モナコのプログレッシヴ・ロック・グループ「EDHELS」。 81 年マーク・セコティとジャン・ルイ・スゾーニを中心に結成。作品は七枚。ギター中心のシンフォニックなアンビエント・ミュージック。
Marc CECCOTTI | guitars |
Jean Louis SUZZONI | bass, guitars |
Jean Marc BASTIANELLI | keyboards, programming, percussion |
2003 年発表の第七作「Saltimbanques」。
内容は、アコースティック・ギターとエレキギターをフィーチュアしたアンビエントなフュージョン・ミュージック。
オーヴァーダビングを駆使し、ドラムスもプログラミングである。
そういう景色の中を、さざなみのようにミニマルなアコースティック・ギターのアルペジオが湧き立ち、ロバート・フリップばりの荘厳なエレキギターが悠然と、ときに牙を剥きつつうねり続ける。
ややジャジーなったりエキゾティックな音を使ったり、若干の変化、揺らぎはあるが、透明で暗鬱なトーンが一貫する。
全体としては、アコースティックな音を使ったいかにもヨーロッパ的なモダン・クラシック調がもっとも冴えているようだ。
最終曲の大作は、そういう音とバンドらしい呼吸のよさが現れた傑作。
ピアノ、メロトロンやハーモニウム風のキーボードとアコースティック・ギターがメランコリックな文様を成してゆく。
もちろん 1 曲目もスリリングでカッコいい。
70 年代終盤の EGG レーベル辺りから出ていても不思議のない作品である。
インストゥルメンタルとしての説得力、雰囲気は今までで一番であり、最高傑作といっていいだろう。
音楽性に加えてタイトルに "Schizo" という言葉が現れる辺り、このグループもまた KING CRIMSON の洗礼を受けているのだろう。
個人的にも「Astro Logical」を越えて最高点がつく。
(MMP 459)
Noël Damon | keyboards |
Marc CECCOTTI | guitars, keyboards, percussions |
Jacques ROSATI | drums & keyboards |
Jean Louis SUZZONI | guitars |
86 年発表の第二作「Oriental Christmas」。
内容は、シンフォニックかつジャジーでニューエイジ風味もあるギター・インストゥルメンタル・ミュージック。
エレクトリック・ギターは、インパクトのあるリフを提示し、またサステインの効いたサウンドで説得力をもってテーマを奏で、演奏の中心にいる。
3 曲目のテーマのような CAMEL を思わせるジャジーでペーソスのある表情がいい。
また、ロバート・フリップばりのシリアスなロングトーンのプレイやスティーヴ・ハケット風の悩ましげなフレージングもある。
複数のギターによるアンサンブルもあり。
ギターに対置されるシンセサイザーは、伴奏にとどまらず、さまざまな音色を活かしてギターと積極的に交わってゆく。
ギターとシンセサイザーの呼吸のいいコンビネーションによって描かれるのは、クリアなサウンドによるファンタジックなバラードから、硬質でハード・ドライヴィングなシンフォニーまで幅広い。
きらめく音による未来風のイメージとタイトル通りの東洋風味が一つになった、80 年代以降のアンビエントなワールド・ミュージックとしての面もある。
タイトル・チューンは、シンセサイザーとギターによる透明感のあるサウンドが特徴の神秘的な作品。
いわゆる「フュージョン」とは趣を異にするのは、無意味なファンク色、ラテン色のないことと、ギターのタッチにロックらしいハードな骨太さがあるせいだろう。
全曲セコティの作曲。
ドラムスはクレジットによれば打ち込み。
LP の不気味なジャケットは、CD 化で比較的まともなものに変更されている。
なお、本作以前の 81 年に「The Bursting」が録音されているが、発表は 2001 年に行われている。
1 曲目「Ragtag Baby」(3:17)
デジタルで華やかな音色のシンセサイザーとナチュラル・ディストーションのギターによるフュージョン・ロケンロー。
