ノルウェーのプログレッシヴ・ロック・グループ「RUPHUS」。 70 年結成。81 年解散。作品は六枚。 パンチのあるヴォーカルを活かしたハードロックからジャズロックまで、時代の音に敏感に反応したセンスのいいサウンド。 初期はやや YES 似。本国よりも西ドイツで人気があったそうです。
Hans Petter Danielsen | guitar |
Kjell Larsen | guitar, flute |
Hakon Graf | organ, piano, bass |
Thor Bendiksen | percussion |
Asle Nilsen | bass, flute |
Gudny Aspaas | vocals |
Rune Sundby | vocals, acoustic guitar, sax |
73 年発表のアルバム「New Born Day」。
内容は、男女混声によるハイトーンのヴォーカル・ハーモニーとオルガンをフィーチュアしたハードロック。
ラウドなギター・リフがドライヴするハードロックを基調に、サイケデリック、アシッド・フォーク、R&B っぽさからリズムに現れるジャズ・テイストまで、きわめて雑多な雰囲気がある。
まさに、同時期か少し前の英国ロックそのものというべき音楽性志向である。
演奏面では、けたたましいギターとともに、敏捷にして存在感あるベース・ライン、フォーキーなメロディと色気のあるハーモニーなどが特徴的。
そして幅広い音楽性をもつキーボードの存在が決定打となっている。
さらに、フルートを用いたラウンジ/モンド/映画音楽調や、サックス、ヴァイブによるジャジーなアクセントもある。
「押し」「引き」の呼吸もよく、ハードロックの直線的な運動性に、しなやかな弾性とシンフォニックな余韻も加えている。
初期 DEEP PURPLE に端を発し、ATOMIC ROOSTER を経てイタリアン・ロックへと流れ込むヘヴィなオルガン・ロックもあり、全体として、シンフォニックなプログレとハードロックの中間くらいといえばいいかもしれない。
演奏がテクニカルな一方で、テーマとなるメロディはもろに R&B 調だったりポップス風だったり、分かりやすい。
ドラマティックというか、ベタな「泣き」もたっぷりある。
ごった煮風だが、場面ごとの表情はそれぞれかなり本格的であり、大所帯の音楽的な多面性を十分に生かしているというべきだろう。
ヴォーカル・ハーモニー、オルガン、積極的なベースらが、初期 YES を思わせるかと思えば、リフとトゥッティで攻め込むスタイルは、一転して DEEP PURPLE であり、さらには THE NICE を思わせるハードなオルガンのプレイもある。
その上、アコースティックで叙情的な音も巧みに使いこなしている。
70 年代初期の英国の音を受け止め、すばやく打ち返したようなみごとな内容です。
ヴォーカルは英語。
プロデュースはスタイン・ロベート・ルドヴィグセン。
「Coloured Dreams」(4:04)けたたましくソウルフルなハードロック。オルガン・ソロのスペースが広い。
「Scientific Ways」(5:59)サイケデリックなフォーク・ロック。
アコースティックなタッチが前曲と潔いコントラストをなす。
ギターがリードする、まるでくしゃくしゃに丸めた紙のようにパリパリとした手触りのアンサンブルが、YES っぽい。
エンディングのフルートとオルガンによるマジカルな広がりもいい。
若々しい感傷とひ弱なのに強がる姿勢が悪くない佳品。
「Still Alive」(4:35)ARTHUR BROWN か ATOMIC ROOSTER のような、60 年代テイストのヘヴィ・オルガン・ロック。
極端に前面に出るベース・ライン、そして、魔宴の賛美歌のようなスキャットと祈祷師っぽいヴォーカル。
ジャジーなヴァイヴ、サックスによるイージー・リスニング風の演出がおもしろい。
「The Man Who Started It All」(5:28)ピアノ、フルートをフィーチュアしたけたたましいブリティッシュ・ロック。
リズム・セクションに異常なまでの迫力がある。
パンチのあるヴォーカルと悩ましいスキャット・ハーモニー。
ワウ・ギターも参戦し、シャフル・ビートのアッパーなノリで突き進む。
「Trapped In A Game」(6:06)パワフルな女性ヴォーカルが歌いこみ、管楽器が重厚に守り立てるバラード。
カルメン・マキを思い出す。
チャーチ・オルガンが荘厳に轟く演出に息を呑む。
最後の最後まで凝ったアレンジで導く。
「New Born Day」(5:43)力強いリフ、ワイルドなオルガンがほとばしるシャフル・ビートのヘヴィ・チューン。
「Day After Tomorrow」(8:47)ハードなオルガンと雄々しくもリリカルな歌が交錯するバラード。
