イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「WARM DUST」。 69 年結成。73 年解散。作品は三枚。 MIKE AND THE MECHANICS など英国ロック・シーンを渡り歩いたポール・キャラックの出身バンド。
Dransfield Walker | lead vocals, mouth harp, guitar |
Paul Carrack | organ, piano, guitar |
Dave Pepper | drums, percussion |
Terry Comer | bass, guitar, recorder |
John Surgey | tenor sax, alto sax, flute, oboe, vibes, clarinet |
Alan Soloman | baritone sax, tenor sax, alto sax, flute, oboe, piano |
70 年発表のアルバム「And It Came To Pass」。
内容は、管楽器、オルガンをフィーチュアしたサイケデリックでブルージーなジャズロック。
60 年代後半から流行したブラス・ロックであり、インストゥルメンタル・パートを大きく拡充しているところが特徴である。
メランコリックな表情ながらもガナる野生的なヴォーカルを、サックスを中心としたフリー・ジャズ調のパワフルな二管が煽りたて、クールなフルートと熱っぽいオルガンが支える。
ドラムスのキレや俊敏なベース・ラインなどリズム・セクションも充実していて、時に狂乱、爆発する管楽器、オルガンをしっかりとまとめている。
つまり、荒々しいパワーとアーティスティックなデリカシーがない交ぜになった典型的な 70 年代初頭のサウンドであり、演奏力を活かした演出がゆきとどいた好作品なのだ。
その底なしのパワーを発揮するために管楽器やオルガンのソロには非常に大きなスペースを取っており、10 分を越える作品が複数ある。
このスペースを使って、強引なブロウを放つサックス、ソウルフルにして感傷も隠さないオルガン、クールでドリーミーなフルートが、入れ代わり立ち代り存在感あるソロやデュオを放って個性をアピールしている。
ツイン・フルートなんてなかなかお目にかかれない。
硬軟さまざまな管楽器セクションの充実は特筆すべきだろう。
また、ナレーション、詩の朗読も交えて、かの時代の切迫した空気を伝えてくれる。
ブルージーなタッチを基本に、汗臭いブギウギや野太いバラードなど、そのサウンドともあいまって、メイン・パートの第一印象は垢抜けないが、大作とじっくり取り組むとイメージは変わってくる。
SOFT MACHINE ばりの尖ったアドリヴやパンチのあるテーマ、クールなハーモニーの叙情性、タイトに締まったアンサンブルなど、パフォーマンスはあたかも繋ぎとめられることを厭うかのように四方八方に発散し、それがやがて豊穣な広がりと深い幻想性を生み出してゆく。
サウンド・スタイルを越えてサイケデリックな感性をいかんなく発揮しているといってもいい。
野卑なロックンロールは、オルガンやピアノ、サックス、フルートの豊かな音色によって、誰も見たことのない、それでいて懐かしい夢想の音楽へと変貌してゆく。
ブルージーでサイケデリックな空気をただそのままに撒き散らすのではなく、高度な運動性をもつ演奏によって、胸をざわつかせる緊迫感とクラシカルな叙情性で空間を満たしてゆく、ここが本作品のプログレッシヴなポイントである。
ロック・ギターがまったく目立たないのも本作品の特徴だろう。
TONTON MACOUTE や BRAINCHILD、WALRUS 辺りのファンにはお勧め。
LP は二枚組。
プロデュースはジョン・ウォーズレイ。
「Turbulance」(11:00)憂鬱でクールでマジカルなジャズロック大作。植民地風の気だるい涼感は二つのフルートから。神秘的な広がりはオルガンから。新星爆発のようなエネルギーはフラジオで迫るサックスから。
インストゥルメンタル・パートを大きく取った作品である。
「Achromasia」(7:14)トンチキな管楽器セクションと壊れたように波打つオルガンをフィーチュアしたブリティッシュ・ビートがブルーズ・フィーリングの高まりとともにゆっくりと捻れてゆく、不思議な深みのある作品。
中盤はシャープなオルガンが支えるフリーなサックス・ソロ。
「Circus」(5:36)ブルージーで洒脱な歌もの。クラシカルなフルートのソフトなサウンドとシャウトのミスマッチが英国風のセンチメンタリズムを強調する。
「Keep On Trucking」(4:28)生粋のロックンロール。
「And It Came To Pass」(10:25)ブラスロック、ヴォードヴィル調からジャズ、フォーク、モノローグがリードするフリー・フォームのパート、などなど、めまぐるしく変転するプログレッシヴな怪作。
いくつかの楽曲をばらばらにしてつなぎ合わせたような内容である。
展開は大胆だがメロディアスでリズミカルな部分が多く、カラフルで楽しい。
(終盤には、バッティアートばりのアヴァンギャルドな世界もある)
グロテスクなモノローグからハーモニーへの展開など PROCOL HARUM 的でもある。
「Loosing Touch」(7:44)フルートをフィーチュアしたソウル・ジャズロック。
こういう曲調なのに、黄昏たフォーキーな間奏パート(イントロの再現)に自然につながるからすごい。
風を巻くオルガンもよし。
きわめてイタリアン・ロック的であり、個人的には好みの作風。
エンディングの虚脱感は英国モノならでは。
「Blues For Pete」(7:19)パワフルだが気だるいブルーズ・ロック。
ブルーズ・ハープをフィーチュア。
ヴォーカルは徹底して汗臭く黒く、オルガンは火傷しそうに熱い。
管楽器セクションは、中期 SOFT MACHINE をややキャッチーにしたような感じ。
大人なら胃にずっしりくる重みを堪能すべし。
「Man Without A Straw」(4:26)快調な歌もの英国ロック。
ハードなパンチの効きがいいくせに感傷もたっぷりという矛盾の魅力に溢れる作品である。
ジャズはもとよりフォークや R&B、クラシックが自然に交わる。
本曲でもフルート、オルガンが活躍。
「Wash My Eyes」(14:05)センチメンタルでクールで熱いジャズロック。
