AMON DÜÜL U

  ドイツのサイケデリック・ロック・グループ「AMON DÜÜL U」。 緩やかなアーティスト・コミューン AMON DÜÜL から音楽を指向するメンバーが AMON DÜÜL II として分裂独立した。 元々プロのミュージシャンではないが、クリス・カーラーとジョン・ヴァインツィエルが音楽の核になった。 79 年解散。 90 年代に復活。

 Phallus Dei
 
Chris Karrer violin, guitars, sax, vocals Dieter Serfas drums, electric symbals
Peter Leopold drums, percussion, grand piano Shrat (Christian Thiele) bongos, vocals, violin
Renate Knaup vocals, tambourin John Weinzierl guitars, bass
Falk Rogner organ, synthesizer Dave Anderson bass
guest:
Holger Trülzsch turkish drums Christian Borchard vibraphone

  69 年発表の第一作「Phallus Dei(神の鞭)」。 内容は、トライバル・ビートを刻むパーカッションと東洋風のスケールを用いたギターとスキャットが特徴的な、シンプルかつケイオティックなエスニック・ロック。 渦巻くノイズの嵐から出発して辿りついたのがこの独特のリズム・センスと素人臭いわりには俊敏な運動性を生かしたロック・ミュージックらしい。 大した進化だ。 元々の音響センスを、歌唱というよりは呟きや棒読みに近いヴォーカルやスペイシーなオルガンのエコーも交えてだらだらと続く演奏が生み出す原初的かつ呪術的なイメージにしっかりと生かしているのもいい。 創作のベースに往時流行のインド、東洋志向があるのは確実だろう。 そしてそのベクトルおかげで、ヘタウマながらも泥酔風のダラダラ感やガレージ・サイケ風の暴力性はさほどでなく、どちらかといえば穏やかに秩序だっている。 穏やかさの理由の一つは、ドイツ・ロック固有のシンプルな反復を多用するリズム・セクションに安定感があるためだろう。 このリズムがあるので、ギターやヴォーカルが無茶に暴れても(もしくはまったく動かなくても)大丈夫なようだ。 また、オルガンのシングル・トーンによるメロディが、あたかもハーモニーのように演奏に対して厚みをつけていて、空間的な音響演出となっている。 英米のサイケデリックなサウンドに、民族音楽風のテーマとビートを持ち込んだロックという表現が適切だろう。 発展途上だが目指しているものがなんとなく見える、なかなかカッコいい音です。 そして、ここの音は十年余りの時を経て PUBLIC IMAGE LIMITED の「Flowers Of Romance」として花開く。 なお REPERTOIRE RECORD の CD ではクリス・カーラーがメンバーとしてクレジットされていないが誤りだろう。 また、最近の CD では、タイトル曲が 1 曲目になっているものもあり。

  「Kanaan」(4:02)逞しい原始のビートとなまめかしきギターによるリズミックで快調な作品。 クール・ダウンするようなヴァイブのアクセントがいい。 逞しい VELVET UNDERGROUND という感じ。 名曲。

  「Dem Guten, Schönen, Wahren」(6:12)執拗な反復ビートを生むリズム・セクションに支えられて、素っ頓狂なファルセット・ヴォイスやシンプルなギター・プレイがうねうねと、しかし着実に進んでゆく作品。 ところどころで、オルガンや SE 風のヴォイスでアクセントをつけている。 深いエコーがかかったサイケデリックな酩酊世界。 迸るような勢いはなく、どこか長閑。 一部、弦が弛んだギターが刻む変拍子もあり。

  「Luzifers Ghilom」(8:34)。 パーカッションも用いたやたらと手数の多いリズムとギター・リフの搬送波に乗って狂おしきヴォーカル・パフォーマンスが暴れ続ける。 ドラムスとともにギター、オルガン、ベースもやたらと元気で、全体の演奏はタイトでパワフル。 しかし、どうしようもない弛緩の時が訪れる。

  「Henriette Kröfenschwanz」(2:03) マーチング・スネアとファルセットのコーラスによる行進曲。 埋め草風。

  「Phallus Dei」(20:47)。 耳ごもる深い残響と電子雑音のたゆとう不気味でスペイシーな即興演奏。 すべてが軋むような音が神経をかきむしる。 凶暴なクレシェンドと断末魔のようなデクレシェンド。 俊敏なるパーカッションとベースによる原始のビートが毒々しく腫れぼったい空間を揺らがせ、のたうたせる。 無秩序な信号音が騒めく冷ややかな幻惑空間を熱っぽくシャープなギターの音が埋め尽くしてゆく。 祈りというよりは呪い。 音痴なヴァイオリンが乱調美に拍車をかける。 ヴォーカルはドイツ語のようだ。 後半は第三世界の民族音楽のような細切れビートになるが、バンド演奏は序盤よりもずっとタイトでダイナミックになる。
  
