オランダのプログレッシヴ・ロック・グループ「FLAMBOROUGH HEAD」。 90 年代初頭に結成。 CYCLOPS レーベルを支えたダッチ・ネオプログレのエース。 作品は七枚。派生ユニットも多い。
Marcel Derix | bass |
Koen Roozen | drums, percussion |
Andre Cents | guitars, backing vocals |
Edo Spanninga | keyboards |
Siebe-Rein Schaaf | lead vocals, keyboards |
98 年発表のアルバム「Unspoken Whisper」。
内容は、メロディアスで哀願調の典型的な 90 年代ネオ・プログレッシヴ・ロック。
ネオプログレの要素、すなわち、アコースティック・ピアノも含めたヴィンテージ・キーボードによるクラシカルな表現、メタリックなスタカートでリフを刻みつつも朗々と歌うこともためらわないギター・プレイ、そして、なよやかなメロディ・ラインを誠実にたどってゆくヴォーカル・ハーモニーといったファクターを、ロック本来の荒々しさや衝動性と対立させずに、むしろ巧みに協調させて、ロマンティックで重厚なドラマを描き切っている。
キーボーディストを二人擁するだけあって、アンサンブルはカラフルであり立体感もある。
アナログ・シンセサイザーの霊妙な音色のリフレインを透き通るようなストリングスのベールが包み、そのベールをあたかも水晶を響かせるようにアコースティック・ピアノの和音がふるえさせる。
濃い目のメロディをこれらの充実したサウンドで丹念に色付けし、しなやかなギターのリードと力強いリズム・セクションでさらなる生命力を吹き込む。
ファンタジーだがニュアンスや余韻で聴かせるのではなく、あくまでしっかりと主張があり、色付けも積極的で明快である。
この辺りは英国ロックの「含み」のある表現スタイルとはやや異なる。
オランダ流ということなのだろう。
ただし、確かにメロディの冴えはオランダ流だが、いわゆるダッチ・ロックの人懐こさよりも英国ロックの「泣き」の要素の方が強い。
ここはユニークな点である。
また、オールド GENESIS の流れにある MARILLION など 80 年代ポンプ・ロックの系譜を辿るのみならず、大御所 PINK FLOYD からの引水も隠さない。
ひょっとすると、少し後のポーランド勢、ドイツ勢のメロディアス・ロック隆盛はここらに端を発するのでは。
器楽の展開に若干冗漫なところはあるが、カラフルでメロディアス、そして若々しさあふれるシンフォニック・ロックとしては一級品といえるだろう。
オールド・ファンも、やや訛った英語ヴォーカルと「プログレ・メタル」系のヘヴィなギター表現にとまどうことがなければ、リッチなサウンドによるめくるめくファンタジーの趣きある楽曲に酔いしれることが可能だろう。
本作、個人的には 90 年代には陳腐すぎて聴けなかったが、年降るに連れ許容範囲がゆるゆるになったせいか、かなり聴けるようになった。それがいいことなのかどうかはまるで分からない。
ヴォーカルは英語。矛盾で奇を衒うタイトルが若い。
「Schoolyard Fantasy」(8:07)「Hey you ...」からして FLOYD 直系な歌メロを GENESIS な鍵盤器楽が取り巻く、ありそうでなかった展開。
堅牢な構成による端正な作品だ。
「Wolves At War」(4:53)ギターがリードし、キーボードが脇を固めるインストゥルメンタル。
モダンでメタリックな CAMEL といった趣。
スペイシーなイントロダクションは、いつ快速変拍子のギターが走り出すかという期待でワクワクする。(「Luna Sea」のイメージ)
史劇風の勇壮なユニゾンが高鳴ってミドル・テンポでヘヴィなギターが歌いだすとその期待は裏切られるが、キーボードとギターが交互にせめぎあいながら朗々と歌い上げる演奏には、ストレートな高揚感あり。
「Childscream」(7:19)ロマンティックな中にほんのりオルタナティヴ・ロック風味も漂わせる歌もの。ギターに存在感あり。
MARILLION のバラードとの違いは、優しげな表情のベースにあるオプティミズムだろう。
中間のアコースティック・ピアノも優しい。ヴォーカルのいきみとともに PINK FLOYD 風になるのは前曲と同じ。
「Unspoken Whisper」(10:23)冒頭の和声進行がややわざとらしいが、初期 GENESIS のたおやかさと熱くなってもカッチリとまとまるところをよく再現した佳曲である。
包み込むように優美でほんのり神秘的なキーボードのメロディ、リフレイン、進行に連れて成長してゆく姿をイメージさせる若々しいヴォーカルもよし。
ギターはキーボードを邪魔せずにレガートに徹して正解。
全体にキーボード中心のアレンジが奏功した作品だろう。
「Legend Of The Old Man's Tree」(4:28)
「Xymphonia」(10:06)
「Heroes」(7:53)やや悪趣味なまでに子供向け番組風の明快なフレーズを次々と繰り出すインストゥルメンタル。
このイージーな感じは、EKSEPTION や TRACE と共通する。
(CYCL 063 / OSKAR 1066 CD)
Marcel Derix | bass |
Koen Roozen | drums, percussion |
Eddie Mulder | guitars, backing vocals |
Edo Spanninga | keyboards |
Margriet Boomsma | lead vocals, flute, recorder |
2002 年発表のアルバム「One For The Crow」。
内容は、クラシカルで朴訥、70 年代ロックの味わいを多く残したシンフォニック・ロック。
本アルバムより、ギタリストはエディ・マルダーに、ヴォーカリストは女性のマルグリット・ボームスマに交代する。
