LA TORRE DELL'ALCHIMISTA

  イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ「LA TORRE DELL'ALCHIMISTA」。 2001 年デビューの新グループ。 97 年結成。作品は 2005 年発表のライヴ盤含め三枚。2007 年新作発表。

 La Torre Dell'Alchimista
 
Ceraolo Silva flute
Donadoni Davide bass, alto clarinet on 4
Giardino Michele lead vocals, chorus, acoustic guitar on 1,8
Mosconi Noberto drums, acoustic guitar on 4
Mutti Michele hammond organ, fender piano, piano, keyboards, synthesizer, mellotron

  2001 年発表の第一作「La Torre Dell'Alchimista」。 内容は、フルートと 70 年代ヴィンテージ・キーボードを駆使したキーボード・シンフォニック・ロック。 エマーソン・タイプの弾き倒しハモンド・オルガンとピアノ、アナログ・シンセサイザーに度肝をぬかれる一方で、暗さ/重さよりもメロディアスな面がよく現れたテーマや全体演奏、シンセサイザー・サウンドなどは、オーソドックスともいえるネオ・プログレッシヴ・ロック調である。 そして、フォーク・タッチの素朴な音がフルートやアコースティック・ギターに現れると、やはりイタリアン・ロック独特の暖かい味わいが出てくる。 総合的には、プログレど真ん中といって間違いない、かなりのできばえだ。
  作風は、超絶的なキーボードがリードするモダン・クラシック調に加えて、フルートを用いたバロックなアンサンブルやアコースティック・ギターによる弾き語りなど、英伊 70 年代プログレの心得を随所にちりばめたものである。 多彩な内容を手際よくまとめられるところが、現代のグループらしい情報処理の巧みさを物語っている。 邪気たっぷりに迫るピアノやハモンド・オルガン、たなびくようなメロトロンなど、オールド・ファンは、矢継ぎ早に繰り出される典型的なプレイに酔い、至福の時間を過ごすことができる。 キーボードのサウンドにも細かい配慮があるようで、珍しい音をタイミングよく入れ込んできて飽きさせない。 そして、若々しい伸びやかさと若さゆえの憂鬱をたっぷり注ぎ込みながらも、メロディやハーモニーに清潔感と熱っぽさが両立している。 また、一曲の中での大きな変化を自然な流れに配置できるアレンジ・センスもすばらしく、ストーリー・テリングに身を任せることができる。
   しかしながら、メイン・ヴォーカル・パートを含めてテーマとなるメロディ・ラインが同時に弱点でもある。 暴れまわるフルートと荒々しくも雄々しいピアノ、オルガンを軸とした前傾気味の演奏の魅力に立ち向かいバランスをとる、または大胆なコントラストをつけるだけのパワーが、ヴォーカルやメロディにない。 ドラマとしての彫りが深くないといってもいい。 EL&P では、あれだけ凄まじいエマーソン、パーマーのメタリックかつ凶悪なインストゥルメンタルをレイクの高尚極まりない歌唱力がねじ伏せてしまうシーンがいくらでもある。 したがって、きわめて優れた演奏があるにも関わらずなぜか興奮が中途半端なまま冷めてしまう。 聴き終った後に、破天荒なドラマを求めて思わず DALTONFESTA MOBILE の CD を探してしまうのだ。 声質が SITHONIAIL CASTELLO DI ATLANTE などにも通じる無難な歌謡曲路線だけに、なおのこと面映い。 過剰になり過ぎないという節度があるのかもしれないが(キーボードのプレイにはそういうものはないのだが)、ここは一番ガーンとベルカントな BANCO スタイルか、LE ORME のヘロヘロなつぶやき路線で強引に押し切ってほしかった。
  エレキギターの不在により HR/HM 色が皆無であることも、サウンドをいかにもヴィンテージ・プログレに聴こえさせている要因の一つだろう。 これを特徴ととるか欠点ととるかは純然と好みの問題である。
  そして、おせっかいかもしれないが、学部は BANCO 専攻でも修士は DEUS EX MACHINA についてもっと現代の変態を研究した方がおもしろくなるような気もする。 SACKA と比べると「70年代」のおかげで色が明確で聴きやすいが、ぶっ飛んだ面白さはもう半歩かもしれません。
   グループ名はボッシュの絵と AREA の曲名から。 今、キーボードを駆使した昔のイタリア・プログレみたいな音、IL BALLETTO DI BRONZO のような音がどうしても聴きたいという方には無条件でお薦めです。 ヴォーカルはイタリア語。

  「Eclisse」(6:02)序盤のキーボードに圧倒されるも、じつは終盤のアコースティックなヴォーカルがいいというじつにイタリアンプログレらしい作品。

  「Delirio (In Do Minore)」(4:00)ピアノ、フルートをフィーチュアした小気味のいい、つむじ風のような変拍子アンサンブルが印象的。後半現れるオルガン、EGGCARAVAN 路線の音が意外で驚く。