(LBS 83 279 I / REP 4747)

 Yeti
 
Peter Leopold drums Shrat bongos, vocals
Renate Knaup vocals, tambourin John Weinzierl guitars, vocals
Chris Karrer violin, guitars, vocals Falk Rogner organ
Dave Anderson cbass
guest:
Rainer guitar, vocals Ulrich bass
Thomas flute

  70 年発表の第二作「Yeti(地獄!)」。 前作と比べると、よりハイテンションで強いビート感のあるサウンドが特徴である。 とにかく、素直にギターがカッコいいといえる瞬間が圧倒的に増えているのだ。 ノイジーなのに切れ味のある演奏が、VELVET UNDERGROUND をイメージさせるのは、ヴァイオリンの存在だけではなくヘタクソなガレージロックに込めら れた高尚な思いのおかげでしょう。 AMON DÜÜL のメンバーがゲスト参加。 アナログ二枚組。 CD では一枚にまとまったが 7 曲目「Pale Gallery」は日本盤のみが LP オリジナルであり、他の盤では 2 分少々に切られている。

  快調なリズムと呪術的なギターのコード・カッティングでエキサイトしたまま突っ走るメドレー・ナンバー「Soap Sharp Rock」(13:24)から始まるアルバム前半は、ロックらしいカッコよさにあふれる好展開。 カーラーのシャープなギター、うねるベースと無機的なビートを叩きだすドラムスから成るリズム・セクションが原色の空間を貫いて躍動する。 また、英語による男/女性のヴォーカルのミステリアスな絡みや、引き攣るようなヴァイオリン(「Gulp A Sonata」、「Flesh-Colored Anti-Aircraft Alarm」)も強烈だ。 ノイジーな演奏とダルな歌声にもかかわらず、強引なキメとともに最後まで緊張感の続く作品である。

  2 曲目「She Came Through The Chimney」(3:56)ナチュラル・トーンのギターのアルペジオが印象的なポップなナンバー。 ヴァイオリンやオルガンはいかにもサイケなプレイ。 パーカッションも特徴的だ。 インストゥルメンタル。

  3 曲目「Archangels Thunderbird」(3:30) ヘヴィで歯切れよいギターとパワフルなドラムスがやけっぱちなグルーヴを感じさせるナンバー。 レナート・クナウプのシャーマン系のヴォーカルもいい感じだ。

  4 曲目「Cerberus」(4:18) オリジナル AMON DÜÜL を思わせる得意のアコースティックな疾走ナンバー。 パーカッションとアコースティック・ギターによるもつれるようなリフレイン、そしてミステリアスなランニング・ベースのあやなす妖しい世界だ。 途中から加わるエレキギターもカッコいいぞ。

  5 曲目「The Return Of Ruebezahl」(1:35) 本アルバムの特徴であるギター・リフの決まった小品。

  6 曲目「Eye-Shaking King」(6:37) ギター・リフと重量感あるリズム・セクションをエンジンにアシッドなギターとヴォーカルが絡み合うサイケデリック・チューン。 ドライヴ感がありながらも全体に混沌としたムードを漂わせる。 その混沌を貫いて進むギターの過激さ、カッコよさはアルバム中でも出色。

  7 曲目「Pale Gallery」(2:11) オルガンとギターが響き合うサイケデリック・チューン。 スペイシーなギミックが冴える。 やや展開不足か。

  8 曲目「Yeti」(18:00)後半のインプロヴィゼーションは、ここからスタート。 第一作の延長上にある浮遊感とともに、前半で提示された推進力をアピールしているようだ。 デタラメな演奏を続けているとごくたまに現れる奇跡の瞬間を、しっかりつかまえて演奏として仕上げているイメージである。 9 曲目「Yeti Talks To Yogi」(6:06)のエンディングへ向けて次第に緊張が高まり走り出す、このどうしようもないカッコよさ。 やはり前半があることによって、この後半が活きてくる。 計算づくかどうかは知らないが、大当たりである。

  最終曲「Sandanz In The Rain」(8:55) AMON DÜÜL のメンバーをゲストに迎えた作品。 フルート、ヴァイオリンをフィーチュアし、彼等の音楽の原点のような呪術的なアコースティック・アンサンブルを聴かせる。 混沌としたインプロの後にアルバムを結ぶには、うってつけの味わいある作品だ。


