ポーランドのプログレッシヴ・ロック・グループ「LIZARD」。 90 年結成。 作品は七枚。 最新スタジオ盤は 2018 年発表の「Half-Live」。 KING CRIMSON 系ギター・ロック。
Damian Bydliński | vocals, guitar, gm-etono | Janusz Tanistra | bass |
Daniel Kurtyka | guitar | Paweł Fabrowicz | keyboards |
Mariusz Szulakowski | drums, percussions, programming | ||
guest: | |||
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Andrzej Jancza | keyboards | Bartosz Dabrowski | trumpet |
Marcin Żupański | sax | Marcin Piekƚo | classical guitar |
2016 年発表のアルバム「Trochȩ Żóƚci, Trochȩ Wiȩcej Bieli」。
内容は、ダイナミックな展開が持ち味のアダルト・ヘヴィ・シンフォニック・ロック。
崩れ落ちる巨岩のように打ち鳴らされるドラム、地響きを立ててのたくる鋼鉄の大蛇のようなベース・ライン、冷気そのものなストリングス、意識の残滓のような狂おしい管楽器のノイズ、暗黒呪文のようなパーカッション。
リズム・セクションとエレクトリック・ピアノやストリングスのキーボード、管楽器らが音の空隙を活かした余韻のあるアンサンブルを繰り広げるかと思えば、凶暴なギターが音を一気に稠密化して荒々しい躍動感と息詰まる緊迫感に満ちた豪風のような演奏にも変貌する。
無機的な空間にドラマを描くにあたってはトランペット、サックスなど人声の表情のニュアンスがある管楽器をフィーチュアしている。
コンテンポラリーなジャズ・タッチは KING CRIMSON を経由していると思う。
その美意識やセンスはすでに魂にしっかりと刷り込まれているようだ。
アフロ、第三世界風の打楽器群が騒めく中をジャジーな管楽器が貫いて走るシーンがじつにカッコいい。
ただしそこにギターが交ざるとインダストリアルな空気感の高まりとともに一気に 80’CRIMSON になってしまうのだが。
そういえば冒頭ではカリンバ風の音が変拍子のモアレを刻みつける。
それに「太陽」のイントロを想起してしまうわたしは病気だろうか??
また、男性的で硬質なサウンドなだけに時おり現れるポーリッシュ・ロックらしいメロディアスな展開が一層際立っている。
楽曲は 6 パートに分かれた組曲一つのみ。
冒頭に現れる荒涼としたスキャットが全体を貫いている。
ヴォーカルはポーランド語。大仰で角ばった響きが往年の東欧ロックのイメージをしっかりと継承している。
38 分弱の収録時間は LP 時代なら当たり前だったが、今ではミニ・アルバムになってしまう。
(ACD 008-2016)
Damian Bydlinski | vocals |
Andrzej Jancza | keyboards, synthesizer |
Mariusz Szulakowski | drums, percussion |
Janusz Tanistra | bass |
Miroslaw Worek | guitars |
97 年発表のアルバム「W Galerii Czasu」。
内容は、変拍子を多用したギター中心のダイナミックなネオ・プログレッシヴ・ロック。
強靭なリズムを軸にした、ふり回すように性急に変化する曲調は、いかにもモダンなテクニカル・ロックのイメージである。
しかし、男性的なヴォイスとダークでミステリアスなところは、やはり「Red」KING CRIMSON の直接的な影響だろう。
数少ないメロディアスな場面にも暗めのリリシズムが感じられる。
そして、いわゆるネオ・プログレのグループには珍しく、躍動するリズムと荒々しくテクニカルなプレイの方が目を惹く。
いわゆるポンプやプログレ・メタル的なクリシェはない。
むしろ、メイン・ストリームのギター・ロックやオルタナ的な音に、CRIMSON とジャズロック風のプレイも交えたスタイルというべきだろう。
そして、音数こそ多くないが、デリケートで深みあるキーボード(管楽器風のソロが美しい)がリードする場面では、プログレならではの幻想がたちこめる。
もっとも、メロディアスなプレイも決して苦手なわけではなく、ギター・ソロなどの決め所では情感豊かなところを見せている。
しかし、それ以上に、男性的でストレートなヴォーカルの表現や、パワフルでパンチの効いたギターの音にロック魂を感じて痺れてしまう。
