イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「SKIN ALLEY」。 68 年結成。73 年解散。作品は四枚。二作目から元 ATOMIC ROOSTER のニック・グラハムが参加。 管楽器、オルガンをフィーチュアしたジャジーでひなびた英国ロック。
Krzysztof Henryk Justkiewicz | organ, harpsichord, mellotron, vocals |
Thomas Crimble | bass, mellotron, vocals |
Bob James | guitar, alto sax, flute, vocals |
Alvin Pope | drums, congas, timpani |
69 年発表のアルバム「Skin Alley」。
内容は、フルート、サックスをフィーチュアしたサイケデリックでやや垢抜けないジャズロック。
管楽器に加えて、オルガン、メロトロンも準主役を担う。
とりわけオルガンは、コクのあるソロとバッキングで全編演奏を支えている。
メロトロンは、第二曲のような圧倒的なアクセントとして機能している。
一方ギターは、管楽器奏者の余技に過ぎないようであり、オブリガートをセンスよく決めるが、ソロは 1 曲目でスペースを取るのみで全体としてはさほど大きな活躍はしない。
リズム・セクションはパーカッションも含めて R&B らしい逞しい躍動感があり、主となるメロディとメロディを取り巻く演奏にはフォーキーな哀愁や翳のある叙情味が強い。
若気ゆえの憂鬱、感傷、奇矯な幻想趣味は、CRESSIDA や TONTON MACOUTE、あるいは MIDDLE EARTH レーベルの諸作品と共通する。
作風に「サイケデリック」という形容詞がつく理由は、全体をおおうけだるさとゆっくりと渦を巻くような曲調のためである。
このけだるさは、はるか 50 年代のモダン・ジャズからこだましているもののようだ。
いずれにせよ、クラブの紫煙の狭間から聴こえてくる音ということだ。
小刻みなハイハットとともに大胆な変拍子で走りながらサックスやフルートがエネルギッシュなリードを取る。
その一方で、あまりに切なくメランコリックなメロディがささやき、オルガンがそれを受け止め、メロトロン・ストリングスがゴーっと渦を巻く。
ヴォーカルは複数の担当がいるようだが、すべて気弱で空ろな表情のままに、オルガンや管楽器に寄り添われながらひたひたと物語を綴ってゆく。
とにもかくにも、英国ロック特有のダウナーでマジカルなムードが堪能できる佳作である。
アコースティック感覚というか、イナカ風味が特徴か。
プロデュースは THE PRETTY THINGS のディック・テイラー。
「Living in Sin」(4:39)パーカッションを用いた快調なビートで進むアフロ気味のジャズロック。
ギターやサックスのソロをフィーチュアする。
フルートが走る素っ頓狂な「お囃子」オープニング、メイン・テーマにはなかなかのインパクトあり。
ゴツゴツした演奏と対比するようにヴォーカルはなめらかでクールだ。
「Tell Me」(4:40)
オルガンの野趣とほとばしるメロトロンの叙情味、ジャジーなクールネス、センチメンタルなポップ・テイストが混然となったバラード。
名曲。
すがりつくように切ないメイン・ヴォーカル。
B メロのささやかな救いもいい。
間奏部のくぐもったオルガンと枯れたメロトロンの響きにノックアウト。
「Mother Please Help Your Child」(4:13)
朗読のようなヴォーカルがたどるクラシカルで重厚、謎めいたかと思えば妙に感傷的にもなるバラード。
CRESSIDA に似てます。
厳かなオルガン、トラジックなフルートの調べ、雷鳴のように轟くティンパニ、異教の儀式のようなコーラス。
「Marsha」(7:24)
変拍子の上でピート・バーデンスを思わせるオルガンが暴れ回る最初期 CAMEL 風の作品。
サイケデリック・ロックからプログレへと進まんとする道筋にある。
オルガン、サックスが奔放なソロを取る。インストゥルメンタル。
「Country Aire」(2:15)フルートとハープシコードによるルネサンス音楽風アレンジの重奏。
クラシカルな愛らしさはドイツ・ロマン主義に通じ、ドラムスが加わってモダン・ジャズ風味が出ると、MYTHOS を連想させる。
「All Alone」(8:19)スローで呪術めいたサイケデリック・ジャズロック。
あまりにけだるい、というかほぼ虚脱状態。
遠いサイレンのようなサックス、ひんやりとしたタッチのオルガン・ソロがいい。
「Night Time」(5:39)
小さい秋を見つけたフルートのさえずりがリードし、ピアノが跳ね、メロトロンの毒気が染み出るジャジーなビートロック。
感傷あふれるヴォーカル・ハーモニーに胸を打たれる。
後半のピアノがリードするモダン・ジャズ・コンボへの変貌も自然でいい。
メランコリックだが躍動感もある、いかにも英国ロックらしい作品です。
「Concerto Grosso(Take Heed)」(0:29)「合奏協奏曲」というタイトルのチェンバロ独奏。埋め草。
「(Going Down The)Highway」(4:20)12 小節進行のブルーズ・ロック。
オーヴァーダブされたサックスのアドリヴがおもしろい。
オルガンはワイルドだが比較的オーソドックスなソロ。
(CBS 63847 / AACD 017)
Krzysztof Henryk Justkiewicz | organ, trumpet, piano |
Thomas Crimble | bass, harmonica, vocals |
Bob James | guitar, soprano & alto & baritone sax, flute, vocals |