  サイケデリックな中に、芯の通ったハードネスとグルーヴが感じられる作品。 抜群のリズム・セクションとギターが創出する「ノリ」は、サイケデリックとハードロックの中間地点に楔を打ち込んで不思議なバランスを保っているような気がする。 ストレートなカッコよさとともに、聴きやすさという点でも本作の前半は絶対のお薦めである。 ジャーマン・ロックもノイズ、テクノ、トランスだけじゃなくてこんなにカッコいい「ロック」があるんだと思わず見直してしまう好盤。 もちろん後半のトリップ具合もすばらしい。

(LBS 83 359/60 X / REP 4748)

 Dance Of The Lemmings
 
John Weinzierl guitars, pianoLothar Meid bass
Chris Karrer guitar, violinPeter Leopold drums, piano
Karl-Hienz Hausmann electronics, sound engineer
guest:
Jimmy Jackson organ, choir-organ, pianoAlois Gromer sitar
Heerlette Kroetenschwants vocalsRolf Zacher vocals

  最高傑作の誉れ高き 71 年発表の第三作「The Dance Of Lemmings(ロック共同体(野ネズミの踊り))」。 再びアナログ二枚組。 創作スタンスの変化だろうか、初めてプロのミュージシャン、ローサー・マイドをベーシストとしてメンバーに迎えた。 そして、A 面の大作の前半では、明らかに、このベースの積極的かつ堅実なプレイが演奏をリードしている。 アルバム前半は、日本民謡風のペンタトニック・スケールを多用するギターが個性的なグルーヴを生む、サイケデリック・ロック、アルバム後半は、テープ・コラージュやエレクトロニクスによるノイズを駆使した、長大なインストゥルメンタルである。 前半と最終面では、60 年代サイケか元祖パンクか、シンプルな演奏とダモ鈴木を思わせる癖者ヴォーカルのコンビネーションをフィーチュア。 ルー・リード、デヴィッド・ボウイ、JETHRO TULLGONG 辺りの影響もありそうだ。 独特の単調な作風がこのグループの個性だが、お経のように平べったいところとタイトな演奏を絶妙に組み合わせているために、凡庸な印象は皆無である。 特に、ユニゾンやハーモニーで決める全体演奏は、今まで以上にかっちりと引き締まっている。 ピアノ、シンフォニックなオルガンらキーボードも的確に使われるし、ヴァイオリン、シタールなど、民族楽器によるアクセントも効果的だ。 うねるように波打つアコースティック・ギターによる呪術的な効果、饒舌気味なベースが生むせわしなさなど、ヨレているようで意外にしっかり一貫した運動性がある。 この辺りの、ヘタウマの調合加減はみごとである。 全体に軽妙にして腰のグラインドはしっかりしており、なおかつ、うっすらとした幻想性もある。 1 曲目などは、もう少しクールに研ぎ澄まされれば CAN に迫ったろう。 もっとも洗練されるよりは、熱っぽく不器用なエモーションが直接吐き出されるスタイルの方が、このグループのよさが出る気もする。 2 曲目(LP 一枚目 B 面)のオムニバス大作は、このグループには珍しく英国ロックのようなノリを持つ傑作。 インドな煙たさやデタラメ・インプロ風のワイルドなノイズな中に、初期 PINK FLOYD のような詩情が浮かぶ。 一方 3 曲目(LP 二枚目 A 面)はエレクトロニクスを駆使したミュージック・コンクレート風の作品。 中盤では崇高なるオルガンが高鳴る。 後半は、かなりドラッギーな内容となり、やはり「シジファス」辺りの FLOYD を連想する。 そして最終曲は、長さほどそれまでの大作ほどではないが、反復に麻痺性の毒がある佳作。
  全体のイメージは、けだるげで軽妙な音がそこかしこにあるにもかかわらず、重厚で厳かで堂々とした風格を感じさせるものである。 傑作という手応えは、聴き始めてすぐに感じられるはずだ。
  ジャケットの雰囲気や「Lemming」というタームなど、VdGG の名作「Pawn Hearts」との関連はあるのでしょうか。
  ここで紹介した CD はフランス MANTRA のもの。ライナーはすべてフランス語である。

  「Syntelman's March of the Roaring Seventies」(15:51)
  「Restless Skylight-Transistor-Child」(19:33)
  「The Marilyn Monroe-Memorial-Church」(18:05)
  「Chewinggum Telegram」(2:41)
  「Stumbling over Melted Moonlight」(4:33)
  「Toxicological Whispering」(7:45)

