アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「MADRIGAL」。 77 年結成。 88 年収録作の 92 年再発が人気を博したために再結成、96 年に新譜発表。 メインストリーム・ロックにややプログレのイディオムが入った SPOCK'S BEARD、ECHOLYN 系。 70 年代ポップス風のヴォーカルもいい。
Michael Stephen Dornbirer | electric & acoustic guitar, guitar synth, bass, banjo, keyboards, effects, vocals |
Kevin Dodson | acoustic & electric drums, percussion, keyboards, effects, lead vocals |
Don Caron | acoustic & electric keyboards, lead vocals on 8 |
Kris Knutson | bass on 1,4,6, acoustic bass on 1 |
Neoma Mauget | vocals on 5,6,7 |
Barbara Dodson | vocals on 5 |
Mary Jane Weis | flute on 5 |
Dave Cebert | keyboards on 4 |
Ian Mckinley | vocals on 1,7, toy drum kit on 8 |
92 年発表の第一作「Waiting...」。
中心メンバーであるケヴィン・ドッドソンとマイケル・ドンビアーの二人にゲストを迎えた編成である。
内容は、アメリカ人特有の鼻にかかった早口ヴォーカルが ECHOLYN や SPOCK'S BEARD をイメージさせるにもかかわらず、英国ロックに通じる暗さと捻じれのあるユニークなロックである。
凝った音の配置やアンサンブルは、まさしくプログレであり、翳のあるメロディと重厚さとともに英国の音への強いつながりが感じられる。
源流はおそらく THE BEATLES。
そして、プログレッシヴ・ロックの文脈ならば、初期 GENESIS の怪奇と幻想である。
きわめてアメリカ的な発声のヴォーカルも、聴き慣れてみると、表情付けはピータ・ガブリエルであり、ハーモニーはまさに GENTLE GIANT である。
フルート、シンセサイザーのオスティナートやぐっと切り込むギターなど、「それ」風な小道具も充実している。
また、メイン・ストリームの音へ厭わずあっけらかんと近づく、オープン・マインドな姿勢もうかがわれる。
それでいて、この暗さ。
3 曲目のピアノとアコースティック・ギターのアンサンブルは、ANGLAGARD や VAN DER GRAAF GENERATOR もかくやとばかりのヨーロッパ的な暗鬱を示す。
6 曲目は、新しいプログレともいえるノイジーなヘヴィなロック。
7 曲目は、アコースティック・ギターが絶え間なくささやくヴォーカル・パートから、けたたましい変拍子アンサンブルへと発展する野心作。
中盤、再び切々と歌が始まる感動作だ。
アメリカ産だけに、エキゾチズムという飛び道具を使えないハンデはあるが、この音ならば全くゲタは必要ないだろう。
凝っているがナチュラルなリズム・パターンと、アコースティック・ギターを用いたフォーク風のバラード、ヴォリュームの変化によるメリハリが生むドラマ性は、70 年代のグループのようにすばらしい。
さまざまな音楽を吸収するコンテンポラリーなアメリカン・ロックのスタイルに、一本英国風歌物プログレの筋が通った力作だ。
もし文句があるとすれば、あまりにプログレ風のアレンジが鼻につくということくらいだ。
アナログ時は A 面に「DAY」、B 面に「NIGHT」というタイトルが付いていた模様。
各曲も鑑賞予定。
「Sister Happy」(5:22)
「Next Wave」(5:30)
「Five Gifts For Third Child」(3:30)
「Experience」(5:26)
「Best Laid Press」(7:25)
「Jericho(Clear This Place)」(3:49)
「Old Moon」(9:32)
「Pit Thing(Featuring "Skinbo Hambone")」(2:55)
(ETP 2001-A)
Kevin Dodson | drums, acoustic guitar, lead vocals |
