イギリスのジャズロック・グループ「TITUS GROAN」。 69 年結成。 グループ名はマーヴィン・ピークのアダルト・ファンタジー「Gormengahst」から。 DAWN レーベルに残した唯一作は、管楽器をフィーチュアした 70 年代初期の典型的ジャズロック。 2010 年秋の ESOTERIC RECORDS からの再発は久々にボーナス・トラック 3 曲付きだそうです。
Stuart Cowell | guitars, organ, piano |
Tony Priestland | saxes, flute, oboe |
John Lee | bass |
Jim Toomey | drums, percussion |
70 年発表の唯一のアルバム「Titus Groan」。
内容は、トニー・プリーストランドの管楽器をフィーチュアした初期のジャズロック。
R&B に強く影響された 60 年代ビート・サウンドと、サックス、フルート、オーボエまでを動員した正統的なジャズ・プレイを基調に、ブルーズ・ロック、カントリー、フォーク・テイストまでも盛り込んだ贅沢なサウンドである。
この盛り込み過ぎの胸焼け感が実にプログレらしい。
演奏は、パワフルにして安定したリズム・セクションを軸にがっちりまとまっており、メンバーのキャリアや素養がうかがわれる。
特に目立つのは、オーボエの音色だが、ロック・バンドでこの楽器を用いるのは珍しい。
他には、NUCLEUS のカール・ジェンキンスと HENRY COW のリンゼイ・クーパーくらいしか思い当たらない。
荒削りなギターやリズムのワイルドさを、ふくよかな音色の管楽器、オルガン、ビート風コーラス、アメリカンなメロディ・ラインで和らげてバランスをとり、全体に荒々しくも躍動的でキャッチーな曲調に仕上げている。
ワイルドなのに泥臭さがなく粋であり、あっけらかんとしたオーボエの響きはちょっとユーモラスですらある。
また、フォーク・タッチのアコースティックかつメランコリックな味つけも、ていねいに施されている。
よく聴けば、ギターもリズム・セクションも健闘している(ドラムスのプレイは多彩であり、ベーシストは敏捷にしてツボをおさえた達人)ことに気がつくが、やはりヘヴィな音とバランスするメロディアスな管楽器とコーラスあっての作品だろう。
とっ散らかっていて焦点が絞れていないという声もあるやもしれないが、「焦点の絞られていなさ」はプログレの醍醐味の一つである。(はたから見るとまったく絞れていない焦点がじつは誰も知らない世界に向けて絞られていたりするからさらに面白い。気づくかどうかは別として)
別の見方をすれば、歌を中心に 60 年代風味が強く残るにもかかわらず、管楽器を中心とした器楽の充実が表現の幅を広げているともいえるだろう。
ジャケットやグループ名からは、渋いブリティッシュ・ロックというイメージが浮かぶかもしれないが、実はとても華やいだ熱気の感じられる作品である。
インストゥルメンタルの充実した大曲と、さわやかなアメリカ風ヴォーカル・ハーモニーのバランスも取れた傑作といえるでしょう。
プロデュースはバリー・マレイ。
なお、ベーシストのジョン・リーは、ELEVENTH HOUSE の「あの」ジョン・リー。
本作後渡米し、フュージョン界の名士となるとの由。
「It Wasn't For You」(5:31)
ギター、サックスのユニゾンによる素っ頓狂でブルージーなテーマをさまざまな音色で彩ったヘヴィ・チューン。
男臭いヴォーカルとパンチのあるサックスを軸に、オルガン、ピアノ、ギターがユニゾン、ハーモニー、バッキングにぜいたくに散りばめられている。
これだけブルージーでもブルーズ・ロックというくくりに収まらないのは、その芳醇な音色とキレのあるドラミングなど表現力あふれる器楽のせいである。
EAST OF EDEN からエキゾチズムと極端なサイケデリック・テイストを取り去った感じに近い。
「Hall Of Bright Carvings」(11:36)
1) Theme、2) In The Dusty High Vaulted Hall、3) The Burning、4) Theme の 4 部から構成される大作。