フルートのクール・ダウンを拒むようにドラマティックすぎるメイン・パートから、熾火のようなオルガン・ソロ、暴発気味なまでにパワフルな管楽器アンサンブル、渦を巻くトゥッティを経て、メイン・パートへと回帰したのも束の間、その後は幻想的なムードにあふれるインストゥルメンタルが繰り広げられる。
サイケデリック・ロックの死霊を甦らせた魔性のジャズロックである。
「Indian Rope Man」(6:11)JULIE DRISCOLL, BRIAN AUGER & THE TRINITY もカヴァーしたリッチー・ヘヴンスの作品。
こういう作品だと COLOSSEUM と芸風がかぶる。
ただし、こちらの方が、細身でしなやかで女性的。
(Trend TNLS 700 / RF 610)
Les Walker | vocals, harmonica, vibraphone, shaker |
John Surgey | tenor sax, flute, oboe, guitars, vocals |
Paul Carrack | organ, piano, timpani, vocals |
Keith Bailey | drums, conga, maracas, vocals |
Terry Comer | bass |
Alan Soloman | baritone sax, soprano sax, flute, organ, clarinet, electronics |
71 年発表のアルバム「Peace For Our Time」。
内容は、ダイアローグも含んだアーティスティックなブラス・ロック。
パワフルな金管の響きとフルートや木管のデリケートな響きが入り乱れ、躍動するリズムをしたがえてぐいぐいと主張する演奏である。
と同時に、リフでドライヴされるジャジーで安定感ある演奏を無調や変拍子、バロック音楽調で覆してゆく大胆さもあり、基本的な部分にサイケデリックでアナーキーな姿勢が見える。
ダイアローグのバッキングでのフリーフォームの演奏にはジャズにはありえないサイケデリックなタッチが渦を巻いている。
ポップにこなれたところもあり、パンチのあるヴォーカルが入るとイメージはかなり CHICAGO に近づく。
メロディアスなテーマを映えさせる、雰囲気をガラリと変えながらも自然な流れがあるといった序破急のアレンジも巧みだ。
アコースティック・ギターのアルペジオや効果音、曲頭に「語り」をぶち込んだ若気の至りチックな表現など、最盛期のイタリアン・ロックと共通するセンスがある。
ジャケット写真から想像して反戦がテーマのトータル・アルバムか?と思うと、ダイアローグ部分で広島や長崎といった言葉が現れて、やっぱりねとなる。
最終曲には 70 年代らしい希望にあふれる響きがある。(イタリアン・ロックっぽい幕引きだと思うのはわたしだけだろうか)
ギターよりもオルガン、ハードロックよりもブラスが好きという方にはお薦め。
プロデュースはジョン・ウォーズレイ。
「Blood Of My Fathers」 (5:05)
「Winds Of Change」 (5:13)
「Justyfy, Things Your Hands Have Done」 (8:50)
「Rejection」 (4:41)
「Very Small Child」 (4:13)
「Song For A Star」 (4:50)
「Wrote A Letter」 (3:40)
「Peace Of Mind」 (3:34)
(Trend 6480 001 / RF 611)
Dransfield Walker | lead vocals, harp, guitar |
Paul Carrack | organ, piano, guitar |
John Bedson | drums, percussion |
Terry Comer | bass, guitar, recorder |
John Surgey | tenor sax, alto sax, flute, oboe, vibes, clarinet |
Alan Soloman | baritone sax, tenor sax, alto sax, flute, oboe piano |
guest: | |
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John Knightsbridge | guitars on 2 |
Eddy & Casper | percussion on 3 |
72 年発表のアルバム「Warm Dust」。
マッチョなヴォーカルの比重の高まりとともにメインストリームで勝負可能な側面が広がるも、大胆なサイケ/プログレ調も堅持され、それらが正面きってぶつかる火花に目がくらみそうな作風となった。
キャッチーな歌ものとエキゾティック(アフロ)なインスト、クラシック翻案、演奏力を発揮する組曲が並置され、それぞれに濃い存在感を放つ。
歌ものは、スワンプ調、ブルーズ、シャープな R&B テイストなど、非常に「こなれた」内容になっている。
チャート対応という意識も若干ありそうだ。
そういうときは、管楽器やキーボードなどの冴えた器楽は、自らではなく、キャッチーなフロントを支える役目を主に果たしている。
「主義主張もさ、スタイリッシュにいかないと通じないよ、これからは」といっているような音だ。
その一方で、麻薬的な痺れをもたらすインプロや奇の衒い方ばかりに意識を集中したようなアンサンブルや演奏力を誇示するようにタイトなジャズロックも現れる。
こういった作品には、カンタベリー的な尖ったセンス(MATCHING MOLE あたりか)が感じられる。
この二つの面を無理やりくっつけたのが 4 曲目ということになりそうだ。
また、B 面最後の組曲大作は、けだるいサイケ・フレイヴァーをまといながらも、もう一歩で KING CRIMSON の叙情性に手が届く力作。
メロトロン・ストリングスも鳴り響く。
本アルバムは、前作までとは異なり、BASF レーベルから発表されたようだ。プロデュースはデレク・ローレンス。
「Lead Me To The Light」 (5:22)
「Long Road」 (4:50)
「Mister Media」 (3:10)
「Hole In The Future」 (8:39)
「A Night On Bare Mountain」 (1:05)
「The Blind Boy(part I, II, III, IV, V)」 (18:19)
(BASF 20 29055-7 / RF 611)