M.Stephen Dornbirer | electric & acoustic guitar, guitar synth |
Michael Rosenthal | keyboards, vocals |
Steve Springer | bass, vocals |
Chuck Swanson | saxophone, flute, MIDI Horn, vocals |
96 年発表の第二作「On My Hands...」。
内容は、前作よりもリズムの輪郭がきつくなり明確さも増した ECHOLYN/SPOCK'S BEARD 風 (タイトルからすると GENTLE GIANT なんだろうが) のテクニカル・シンフォニック・ロックへとシフト。
古きよき英国ロックの伝統からの影響はやや抑えられ、独特のアコースティックな土臭さをもちながらも、より現代的な音を目指しているようだ。
ジャズ・フュージョン風の音や、ハードポップ風のメロディ・ラインは、その辺に起因するのかもしれない。
特にすばらしいのは、やはりヴォーカル。
デフォルメされた表情が自然なのも、そもそも歌がうまいからだろう。
また、フルートが入ったとたんに JETHRO TULL 風になってしまうのもおもしろい。
なぜか一般に、アメリカのグループは GENTLE GIANT と JETHRO TULL が大好きである。
1 曲目「Shout」(5:53)。
囃し歌のようなアカペラ・コーラスから、激しいユニゾン、そしてリズム・チェンジと息もつかせぬオープニング。
その後も弾けるリズム・セクション(硬めのベースの音がカッコいい)と、決めまくるヴォーカル・コーラスを軸にスリリングに展開する。
急ブレーキをひいて、一転ミドル・テンポのバラードになるところなど、緩急も堂に入っている。
2 拍 3 連のドラムスやピアノのバッキングもいい。
キーボード、ギターによるハイテク変拍子アンサンブルの間奏もすごい。
せわしなく追い立てる曲調ながらも、演奏の切れ味と歌メロがいいためにグルーヴがある。
鋭角的でクリアーな 90 年代型プログレであると同時に、複雑なコーラス、サックス、ハモンド・オルガンなど 70 年代風のイディオムもあり。
まるで GENTLE GIANT が甦ったかのようだ。
圧倒的な演奏力を一体感あるアンサンブルへ集約し、リリカルなヴォーカルをのせたテクニカル・ロック。
2 曲目「Living On The Edge」(5:01)。
切ないヴォーカルとクラシカルな管楽器(MIDI だろう)をフィーチュアした哀愁のハード・バラード。
重量感ある硬質なリズムがどっしりと構え、なかなかポップなメロディが泣く。
伴奏は、ヘヴィなギターとフルート風のソフトなキーボード・リフレイン、そしてソロはメロディアスなサックス。
ここでも金属的なベースが目立つ。
ヴォーカルの抑揚がみごと。
ハードロック・グループ(個人的には 80 年代の FOREIGNER など)によるヒット・ソングの趣である。
3 曲目「Old World Charms」(4:30)アコースティック・ギターと金管風のソフトなシンセサイザー、水の滴るようなエレピらの伴奏による内省的なバラード。
繊細なヴォーカルの表情がいい。
サビのバックではメロトロン風の音も。
間奏からファンファーレのように高鳴るムーグを経て、力強くドラムスが打ち鳴らされ、リズムが刻まれる。
ダイナミックな盛り上がりや、感傷的なメロディとノスタルジックなストリングス・アレンジなど、すべて前作に通じる英国ロック風の叙情的な作品だ。
4 曲目「Showdown」(3:06)
フルートをフィーチュアしたリズミカルなカントリー/フォーク・ロック。
ピアノとシンセサイザーが刻むリフは、フォーク・タッチの軽やかなもの。
軽やかなフルート、アコースティック・ギターのストロークが彩るヴォーカルは、くすんだ色合いの中に力強さをもつ。
はっきりいって、JETHRO TULL 風 ECHOLYN な分けだが、果たして、このスタイルはアメリカ人の音楽的な素地としてもともともっていたものなのか、それとも、JETHRO TULL がアメリカのカントリーやブルーズ、フォークを逆輸入して完成させたものなのか。
2 曲目に続き、基本的なポップ・センスが非常に優れていることが分かる作品である。
5 曲目「Castings」(5:38)
金管シンセサイザーとストリングスによる、重厚にしてうっすらと悲壮感漂う幕開け。