演奏力と構成力を遺憾なく発揮した充実の快作であり、最後まで一気に聴き通すことができる。
トラッド風のユーモアとペーソスをはらむテーマから、スリリングな場面展開を繰り返し、リズミカルに突き進むヘヴィ・ロックへと変貌する。
オーボエの雅な音やフルートの侘しげな音が、随所でいいアクセントとなる。
中盤からはビート風の幻想的なコーラスが湧き上がる。
クールで投げやりな熱気にさらにエネルギーを注ぎ込むのは、やはり管楽器である。
リズム・セクションの手数もけっこうなものだ。
ギターを大きくフィーチュアした中盤を経て、終盤、リズムは鋭くたたみかけるような調子に変化し、クラシカルともジャジーともいえない、実に微妙なオーボエ・ソロがフィーチュアされる。
ここからのベースの俊敏さには目を見張るものあり。
他のメンバーの丹念にして軽やかなプレイと比べると、ギターの分が悪いように感じてしまうのは、技量というよりもジャズとロックの表現の微妙な差異によるのだろう。
ギターがバッキングに回り、管楽器がリードする全体演奏のほうが、まとまりはいい。
改めて、この器楽アンサンブルの充実が本作品の特徴であると気づかされる。
「I Can't Change」(5:43)
フルートをフィーチュアした哀愁のバラードがねじれてゆくプログレッシヴな作品。
メランコリックなフルートに導かれるのは、ハードロック・バンドのアルバムによくあるような男臭くも泣きの入ったヴォーカルである。
沈み込むように刻まれるアコースティック・ギターのアルペジオ、サビの勢いあるストローク、繰り返しではオルガンがヴォーカルを厳かに支える。
突如、ギター/フルート・リフがけたたましく飛び込んで雰囲気とリズムを一変させる。
イタリアン・ロックを思わせる、破綻スレスレの大胆な展開だ。
そして再び、スライド・ギターとともにウエストコースト風に変化。
ヴォーカルもギターのストロークも、さえずるフルートもすっかり爽やかな響きになる。
終盤は一気にテンポ・アップし、粘っこいヴォーカルとフルートによるスリリングな演奏を経て、最後はフルートとスキャットが軽快に走る。
タイトルとは裏腹に、キャッチーなパーツを大胆につなぎ合わせ、唐突に次々と雰囲気を変転させてゆく野心作。
「It's All Up With Us」(6:06)
メロディアスなサックスと切ないヴォーカル・ハーモニーが印象的なアメリカン・ロック風の作品。
前曲でも一瞬現れた西海岸風のデリケートなメロディ・和音を思い出したかのように取り上げ、エレクトリック・ピアノなどによるお洒落なジャズ風味を加えている。
追いかけハーモニーが一段落すると、サックスのリードするアンサンブルが次第に力を蓄えて、加速してゆく。
ギターのアドリヴも合流し、演奏の密度が高まって盛り上がる。
この、一気に集中する演奏がなんともカッコいい。
勢いがついても荒々しくならず、密度の上昇とともにスリルも高まる演奏が最後の一分間を充実させる。
ナチュラルな曲想で勝負した名曲。
何気ないオブリガートに、70 年とは思えない洗練度合いを感じる。
イタリアン・ロックの牧歌調に通じるところもあるのは、アメリカへの憧憬を表現したときのローカルな訛りが似ているということだろう。
「Fuschia」(6:16)
サイケ/ビート風味たっぷりの英国フォークロックの佳品。
ヴォーカル・ハーモニーやシタールを思わせるエレキギターなど 60 年代風の表現を盛り込みつつ、ルーズさの対極にあるようなキレのある演奏を貫いている。
こういう音なのに、たるまずビシッと筋が通っていて、なおかつ幻想的な余韻もあるところが特徴だと思う。
ライド・シンバル、バスドラの音やギターにからむベース・ラインをしっかりとららえたい。
フルートは珍しく中低音で抑えを効かせている。
ヘヴィなギターの弾きまくりが下品にならないのは、安定したハーモニーとシャープなリズムのおかげ。
89 年の See For Miles からの CD には、日本盤などの他の盤とは異なり、オリジナル・アルバム未収録の三作品がボーナス・トラックとして付いている。
(DNLS 3012 / VICP-60930)