やや東洋風のシンセサイザー・リフとギターによる反応のよいアンサンブル、ファンタジックな間奏、8 分の 6 拍子を巧みに交えるリズムなど。
中盤のヴィブラートはスティーヴ・ハケット風。
2 曲目「Spring Road」(4:49)
ギターのロングトーンとうっすらと広がるシンセサイザーが生む神秘の世界。
最近の JADE WARRIOR を思わせる民族系アンビエント・ミュージックである。
パーカッションがエキゾチックなムードを盛り上げ、管楽器のように丸みを帯びたシンセサイザーのメロディが流れる。
ギターはフリッパートロニクスばりのディストーテッド・ロングトーン。
微かにささくれた音が特徴的。
瞑想的である。
3 曲目「Tepid Wind」(4:36)
哀愁あるメロディアスなギターのテーマが印象的なシンフォニック・フュージョン。
朗々と歌い上げるギターの脇を固めるのは夢の泡を吹き上げるエレピとブラス系のシンセサイザーだ。
ミドル・テンポのリズムもゆったりとした盛り上がりには欠かせない。
中盤のギター・アドリヴは内向的なアドリヴ。
後半はテーマをツイン・ギターでつややかに再現する。
エンディングまでギターは泣き叫び歌う。
ファタジックな音色とエモーショナルなギターのコンビは CAMEL を思わせる。
傑作。
4 曲目「Ca...Li...Vi...Sco」(3:48)
80' CRIMSON 風の変拍子シーケンスをフィーチュアしたテクニカル・フュージョン。
5 拍子系のバッキングと 4 拍子系のメロディ部がポリリズミックなアンサンブルをなす。
しかしギターのテーマが太くエモーショナルなために過度な険しさはない。
むしろレイドバックしたフュージョンらしいプレイである。
左手主体の速弾きもあり。
シンセサイザーのリフや終盤のツイン・ギターの絡みは KING CRIMSON か?。
ナチュラル・ディストーションとアームを巧みに用いたヴィブラートによる音色がすばらしい。
リード・ギターの存在感が大きい。
5 曲目「Oriental Christmas」(4:21)
ギターのアルペジオ伴奏でシンセサイザーが高らかに歌うファンタジー。
テーマはやや中華風。
胡弓のようなヴィブラートがおもしろい。
ハープを模したシンセサイザーのオブリガートは目のさめるような美しさだ。
打楽器系の音も微妙なニュアンスがありユーモラスかつデリケート。
全体のイメージはやはりヒーリング系だろうか。
2 曲目に比べると眼前に雄大なパノラマが広がるような飛翔感がある。
ドラムレス。
6 曲目「F...D...Smile」(5:32)
再びドリーミーな作品だが今度はギターが主役。
叙景というよりは叙情、人の心持が伝わるのはギターの特性だろうか。
ロングトーンのヴィブラートがここでも美しい。
リズムとともにやや厳しい表情も生まれるがギターのテーマは慈しみに満ちておりやさしい。
ベンディングはハケット風、というかそもそも作風がハケットそのもの。
泣きと力強さを兼ね備えたギターのプレイは GENESIS などシンフォニック系の楽曲のギター・ソロ部分を抽出したようにも聴こえる。
ミドル・テンポのリズムで淡々と進み、重みをもちながらも開放を待ち焦がれるような曲調である。
ドリーミーなオープニングからは考えられないくらいシンフォニックで重厚な結末である。
名曲。
7 曲目「Imaginary Dance」(4:15)
マリンバ風のリズミカルなシンセサイザー・リフに支えられて、ギターが軽やかに舞う西アジア風フュージョン。
ほんのりアジア風のギター・リフによるファンキーな傑作である。
ヘヴィな音と軽妙なリフのコンビがさえている。
またシンセサイザーとギターの絡みもいい感じだ。
アルペジオとベースによるブリッジはややダークな地中海風味もしくは MAHAVISHNU ORCHESTRA を思わせるもの。
一方シンセサイザーとギターのデュオは俄然インド風。
後半ギター・ソロが炸裂する。
8 曲目「Souvenir 76」(3:36)
ざわめくアルペジオを背景にヘヴィ・ディストーション・ギターとホイッスル風のシンセサイザーが対話を繰り広げるファンタジックな作品。
繰り返し中心の演奏のバックにうっすらとしたヴォカリーズが流れ続ける。
ギターはまたもフリッパートロニクス調であり、キット・ワトキンスとロバート・フリップの共演の如き様相を呈している。