不安げなリフレインとともに幻想的なムードが高まると、得意の芝居っ気あるヴォーカルが静々と歌いだす。
水の滴るようなエフェクトや厳かなストリングスによる伴奏も、プログレらしい細やかなものである。
重苦しいストリングスの蠢きをきっかけに、ヘヴィなギターが爆発、KING CRIMSON / VdGG ばりのアタックのあるアンサンブルが一気に高鳴る。
メロディアスなヴォーカルは重苦しい演奏を貫いて飛翔する。
ヴォーカルとともにコミカルな変化もつけつつ、ミドル・テンポで堂々とした演奏が続いてゆく。
バロック・トランペット風の金管シンセサイザーをはさみ、ヘヴィなパワー・コードとともにかなり個性的なシンセサイザーのソロ。
ケリー・ミネアに近いセンスである。
渦巻くようなフィードバックが演奏を断ち切り、静寂は訪れ、ギターのかき鳴らすコードとともに、つぶやくような歌が消えてゆく。
アヴァンギャルドに展開するプログレらしい快作。
ストリングス系の音や金管などクラシカルな背景にヘヴィな音が重なって、重厚ながらも歪なイメージを作り上げる。
初期 GENESIS と VdGG の作風をあわせたような感じである。
6 曲目「Survivors」(4:01)
R.E.M を思わせるノーマルなアメリカン・ロック。
メランコリックな歌メロとシンプルなドラム・ビートは、今すぐラジオから流れてきても何の違和感も感じないだろう。
個性的なシンセサイザーの音や、間奏の MIDI トランペット、エレアコ・ギターなどの贅沢にさまざまな音を散りばめている。アレンジのセンスはなかなかのもの。
静かに佇むようないい曲です。
7 曲目「On My Hands」(7:29)
SE を散りばめるイントロダクションを経て、弾き語り風のメロディアスなヴォーカルが始まる。
一転、クランチな演奏が小気味よくスタート。
いかにも、MARILLION、ネオ・プログレ然とした展開だ。
伸びやかなギター・プレイもそう思わせる一因だろう。
4 分の 5+6 拍子のテーマによるリズミカルでエッジの効いた演奏と筋の通ったヴォーカルのコンビネーションは、ここでも冴える。
うっすらとしたコーラスでムードを切り替え(こういうアレンジがニクい)、一気にインスト・パートへ。
変拍子のテーマ、高音で唸るベース、透明感あるキーボード、アコースティック・ギターらによるアンサンブルは YES に匹敵する密度と切れ味のよさあり。
エレキギターも思い切りスティーヴ・ハウ風のスケーリングを披露する。
8 分の 7 拍子を交えた後半は、ミドル・テンポでシンフォニックで堅実な演奏が続いてゆく。
ここでもナチュラルトーンのエレキギターが大活躍である。
終盤のヴォーカル、ハーモニーは、カッコよくて盛り上がるが、なんだか昔の産業ロックや HR/HM を思わせるところもある。
YES 系のシンフォニック・ロック力作。
自信あふれるアンサンブルが、真っ直ぐに小気味よく迫る。
トリッキーな演奏をそう感じさせないところが本家に近い。
JELLY FISH がシンフォニック・ロックをやるときっとこんな感じでしょう。
8 曲目「The Stumbler」(5:18)
ヴォーカルを大きくフィーチュアした劇的なバラード。
ロマンチックなアコースティック・ピアノがヴォーカルに寄り添い、ストリングス系の音が雄大な広がりを与えながらすべてを許し、包み込む。
甘さの中に暗く厳しい表情を垣間見せるヴォーカルは、ほとんどピーター・ハミル。
モノローグの迫力がすごい。
歌詞で歌われる挫折し老いた男とは、自らを映しているのだろうか。
VdGG のシンフォニックな作品を彷彿させる重厚かつ甘美な世界である。
イアン・アンダーソンの声質とピーター・ハミルの表現力に倣ったようなヴォーカル、YES / GENTLE GIANT ばりのテクニカルなインストゥルメンタルなど、70 年代プログレのエッセンスを吸収して、今のアメリカン・ロックに反映したユニークな作風である。
全曲きちんと性格付けがなされており、アルバムの聴き応えはかなりのものだ。
泣きのメロディ一辺倒が主流のネオ・プログレッシヴ・ロックにあって、リズムと躍動感に重きをおいた演奏は痛快であり、間違っていない。
そして、メロディや歌に、英国風というかなんというかアメリカ産らしからぬ湿度があり、光が屈折したような不思議な色合いがある。
前作同様アコースティックな歌もののよさは抜群だ。
多くの現代アメリカのグループ同様、メイン・ストリームの音とプログレという趣味の間の微妙な位置にいるような気もする。
(IEV 9501-2)