アメリカのギタリスト「Larry Coryell」。 70 年代中盤に ELEVENTH HOUSE を結成し、クロスオーヴァー/フュージョン・サウンドを究める。 マクラフリンに比べるとプレイは豪快一直線であり、一方でクラシックへの傾倒も強い。 エレキギターのサウンドやタッチがイギリスの異端ギタリスト、クリス・スペディングによく似ていると思うのはわたしだけでしょうか。(逆か?)
Larry Coryell | guitars | ||
John McLaughlin | guitars | Chick Corea | electric piano |
Miroslav Vitous | bass | Billy Cobham | drums |
70 年発表のアルバム「Spaces」。
マイルス・スクール出身で後にフュージョン会の名士となる面々をオーガナイズしたスーパーバンドによる作品。
サイケデリックな内容ではあるが、ジャケットのイメージほどではなく、ニューロックを意識しつつもモダン・ジャズ側のスリルやロマンチシズムに寄った内容である。
それが悪いということではない。
コール・レスポンス、インタープレイの緊張感はなかなかすごいし、ニューエイジ・ミュージックの先取りのように映像喚起的で色彩感がある。
コリエルは細かなパッセージを刻み込むジャズ・ギター的なプレイを中心にしつつも、時おり無骨なベンディングやへヴィな音も交えて破裂しそうなテンションで突っ走る。
このテンションと熱気がロカビリーやロックンロール、サイケデリック・ロックとシンクロしたところに、後の ELEVENTH HOUSE が生れたのであろう。
ヴィトウスはスコット・ラファロばりのランニングのみならず、アコースティック・ベースのスピーディなボウイングなどテクニカルなプレイで前に出てくる。
コブハムも、ジャズを基調としつつ、タイミングを見ては容赦のない 8 ビートとパンパンなオカズで攻め立てる。
コリエルとマクラフリンの息詰まる攻守、ヴィトウスとコリエルの自由奔放なやり取りが見ものの作品である。
プロデュースはダニエル・ヴァイス。
「Spaces (Infinite)」(9:16)
最初のギター・ソロはコリエル、
5:00 辺りからのソロはマクラフリンか。(この人のエレクトリック・ギターは何より美音である)
幕開けなど要所でインパクトのあるベースのボウイングが現れる。
自然発生的ながらもベースのキメ・フレーズなど作曲された部分もありそうなジャズ風ロック。
「Rene's Theme」(4:06)アコースティック・ギターによるスーパー・デュオ。
最初は、アドリヴがマクラフリン、忙しなく省略コードを刻むのがコリエル。その後はごちゃごちゃ。
「Gloria's Step」(4:29)ビル・エヴァンス・トリオの名演で有名な作品。ギター、ベース、ドラムスのトリオ。
ピアノのテーマをギターとベースのボウイングで分け合う。骨太で力任せな感じが個性か。
「Wrong Is Right」(9:00)わりと "トラディショナル" なモダン・ジャズ。ギターはエレクトリック。
「Chris」(9:31)コリアのエレクトリック・ピアノをフィーチュアした幻想的な作品。
ギターがからむ前のほうが雰囲気はよかった。しかし、このギターによる世界の調和の破断が本アルバムの特徴である。
「New Year's Day In Los Angeles - 1968」(0:20)
(VMD79345-2)
Larry Coryell | guitar |
Randy Brecker | trumpet |
Alphonse Mouzon | percussion |
Mike Mandel | piano, synthesizer |
Danny Trifan | bass |
74 年発表のアルバム「Introducing The Eleventh House With Larry Coryell」。
内容は、MAHAVISHNU ORCHESTRA に対抗したといって間違いない、気概あるハードなジャズロックである。
主役は、無茶なリズム隊とともに暴れる豪腕ギターであり、さらに特徴的なのは、トランペットやキーボードのプレイなどを中心に、ライトなファンキーさがあるところだ。
エレクトリック・マイルス路線を仰ぎつつも、他の直系グループにやや出遅れた分を、ポップで雑食的な音楽性でカヴァーするような印象もある。
そのファンキー・テイストは、ハンコックのような煮えたぎるファンクネスとは異なる、軽やかでリズミカルな調子であり、アメリカンなこだわりのなさが感じられる。