可愛らしいが、メカニカル。
ドラムレス。
9 曲目「Absynthe」(3:59)
伸びやかなギター・テーマが主役のエキゾチックなシンフォニック・フュージョン。
イントロのテクニカルなギター・デュオにあっけにとられると一転してテーマは民族系管楽器の様に高々と突き通るようなギターである。
スネアを打つ 8 ビートもなぜか民族風に力強く聴こえる。
展開部は軽やかな速弾きソロ。
テーマを経て後半はゆるやかなシンセサイザー・ソロ。
エンディングはブラス・バンド風のシンセサイザーが勢いをつける。
もう少しリズムが切れるとダンサブルなグルーヴが出るのだが。
10 曲目「Agatha」(4:00)
雄大なイントロとは裏腹にデジタリーなビートで進むエレポップ風の作品。
チョッパー風のシンセサイザー・ベースとスライド・ギターのようなギター・シンセサイザーがシーケンスの上で跳ねる。
なめらかなメロディ部に対しスネアをアクセント強く打つリズム。
全体にエレクトリックでおちつきがない。
11 曲目「Nan Madol」(5:52)
重厚かつダークなシンセサイザーとヘヴィなギターによる CRIMSON 的世界。
幽玄かつシンフォニックなシンセサイザーの響きの中ディレイを用いたギターがシンプルなテーマを打ち出す。
ギター・ソロはロングトーンの余韻が重なり合う幻想的なもの。
悪夢。
サンプリングと思われるヴォカリ−ズやストリングスが高まると厳粛な空気も生まれる。
ギターのメロディだけは切なくエモーショナル。
ヘヴィ・シンフォニック・インストゥルメンタルである。
メロディアスなギターときらきらしたデジタル・シンセサイザーのアンサンブルによるフュージョン・タッチのシンフォニック・ロック・インストゥルメンタル。
一貫したサウンドでなかなか幅広い曲想を描くが、アルバムの主題と思われるアジアン・エキゾチックなトーンが特に強調されている。
さて、ギターは、太く存在感のある音でメロディを紡ぎ出すスタイルを中心に、ロングトーンの幻惑的なプレイからテクニカルな速弾きまで、堂々たる演奏を見せている。
ロバート・フリップがフュージョン・ギターを弾いているようなイメージもある。
本作は比較的曲想の明解な小品集という印象なため、大作への期待も高まる。
個人的には、デジタルなタッチのサウンドでも曲がよければ、かなり聴けるという発見があった。、
(FGBG 4007)
Marc CECCOTTI | bass, keyboards, lead & rhythm & synth guitar |
Noël Damon | piano, keyboards, percussion |
Jacques ROSATI | drums, percussion, keyboards |
Jean Louis SUZZONI | lead & rhythm & acoustic guitar |
Jean Marc BASTIANELLI | keyboards |
88 年発表の第三作「Still Dream」。
内容は、オリエンタル・ムードこそさほどでないが、基本的には前作の延長線上のギター・インストゥルメンタル・ミュージック。
クリアーでスペイシーなシンセサイザー・サウンドを背景にロング・トーン・ギターが悠々と歌うシンフォニックかつフュージョン風のインストゥルメンタルである。
前作のようなアジアン・エキゾチズムが減退すると、サウンド面でのニューエイジ・ミュージック調とアレンジ面でのミニマル・ミュージックの影響、GENESIS 系ネオ・プログレという骨格が目立ってくる。
ニューエイジの原点、マイク・オールドフィールドももちろん入っている。
キラキラとした音色、くっきりと明瞭なテーマ、軽快だが丹念な演奏が生み出すドラマチックな展開は CAMEL のようなファンタジック・ロックにも通じている。
この文脈は、やはりプログレッシヴ・ロックのものなのだろう。
メロディアスなギターが好みの方にはお薦め。
テンポがワン・パターンなこととベースが常駐しないせいで低音のうねりが弱いところが、ロック・ファンにはやや辛いかもしれない。
全編インストゥルメンタル。
ジャケットはよく見るとエロティック。
1 曲目「Capitaine Armoire」(5:02)