この交代はそのままサウンドの変化となって現れている。
音楽からプログレ・メタル風味は雨散霧消、CAMEL 風のメロディアスで暖かく、自然なブルーズ・フィーリングを放つものとなった。
ギタリストのプレイは良くも悪くも、ややハケット、ラティマー系に寄ったオールド・ロック的なスタイルであり、ヴォーカリストはさほど数多くはないシーンで健康的かつ優美なる歌唱を悠々と操る。
これに引っ張られるように、元々オールド・スタイルであったキーボードもさらにまろやかでチャーミングな気品を振りまくものとなった。
クラシカルなタッチも、凜と整ったというよりは、素朴で暖かみにあふれ和みテイストが強い。
ルネッサンス歌曲の伴奏のように愛らしいフルートやリコーダーも、これ以上ないというくらいに、ここの音にぴたっとはまっている。
そして、硬軟、緩急、静動といった抑揚や語り口の自然さは一作目をはるかに凌ぎ、楽曲は非常に充実している。
リフやテーマとなるフレーズは明快にして構成的であり、ほどよいスリルと心地よさとともに口ずさむこともできる。
どこまでも暖かく柔和ながらも、全体の聴き応えはしっかりとある。
初期 GENESIS から病的な幻想味と攻撃性を取り除き、CAMEL 的なファンタジーの味わいを強めた感じといえばいいだろう。
MARILLION ではなく PENDRAGON であり、70 年代イタリア黄金時代の B 級バンド的なニュアンスもある。
この時期のバンドにありがちだった取ってつけたような変拍子がないのも好感度高し。
ヴォーカルは英語。
「One For The Crow」(12:00)
「Old Shoes」(13:13)
「Separate」(1:39)
「Daydreams」(6:18)
「Nightlife」(10:07)
「Old Forest」(2:46)
「Limestone Rock」(9:59)
「New Shoes 」(2:14)
「Old Shoes - Reprise」
「Pure - 16th Of June」
(CYCL 108)
Margriet Boomsma | lead vocals, flute, recorder |
Marcel Derix | bass |
Eddie Mulder | guitars, backing vocals |
Koen Roozen | drums, percussion, coffee |
Edo Spanninga | keyboards |
2005 年発表のアルバム「Tales Of Imperfection」。
内容は、つややかで優美、時に上品な憂鬱さを漂わせるメロディアス・シンフォニック・ロック。
ブルーズ・ロックから半世紀余り、ブルース・フィーリングをロックに封じ込める手腕もずいぶんとソフィスティケートされてきたと思わせる音である。
小気味いいバンドのパフォーマンスにストリングス系のサウンド、アコースティック・ギター、フルート、ピアノといった叙情派定番楽器を盛り込み、若々しくも早や円熟味を感じさせる。
溌剌としつつも抑えることも熟知したリズム・セクションは、バンドとしての躍動感と小気味のよさ、腰の据わった安定感を支えているし、耳になじむフレーズを粘っこく紡ぐギターは感動のキャリヤであるとともに独特のフックとしても機能している。
朴訥ながらも正攻法で歌いあげるスライド・ギターがじつにいい。
独特のひっかかり感やぎこちなさも含めて魅力になるところは、絶頂期の YES と同じである。
そして、キーボードがさまざまな音色とフレーズで、テーマを奏でヴォーカルを支えアンサンブルを彩り、演奏のすべてにわたって演出の仕上げをしていることはもはやいうまでもない。
フルート、リコーダー、シンセサイザーによる木管調の音はルネッサンス、バロック音楽のエッセンスを薬味のようにタイムリーに注ぎ込む。
一種の時代を超えた魔法のような内容であり、現実逃避として抜群の機能性をもつ。
震えおののくようなメロトロンやハモンド・オルガン、滾々と湧く森の泉の如きピアノ("Lamb" そのもののような表現もある)とフルートのさえずりに稚気凛々たるギターが重なると、プログレの醍醐味としかいいようのないふくよかな味わいがいっぱいに広がる。
また、アコースティック・ギターも加わったアンサンブルには、GENESIS だけではなく、その後のニューエイジ・ミュージック、ワールド・ミュージックの流れに通じるオーガニックな響きもあり。
ステレオタイプに陥りがちなヴォーカルよりも器楽に大きくスペースを割く作戦は的を射ていると思う。
クラシカルだが厳粛な重苦しさはなく、モーツァルトのように素朴な明るさと愛らしさ、突き抜け感のあるシンフォニック・ロック作品である。
ギターの表現は、いわゆる技巧志向ではなく、感情のひだをていねいにたどるようなアプローチであり、ブルーズにもジャズにも寄らずに素朴さとクラシカルな味わいを貫いている。
GENESIS はもちろん、古い英国ロック、たとえば FRUUPP や DRUID のようなグループの作品と共通する牧歌調、叙情性があると思う。
女性ヴォーカルは英語。ソプラノではなく、清潔感あるコントラルトです。
本家本元から見ればすでに曾孫世代となる 90 年代ネオ・プログレッシヴ・ロックの正当後継者であり、血統に息づく情熱はいささかも衰えていない。
もはや伝奇的ですらあり、この情熱を半世紀前に怪奇骨董音楽箱を開くことでかけられた一種の「呪い」ととらえると、いったい人生とは何なのかという問いにまで遡れそうだ。
現代に甦った死人魔法遣いのシモーヌ・ロセッティに問いかければ、「知れたことよ」と顔を歪めて不気味に笑うだろう。
「For Starters」(2:24)
「Maureen」(12:00)
「Higher Ground」(7:00)
「Slient Stranger」(10:30)
「Captive Of Fate」(8:08)
「Mantova」(8:39)
「Year After Year」(3:11)
(OSCAR 1068 CD)