フィンランドのネオ・プログレッシヴ・ロック・グループ「AGENESS」。 91 年結成。 2009 年現在作品は四枚。 キーボード中心とした色彩感あふれるハードなサウンド。 RUSH、IQ、初期 MARILLION らの影響下、90 年代に開花したポンプ第二世代であり、安定感も華もある逸材。 2009 年遂に新作「Songs From The Liar's Lair」発表。前身グループ、SCARAB の唯一作も復刻。
Tommy Eriksson | vocals, grand piano, guitars, etc | Jari Ukkonen | bass, bass pedal, backing vocals |
Kari Saaristo | drums, percussion | Jari Laasanen | organ, synthesizer |
guest: | |||
---|---|---|---|
Speedy Saarinen | guitar solo on end of 2 | Ade Manninen | guitar on 3 |
Mike J.Hella | acoustic guitar on 6,11 | Vesa Auvinen | other guitar solo |
94 年発表の第二作「Rituals」。
初期 MARILLION などのネオ・プログレと 80 年代ハードポップ や L.A. メタルのようなキャッチーなハードロックをくっつけて、RUSH のようなヒネリを少し加えたスタイルである。
シリアスな変拍子リフや重厚なオルガンなど、いかにもプログレらしい器楽がある。
ただ、趣味としてはそちらが主なのに、ゲストのギターが制御不能になったのか、はたまたアクセントとしてか、突然人が変わったようにイージーな演奏に走ることがある。
頭悪そうな曲名そのものな音になるのだ。
もっとも、こちらはプログレと思って聴き始めているために、思い切ってシンプルなビートとヘビメタ・ギターがかなり新鮮に感じられる。
SPOCK'S BEARD や THE FLOWER KINGS もハードロック的なプレイを見せるが、こちらはフロントマンが若いせいか、その薬味がもろに 80 年代の HR/HM やハードポップになっているところがおもしろい。
ともあれ、中盤でかなりもち直すし、いわゆるプログレ・メタルよりははるかにプログレ寄りであることは間違いない。
演奏は、オルガン、シンセサイザーなどキーボードをメインに、ギターが適宜ソロで切り込むスタイル。
ゲディ・リーがポンプをやっているようなシアトリカルなヴォイスに慣れれば、タイトで華やかな演奏とダークでメロディアスな曲想を楽しめるだろう。
ポップ・センスはかなりのものだし、演奏はかなりうまいです。
歌詞は英語。
「Ritual I (Hymn To Lappland)」(0:32)
「Forever Returns」(6:20)
「Chainsaw Murders」(4:15)
「Freeways」(4:26)
「Polyphemus」(6:35)この作品くらいから小技が効いてきて、まじめに聴く気になってきます。変拍子ハードロック。
「Hidden Space」(7:20)ネオプログレ王道な歌もの。DISCIPLINE のマシュー・パーメンタの作風に似ています。
「Take Us All」(3:40)
「Silent Partners」(4:32)
「Problems」(4:05)
「Ritual II(Renaissance)」(0:59)
「Mortal Wings Of Sin II」(10:15)耳障りな 7 拍子のリフを我慢すれば、なかなかの好作。
(AGSCD9)
Tommy Eriksson | vocals, synthesizers, acoustic guitars, grand piano |
keyboard programming, guitar, odd noise, choirs, organ on 5 | |
Jari Ukkonen | bass |
Kari Saaristo | drums |
Jari Laasanen | organ |
Marko Karhu | guitars |
98 年発表の第三作「Imageness」。
内容は、ややメタリックなネオ・プログレッシヴ・ロック。
GENESIS 流のメロディアスでファンタジックなシンフォニック・ロックに現代的なエッジを加えたサウンドであり、思い切ってキーボードを中心とした分厚いサウンドのハードロックといってしまった方が、オールド・ファンには通りやすい。
迫力たっぷりの中編から始まって、次第にリスナーをエキサイトさせ、最後に 26 分にわたる超巨編をぶつけて来るという内容だ。
ヴォーカルと多くの楽器を兼任するトミー・エリクソンが、すべての楽曲を手懸けている。
一人芝居風のヴォーカルをストレートかつメロディアスなギターときらびやかなキーボードが支える、中期 GENESIS =ポンプ・スタイルであり、やり過ぎないヴォーカルと一本筋の通ったダイナミックな演奏が、ぐんとレベルを上げている。
