フィンランドの管楽器奏者「Eero Koivistoinen」。46 年生れ。作品は十七枚。70 年代は挑戦的なジャズロック作品で駆け抜ける。
Eero Koivistoinen | tenor sax on 1,3, soprano sax on 5, electric soprano sax on 4,6, sopranino sax on 2 | ||
Olli Ahvenlahti | Fender Rhodes piano on 1,3,6 | Esa Helasvuo | Fender Rhodes piano on 2,4 |
Esko Linnavalli | Fender Rhodes piano on 5 | Matti Kurkinen | guitars on 1,6 |
Ilja Saastamoinen | guitars on 1,2,4 | Ilkka Willman | bass |
Heikki Virtanen | bass | Reino Laine | drums |
Esko Rosnell | drums | Sabu Martinez | percussion |
Edward Vesala | percussion | Kaj Backlund | trumpet |
Juhani Aalto | trombone | Juhani Aatonen | alto sax, flute on 4,5 |
Unto Haapa-Aho | bariton sax, bass clarinet |
73 年発表のアルバム「Wahoo!」。
EERO KOIVISTOINEN MUSIC SOCIETY 名義の作品。
内容は、エネルギッシュで脂ぎったファンク系ジャズロックにサイケデリックなスパイスを効かせたもの。
種馬のように堅く逞しい律動を送り出すリズム・セクションの上で、カラフルな管楽器セクションを縦横無尽に駆使しつつエレクトリック・ギターやキーボードも主張を放ち、強烈なグルーヴで迫ってくる。
ただし、あまりにヘヴィでラフでエッジの効いたサウンドのおかげで、単なるイケイケなノリにはおさまり切らず、スリルとハイ・テンションの極みで破裂寸前になっているイメージである。
新しい世界のとば口で強引なダンスを踊って汗を飛び散らせている感じだ。
ストリートな頭悪さとヒップな頭よさの両方が激突して火花が出ている。
ギトギトしたエレクトリック・ギターがこれだけど真ん中でアピールするジャズも少なかろう。
(思い当たったのは最初期 NUCLEUS のクリス・スペディングのプレイである)
もちろん主役のサックスもオーソドックスながらも奔放で色気あふれるアドリヴを随所で繰り出すが、変拍子も交える強固なリフ、反復と爆発するビート、アシッドでエレクトリックなサウンドあってのこのパフォーマンスだと思う。
時代の音をとらえてモダン/フリー・ジャズの活かし方を心得たアレンジというべきだろう。
ギターのプレイや野太すぎるリズムなど、独特の垢抜けなさが特徴的だ。
ゴリゴリの骨太ジャズロック・ファンにお薦め。
「Hot C」(7:37)テナー・サックスがリードするファンク・ジャズ。初っ端からパワー全開で汗びちょ。メシオ・パーカーのバンドってこんな感じでした。二人のギタリストも炸裂。なんだろう、この熱気ムンムンなのに黄昏た感じは。
「7 Up」(4:54)悲鳴のようなソプラニーノ・サックスがリードする変拍子ビッグバンド・ジャズ。サスペンスフルなのにギター・ソロはなぜか垢抜けず、独特。
「6 Down」(7:54)ワウ・ギターとエレクトリック・ピアノをフィーチュアしたアシッドなジャズロック。
中盤、テナー・サックス登場後のパワフルな展開がいい。
「Suite 19」(10:47)パーカッションを効かせた、熱っぽくもアブストラクトでプログレッシヴなジャズロック。
前半は、初期 KING CRIMSON のようなジャズ路線のプログレに聴こえる。フルートもフィーチュア。一方、中盤からのパーカッションを効かせて変拍子リフが導く展開は SOFT MACHINE 風。
ドラムスもキレがいい。
「Bells」(5:42)フルート、ソプラノ・サックスらで JADE WARRIOR 風の素朴にして透徹なる東洋的エキゾチズムを演出する作品。
「Wahoo!」(4:15)牙を剥くようにワイルドな音で錯乱気味なのに、なぜかメローでブルージーな後味のソウル・バラード。