オープニングのパーカッションを効かせたオルガンがカッコいい。
ギターは思い切りワウ。
EL&P に迫る。
「Flying Dutchman Fantasy」(3:08)ボーナス・トラック。
ムーグも用いておりコーラス、ベースは YES に酷似。
「Opening Theme」(3:18)ボーナス・トラック。
ノリノリのテーマとオルガンが THE NICE 風。
インストゥルメンタル。
(PANCD 012)
Rune Ostdahl | vocals |
Kjell Larsen | guitar |
Hakon Graf | keyboards |
Asle Nilsen | bass, flute |
Thor Bendiksen | percussion |
74 年発表のアルバム「Ranshart」
ギタリストの脱退やヴォーカリスト交代など、若干のメンバー変更あり。
それとともに、音質はヘヴィさよりも弾力性と瑞々しさが顕著になり、メロトロンも加わって一気にシンフォニックに変化。
はっきりいって「YES 化」である。
シンプルかつ口当たりのいいリフやリッケンバッカー・ベース、クランチなギターのプレイ、奥行きと厚みを生むキーボードのコンビネーションなど、ややアメリカナイズされた初期 YES といった感じである。
翳のある声質ながらも、どこかアッケラカンとしたツイン・ヴォーカルも、英国よりはアメリカに近いだろう。
おそらく、誰しもが冒頭のギター一発で「わ、YES」と思うはずだが、ファルセットのスキャットがハーモニーで入ってくると、いよいよもって YES である。
本家ほどはドラムスに切れ味がないのが残念だが、まとまりのある小気味のいいアンサンブルは、かなりの健闘といえるだろう。
一方、アコースティック・ギターのアルペジオが訥々と語り始めると、すっかりふつうのフォーク・ロックになってしまう。
そういう落差もおもしろい。
YES を思い浮かべると純正プログレ・ファン向きの作品になってしまうが、デリカシーのあるポップスと思って聴けば、そういうよさもちゃんと感じられる。
かなりの傑作ではないだろうか。
フルートをフィーチュアした 4 曲目の大作は、哀愁あるクラシカルなアンサンブルの中で後のファンキー路線をも示唆する、充実したインストゥルメンタル。
ヴォーカルは英語。
「Love Is My Light」(6:12)
「Easy Lovers, Heavy Moaners」(4:37)ギターのアルペジオ伴奏によるおだやかな歌、そして湧き上がるメロトロンとなめらかなムーグ。
スティーヴィ・ワンダーのバラードを思わせる小洒落た感じが懐かしい。
「Fallen Wonders」(5:51)
「Pictures Of A Day」(8:30)
「Back Side」(8:10)
(PACD 017)
Hakon Graf | keyboards |
Asle Nilsen | bass, flute |
Gudny Aspaas | vocals |
Thor Bendiksen | percussion |
Kjell Larsen | guitar |
76 年発表のアルバム「Let Your Light Shine」。
第一作の女性ヴォーカリストが復帰。
内容は、なんとギターとムーグ・シンセサイザー、エレクトリック・ピアノをつかった典型的ジャズロック/フュージョン。
RETURN TO FOREVER や MAHAVISHNU ORCHESTRA からカンタベリーへとつながった王道サウンド路線の上にある。
ほんのりファンキーで突っ込み気味の演奏と女性のスキャット(ソプラノというよりもコントラルトか)がなんとも懐かしい。
ハードロック、YES 風プログレと時代の音を追いかけてきて、またもや流行の音へと転身したわけである。
恐るべきは、これだけ大きな変化を遂げたにもかかわらず、演奏が堂に入っていることである。
キーボーディストを中心に元々演奏力のあるグループなのだろう。
スリリングに疾走する場面のみならず、リリカルなフルートとアコースティック・ピアノ(特にバッキングの音がいい)によるファンタジックで叙情的な場面もそつなくこなしている。
ムーグ・シンセサイザーのスピーディなピッチ・ベンドや渦を巻きながら星の尾を引くストリングス・アンサンブル、位相系のギター・エフェクトなど、スペイシーでシンフォニックな味つけも完璧。
明快なプレイと歯切れのいい音でサウンドの輪郭をくっきりとさせているギターの存在も大きい。
全体としてはファンタジーの香りのするジャズロックの逸品である。
スネアの緩いドラムスがちょっと気になりますが。
プロデュースはテリエ・リプダル。
リプダルは一部でシンセサイザーも演奏している。
「Sha ba Wah」(7:19)ファンキーなスキャットで押し捲る快速チューン。スペイシーなキーボードに酔える。ギターも小気味いい。