この頃流行った黒人映画(シャフトとかスーパーフライとかね)のテーマのようなイメージもある。
ギターは、ヘヴィ・ゲージの武骨なジャズ・ギタリストが、そのまま爆音ハードロックへのめり込んだようなプレイ。
超速ピッキングの速弾きはまだしも、ワウを駆使したソロやフェイズシフタ系のエフェクトを用いたバッキングなど、ジャズ・プレイヤーにしては大人気なくておもしろい。
さらに圧巻は、「手数王」アルフォンソ・ムザーンの遠慮会釈のないドラミング。
一方、どうしてもマイルスに聴こえてしまうトランペットは、濃厚にしてスペイシーなサウンド作りに寄与している。
キーボードは、クレジットに加えてクラヴィネット、ローズ・ピアノなど、クロスオーヴァーの主役というべき楽器が用いられている。
アクセントとしての効果と、適材適所を心得たセンスあるプレイである。
THE BEATLES のフレーズが飛び出すところなど、英国ジャズロック・シーンと同じユーモアと無邪気さがあるし、ひょっとすると中国語を思わせる曲のタイトルなども、MAHAVISHNU ORCHESTRA のインド指向へのくすぐりなのかもしれない。
こんなコメントをして、キワモノ的なイメージを抱かれると困るので言を改めますが、スピーディなユニゾンやダイナミックな変拍子アンサンブル、インパクトあるソロなど、ジャズロックとしてはやはり別格の内容といえるでしょう。
そして、コンパクトな楽曲にキャッチーなテーマがあるのもうれしい。
ギターのタイプを考えると、BRAND X よりは ISOTOPE のファンへお薦め。
プロデュースはダニー・ワイス。
「Birdfingers」(3:07)超絶ユニゾンで迫る強烈な作品。
「The Funky Waltz」(5:10)
「Low-Lee-Tah」(4:17)
「Adam Smasher」(4:30)変拍子テーマが冴える名曲。
「Joy Ride」(6:08)ライトでメローなフュージョン・ナンバー。
シンセサイザーがカッコいい。
「Yin」(6:03)トランペット、ギター、ノイジーなシンセサイザーをフィーチュアした疾走型ジャズロック。
地面が沸立つようなドラミングにあおられて、突っ込み気味のインタープレイが続く。
痛快。
「Theme For A Dream」(3:26)初期 WEATHER REPORT 的な瞑想的で美しい作品。
「Gratitude "A So Low"」(3:21)エレアコ・ギターによるソロ。
ジャズというよりは、7th 系やアウト・スケールを多用したモダンなクラシック・ギターというべきかもしれない(同じことか)。
マニアックなところでは英国人作家ウォルトンの「五つのバガテル」に通じます。
「Ism-Ejercicio」(3:59)ファンクにしてサイケそしてアヴァンギャルドなヘヴィ・ロック。
ここでも現代音楽的な素養を感じさせる。
ヘヴィなブギーを、身悶えるようなトランペットと挑戦的なシンセサイザーが貫く。
「Right On Y'all」(4:21)
(VSDA-79342 / VMD 79342)
Larry Coryell | guitar |
Michael Lawrence | trumpet, flugelhorn |
Alphonse Mouzon | percussion |
Mike Mandel | keyboards |
John Lee | bass |
Steve Kahn | 12 string guitar on 1 |
75 年発表のアルバム「Level One」。
内容は、前作と同じ路線のハードでファンキーでキャッチーなジャズロック。
コンパクトな楽曲にハイ・テンションのプレイを詰め込んだ、キレのある作品である。
ベーシストは名手ジョン・リーに交代。
トランペッターもマイケル・ローレンスに交代しているが、ブレッカーとほとんど芸風が変わらない。
ギターやドラムスに代表されるように音もプレイもワイルドでありハードロック的な重量感もあるが、そのわりには、「フュージョン」といってもさほど違和感がない。
これは、常にノリノリでリラックスしているからだろう。
軋むような緊張や物憂い表情はなく、とにかくデカイ音でガツンとぶちかまそうぜ!というロケンローな姿勢が感じられる。
ハードロックやロカビリーのような「頭悪い」音楽を卓越したスキルで演じている、という感じもある。
5 曲目のようにひたすら馬鹿ウルサい曲(ドラムスが大爆発)があるのもうれしい。
そして、テーマはあくまでもキャッチーで、メローな表情は恥ずかしげなくベタである。
管楽器が先導して盛り上がるとほとんど歌謡曲のバッキングになるのだ。
全体としては、ファンキーでイケイケのグルーヴの随所に鋭いプレイの刺激を散りばめた、楽しめる作品といえる。