同じポーランドの COLLAGE と比べると、こちらの方がややソリッドで、削ぎ落としたようなマッチョさを感じさせる。
そして、パワフルながらも、ギターのアルペジオと重厚なキーボードが交差する演奏に、厳かな重みと深淵から立ち上る瘴気のような妖しさがある。
そこがなんともいいのだ。
結局、なかなか似たタイプの見つからない音といえるだろう。
CRIMSON という名の下の HM が多いなか、本作のような多彩な音楽性を CRIMSON 的なスタイルへとまとめた作品は珍しい。
前半でカッコいいギター、ドラムスのプレイに魅せられ、次第に重厚でドラマティックなオーケストレーションにも酔うことができる佳作である。
タイトルは「In The Gallery Of Time」の意。
リード・ヴォーカルは、原語であり、声質/スタイルは AOR 風。
もっとはっきりいうとドナルド・フェイゲンとスティングの間くらい。
極端な巻き舌の発音は、おそらくポーランド語固有のものなのでしょう。
「Kazdy Dzien To Wiecej Ran W Twej Glowie」(9:24)
JADIS をもっと男性的で骨っぽくしたようなパワー・チューン。
変拍子リフ中心のダイナミックな演奏にジャジーな和声(m7th 系)を交えるところがユニーク。
キーボードも多彩だ。
冒頭のような派手な音使いは、COLLAGE と共通。
ヴォーカルには常に苦悩の翳が。
「Galeria Iluzji」(6:34)
目まぐるしいリズム・チェンジでたたみかける演奏から、モノクロームの歌へ。
アンサンブルというよりは、リズムとノリ一発で突っ込んでゆくのが得意なようだ。
メロディアスではなく、言葉を叩きつけるような歌。
後半の「Startless and bible black」を思わせる即興風のパートが面白い。
係り結びがぶっ飛んでいるあたりは、往年のイタリアン・ロックを彷彿させる。
「Autoportret」(4:51)
端正なピアノ、朗々たるギターが支えるバラード。
前 2 曲と比べると格段にメロディアスでエモーショナル。
どうやら元々は HM 系らしいギタリストが、リックで済まさずあえてひねったソロがなかなかいい。
「Strefa Cienia」(6:02)
変拍子やポリ・リズムによるアンサンブルを強調したトリッキーなパワー・チューン。
8 分の 9/7 拍子、2 拍子系と 3 拍子系の切り替え、拍落しなど GENTLE GIANT ばりの挑戦的な演奏である。
後半のディレイ、シーケンスとヘヴィな低音のコンビネーションは、やはり CRIMSON なのだろう。
「Ogrod Przeznaczenia」(6:10)
飾り気のない朴訥としたアルペジオが取り巻くフォーク・ロック風の作品。
ここでもジャズ風のコードが現れる。
オーボエなど木管楽器を思わせるシンセサイザーが印象的。
振り回すような曲調の後では、なおのこと、穏やかさや緩やかさが染み入る。
「W Krainie Szmaragdowego Jaszczura」(13:41)センチメンタルなテーマを巡り、重厚なドラマをもつ大作。
メイン・パートなどイタリアン・ロック風のクラシカルな演出もあるが、やはり後期 CRIMSON の即興演奏の影響が顕著であり、得意のジャジーな和声/サウンドも巧みに挟み込んでいる。
7 番目のトラックとなる終曲は、あまりに堂々たるボレロ。
そして、長い沈黙の果てにテーマがリプライズする。
(AMS 008R)
Damian Bydlinski | vocals, guitar, guitar synthsizer |
Andrzej Jancza | keyboards |
Janusz Tanistra | bass |
Mariusz Szulakowski | electric & acoustic drums, percussions, programming |
guest: | |
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Krzysztof Maciejowski | violin, keyboards |
2004 年発表のアルバム「Psychopuls」。
CRIMSON のカヴァーも収録されたオフィシャル・ブートレッグに続くスタジオ第二作。
内容は、ジャジーな即興を盛り込んだ KING CRIMSON 直系のヘヴィ・シンフォニック・ロック。
CRIMSON フォロワーの多くが 70 年代「Red」CRIMSON の影響下にあるが、本作ではそこだけではなく 90 年代以降、現在の CRIMSON の音も追いかけている。
これは珍しいタイプといえるだろう。