このコワレ方、最高です。
(YFPL 1-806 / 8573-83580-2)
Pekka Sarmanto | bass |
Craig Herndon | drums, percussion |
Reino Laine | drums, percussion |
Jukka Tolonen | guitars |
Heikki Sarmanto | piano, electric piano |
Eero Koivistoinen | sax |
73 年発表のアルバム「3rd Version」。
EERO KOIVISTOINEN & CO. 名義の作品。
内容は、モダン・ジャズ風味が強めながらも悪食でタフでワイルドなジャズロック。
ツイン・ドラムスによってビートを強調したスタイルが特徴であり、ベースがエレクトリックではなくダブル・ベースではあるが、リズムのグルーヴは強靭である。
集団即興の原始的パワーをエレクトリックなサウンドとともにジャズに注ぎ込み、荒々しくも研ぎ澄まされたジャズロックへと昇華させている。
テーマがキャッチーになっても同時代のフュージョンっぽくはならず、むしろ最初期 WEATHER REPORT から電化マイルス・デイヴィス風に遡ってゆく。
モダン・ジャズの血の濃さを改めて感じる。(そしてコルトレーン風のサックスからまた SOFT MACHINE への連想がつながるからおもしろい)
それなのに、初期 RETURN TO FOREVER にも通じるスパニッシュ・テイストやクインシー・ジョーンズ風のソウル・タッチをまんま取り入れてしまう節操のなさもミゴト。
とにかく、サイケデリックに沸騰するエレクトリック・ピアノのアドリヴに魅せられれば何の問題もなし。
「3rd Version」(11:51)
「Near But Far Away」(8:20)
「Muy Bonita Ciudad」(15:56)
「Latin Power」(8:15)
(YFPL 1-804 / PRCD 1511)
Pekka Pohjola | bass |
Esko Rosnell | drums |
Jukka Tolonen | guitars |
Olli Ahvenlahti | piano, electric piano |
Wlodek Glukowski | synthesizer, clavinet, strings synthesizer |
76 年発表のアルバム「The Front Is Breaking」。
内容は、自身のソプラノ・サックスをフィーチュアしたソウルフルにしてファンタジックなジャズロック。
暖かくキュートなフレーズでメロディアスに迫るが、その実態はタイトなアンサンブルによるテクニカルな演奏である。
WEATHER REPORT の影響はあるのだろうが、若々しさとデリカシーではこちらに軍配が上がりそうだ。
R&B とジャズの熱っぽさは主としてサックスが担い、繊細にして軽快きわまる運動性はキーボードが担う。
しなやかなリズム・セクションは、これらフロントに寄り添いつつもきっちりと流れを仕切る。
手数足数のわりにはうるさくないセンスのいいドラムス、らしからぬフレージングながらも明らかに超絶なベーシストという役者ぞろいである。
そして、いわゆるフュージョンの都会的なナイト・ミュージックのイメージを一気にサイケデリックな幻想世界に引き込むのは、アナログ・シンセサイザーのまろやかすぎる音色である。
ケリー・ミネアばりのアブストラクトでぶっ飛んだプレイも盛り込まれている。
大衆市場の求める分かりやすいロマンチシズムに流れず、反骨精神に支えられた芸術的硬派の姿勢を貫いて時に官能的ですらある古典的な美感で真っ向勝負し、またその一方で「びっくり箱」のような素朴なユーモア精神を発揮して音楽を解き放っている。
分からないフュージョン・ファンにも分かっているプログレ・ファンにもアピールする内容だ。
プロデュースは、ゲオルグ・ワデニウス。
「Homefree」(5:39)
「Safari」(5:33)
「Mean Meat Blues」(5:43)
「Kukkuluuruu」(1:06)
「The Front Is Breaking」(8:24)
「Clear Dream」(3:09)
「Sci-Fi」(6:17)
(LRLP 188 / LRCD 188)