1 曲目のタイトル・チューン「Level One」は、ギターのアルペジオやテーマに MAHAVISHNU ORCHESTRA への意識が感じられるもリラックスした小品。さりげなく変拍子。
2 曲目「The Other Slide」は、スリリングにしてグルーヴィなジャズロックの傑作。
トランペット・ソロをフィーチュア。
ギター・ソロもスペイシーでカッコいい。あまりロック・ギターらしくはないが。それにしてもドラムスがうるさい。
3 曲目「Diedra」は、愛らしくファンタジック、なおかつほんのり官能的なメロー・バラード。これ以上カマトトぶると気持ち悪くなるぎりぎりのところ。シンセサイザーがもうちょっといい音だとよかった。
4 曲目「Some Greasy Stuff」は、DIXIE DREGS を思わせる開放的なロケンロー・フュージョン。
のびのびしたブラスがいい。
5 曲目「Nyctaphobia」は、前述したとおり、へヴィで大仰でアグレッシヴなテクニカル・チューン。痛快。プログレとしての醍醐味あり。
旧 B 面 1 曲目の組曲「Suite」は RETURN TO FOREVER に匹敵するドラマのある名品。
エフェクトによる演出の利き、フリューゲル・ホーンの音がいい。
緩急自在のクルージングの快感あり。
実は RTF のイメージはラテン風のテーマやサウンドに由り、内容そのものはほぼプログレ。
B 面 2 曲目「Eyes Of Love」は、アコースティック・ギター独奏。モダン・クラシック調。
B 面 3 曲目「Struttin' With Sunshine」は、スペイシーでメリケンなロカビリー。馬鹿っぽいが音はぜいたく。
最終曲「That's The Joint」は、腰の据わったヘヴィ・チューン。
奔放なプレイを密度高く詰め込んだ傑作だ。
コリエルは、ロックに傾倒しながらもなぜかストラトキャスター系の音はあまり使わない。
生音に近い「きれいな」音が好みのようだ。
また、現代音楽風のギター独奏も盛り込んでちょっとアカデミックに迫っちゃう辺りも微笑ましい。
プロデュースは、リー・リトナーも手がけるスキップ・ドリンクウォーター。(本名か?)
(Arista AL 4052 / WOU 4052)
Larry Coryell | guitars | ||
Terumasa Hino | trumpet, flugelhorn | Randy Brecker | trumpet |
Mike Brecker | tenor saxophone | Dave Sanborn | alto saxophone |
Gerry Brown | drums | Mike Mandel | keyboards, synthesizer |
John Lee | bass | Mtume | percussion |
Danny Toan | rhythm guitars | Steve Kahn | acoustic guitar |
76 年発表のアルバム「Aspects」。
ELEVENTH HOUSE の最終作。
内容は、ハードなギターをフィーチュアしたファンキーなジャズロック/フュージョン。
管楽器セクション(なんと BRECKER BROTHERS そのものである)を拡充するとともに、ヘヴィ・ファンク調と油っこいソウル・テイストを強めている。
パワフルな管楽器と独特の垢抜けなさのあるヘヴィなディストーション/ワウ・ギターのコンビネーションというこのグループの特質は、本アルバムでも十分に現れている。
リズム・セクションはリー/ブラウンの名コンビであり、シャープで攻撃的かつ洗練されたプレイを放っている。
パーカッションを加えた細かく弾力に富むリズムである。
コリエルは得意のロック・ギターを伸び伸びと弾き捲くっている。
テルマサ・ヒノも参加。
プロデュースはランドール・E・ブレッカー。
(AL 4077 / BVCJ-37352)
Larry Coryell | guitars |
Alphonse Mouzon | drums |
Philip Catherine | guitars |
John Lee | bass |
Cheryl P.Alexander | background vocals |
Tawatha Agee | background vocals |
77 年発表のアルバム「Back Together Again」。
コリエル、ムーザンの再コンビ作。
内容は、どうしてもハードロックやソウル・ミュージックがやりたいジャズ・ミュージシャンによるジャズロック。