ネオ・プログレ調のリズミカルなリフと伸びやかなギター・ソロのレガートが対比するジャン・パスカル・ボフォ調の作品。
ロマンティック。
バッキングのシンセサイザーは華やかにして神秘的。
いつもながら思うのは、デジタル・シンセサイザー出現以来一曲で用いられる音色は飛躍的に増えたが、たくさん音を用いることと作品の美感とはまったく関係がないということ。
うまく音にひたれないと芯が見つからずかえって聴きにくくすらある。
2 曲目「Butterflychild」(3:35)
ピアノとオーボエのアンサンブルをシンセサイザーでシミュレートしたような作品。
神話世界をイメージさせるシンセサイザー・ヴォカリーズ。
オーボエの音はアナログ・シンセサイザーかオルガンのようだ。
背景はエレアコのアルペジオ。
ファンタジックなニューエイジ・ミュージック。
3 曲目「Boarding Pass」(4:46)
ギターがロングトーンで歌い上げる哀切のロマン。
GENESIS 風のアルペジオとピアノの爪弾きが導き、ギターのプレイととともに切なさとメランコリーがいや増す。
調子や背景の変化で重厚さ、緊張感を演出し、起伏を作る。
それはあたかも、自分と外界、主観と客観の対比のようである。
サスティンの効いたギター・サウンドはロックの基本の一つであり永遠の憧れ。
フュージョン、ジャズロック ではなくインスト・ロック。
いい曲です。
4 曲目「Fee D'hiver」(1:07)
アコースティック・ギター・ソロによるルネッサンス風の品のいい小品。ちょっとスティーヴ・ハウっぽい。
5 曲目「October Dawn」(6:15)
光や風で気まぐれにゆらぐ景色を描いたような文字通り叙景的作品。
音楽は自然に流れ、変化し、たゆとい、また流れる。
リズミカルに跳ねれば一気にネオプログレ調になる。
緩急、強弱も自由であり、シーンは次々に変わってゆく。
ヴォカリーズとギターの対話は半透明の精霊たちの戯れである。
随所で現れるメロトロン・フルート風の音やさざめくようなピアノが印象的。
終盤は何かを遮二無二振りほどくように荒々しい調子も現れる。
やはり全編にどこか閉ざされたイメージがあり、外の世界ではなく心象の描写ではないだろうか。
6 曲目「Gael & Selena」(1:52)
ウィンダム・ヒル・レーベルの諸作のようなソロ・ピアノ。
7 曲目「Christie Feline Girl」(4:21)
荒々しさを強調したヘヴィ・シンフォニック・チューン。
ピックアップ、フィルやタム回しなどなど人力風のドラムスが珍しく活躍する。
間奏部では揺らぎ澱みたゆとうギターがほのかなエキゾチズムでフュージョン風にひねる。
よく聴けば、管楽器系のシンセサイザーによるテーマもやや西アジア風か。
8 曲目「Still Dream」(4:23)
うっすらとしたクワイヤを背景にさまざまなシンセサイザーが緩やかに歌い上げるニューエイジ・ミュージック。
水滴がしたたるようなアナログ・シンセサイザーのメロディは、暖かみのある「Meddle」のイントロである。
弦楽風のシンセサイザーは気品にあふれる。
教会音楽のような厳粛で荘厳な響きが胸を打つ。
後半にテーマをリードするパイプ・オルガンのような音と低音部を支えるストリングスのオブリガートに存在感がある。
深宇宙の神秘的な営みを描くようでいて、暖かみと人懐こさがあるところがユニークだ。
ドラムレス。
9 曲目「Annibal's Trip」(4:38)
シンバル連打とトライバルなビートが静々としかし力強くドライヴするシンフォニック・チューン。
映画音楽的な、視覚イメージを喚起させる音である。
雷鳴に導かれて厳かなオルガンが響き、テーマの予兆とともに重戦車のようなドラムビートを呼覚ます。
テーマはアタックのないフルート系の音であり、鳴声のようなピッチ・ベンドが特徴的。
オブリガートのオルガンの暴れっぷりもすごい。
地獄の悪鬼のイメージだろうか。
ソロ・ギターはフィードバックを活かして狂おしい速弾きで迫る。
やはり主人公に牙を剥く怪物のイメージか。
全体のストーリーよりも、場面の描写を楽しむ作品である。
傑作。
10 曲目「A La Lisiere Du Soleil」(4:55)
メロディアスであっけらかんとポジティヴ、しかし神秘的な翳りも見せるネオ・プログレッシヴ・ロック調の作品。
