UNO

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「UNO」。 OSANNA 解散時に、ダニロ・ルスティチとエリオ・ダーナがコラード・ロッシのグループのドラマー、エンゾ・ヴァリチェリを迎えて結成したグループ。 アルバム録音のための渡英を機会に、インターナショナルな方向へと動きを見せた。 変則トリオによるライヴ活動の困難さから、ダニロの弟コラード・ルスティチを加入させ、やがてグループはジャズロック色を強くし、NOVA へとつながってゆく。 また、同時に OSANNA 再編も行われる。

 Uno
 
Danilo Rustici vocals, electric & acoustic guitar, bass pedal, strings pedal, moog, piano
Elio D'Anna tenor & baritone & alto & soprano saxophone, flute, strings pedal
Enzo Vallicelli drums, bell, musical box

  74 年発表のアルバム「Uno」。 OSANNA の頭脳である二人の天才ミュージシャンによる、英国メインストリーム・プログレッシヴ・ロックへの挑戦である。 英国トライデント・スタジオ録音。 7 曲中 4 曲が英語で歌われる。 英詞は PINK FLOYD 関連の N.J.セグウィックが担当し、さらに最終曲では名作「Dark Side Of The Moon」に参加した女性ヴォーカル、リザ・ストライクのヴォカリーズを聴くこともできる。 さらに、エンジニアとして BRAND XGONG のプロデュースも行ったデニス・マッケイが参加するなど、力の入った作品になっている。
  内容は、OSANNA の毒気をやや抑えたブリティッシュ・スタイルのハードなプログレッシヴ・ロック。 ダーナのフルートとサックスが鮮やかな光沢を放ち、ナチュラルな英語のヴォーカルは、メランコリーの底にしなやかな生命力を感じさせる。 ヘヴィながらもすべてが華麗な色彩と情感を湛えているのも、この管楽器とヴォーカルのおかげだろう。 特に、サックスのプレイは、OSANNA の場合と同じく、ヴォーカルに匹敵する妖艶な表現力をもっている。 とりわけ、ソプラノ・サックスの官能的な響きが鮮烈だ。 また、管弦を独特な音でシミュレートするムーグ・シンセサイザーの音も、サウンドに浮遊感と広がりを付与している。 そして忘れてならないのは、実は大半の曲に現われる、アコースティック・ギターである。 歌メロもフォーク・タッチといえるものが多く、アコースティックで透明感のあるサウンドが湛えるリリシズムは、本作の大きな特徴だろう。 また、すべての曲で、二曲分を一つにまとめてしまったように大きな曲調の変化をみせる辺りにも、ふつうの曲では我慢できない先鋭的なアーティスト気質が感じられる。
  特に 1 曲目の渋い色合いのシンフォニーや、5 曲目から 6 曲目への展開は歌心、ダイナミクス、迫力どれをとってもすばらしい。 あえて指摘するならば、英語によるナンバーがイタリア語でのナンバーに比べるとこなれておらず、借り物めいていることくらいだろう。 英国の憂愁とイタリアの官能をもっと細やかにブレンドできれば、アルバムを通した流れが感じられたに違いない。 しかしながら、英国ロックの傍系としては出色のでき映えである。 プロデュースはコラード・バッチェリ。 ブリティッシュ・ロック・ファンには絶対お薦め。

  「Right Place」(5:40)神秘的なフルートが舞うアコースティックなヴォーカル・パートから、ムーグによるシンフォニックなサビへと登りつめてゆく劇的なナンバー。 ヴォーカルは、泣きのブルーズ・タッチからコラール風の朗唱まで表情が変化する。 サックスのジャジーなアクセントもよし。 アシッドなギター・ソロも現われる。 アコースティック・ギターのコード・ストロークとサックス、ギターの熱っぽいプレイが交錯する演奏は、まさにプログレッシヴ・ロックである。
  アコースティックな音を巧みに用いた幻想的なフォーク・ロック。 OSANNA よりも CERVELLO を思わせる曲調だ。 シンフォニックな演奏へと流れ込む物語的な抑揚がすばらしい。 各パートのソロもふんだんに盛り込んだ傑作。 英語だが、あくまでイタリアン・ロック的な作品である。

  「Popular Girl」(4:34)サックス、ギター、ヴォーカルによるごく普通のブルーズ・ロックが、ドラム・ソロと TULL 風のフルートによって呪術的な響きを帯び始め、やがてはアシッドなギターが口火を切ってサイケデリックの坩堝と化す。 左右のチャネルを駆け抜けるのは、ストリングス・ペダルのグリッサンドだろうか。
  ブルーズからサイケデリック・ロックへの曲調のドラスティックな変化がおもしろい作品。 冒頭のブルーズ調は垢抜けないが、即興性の高い後半のインスト・パートは、すごい迫力である。