技巧のあるプレイヤーが、何かが吹っ切れたせいか、突然やりたい放題やってしまった。
無理やり喩えると、スティーヴ・モースのバンドをより荒々しく節操なくした感じである。
キーボードレスでギターがどーんと主役を張る豪快な作風であり、ドラムスも大暴れである。
コリエルのプレイは、天晴れ、ジャズ・ギターの片鱗を留めていない。
ムーザンのドラムスは、うまいのかへたなのかよくわからないが、うるさいことだけは確かである。おまけにヴォーカルも取っている。
さらに、セカンド・ギターには、ヨーロッパの名手、フィリップ・カテリン、ベースも名人、ジョン・リーという贅沢すぎる布陣。
この二人が参加してこれだけ品がなくなるのだから、残り二人の度外れ具合がわかるというものである。
そして、ここまでコワれたのだからそのまま終わるのかと思ったら、最終曲のアコースティック・ギター・ソロではやはりハードロックにとどまらない只ならぬテクニシャンぶりを発揮している。
この作品は、フュージョンとしても極上。
プロデュースは、ラリー・コリエルとアルフォンソ・ムーザン。
「Beneath The Earth」(2:58)
「The Phonse」(3:43)
「Transvested Express」(3:49)カテリン作曲の快作。凄まじくも切れ味がいい。
「Crystallization」(3:17)
「Rock 'N' Roll Lovers」(4:02)
「Get On Up (We Gonna Boogie)」(2:49)
「Reconciliation」(2:30)
「Back Together Again」(3:07)
「Mr. C」(3:28)
「High Love」(5:49)
(Atlantic SD 18220 / WOU 8220)
Michael Mantler | trumpet |
Larry Coryell | guitars |
Carla Bley | piano, synthesizer, tenor saxophone |
Steve Swallow | bass |
Tony Williams | drums |
78 年発表のアルバム「Movies」。
フリージャズの異才マイケル・マントラーのリーダー・アルバムである。
内容は、ポップなメロディ・ラインやフレーズを使って、いかにフリージャズの逸脱感とモードジャズのクールさと現代音楽的アカデミズムをすべて打ち出すかを試しているようなエレクトリック・ジャズ、ジャズロック。
マントラーの朴訥で誠実な暖かさのあるトランペットが実験色を哀愁の響きで包み込んで、メローでスリリングでちょっとばかりエキセントリック、といい感じに仕上げている。
時は 70 年代後半、ポピュラリティを確保した「フュージョン」をどう取り込むかについて各ジャンルで検討が行われていた。
この作品は、おそらくフリージャズからのアプローチの一つである。
(もっとも、SOFT MACHINE を聴いていた耳には、大胆な変拍子ですら「何を今更」という感じがしなくもない)
BEATLES とフリージャズの薫陶を受けた 70 年代初頭の英国ジャズロックに近い世界といってもいいだろう。
コリエルは、ゲストとして、短いながらも過激なプレイを数多く放っている。
素のままにロケンローすると浮きそうなので、この人は多少作曲で抑えを利かされていた方がいい演奏をするようだ。
全体としては、マントラー氏の作品らしくオーケストラ的でありなおかつユルめな音楽だが、作曲の冴えとプレイヤーの力量がシンクロした場面では思わず目を見張る。
トニー・ウィリアムスの表情あるドラミング、アンサンブルの音の疎密の絶妙のバランス、リードとサポートのなめらかな交差などはみごとである。
6 曲目はトランペットとシンセサイザーのやりとりがプログレ的な快感を呼覚ます妙作。
特に、最終曲は中期 KING CRIMSON 的な傑作。
CD は 80 年の続編「More Movies」(こちらのギタリストは、フィリップ・カテリン)とのカップリング。
ジャケット写真はその CD のもの。
プロデュースは、カーラ・ブレイ。
NUCLEUS やキース・ティペットやマイク・ウエストブルックのジャズ・オーケストラのファンにはお薦め。
「Movie One」(3:37)
「Movie Two」(5:28)
「Movie Three」(3:47)
「Movie Four」(5:56)
「Movie Five」(3:19)
「Movie Six」(3:40)
「Movie Seven」(5:54)
「Movie Eight」(5:52)
(WATT 7/10 543 377-2)