ニューエイジ・ミュージック通過後の新時代のプログレである。
テーマ部分はジャン・パスカル・ボフォらと同じくいかにも初期 MUSEA レーベルらしい音である。
テーマの旋律に合わせた変則リズムや変拍子へのリズム・チェンジといったお約束も巧みにこなす。
間奏部分の「Stagination」風のよどみに漂う感じもいい。
複数のシンセサイザーやギターをより合わせたようなテーマの音も美しい。
後半、奔放に舞うオルガンもカッコいい。
11 曲目「Heart Door」(7:37)
沈痛なテーマを経てドラマの果てにほとばしるようなギター・ソロ、シンセサイザー・ソロを迎える傑作。
アルバム全体のリプライズに痛快なまでのソロを加えたような内容だ。
ピアノと悲壮なギターによるテーマも悪くない。
エンディングは幻想的なシンセサイザーがたゆとう。
傑作。
12 曲目「Twine」(0:42)
エレアコニ重奏による瞬間「DISCIPLINE」。
(FGBG 4001)
Marc CECCOTTI | lead guitar、keyboards, percussions |
Noël Damon | keyboards, percussions |
Jacques ROSATI | drums, percussions |
Jean Louis SUZZONI | lead & rhythm guitar, guitar synthesizer |
91 年発表の第四作「Astro Logical」。
内容は、アンビエントなワールド・ミュージック調に不協和音や無調、変拍子といったシリアスな表現を持ち込んだジャズロック。
ギター・プレイにはアラン・ホールズワースを思わせるアグレッシヴかつアブストラクトな表現が顕著になった。
エレクトリック・キーボードの表現もデジタルなサウンドの明快さを活かした重量感や荘厳さ、奥行きの演出にとどまらず、ギターに応じたダイナミックなものとなった。
サイエンス・フィクション的な音響とメロディアスなギターという主スタイルはそのままに、ニューエイジ+フュージョン路線からよりテクニカル・ジャズロック路線へと方向を変えつつあるようだ。
現代音楽的な独特の無機性や険しさも初めて感じられる。
こういった印象を与える一因はギター・シンセサイザーの多用だろう。
また、専任ベーシストをおかずにシンセサイザーで補うなど低音部のないアンサンブルが特徴的であったが、今回はベースのスラッピングのような音が聴こえる。
これも初めてではないだろうか。
ロバート・フリップ風のアンビエントかつエキセントリックな音響に巧みなアーミングを用いたアウト・スケール気味の音程による速弾きも交えて、ギターの表現力は確実にアップしている。
(高速タッピングもみごとに決めている)
楽曲も、メロディアスなギターを楽しむ向きにはやや不満かもしれないが、偉大なるワンパターンから変化を見せている。
さまざまな曲調へと挑戦している点、一つの曲の中での大胆でときに予測不能な展開をするという点では、今までで一番だ。
ただし、フェード・アウトが多く曲想がスケッチ風にとどまっていること(星座のイメージをスケッチ風にとらえたトータル・アルバムだからなのかもしれないが)や、リズム・セクションが強くないためやや軽く流れてしまうところがあるのも否めない。
それでも今回は、ネオ・プログレ・ファンだけではなく、KING CRIMSON や BRUFORD のファンにも歓迎されるかもしれません。
そんなに激しくはないのですけれど。
全曲インストゥルメンタル。
全曲が星座の名前をもち、黄道十二宮を構成している。アルバム・タイトルは「占星術」の意。
個人的にはベスト。
「Aries-Belier」(4:54)
「Taurus-Taureau」(4:21)
「Gemini-Gemeaux」(4:44)
「The Crab-Cancer」(5:06)
「Leo-Lion」(4:50)
「Virgo-Vierge」(4:41)
「Libra-Balance」(4:54)
「Scorpio-Scorpion」(6:25)
「Sagittarius-Sagittaire」(3:15)ペッカ・ポーヨラ風のシリアスなのにリズミカルでほのかにユーモラスな作品。
