セルヴィアのプログレッシヴ・ロック・グループ「TAKO」。 75 年結成。 グループ名は「This Way」の意。 作品は二枚。 サウンドは、PINK FLOYD の影響色濃いスペイシーなシンフォニック・ロック。 当時流行のジャズ・フュージョンらしさも若干あり。 東欧の言葉の響きに独特な憂鬱さと暗い曲調はツボにはまるとこたえられない。
Dusan Cucuz | bass, vocals |
Dorde Ilijin | keyboards, flute, harp |
Miroslav Dukic | guitar, vocals |
Slobodan Felekatovic | drums |
78 年発表の第一作「Tako」。
内容は、ブルージーなギターがリードするダークな面とジャジーな躍動感を併せ持つ、個性的なシンフォニック・ロック。
全体的には、ギター、キーボード、音数の多いドラムスによる落ちつきあるアンサンブルに、深淵でこだまするようなヴォーカルが絡んでゆく、暗い作風だ。
ところが、ぐっと圧しつけられたように沈んだ調子から、突如ファンキーに跳ね上がるところが、ユニークである。
ギターは、ギルモア風のうねるような調子でリードするかと思えば、曲によってはマクラフリンばりのプレイも放つ。
ストリングス・シンセサイザーが渦を巻き、ギターが絶叫すると、PULSAR と同じく闇夜に咲いた大輪の花のような PINK FLOYD 的側面が強まる。
しかし、ひとたびリズムが跳ねてテンポ・アップすると、ジャジーなエレトリック・ピアノとともに、一転ジャズロック調になる。
こういう合わせ技は、なかなか珍しいのではないだろうか。
もう少しでジャズロックといってしまいそうになるが、テーマとなる旋律やアンサンブルのイメージは、やはりクラシカルであり、シンフォニックである。
さらに、思い切りメランコリックで泣き泣きのフルートが、いいアクセントになっている。(5 曲目の JETHRO TULL ばりのトーキング・フルートは、ちょっとやり過ぎのような気もするが)
メロディに現れるこの暗い感じは、この地方特有のフォークロアなのだろうか。
最終曲は、このグループの作風の集大成というべき 16 分にわたる暗黒幻想曲。
ハードロックとトーキング・フルート、クラシカルな力強さとサイケな漂遊感、中世教会風の厳かなムードと繊細で耽美な語り口、そしてジャズロックまでが激しい奔流となって流れてゆく。
全体のイメージは PULSAR の大作に近い。
展開は強引だが独特の美しさは確かにある。
地味だが聴きこみに耐える作品だろう。
「Probudi Se(Wake Up)」(4:48)ギターのフレージングが「狂ったダイアモンド」を思わせる PINK FLOYD 調の暗いヴォーカル・ナンバー。
8 分の 6 拍子特有の緊張感と躍動感あり。
「Sinteza(Synthesis)」(4:55)エレクトリック・ピアノが活躍するジャズロック調のシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
つややかなシンセサイザーや泣きのギターが冴える。
「Utapanje Sunceve Svetlosti U Pescanu Memoriju(Merging Of Sunlight Into The Memory Of Sand)」(6:35)再び、テクニカルなアンサンブルが疾走するヘヴィなシンフォニック・ジャズロック。
ギターをフィーチュアし、中盤にはエモーショナルなヴォーカルも現われる。
「Lena(Lena)」(4:43)リリカルなピアノに導かれる哀愁のインストゥルメンタル・バラード。
ストリングス・シンセサイザーによる幻想的な響きの中、ギターが泣き捲くりフルートがさえずる。
情感あふれる作品だ。
「Lena」は女性の名前か。
「Minijatura(Miniature)」(2:55)多重録音と思われるフルートのデュオ。
リズム・セクション以外はフルートのみ。
古楽風から中盤、ややファンキーに曲調を変化させ JETHRO TULL 風のトーキング・スタイルを見せる。
「Druga Strana Mene(Second Side Of Me)」(16:28)8 分の 9 拍子のヘヴィなギター・リフがドライヴするオープニング。
重厚なシンセサイザーとあでやかなフルート、そしてメタリックなギター。
ハードロック風だが、テクニカルな決めを見せシンフォニックな余韻も残す。
元祖プログレ・メタルという感じである。
続いて、ジャジーなエレクトリック・ピアノの伴奏で、ギターがエモーショナルに歌い上げる。
ここでは、フルートが表情豊かに切々と歌う。