  「La Torre Dell'Alchimista」(6:48)前半は、トリッキーなオスティナート、PROCOL HARUM 調の厳かなテーマなど多彩なオルガンのプレイがリードする。 メロトロンの鳴り響くなかをアナログ・シンセサイザーが滔々と歌う LE ORME 風の後半はかなり感動的。表題作だけあって力作です。

  「Il Volo」(5:53)クラリネット、フルートが描く幽玄世界のバラード。キーボードらしきオブリガートは流れ星のよう。夢のようにまろやかなバッキングはジャジーなクラリネット、フルート・ソロを呼び覚ます。振れ幅の大きな変化を自然にこなすセンスに脱帽。

  「L'Apprendista」(6:50)冒頭からフルートとオルガンで飛ばし捲くるスリリングかつクラシカルでミステリアスなシンフォニック・チューン。アメリカのプログレ・バンドにもありそうな作風だが、クラシカルな深みが段違いである。

  「I Figli Della Mezzanotte」(4:48)ネオ・プログレ風味の強い(つまりハードロックにプログレの妙味を放り込んでニューウェーヴっぽく盛り付けた)作品。 後半、ドコドコ・ドラムが現れる、異国風の怪しい展開には、なかなかいい雰囲気がある。

  「La Persistenza Della Memoria」(3:06)冒頭から胸が熱くなる、強圧的にしてロマンティックなソロ・ピアノ。エマーソンとバンクスが憑依。

  「Lo Gnomo」(4:26)フルートとオルガンによる目まぐるしくアグレッシヴな、まるで追いかけっこのような演奏にもかかわらず、基本的にはフォーク・タッチの作品。 モチーフは御伽噺だろうか、クラシカルで愛らしいアレンジが際立つ。

  「Acquario」(8:10)4 ビートのジャズ・コンボまで盛り込む破天荒な展開をシンフォニックかつジャジーな、攻めのキーボード・プレイでのり切ってゆくダイナミック極まる力作。
  
(KRC 025-STAE)

 Neo
 
Michele Mutti hammond organ, mini moog, piano, mellotron, electric piano, string ensemble, synthsizer, special effect, programming, chorus
Michele Giardino lead vocals, chorus
Michelangelo Donadini drums, percussion
Davide Donadoni bass
guest:
Matteo Rigamonti guitars
Giovanni Bertocchi flute
Mauro Donini soprano sax

  2007 年発表のアルバム「Neo」。 ライヴ盤に続くスタジオ第二作。 本作も、ヴィンテージ・キーボード群を駆使した 70 年代型イタリアン・キーボード・ロック。 パーカッシヴなハモンド・オルガンとこってりしたアナログ・シンセサイザーによる EL&P タッチを基本に、バロック音楽から近現代クラシックを取り入れている。 攻撃的なキーボードの変拍子リフによる邪悪な演出も得意なようだ。 Herbie Hancock 風のジャズロック・テイストもちらほらと見える。 そして、EL&P にはないメロトロンも当世プログレとして抜かりなく使われている。 総じて、ヴォーカルも含めたアンサンブルによるクラシカルなシンフォニック・ロックとしては、堂々のパフォーマンスである。
   今回新しいのは、キーボードと絡む管楽器があるために変拍子のアンサンブルにチェンバー・ロック風の緊張感があるところ、そして、ジャジーな音を導入しているところである。 さて、シリアスな要素とは巧みに対比を見せ、またクラシカルでロマンティックな文脈ではそれをしっかりと支えて彩るのが、イタリア語ヴォーカルによる上品でメロディアスなポップス風味である。 イタリアン・ロックの十八番であるクラシカルかつジャジーなポップスとしての格は前作を上回っている。 リズム・セクションはさほど自己主張しないが、主役のキーボードとヴォーカルを陰ながらしっかりと支えている感じだ。 現代のロックとしては薄めの音だが、ヴィンテージ・キーボードの多彩な技と明朗なヴォーカルの存在、そして巧みなアンサンブルが薄さを意識させない。 そういう点で、全体に P.F.M のいいところをしっかりと受け継いでいるイメージだ。
   ジャケットの絵画、メデューサ、ヒュドラ、ケルベロスといった曲名などから、本作品はギリシャ神話をモチーフにしているようです。 二部に分かれた大作「Risveglio Procreazione E Dubbio」はジャジーな響きも交えたクラシカル・ロックの傑作。「幻の映像」に通じる感動が。 アルバム・タイトル「Neo」はイタリア語の辞書を引くと「ホクロ」または「美術品などの小さな瑕、ささいな欠点」とあります。 どういう意図があるのか、音楽に向かう姿勢などを想像すると興味深いです。

  「Dissimmetrie」(6:56)
  「Medusa」(8:27)
  「Idra」(1:51)
  「Risveglio Procreazione E Dubbio Part.1」(11:31)
  「L'amore Diverso」(2:28)前曲のアウトロを救済するようなイントロから始まる美しいソロ・ピアノ。
  「Cerbero」(9:25) 攻撃性と哀愁がない交ぜとなった往年のイタリアン・ロックらしさ満点の作品。
  「Risveglio Procreazione E Dubbio Part.2」(9:31) 内省と覚醒をイメージさせる感動のフィナーレ。
  
(MA RA CASH RECORDS)


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