「Capricorn-Capricorne」(5:09)
「Aquarius-Verseau」(9:02)唯一の大曲ながら、一貫して抑鬱されたような重い足取りで進む。
「Pisces-Poissons」(3:29)
(FGBG 4031.AR)
Jean Marc BASTIANELLI | keyboards, vocals, percussions |
Marc CECCOTTI | guitars, keyboards, percussions |
Jacques ROSATI | drums, percussions, keyboards |
Jean Louis SUZZONI | guitars |
97 年発表の第五作「Angel's Promise」。
内容は、ギターを中心としたややアンビエントなシンフォニック・ロック。
打ち込みフレーズも交えたデジタルなアトモスフィア/ビート感をもつバッキングに支えられて、サスティンを効かせたギターがきらめきながらうねってゆく、インストゥルメンタル主体の作品である。
謎めきながらもワイルドなギターのスタイルは、ロバート・フリップから、ロングトーンでするすると歌うとハケット、果てはエキゾチックなフレーズからテリエ・リプダルやオールドフィールドまでもが連想される。
シンセサイザーは極めて現代的であり、ヴァイブ/マリンバのようなパーカッション系のクリアーな音や神秘的な広がりをもつニューエイジ風の音が用いられている。
ベースの代わりの低音も特徴的だ。
ドラムス、パーカッションはリズム・キープを越えた表情豊かなプレイで展開を支えている。
特にドラムスの細かな表現が印象的。
全体にミステリアスな美感をもつ音響と荒々しくもレガートなギターのうねりで勝負する作風のようであり、ダークな深刻さと淡いファンタジーの合間の微妙な世界を提示している。
クリアーでメカニカルなファンタジーの世界に、次第に、耽美でウェットな翳が見えてくる。
本作では初めてヴォーカルもフーチュアされている。
1 曲目「The Load Of The Fire」(4:33)ヘヴィでメランコリックなギターが強烈なイメージを残す傑作。
パーカッシヴなシンセサイザー・シーケンスをバックにギターがヒステリックにうねってゆく。
ドラムスのプレイも打ち込みのようなデジタリーで無機的なパターンである。
怒りながらも悠然とたゆとうギターとヘヴィでダンサブルなビート感のコントラストが緊張感を生む。
ギターはアーミングなど多彩な技を見せる。
2 曲目「Tension」(4:58)口笛のようなシンセサイザーが寂しげに宙を舞う。
続くキーボード、シンバルの反復とヴァイオリン奏法ギターそして重厚なアンサンブルはハケットによく似た作風だ。
クラシカルなティンパニ風のドラムスやニューエイジ風のキーボードも用いたシンフォニック・チューンである。
高らかなギター・ソロが美しい。
チェロのような音はメロトロンだろうか。
3 曲目「IQ 27」(6:02)ブリット・ポップ風のメランコリックな歌もの。英語。
4 曲目「Angel's Promise」(5:16)シンセサイザーとギターによるアンビエントなデュオ。
こだまのようなシンセサイザーと哀感あるギターのテーマが重なり合い神秘の世界へと誘う。
終盤にはうっすらとヴォカリーズが加わる。
幻想的な作品だ。
5 曲目「Guinevre's Regret」(6:09)
ジョン・ウィリアムスのオーケストラものを思わせる勇ましいシンフォニック・チューン。
アグレッシヴなギター、スラップ・ベースをフィーチュア。
ブラス・セクションをシミュレートするシンセサイザーとティンパニを模すドラムスによる力強いイントロダクションから、スラッピング・ベースと女性ヴォーカルによるアジテーション風のメイン・パートを経て、激しいスラップによるリフをバックにギターがうねる間奏へ。
中盤は、柔らかくにじむベースとギターがスペイシーな演奏でおだやかに交歓し、再びメイン・ヴォーカルへ。
ベースはシンセサイザーなのだろうか。
再びベース伴奏でギター・ソロ。
今度は奔放に走り捲くる。
最後は、オーケストラ風のシンセサイザーがシンフォニックな余韻を響かせる。