そして背景は、メロトロン。
シンセサイザーがテーマを提示し続いてゆく。
哀愁とともに雄大な広がりも生まれる。
ギターとメロトロンが天上から降臨するが如く、鮮やかに出現。
再び、ミドル・テンポで切々と歌い上げる。
ギター、シンセサイザーが重なりあいながらテーマを繰り返す。
チャーチ・オルガンとギターによる重厚な交歓、そして、エレクトリック・ピアノとギターによるクラシカルなデュオ。
バッハを思わせる切ないセレナーデである。
再びチャーチ・オルガンとギターが呼応する。
一転ヘヴィなベースの挑発とハードロック風のギターの出現。
やがて、ジャジーなエレクトリック・ピアノに煽られるようにギターも走り出す。
テクニカルなユニゾン。
再びメロトロンによる古の夢語りのような演奏。
フルートが静かに重なり無常感をいや増す。
哀感を秘めたシンフォニーである。
一転たたみかけるヘヴィなギター・リフとエレクトリック・ピアノのリフが絡みあい、ドラムスとともに挑発しあう。
重苦しいユニゾンを決め、叩きつける和音の開放から、重厚なメロトロンとの呼応を経てエンディングへ。
劇的な場面展開をもつ超大作。
全編インストゥルメンタル。
「Put Na Jug(Journey To The South)」(3:42)ボーナス・トラック。
ワウ・ギターとエレクトリック・ピアノをフィーチュアしたジャズロック。
中盤に暗いヴォーカル・パートをもつ。
放埓さと陰鬱なところが一つになった、このグループの音楽のエッセンスを詰め込んだような小品。
(RSLN 009)
Dusan Cucuz | bass |
Dorde Ilijin | keyboards, flute, harp |
Miroslav Dukic | guitar |
Slobodan Felekatovic | drums |
80 年発表の第二作「U Vreci Za Spavanje(In The Sleeping Bag)」。
さまざまなメンバー間の確執を乗り越えて製作された、労作のようだ。
今回はヴォーカルを廃し、オール・インストで迫っている。
全体に、ミドル・テンポで刻みつけるように静々と進み、要所でズシンと爆発する重苦しい作風である。
前作と同じく、シンセサイザーやギターなど、随所に PINK FLOYD 的なプレイがある。
冒頭にほとばしるシンセサイザーは、「Wish You Were Here」そのもの。
ギタリストは、非常に現代的なプレイを見せる使い手であり、ジャズ/フュージョン的な演奏もこなす。
キーボードとのせめぎあいは、FERMATA にも似た迫力だ。
「U Vreci Za Spavanje(In The Sleeping Bag)」(6:00)
メタリックなシンセサイザーとフォーク・タッチのフルートがフィーチュアされた重厚な作品。
オープニングでは、すべてを圧するようなシンセサイザーがほとばしり、PINK FLOYD と同じく現代的な不安や空疎感を無言のうちに訴えかけてくる。
ヘヴィなギターの和音やドラムス、荒果てたフルートも救済の望みがない世界のイメージを強烈に突きつけてくる。
PINK FLOYD プラス SOLARIS。
「Senke Proslosti(Shadow Of The Past) 」(5:51)
もがくような 16 分の 6+6+5 拍子の不安定なリフを繰り出す暴力的なギターと、神経を逆なでするようなシンセサイザーらが、狂った人形のように踊りつづけるヘヴィ・ロック。
混乱して煮えたぎる精神が、その血を沸き立たせるようなサウンドだ。
そして、アコースティック・ギターと凍るようなシンセサイザーで、その熱気を一瞬で冷ます手腕がみごと。
テクニカルにして重苦しいソロを経て、無機的なビートの下、冷ややかなシンセサイザーが、すべてを凍らせるように音を張り巡らせる。
クラシカルでシンフォニックな高まりと蠢動する暗黒のパワーが同居したヘヴィ・チューンだ。
CRIMSON です。
「Na Putu Ka Sebi(On The Voyage Into Oneself)」(5:04)たたみかけるような全体演奏から重いスロー・パートへと進むジャズロック風のナンバー。
全編ギターがリードする。
テクニカルなユニゾンによるイントロに続いて突っ走るギター。
バッキングは CRIMSON を思わせる凶暴なリフ。
一転静かなピアノ伴奏でギターが切々と歌いはじめ、鎮魂歌のような暗い演奏を経て狂おしい乱舞へ飛び込む。
シンセサイザーは、ここでもリック・ライトを思わせる垂れ込めた暗雲のようなストリングス・サウンドであり、その上をか細いオルガンがすべってゆく。
再び、粘りつくようにメロディを刻むギター。
救いのないままフェード・アウトしてゆく。