(LBS 83 473/74 X / MANTRA 014)

 Carnival In Babylon
 
John Weinzierl guitar, acoustic 12 string, vocalsLothar Meid bass, vocals
Chris Karrer guitar, acoustic guitar, violin, soprano sax, vocalsDanny Fichelscher drums, congas
Peter Leopold drums, tambourinKarl-Hienz Hausmann keyboards, electronics, organs
Renate Knaup vocals
guest:
Joy Alaska backing vocalsF.U. Rogner organ
Olaf Kubler soprano sax, door

  72 年の第四作「Carnival In Babylon(バビロンの祭り)」。 ヴォーカルの充実と明快な調子が音楽的ターニング・ポイントを象徴する佳作。 ドイツ・フォーク的な夢幻の雰囲気にアメリカン・ロック的な乾いたカントリー風味が交差する内容は、充実した演奏力を活かして興味のままに雑食性を発揮した結果だろう。 前作までの長大なインストゥルメンタル・パートも減少し、楽曲はコンパクトにまとまっている。 得意のスペイシーなインストによる大作「Hawknose Harlequin」も 10 分ほどに抑えられている。
  エレキギターのプレイは、ワイルドにかき鳴らすスタイルからペンタトニックのフレーズによる明快な表現へと移行し、それが象徴するように演奏が、ごちゃっとした塊のような独特のサウンドとパワーこそ変わらないものの、ディープなサイケ調一辺倒ではなくハードロックのような芯の感じられるものへとシフトした。 ローサー・マイトの音数の多いベース・ラインもこの変化に乗じてカッコいいドライヴ感を演出する。 ヴォーカル・パートは、復帰したレネーテ・クナウプによる、あどけなさとけだるさとヒステリーが同居する女性らしい声と、男性ヴォーカル陣が分け合う。 声質の違いによる対比効果が、ドラマティックな語り口に活きているし、コーラスも充実している。 ツイン・ドラムスも面白い。 パーカッションやギターのカッティングが生む呪術的なうねりも健在。 全体としては、非常にキャッチーで聴きやすい、いわばメイン・ストリーム風のロックになった気がする。 そして、そのポップさ加減と、これまでの混沌としたアシッドなムードがブレンドされて醸し出される幻想的な雰囲気が、なんともいい味わいなのだ。 フォーク・タッチもあり、全体としては、ブリティッシュ・ロック・ファンには違和感ない世界だと思う。 ただし、毒気に魅力を感じていた人には、やや物足りないかも。 ドラムスのダニー・フィッシェルシャーは後に POPOL VUH へと参加する。

  「C.I.D In Uruk」(5:39)
  「All The Years Round」(7:25)女声ヴォーカルをフィーチュアした夢想的なフォーク・ロック調の作品。
  「Ballard Of The Shimmering Sand」(6:37)
  「Kronwinkl 12 / Thanks to all the paranoid people who meanwhile move out」(3:54)
  「Tables Are Turned」(3:38)
  「Hawknose Harlequin」(9:53)

(UAS 29 327 I / CTCD-033)

 Wolf City
 
John Weinzierl guitars, vocals
Lothar Meid bass, vocals
Chris Karrer guitars, soprano sax, violin, vocals
Danny Fichelscher drums
Falk-U Rogner keyboards
Renate Knaup vocals, percussion

  72 年の第五作「Wolf City(狼の町)」。 アヴァンギャルドな泥酔アプローチを卒業し、コンパクトかつメリハリあるロックの形態を重視、ストレートに演奏に力を注いだ佳作。 独自のサイケデリック感覚、アングラ・ムードを匂わせつつも、パフォーマンスはタイトにして起承転結が明快である。 そしてポップな聴きやすさもある。 存在感あるメロディ・ラインを俊敏なベースとアコースティック・ギターが支えて、メロトロンやヴァイオリンがいい感じでトリミングしている。 呪術的な反復や弛緩したブレイクも効果的なアクセントとして機能している。 ブリティッシュ・ロック・ファンには入りやすい作品ではないだろうか。 起伏を均してしまったようなビートやクールな凶暴性、ヘタウマなヴァイオリンなどは、VELVET UNDERGROUND への憧れか。 ほんのりと JEFFERSON AIRPLANETHE BEATLES 風味を感じるのはサイケデリックな感覚が共通するためだろう。 全体に、かっちりと構成されて均衡の取れた作品といえる。
  ヴォーカルは英語。プロデュースは、オラフ・キブラーとグループ。