「Nordlys」(1:45)
「Corner」(4:21)北欧の FOCUS というべきポップで愛らしいインストゥルメンタル。ドラム・フィルが少しうるさい。
「Second Corner」(6:35)小ぶりなチック・コリア RETURN TO FOREVER。どことはいえない不思議な異国情趣あり。
「Let Your Light Shine」(8:16)イケイケで力の入ったタイトル・チューン。フローラ・ピュリムばりのヴォーカルあり。シンセサイザーが強烈。
「Grasse」(1:50)
「Brain Boogie」(9:54)
(BRAIN 0060031)
Thor Bendiksen | drums |
Sylvi Lillegaard | vocals |
Kjell Larsen | guitar |
Asle Nilsen | bass |
Jan Simonsen | keyboards |
guest: | |
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Svein Hansen | percussion on 2,3 |
77 年発表のアルバム「Inner Voice」。
内容は、パンチのある新女性ヴォーカリスト、新キーボードディストによるピアノを軸としたファンキーかつスペイシーなジャズロック。
作曲の要であったハコン・グラーフが脱退し、作曲は主にギタリストが担当している。
曲調は、前作よりもテクニカルな鼻っ柱の強さをぐいぐい見せつける感じが減り、より R&B っぽくグルーヴィ、時にメローな方向へとシフトした。
ヴォーカルは荒っぽいアネゴ肌で、舌足らずなフローラ・ピュリム路線から黒っぽいソウル・スタイルまで芸風が広い(もともと民謡系だった人が無理やりロック畑に入ってきた感あり)。
そこへエレクトリック・ピアノとくればフュージョン・スタイルの典型だが、ナチュラル・ディストーションでソリッドなプレイを見せるギターが素朴で力強いアクセントになって、ステレオタイプ化しない歯止めとして働いている。
全体に、ヴォーカルとともにソウル、ファンクに寄ったかと思うと、さらりとジャジーなアドリヴに切りかえたり、ハードなギターでグサッとエッジをかけたり、シンセサイザーの効果音とともに宇宙に旅立ったりと、「どうしてもはみ出したい癖」が強いと思う。
B 面では位相系エフェクトのギターのアルペジオやシンセサイザーが可憐なプレイを見せて、よりファンタジックな曲調になっている。
ファンキーでメローでも都会的な洒脱さや汗臭さは希薄で、どこか素朴なところも特徴だろう。
また、前作でフルートらで見せていたようなメランコリックな面はあまり感じられない。
リラックスして楽しめる、クインシー・ジョーンズやスティーヴィ・ワンダーばりのファンキーかつファンタジックなフュージョン・ポップスの好作品。
ヴォーカルは英語。
プロデュースはテリエ・リプダル。
「Inner Voice」(4:07)
「Come Into View」(6:45)
「No Deal」(7:11)
「Too Late」(5:16)
「Within The Walls」(6:26)
「Left Behind」(6:10)
(BRAIN 60.060)
Thor Bendiksen | drums |
Sylvi Lillegaard | vocals |
Kjell Larsen | guitar |
Asle Nilsen | bass |
Jan Simonsen | keyboards |
guest: | |
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Trond Villa | violin on 5 |
78 年発表のアルバム「Flying Colour」。
内容は、ほぼ前作を踏襲したファンキーでクール、しかしどこか垢抜けないジャズロック。
ムーディで都会的な面とサイケデリックなスペース感覚、フォーク感覚が無節操に交じり合っている。
78 年にしては、クロスオーヴァー風のやや古めかしい音であり、あまりほかでは見られない作風だ。
ギターやヴォーカルの骨太なタッチにはハードロッカーとしての出自も透けて見える。
女性ヴォーカリストはスキャットを多用するもブラジリアンやジャズ・ヴォーカルにはなり切れない、グルーピー上がりの蓮っ葉なロック姐ちゃんである。(逆にソウルフルな歌唱表現はうまい)
この整理され得ないゴチャゴチャ感は CURVED AIR に近いかもしれない。
最終 7 曲目は三部構成の組曲。デメオラばりのアコースティック・ギター・ソロあり。ここだけは RETURN TO FOREVER を追いかけようとした気概が感じられる。
プロデュースはグループ。
(POLYDOR 2382 085 / PACD 034)