モノローグ調のヴォイスを追いかけるように盛り上がるインストゥルメンタルが、エイドリアン・ブリューが歌う CRIMSON の歌ものを連想させる。
ギターの奏法などから考えて、やはり 80 年代以降の CRIMSON の影響はありそうだ。
6 曲目「Noah's Ark」(4:32)テクノ・ポップかジャーマン・シンセサイザーものかというミステリアスなシーケンスをバックにエキゾチックなシンセサイザーとギターが鳴り渡るサウンド・トラック風の作品。
シーケンスは初期オールドフィールドや KRAFTWERK、TANGERINE DREAM などを連想させる。
ギターはここでも奔放にシーケンスに襲いかかりフリーなソロで駆け巡る。
ティンパニとともに高まるヴォカリーズが、エキゾチズムをかきたてる。
テクノ・ポップ以降ともいうべき、複数の雰囲気が並行して進んでゆくような奇妙な味わいの作品だ。
7 曲目「On The Borderland Of Sleep」(6:04)エモーショナルなギターとメロディアスなヴォーカルによる悩ましきバラード。
伴奏はシンセサイザーを抑え、ギターのアルペジオが主。
声を荒げて切々と迫るサビはやはり 80 年代英国ポップスのイメージであり、シンフォニック路線を固める前の PENDRAGON 辺りに近い。
ヴォーカルとともにアルペジオが内省的な雰囲気を醸し出しており、激情を迸らせるソロ・ギターとのバランスもいい。
ギターに凝ったポップスだが、ポップスといい切るには謎めいたところが多い。
英語。
8 曲目「Lights Being Messages」(7:42)
ニューエイジ風味のあるファンタジック・チューン。
オムニバス風に雰囲気が変わってゆく。
序盤はストリングス系シンセサイザーによるゆったりと広がるサウンド・スケープで、柔らかく縁どられたさまざまな音色がさえずる。
キーボードのリフレインとアタックを抑えたギターによる演奏は、おだやかな空気の流れのようだ。
丹念にリズムを刻むドラムスとともに、ギターが一気に前面に出て、得意のレガートなソロを奏でてゆく。
感極まるようなギターとキーボードのかけあい、キーボード・ベースの小刻みなランニング。
一転、ギターはミステリアスな調子へと変化し、ドラムスのアタックも強くなる。
ハードな表情が浮かび上がる。
最後はキーボードのシーケンスとトリミングされたギター、ベースによる無機的にして優雅な演奏となってゆく。
9 曲目「Tales Of Mr.KA」(4:14)ハケットのソロ作を思わせる明朗にしてヘヴィなシンフォニック・チューン。
何気ない変拍子テーマ。
シンプルながらも胸躍るギターの間奏。
後半では目の醒めるような速弾きもあり。
ホイッスル風のシンセサイザーやヴォコーダがいかにも 80 年代風。
シアトリカルなヴォイスは GENESIS というよりは落語に近い。
10 曲目「Life, Life」(2:14)エレクトリック・アコースティック・ギター(オヴェーション・クラシック?)による美しい小品。
うっすらとヴォカリーズと鳥のさえずりが寄り添う。
ロマンティックにしてファンタジック。
後半でデュオと分かる。
11 曲目「Gentle But Not Giant」(4:11)
7 拍子や 5 拍子を用い、キーボード、マリンバ、ハモンド・オルガンをフィーチュアした作品。
ブルージーなオルガン・ソロが新鮮だ。
最後は朗々たるギターで締める。
タイトルはもちろん「あの」グループ名からでしょう。
異色作。
12 曲目「And To Think That I Loved You So Much」(6:13)
シリアスなロングトーンを用いたギター・ソロをフィーチュアし、アトモスフェリックな音響で包み込んだ薄暗いインストゥルメンタル。
本作の作風を代表する作品だ。
悪夢的。
13 曲目「Visions And Meetings」(9:15)
シンセサイザー、シーケンスによる幻想的なサウンドスケープにパーカッション、ギターが切り込むエキゾチックでアンビエントなシンフォニック・チューン。
エレクトリック・パーカッション、キーボードらがもつれるようなダンス・ビートを打ち出し、ギターが轟々とうねりながら進んでゆく。
(ここまで全作品ほとんどそうなのだが)ミドル・テンポが主なだけに雰囲気にひたれないともどかしさが募る。
(FGBG 4220.AR)