  「I Cani E La Volpe」(4:01)イタリア語のヴォーカルによるバラードが情熱的なインストへと変化する作品。 二つのアコースティック・ギターのアルペジオが交錯する抑制の効いた伴奏。 サックスによるオブリガートのいろっぽさ。 ムーグとサックスによる耳慣れぬ色合いのブラス・セクション。 サビでは、ソプラノ・サックスとヴォーカルのエレクトリックな絶叫が迸る。 静かに浮かび上がってゆくようなムーグのリフレイン。 熱っぽいヴォーカル。 叫ぶサックス。 ムーグの広々とした響き。 サックスがエキサイトしたままエンディングを迎える。
  この曲もフォークからジャズへの変化の相が興味深い。 ジャジーな AOR 風のヴォーカル・パートでは、狂おしいサックスが熱気を吹き込む一方で、アコースティック・ギターの間断ないストロークが、巧みに温度を下げている。 後半は、多重録音のサックスとムーグが悠然と流れをつくり、サックスが絶叫し続ける情熱的な演奏へと変貌する。

  「Stay With Me」(4:11)英語によるアコースティックなラヴ・バラード。 メランコリックなギターにジャジーなフルートが絡みコーラスはあくまで感傷的。 切ないサビからむせび泣くサックス・ソロへ。 ブルージーなギターが絡み激しくもつれ合う。 アコースティックな感傷が肉感の昂揚へと変化する。
  センチメンタルなバラード。 ここでも、繊細な曲調が、次第にエロスの高ぶりを見せ官能を刺激する。

  「Uomo Come Gli Altri」(1:28)イタリア語ヴォーカルによるフォーク・タッチのナンバー。 ストリングス・アンサンブルとムーグによる幻想的な背景にコーラスが浮かび上がる。
  哀愁漂うシンフォニックな小品。

  「Uno Nel Tutto」(10:12)前曲から切れ目なくエネルギッシュなジャズロックのビートが出現する。 サックスとギターによるビッグ・バンド風のテーマからヴォーカルのリードする軽快なロックンロールへと突き進む。 サックスが激しく煽るギター・ソロ。 続いて狂乱のサックス・ソロ。 やがて、演奏は、サックスとストリングス・ペダルがクレシェンドを繰り返す雄大なメロディへ。 そして、再び激しいバトル。 決めと同時に音が、エコーを残して、吹き飛んで消えてゆく。
  一転吹きすさぶ風のようなノイズにギターが重なる。 そして、ミドル・テンポのおちついた演奏が始まる。 サックスとムーグが、しなるようにテーマを奏でる。 サックスのジャジーなソロ。 バッキングはオーソドックスなギターのコード・ストローク。 ムーグがゆったりとサックスに重なる。 ディレイを効かせたギターが鳴る。 ムーグがリードを取り、サックスとともに、悠然たるメロディを奏で続ける。 ヴォーカルは切ない思いをぶつけ、感情を高ぶらせている。 泣き叫ぶようなヴォーカルを経て、リズムがエネルギッシュに変化してゆく。 エキサイトするドラムス。 突如霧笛のようなムーグの轟きが高鳴り、演奏はフェード・アウトする。
  代わって、おだやかなピアノがフェード・イン。 ヴォーカルに寄り添うように静かに和音を刻んでゆく。 ここはイタリア語である。 扉を閉ざすような静かな和音で終る。
  サックスとギターをフィーチュアした狂乱の第一部、サイケなジャズロック調の第二部、アコースティックな余韻を残すバラードの第三部ら構成される大作。 激情を叩きつけるような荒々しい演奏にシンフォニックなテーマを交えた作品である。 アヴァンギャルドな展開がじつにイタリアン・ロックらしい。

  「Goodbye Friend」(5:55)アコースティック・ギター伴奏のおだやかなヴォーカルから始まる。 ヴォーカルは英語。 幻想的なフォーク・ソングである。 ギターのプレイはシンプルだが味わいがある。 サックスとムーグが静かに湧き上がる。 後半は、ゆったりしたテンポが刻まれ、ムーグによるテーマの上でヴォカリーズが続いてゆく。 サックスがヴォカリーズに絡みつく。 そして、テーマをなぞるヴォーカルとヴォーカルに絡むヴォカリーズ。 再びサックスが戻り、ヴォカリーズとともに熱いプレイが続く。
  メランコリックなフォーク調から雰囲気を一転させ、ヴォカリーズとともにシンフォニックに昂揚してゆく作品。 ジャジーなサックスと女性ヴォカリーズは、どうしても「狂気」を連想させる。

(FONIT CETRA CDLP 428)



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