「Horde Mira(Hords Of Peace)」(5:04)ボーナス・トラック。
ストリングス・シンセサイザー、テクニカルなギターなどこのグループの特徴を満載した佳作。
あまり重苦しくなくドライヴ感も聴きやすさもある。
「Price O Leni(Stroy About Lena)」(9:54)エキゾチックなピアノの和音によるリフをヘヴィなギターが受けとめるオープニング。
ハードロック調のギター・リフに今度は広がりあるストリングスとピアノが重なり、シンフォニックなハードロックといった趣の演奏となる。
噛みつくような挑発的な演奏を、ストリングスのうねりが抑えている。
ストリングスとギターの絡みは、再び、エキゾチックなリフへとまとまり、今度は金管を思わせるムーグがリードする。
フェイザーを強めにかけた演奏が、独特のサイケなうねりをもつ。
ギターを軸とした細かいリフとシンフォニックなキーボードがいいコントラストだ。
4 分 30 秒あたりでは、再びフルートを思わせるシンセサイザーが、ヘヴィな演奏の上を軽やかに流れてゆく。
かなりエキゾチックなメロディだ。
再びシンフォニックなキーボード、ギターで演奏をたて直し、ピアノとムーグのリードするややジャジーな演奏へ。
CAMEL の「Lady Fantasie」を思わせる展開だ。
ハードロック・ギターのリードで、たたみかけるような演奏がスタート。
8 分の 7 拍子のリフでピアノ・ソロ。
ライド・シンバルがカッコいい。
ここのピアノのリフもエキゾチックである。
いつのまにか、ギターが主導権を握るも、最後は、やはり細かなフレーズと高鳴るキーボードが交錯するスリリングな全体演奏へ。
キーボードが大幅にフィーチュアされた幻想大作。
ハードロック的なギターとシンフォニックなキーボードが絶妙の呼吸でせめぎあうテーマとソロをはさみ、緩みのないスリリングな演奏が続いてゆく。
「Dolina Leptira(Valley Of Butterflies)」(5:27)ピアノ、メロディアスなギターによるロマンティックなナンバー。
寂しげなピアノ伴奏と中近東系の旋律をうねるように歌わせるギター。
ギターに続くはシンセサイザーのリリカルなプレイ。
しかし、リズムがしっかり 8 分の 7 拍子である。
前曲でも触れたが、メロディアスなシーンでは CAMEL に似た感じもある。
エキゾチックな旋律が用いられる本曲ではなおそういう思いが強くなる。
「Izgubljeno Nista(Nothing Lost)」(3:58)ボーナス・トラック。
「Igra Devojcice(Game Of A Little Girl)」(2:32)
全編を貫く暗さと絶望的な雰囲気、そしてエキゾチズム。
暗闇を照らそうかというシンセサイザーの響きと、それを引裂こうかというギターの響きが交錯し、あたかも悪夢のなかを彷徨い続けるような焦燥感と息苦しさがある。
いわば、絶望の淵に立ち尽くすシンフォニック・ロック。
深淵へ向けてエネルギーを迸らせるヘヴィなギターと、重く厳しく迫るシンセサイザーは、異郷の地でやがて耳慣れぬ祈りと化してゆく。
この暗さに耐えてこそ、そこから物語を読み取ることができるのだろう。
東欧シンフォニック・ロックの傑作の一つ。
(RSLN 010)
Dorde Ilijin | flute, recorder, harmonica, bass synth, string synth, organ, acoustic guitar |
Vladimir Furduj | drums |
83 年発表のアルバム「Zabranjeno Prisluskivanje(Eavesdropping Forbidden)」。
TAKO のキーボーディストのソロ作品。
暗く悲劇的なロマンティシズムをたたえた、内省的な作風である。
ストリングス・シンセサイザー、ピアノを多用し、切々と歌い上げる曲調が主。
それでいて情感に流されずストイック。
キーボード中心ながらバンド演奏の切れもいい。
シンフォニックな作品からブルーズ・ロックまで、コンパクトななかにしっかりとドラマを作り上げている。
中盤のファンキーな曲でも渋みが強く、ブルージーというのともまた異なるヨーロッパ然とした憂いがあるのだ。
ピアノやチェロ、木管によるクラシカルな哀愁に加え、フルートやアコースティック・ギターの生む素朴なペーソスもいい。
コーラスやシンセサイザーに漂うニューエイジ風味は、いかにも 80 年代初頭風。
地味ですが個人的には好きな世界です。
ドラムスは KORNELYANS (KORNI GRUPA)のメンバー。
ボーナス・トラック 4 曲。
(MMP 426)