また、今回もモノクロの凶暴でヘヴィな音のなかに、気が抜けるほどジャジーな音を大胆に散りばめる。
さて、演奏面では、専任ギタリストが脱退したせいか、ヴォーカリストによるギターのプレイは前作にもまして変拍子リフ主体であり、ソロはもっぱらゲストのエレクトリック・ヴァイオリンに任されている。(もっともソロ以外では、7 曲目のように、アルペジオやシーケンス・フレージングなどフリップばりの細やかで神経質なスタイルをよく研究している)
また、狂乱するようなエレクトリック・ヴァイオリン・ソロはそのままフリップのギター・アドリヴのスタイルを模倣しているようだ。
8 曲目のメロトロン・ストリングスでは本家の音をみごとに再現している。
最終曲は、あまりに「太陽と戦慄」。
そして、CRIMSON 的な音を使いながらも、エキセントリックな緊張感ばかりか、パンク/オルナタといった街場のロックのイメージも醸し出している。
エレクトリック・ジャズに加えて、音響派、ポスト・ロック調もあり、この辺りがさすがに現代のグループということなのだろう。
NEBELNEST や SOMNAMBULIST らと同じく、新時代の KING CRIMSON フォロワーといっていいだろう。
全曲「Psychopuls」というタイトルであり、トータル・アルバムの可能性が高い。
ポーランド語を翻訳できるウェブサイトが見つけられないため、コンセプトなどはいまだ不明である。
歌詞はポーランド語。
ただし、中盤以降はほとんどインストゥルメンタルである。
(MMP CD 0235)
Damian Bydlinski | vocals, guitar, guitar synthsizer |
Janusz Tanistra | bass |
Mariusz Szulakowski | drums, percussions, programming |
Krzysztof Maciejowski | violin, keyboards |
2005 年発表のアルバム「Tales From Artichoke Wood」。
キーボーディストが脱退し、代わりに前作でゲストだったヴァイオリニストがキーボード兼任で正式加入する。
このヴァイオリンの存在がなかなか大きく、そのせいか、サウンドは全体に若干ライトアンドスムース化。
これはフュージョン、ニューエイジ・ミュージックのようなニュアンスが加わった、いや、70 年代終盤に英国プログレ・バンドが向かったような音といったほうがいいのかもしれない。
ヘヴィなギターや歌い込む「濃い目」のポリッシュ・ヴォーカル、ヤクザなドラムスはそのままに、作風になめらかで清涼なテイストが加わっている。
もっとも、元がかなり暗いのでようやくフツウくらいの明るさだろう。
キーボードでサイケデリックな彫の深さを演出するのも巧みだが、本作の眼目は、前作で見せた現代ロックらしさを、これまでの陰鬱さではなく、キャッチーでリラックスした方向へ進めたことだろう。
ポーランドのグループは、なぜか売れ線への転向が自然で巧みであり、こちらもついフラフラとついていってしまう。
ただし、憂鬱にうつむく表情のどこかに危険な凶暴さを隠しているような不気味さはあり、中盤以降は、かなりの緊迫感が出てくる。
そして、クリアなアルペジオと南米風のキーボード・ストリングスが、突然オルガンの咆哮にすりかわるような瞬間や、ハードロック調のヘヴィなギター・リフをためらいなく叩きつけるところもある。
さらに、前作までのリスナーが、ところで KING CRIMSON はどこへいった?、と首をひねっていると、"DISCIPLINE" CRIMSON や U.K. 的な表現の取り込み含め、ちゃんと落とし前をつけている。
おそらく本作は、あるテーマ/コンセプト(曲名がそれぞれ、ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ、サルバドール・ダリ、パブロ・ピカソになっており、この三人の画家の作品からインスパイアされた内容のようだ)という座標軸に沿って進むという約束事は維持するものの、音楽そのものは自由に振舞わせることを目指している。
その結果、元来プログレの魅力の一つである音楽百面相的な面白さが十分に発揮されている。
安定した演奏力を活かしたアプローチといえるだろう。
全体の雰囲気がとてもいい。70 年代終盤の Virgin Record の作品が好きな方にお薦め。
5 曲目のメロトロン風の音は、おそらくギター・シンセサイザー。
9 曲目は、かなりカッコいいシンフォニック・インストゥルメンタル・チューン。
終曲のまとめによって、不思議な後味が残ります。
ヴォーカルはポーランド語。
(MMP CD 0350)