Alvin Pope | drums, percussion |
Nick Graham | vocals on 3, 5 |
70 年発表のアルバム「To Pagham And Beyond」。
作風は前作と大きくは変わらず、ギターよりもフルートやサックスが活躍するジャジーなロックである。
アーティスティックなスタンスは端々から感じられ、表現は前作よりもパワーアップされなおかつ洗練されている。
サウンドはアコースティックな印象が強く、ジャズ的なアドリヴに傾倒しながらもヴォーカルやテーマはフォーキーである。
挑戦的な変拍子のリフも健在だ。
ただし、メロディアスなタッチは後退し、より多彩で奔放な器楽演奏が拡大されている。
前作ではメロディやアレンジによって引き締められていた「演奏志向」が解放されたといってもいい。
2 曲目では変拍子のリフの上でピアノやサックスが SOFT MACHINE にも目を見張らせそうなほどインパクトのあるアドリヴを繰り広げる。
英国風の叙情味がアメリカンなパンチの効きに置き換えられたと感じさせる場面もある。
キーボーディストもトランペットも携え、ときに分厚いブラス・セクションを構成している。
3 曲目は COLOSSEUM も取り上げたグラハム・ボンドの名曲。
トーマス・クランブルの脱退に伴いグループに正式加入するニック・グラハムがソウルフルなヴォーカルを披露する。
オルガン、管楽器のバックアップは本家よりもぐっと俗っぽくアメリカっぽい(シングルトーンがブライアン・オーガー風でもある)が、それはそれで悪くない。
グラハムは 5 曲目でもヴォーカルを務めている。個人的にはこの 5 曲目のスタイルの方が「向き」だと思う。
4 曲目はギクシャクした演奏がこのグループの個性であると気づかせてくれる佳作。アヴァンギャルドなセンスに雄々しいロマンチシズムが漂う。
意外なまでにみごとなピアノの演奏に象徴されるように、芸術性を感じさせる作品だ。
アルバム後半、あまりにジャジーに拡散してしまうため評価は分かれそうだ。
最終曲のクラシカルなオルガンの響きも、ドゥワップ調を英国へと引き戻すにはやや手遅れに感じられる。
プロデュースは売れっ子フリッツ・フライヤー。
「Big Brother Is Watching You」(6:41)
「Take Me To Your Leaders Daughter」(8:47)
「Walking In The Park」(6:41)
「Th Queen Of Bad Intentions」(6:47)
「Sweaty Betty」(8:04)
「Easy To Lie」(5:16)
(CBS 64140)
Krzysztof Justkiewicz | organ, piano, electric piano, accordion |
Bob James | guitars, alto sax, flute, vocals |
Tony Night | drums, percussion, backing vocals |
Nick Graham | bass, piano, electric piano, flute, vocals |
72 年発表のアルバム「Two Quid Deal?」。
よく方向の分からないユーモアを放つジャケットとは裏腹に、グルーヴも叙情性も果敢なチャレンジも一級の芳醇な英国ジャズロック作品である。
一作目よりもはるかに垢抜け、二作目よりもぐっと演奏の手綱を締めている。
さりげない変拍子やクールなリズム・チェンジ、リズム楽器としてのギターの冴え、凝ったリズムを包むポップなメロディ・ライン、そして何より、ソロのスペースを大きめに取ったインストゥルメンタルの割合が高いわりには、プレイそのものよりも多彩な音色を活かしたアレンジに力を注いだことが功を奏していると思う。
ギターががっつりと演奏をリードするところが特にいい。
ワイルドなオルガン・ソロはもちろんカッコいいが、このギター独特のヒステリックな凶暴さがないと演奏に輪郭と締まりがなくなってしまう。
もちろんニック・グラハムの細いしゃがれ声もいい。
フォーキーな叙情性と枯れた米国回帰のスワンプ・テイストはこの作品の大きな特徴の一つであり、それを担うのが彼のヴォーカルである。
フルート、サックスなど管楽器、そしてアコーディオン(!)のアクセントも抜群である。
個人的には、デイヴ・ローソンの SAMURAI との共通性を感じている。
7 曲目「Skin Valley Serenade」のラウンジ、イージー・リスニング、映画音楽風味は個人的にたまらないツボです。
最終曲「Sun Music」は名作。
プロデュースはフリッツ・フライヤー。本作が米国南部のソウル・ミュージック・レーベル STAX の目にとまり、米国ツアーも行った模様。
ESOTERIC からの CD にはボーナス・トラック 2 曲、「You Got Me Danglin'」と「Sun Music」(エディット・ヴァージョン)が付く。
「Nick's Seven」(5:00)
「So Many People」(6:07)
「Bad Words And Evil People」(6:13)
「Graveyard Shuffle」(4:45)味わいあるスワンプなバラード。
「So Glad」(5:23)ジャジーでソウルフルなグルーヴの文脈での意外すぎるアコーディオン・ソロに思わず頬が緩む。
「A Final Coat」(5:00)
「Skin Valley Serenade」(3:40)
「The Demagogue」(5:16)
「Sun Music」(5:00)
「You Got Me Danglin'」(3:21)CD ボーナス・トラック。シングル A 面。
「Sun Music」(4:49)CD ボーナス・トラック。「Glastonbury Version」。
(TRA 260 / ECLEC 2244)