチン・ロックらしいデリケートな叙情性を一手に引き受けている。
全体を通して感じられるのは、謎めいた、神秘的な雰囲気である。
その個性を活かした、いわゆるプログレらしさも十分である。
演奏は前作よりも安定感があり、緊迫した表現や切々と訴える場面がよくなった。
性急でエキセントリックな表現をそのまま突きつけた前作を、よりなめらかに、整理した続編といえるだろう。
得意の夜更けのモダン・ジャズ風の場面も多い。
独特の無常感を基調としたシンフォニック・ロックの逸品である。
CD にはライヴ録音のボーナストラック三曲つき。
「Como La Esmeralda」(6:29)メロディアスでなよやかなヴォーカルをキレと重みのある演奏が支える歌ものシンフォニック・ロック。
「El Padre De Icaro」(6:40)ピアノをフィーチュアした密やかで厳かなバラードがスペイシーに広がってゆく神秘的なシンフォニック・ロック。
「Los Entretenimientos De Medianoche Del Profesor Frankenstein」(5:36)一転ブギー調の快調なロック。軽快なようで妙にグネグネしたギター・プレイやミステリアスな演出、奇天烈なダイアローグなど、一筋縄ではいかない。ライヴではシアトリカルな演出たっぷりだったのでは。(スリーヴ内のフランケンシュタイン博士のコスチュームをまとったステージ写真がある)
「El Asesino Sentimental」(8:38)アコースティック・ギターが加わったジャジーなアダルト・ロック・バラード。
アーバンなナイト・ミュージック風のニュアンスとともにフォーク・タッチがあるところ、そして間奏部での思いのほかヘヴィでアナーキーな器楽が特徴。
終盤に向けてブルーズ・フィーリングが前面に出る。佳作。
「Dedos Tristes」(7:35)1 曲目にアコースティックなニュアンスを加味した歌ものシンフォニック・ロック。
ギターらのジャジーにこなれたプレイによる AOR タッチに加えて、シンセサイザーや雷鳴のようなドラミングなど音楽的な幅が広く、スケールが大きい。
以下ボーナス・トラック。ライヴでもスペーシーでファンタジックな空気をしっかりと作っている。
「Reyes En Guerra」(5:22)結局、KING CRIMSON 風の器楽でヴォーカルはジョン・アンダーソンということなのか?
「Dedos Tristes」(9:45)エレクトリック・ピアノがジャズ風のニュアンスを出すもヘヴィなトゥッティがおおいかぶさる。耽美で劇的なシンフォニック・ロック。
MAHAVISHNU ORCHESTRA と異なる流儀のヘヴィ・ジャズロックともいえそうだ。
「Mantinée」(9:25)伸びやかなヴォーカルが前面にでるジャジーなバラード。
(PRW 037)