Damian Bydlinski | vocals, guitar, guitar synthsizer |
Janusz Tanistra | bass |
Mariusz Szulakowski | drums, percussions |
Krzysztof Maciejowski | violin, keyboards |
2006 年発表のアルバム「Spam」。
内容は、HR/HM ではないグランジ/オルタナ系へヴィ・プログレッシヴ・ロック、ややポスト・ロック風味、ヴァイオリン入り。
暗く憂鬱な表情、もしくは変拍子で叩きつける凶暴な表情とともに、繊細で穏やかな表現も巧みであり、薄暗いと思っていた周りにほのかに明かりが見えてくるような静かなドラマを構成している。
この雰囲気、おそらく「渋い」といえばいいのだろう。
そして、なんというか、展開が自然であり、男性的でハードな音のみならず意外なまでにジャジーでアダルトな場面やドラムブレイクも流れにぴったり収まっている。
ノイジーで牙を剥くようなギター・リフとヒステリックなヴァイオリンのからみ、また幾何学的なフレーズ反復など、KING CRIMSON への暗示的な言及は明らかだが、それに加えて、エモーショナルでスタイリッシュなヴォーカルの存在感、情念の炎で過激なパッションを炊きつけるような作風など、VAN DER GRAAF GENERATOR を連想させるところもある。
また、ギター・シンセサイザーだろうか、攻撃的なリフでギターとユニゾンするサックス系の音が非常にカッコいい。
鋭く弾けながらも硬い質感のリズム・セクションもいい。
後期 KING CRIMSON と同じく、4 ピースの締まった、安定感ある演奏によるコンテンポラリー・ハード・プログレの佳品である。
最終曲、救いの手を差しのべるようなバラードに上質のイタリアン・ロックと同じ希望を感じた。
おそらく、60-70 年代の音に対して、スタイルだけではない、奥深い憧憬と親近感があるのだと思う。
U.K. もこれくらい渋く復活してほしい。
楽曲は「Spam」という曲が 1 番から 6 番までの計 6 曲。ヴォーカルはポーランド語。
「Spam #1」(9:18)
「Spam #2」(8:44)
「Spam #3」(6:08)
「Spam #4」(7:36)
「Spam #5」(8:52)
「Spam #6」(12:28)
(MMP CD 0408)
Damian Bydlinski | vocals, guitar, guitar synthsizer |
Janusz Tanistra | bass |
Daniel Kurtyka | guitar, acoustic guitar |
Paweł Fabrowicz | keyboards |
Aleksander Szałajko | drums, percussions |
Mariusz Szulakowski | drums, percussions on 2019 version bonus |
2013 年発表のアルバム「Master & M」。
内容は、重厚な変拍子ヘヴィ・シンフォニック・ロック。
骨太で荒々しく凶悪なのに都会的なデリカシー、ひ弱さもある。
繊細な表情はヴォーカリストの歌唱スタイルに象徴される。
ギターが主導するバンド全体の音のイメージ、質感は 80、90 年代以降の KING CRIMSON の作風とほぼ同系統である。
わりとモロなところも多い。
個人的には「Red」ではなく「Fallen Angel」の系統、つまり無機質で暴力的な中に浮かび上がる叙情性が感じられる瞬間がいい。
プログレ・メタル然とせずオールド・プログレに聴こえるのは、スペイシーでサイケデリックなセンスがあるためだろう。
古くはフランスの PULSAR などが備えていた特徴である。
位相系エフェクトのアルペジオでバッキングを決めたり、メロトロン・フルート風の音を挿入したり、確信犯であることは間違いない。
「曲が長くてうれしい」タイプの作風である。
メロディ・ラインが 70 年代末風なのでクラシック・ロック・ファンにお薦め。
ヴォーカルはポーランド語。もはやダミアン君のヴォーカルあってのグループという気さえしてくる。
2019 年にライヴ・ヴァージョンを1曲追加収録したリマスター版が発表された。
「Chapter I」(15:48)
「Chapter II」(10:38)
「Chapter III」(6:58)
「Chapter IV」(7:01)
「Chapter V」(13:25)
「Woland's Great Ball Part III (Chapter IV Live)」(9:34)2019 年版のボーナス・トラック。
(82CD VKD 0003 / ACD 014-2019)