  「Surrounded By The Stars」(7:46) 謎めくベース・ライン、民俗音楽風のギターやイタコ風のヴォイスによる呪術めいた妖しさと感傷が入り交じる名曲。 メロトロンによる迸るオブリガート、つっかかるようなヴァイオリンや弾けるグラム調のポップなサビなど見せ場が多い。

  「Green Bubble Raincoated Man」(5:04) 甘めのファルセット・ヴォイス、女性ヴォーカル、そしてファズ・ギターがサンフランシスコ・サイケを思わせるキュートなフォークロック作品。 ガレージっぽい疾走パートなどさまざまな展開を散りばめる。

  「Jail-House-Frog」(4:54) 不可逆な展開をみせるダウナー・サイケ・チューン。 序盤は東洋風のギター・リフが導き手になる。 ノイジーな伴奏をものともしない気だるげなヴォーカル表現はルー・リードそのもの。 アジテーションのようなサビ、そして中間部は練習曲のようなピアノが伴奏する幻想的なカエルの合唱。 終盤はソプラノ・サックスが叫んでメロトロンが迸り、瞬間 SOFT MACHINE と化す。 タイトルは「監獄ロック」のパロディなんだろう。

  「Wolf City」(3:20) ノイジーにして危険な香りに満ちたスリリングな傑作。 ディレイを効かせたギターとイコライジングされたヴォイスが悪夢のように交錯する。 ルー・リード風の抑制されたヴォーカル表現が冴える。 災厄の予兆を現すようである。

  「Wie Der Wind Am Ende Einer Strasse」(5:42) サイケデリックな浮遊感を生むハンマー・ビートのベースラインの上で、ソプラノ・サックス、シンセサイザー、ヴァイオリンらがたっぷりエコーを取って広がってゆくインストゥルメンタル。 ヴァイオリンは吹きすさぶ木枯らしのよう。 正統的なジャーマン・ロックな世界である。 終盤 1 分の「どサイケ」な展開もいい。

  「Deutsch Nepal」(2:57) ひずんだギターのノイズをひきずりながら流れ出る重厚なメロトロン・コーラス、演説調のドイツ語ヴォイス。

  「Sleepwalker's Timeless Bridge」(4:55) イタリアン・ロックを思わせるアコースティックで田園風の趣ある大傑作。 タイトなビートとベース・ラインがカッコいい。 前半の演奏には風格すら感じる。 中盤、荒々しいギターが加わってややハードロック風になるも、その後はリラックスした歌ものロックとなる。


(UAG 29406 / REP 4596-WY)

 Live In London
 
John Weinzierl guitars, vocals
Lothar Meid bass, vocals
Chris Karrer guitars, soprano sax, violin
Falk-U Rogner organ, synthesizer
Renate Knaup vocals
Danny Fichelscher drums
Peter Leopard drums

  73 年の作品「Live In London」。 1972 年 12 月 16 日クロイドンでのライヴ録音。 やや脱力気味で麻痺したような表情の乏しさが特徴の一つだったバンドにもかかわらず、ライヴではなかなかの勢いとワイルドな押し、そしてキレがある。 その原動力の一つはツイン・ドラムスによるにぎにぎしいビートであり、もう一つは俊敏なベースラインである。 演奏の「腰」がこれだけ安定しているとギターとヴォーカルが無茶に暴れまわっても(逆に鬱状態に落ち込んでも)、タイトなグルーヴが決してなくならない。 位相系と歪み系と残響に深々と沈んだギターはいつになくヘヴィでダイナミックで、キーボードによるらしいギトギトしたサイケデリックな音響の効きもいい。 サイケデリックな酩酊感に加えてすでにニューウェーヴないかがわしさも現れており、それが早くも堂に入っている。 男女ヴォーカルによる呪術めいたハーモニーと演劇的な演出もハマっている。 REPERTOIRE の CD には 2 曲のボーナス・トラックがつく。

  「Archangels Thunderbird」(3:14)「Yeti」より。
  「Eye-Shaking King」(6:17)「Yeti」より。
  「Soap Sharp Rock」(7:32)「Yeti」より。
  「Improvisation」(3:42)
  「Syntelman's March of the Roaring Seventies」(8:06)「The Dance Of Lemmings」より。
  「Restless Skylight-Transistor-Child」(8:10)「The Dance Of Lemmings」より。
  「Race From Here To Your Ears」(4:49)
以下ボーナス・トラック。
  「Bavarian Soap Sharp Rock」(17:47)
  「Improvisation On Guip A Sonata」(2:51)

(UAS 29 466 I / REP 5005)


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