フランスのプログレッシヴ・ロック・グループ「SPHEROE」。72 年結成。79 年解散。作品は二枚。COBRA レーベル。RETURN TO FOREVER、BRAND X 系の技巧的かつハードなジャズロック。残念ながらアメリカ進出を黙殺された模様。 COBRA レーベル。
Michel PEREZ | guitars, guitar-synthesizer |
Gerard MAIMONE | piano, Fender Rhodes, Micro-moog, Korg synth, string-ensemble, vibe, marimba |
Patrick GAREL | drums, percussion, keyboards |
Rido BAYONNE | bass, percussion |
guest: | |
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Alain MAZET | bass on 2 |
75 年発表のアルバム「Spheroe」。
内容は、RETURN TO FOREVER や BRAND X、MAHAVISHNU ORCHESTRA 影響下の安定したテクニックを誇るジャズロック。
エキゾチズムも利用した魅力的なテーマによる全体演奏と、跳ねるようなリフの上で技巧的なユニゾンやソロをフィーチュアする、典型的なスタイルである。
演奏は、ナチュラル・ディストーション・ギター、ロース・ピアノとシンセサイザー、音数の多い軽めのリズム・セクションらによる、硬軟のバランスがとれたものだ。
リズム・パターン、テンポ、曲調など、かなり思い切った過激な展開を見せるが、場面ごとに示されるイメージが明快であり自然についてゆける。
ギターはジャズ的なプレイではなく、あくまでハードなロック・スタイル。
テーマ、ユニゾンを野性味あふれる強引なまでの力技で引っ張ってゆくのは、このギターである。
キーボードは、ローズ・ピアノを主にムーグ・シンセサイザーやストリングスも巧みに使い、メロディアスでロマンティックな場面を悠々とリードしている。
ソロも軽快だ。
全体に、かなりの水準のジャズロック・アルバムと思う。
また、フランスのグループにもかかわらず、フリージャズに重量感と凶暴性を持ち込んだいわゆるフレンチ・ジャズロックではなく、メイン・ストリームに接近したスタイルであるところもおもしろい。
この点は、北欧のジャズロック・グループに近いセンスを感じる。
個人的には、ISOTOPE の作品や本作のような、荒々しいサウンドとキャッチーなメロディのコンビネーションが生むグルーヴに魅せられることはしばしばある。
フュージョンという名の下の「洗練」がいま一つ好みではないのだ。
結論、クールで熱気にあふれ、なおかつ知的なジャズロックの佳作である。
全編インストゥルメンタル。
プロデュースは、パトリック・ガレル、デニス・ブラズィエル。
「Black Hill Samba」(12:00)RETURN TO FOREVER プラス SANTANA 調のスパニッシュ・テイストあるテーマが印象的な名作。ワイルドな音で開放的なイメージを描いている。荒々しさを思い切り出して小気味よく走るギターと比べるとキーボーディストはシンセサイザー(軽い音は Korg か)を使いこなし切れていない感じがする。
「Contine」(2:48)アコースティック・ギター、ヴァイブ、エレピ、ベースによる密やかなアンサンブル。
「Vendredo Au Golf Drouit」(6:20)序盤薄味で心配になるが、ノイジーで重量感あるシンセサイザーとワイルドなギターが現れる辺りから一気に弾ける。
「Chattanooga」(12:50)メローなタッチと切れのよさがうまくブレンドした傑作。
「Pu Ping Song」(6:00)
「Deconnection」(3:10)性急でパラノイアック。プログレらしい怪しさあふれる小品。
「Ballade For Wendy」(1:37)ヴァイブ、ギターらによるドラムレスのバラード小品。埋め草風ではあるが悪くない。
(COBRA 37006 / MUSEA FGBG4214.AR)
Michel PEREZ | guitars, guitar-synthesizer |
Gerard MAIMONE | Yamaha CP-70 & CP-30, Fender Rhodes, Mini & Micro-moog, ARP string-ensemble, Jommond organ C-3, vibe |
Patrick GAREL | drums, keyboards |
Rido BAYONNE | bass |
78 年発表のアルバム「Primadonna」。
鋭く攻撃的なテクニックの応酬をライトなファンク色やメロディアスでメローな表現が包むジャズロックの佳作。
全体的に、グルーヴィなリズムを強調し、優しげなサウンドや冴えたテーマもあって、前作よりもキャッチーな印象が強まる。
スラップも用いるベース、音数を惜しまずギリギリのプレイでキレを増したドラムスなど、リズム・セクションがかなりがんばっている。
RETURN TO FOREVER から Herbie Hancock へ移行したというといいすぎか。
興味深いのは、ギタリストが、ナチュラル・ディストーションでベンディングをぐいぐい使うスタイルにとどまらず、ギター・シンセサイザーも使った、よりジャジーでリズムを強調した表現も取り入れているところだ。
ロマンティックにテーマを歌う役割は、ギターとキーボーディストが分け合い、それぞれに豊かなエモーションを伝えている。
キーボーディストは、シンセサイザーを多用して、多彩な音色でいいフレーズを紡いでいる。
前作で散見されたややチープなサウンドは払拭されている。
アルバム後半にギターのいい曲が増える気がする。
全体に「フュージョン」タッチが出てきて、メイン・ストリーム向けとなってきているのは確かだが、完全に売れ線狙いで吹っ切れているかといえば、そうでもない。
奇抜過ぎるリズム・チェンジや攻撃性が、たしかにある。
そして、きわめて意外なことに、大人な音楽のようでいて、非常に感傷的な叙情性があり、恥らうようにそれをにじませている。
(KRAAN もこういうところがあり、彼らは照れ隠しなのか、あえてバカっぽく演出していた)
いっそヴォーカルが入れば、とも思うが、そうすると後期の BRAND X のようになってしまうおそれがある。
下品なジョークらしきジャケットと同じく、音楽そのものも、受けるかどうかの微妙な加減にある。
また、一作目から方向をやや変化させているため、もう一作あったらどうだったのだろうと思わせる内容でもあります。
プロデュースは、パトリック・ガレル。
「Hep Deliler Bisi Bulur」(4:17)
「Janata Express」(3:26)
「Primadonna」(5:13)センチメンタルなメロディがいい佳作。
「Cocorido」(3:30)
「Karin Song」(2:36)テーマがなかなかロマンティック。
「Arlecchino」(7:57)
「Chiaroscuro」(2:16)コリア/デメオラとまではいかないが、シンセサイザーが小気味いい小品。
「Jeff」(4:50)前作のノリそのままの濃密なギター・ジャズロック。センチメンタルなリフ、応えるベースがカッコいい。
「Matin Rouge」(3:10)
「Violet」(1:22)
(COBRA 37018 / MUSEA FGBG4249.AR)