特に、ツイン・キーボードの音の厚みと広がりを活かして豊麗な伴奏とスリリングなソロ・パートをともに充実させているところや、音量・緩急の変化によるストーリー・テリングの妙に、70 年代の大御所に迫るプログレ王道の風格がある。
また、個性的なベースがドライヴ感の原動力としての役割を一手に引き受けて、ギター、キーボードなどの上ものが自由闊達に動き回ることができるところも特徴的だ。
ギターのサウンドはかなりヘヴィであり、HM 調の速弾きへ陥ることもしばしばだが、そこはハモンド・オルガンやメロトロンを思わせるシンセサイザーの音が巧みに中和してバランスを取っている。
プログレ・メタルほどではない、ハードなネオ・プログレくらいの音楽だ。
初期 MARILLION にダイレクトに通じる面もあるが、80 年代英国ポンプ・ロックとは比較にならない音響面の充実が楽曲に新鮮なイメージを与えている。
先入観を捨て音をしっかり聴いてみると、どれもなかなかの力作であることが分かる。
特に、インストゥルメンタル・パートをじっくり聴くと面白い。
SPOCK'S BEARD とも十分勝負できそうな内容ではないだろうか。
反面ヴォーカル・パートでは、ヴォーカルの抱える表現力以前のオリジナリティの問題と、ハードロック的なストレートな伴奏が目立つ。
そんな中では、ベースのリードするドライヴ感あるリフが救いだ。
ロングトーンも美しい速弾きギター、清涼かつ万華鏡のように彩りに満ちたシンセサイザー、要所で使われる熱っぽいハモンド・オルガンそして伸びやかなヴォーカル・コーラス。
卓越したテクニックを見せつけるわけではないが、キーボード中心のダイナミックで安定感のあるアンサンブルは、なかなかのものだ。
ドラムスがもう少し多彩ならば本当に文句なしである。
明らかにコピーと分かるヴォーカルに我慢すれば、非常にスッキリとしたそれでいて豊かな音に満ちた演奏を楽しめる。
編成も似る SPOCK'S BEARD と同じく、現代のプログレッシヴ・ロック・グループでは抜きんでた演奏だろう。
歌詞が非常にエキセントリックなのはネオ・プログレッシヴ・ロック系のグループによく見られる特徴であり、本作もその例からもれない。
しかしグロテスク趣味が横溢するわりには、深みにかけるきらいもある。
それからヴォーカルはなんとしてもオリジナルなスタイルを創らなくてはならない。
今時ピーター・ニコルズの真似をしていても誰も振り向かないし、誰かに似ているというだけで訴えるものがないと思われてしまう。
優れた音響と緊密なアンサンブルによる力強い演奏が結びついた 90 年代型 GENESIS フォロワー。
ヴォーカルは英語。
「Line Of Force」(6:25)ではスペイシーなイントロダクションから突如炸裂するベース・リフ、ヘヴィかつ色鮮やかなギター、シンセサイザーに耳を奪われ一気に惹きこまれる。
激しく動くベースはピート・トレワヴァスを越えヴォーカルも合わせるとゲディ・リーかもしれない。
ドライヴ感あふれる文句ない幕開けだ。
「Fear」(4:24)アコースティック・ギターとムーグ風のシンセサイザーが印象的なバラードから始まる。
ヴォーカルは FISH スタイルであり、癖のある英語が正直やや不気味。
中盤以降は吹っ切れたようなハードロックへと変化し、力強く太いトーンのギターとアメリカン・ロック調のヴォーカル、分厚いキーボードでぐいぐいと進んでゆく。
「Chain Reaction」(5:31)ミステリアスに澱むキーボードと切り裂くようなギターが強烈な英国王道ロック。
U2 風の演奏に、ウェット過ぎるヴォーカルが乗っている。
シンセサイザーのオスティナートがプログレの片鱗を見せるも、スティーヴ・リリーホワイト風のドラムスと ASIA のようなチープな和音の高鳴りのせいで、すっかり 80 年代である。
一気呵成の勢いはあり。
「Metamorphosis」(10:04)現代音楽調のピアノ・ソロで幕を開ける歪な幻想大作。
神秘的なキーボード(メロトロンに酷似した古びたストリングス系の音)と HR/HM ギター、やや痴呆なゲイブリエル調のヴォーカルがいかにも不自然な旋律・リズムでギクシャクと絡み合う。
4+3 拍子、2+3 拍子のリフは、もはやお約束である。
それだけにピアノやギターが、ナチュラルな表情で歌うととても美しい。
中盤のオルガンとギター・リフによる疾走は、かなりカッコいい。
終盤は、メロディアスなギターのリードで、演奏はシンフォニックに高まる。
「Sequels(The Feast Of Fools)」(26:33)ヴィンテージ・キーボードを駆使したオムニバス風の展開をもつ超大作。
GENESIS や YES の影響を見せつつ、素敵なメロディと吹っ切れたようにキャッチーな演奏を散りばめた、豊かなファンタジーである。
全篇に感じられるオプティミスティックな暖かみは、独りよがり気味のシニシズムや泣きが主流の英国のグループにはないものだ。
中盤のメロトロン、アコースティック・ギターらによる幻想的なアンサンブルがすばらしい。
力強く疾走する場面でドラムスのリズム・パターンが尽きてしまうところが、唯一残念。
アコースティック・ギターのアンサンブルは、まさしく GENESIS。
最後に 1 曲目へと回帰する構造含め、傑作といっていいだろう。
(FGBG 4236.AR)