イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「MR SO & SO」。 88 年結成。2000 年解散。2006 年再結成。作品はアウトテイク集を含め六枚。ネオ・プログレ卒業後も好作品を発表。
Shaun McGowan | vocals, bass |
David Foster | guitar |
Kieran Twist | keyboards |
Leon Parr | drums, percussion |
95 年発表のアルバム「Compendium」。
内容は、英国ロックらしい、青春真っ盛りのキッチュさとデリケートな表情がブレンドしたきらびやかなネオ・プログレッシヴ・ロック。
GENESIS や YES、U2 辺りからの影響は当然あるのだろうが、初めにそういう些事が思いつかないほど、音の表層はニューロマ/ネオアコ/オルタナ系ニューウェーヴ的である。
しかし、その軽快で若々しく、ソフトながらもややけばけばしい音楽が、たくましいリズムとギター・サウンドで支えられていて、さらには、ストーリー性のある楽曲を説得力を持って奏でられることに気づくと第一印象は変わってくる。
意外なまでにバンドとしての屋台骨がしっかりしているし、メロディ・ラインもキャッチーなばかりでなくひねりがあり、「ポップソング」というにはあまりに作りこんだ構成がある。
インストゥルメンタル・パートのおもしろさに気づけば、もはや余計なことは考えないだろう。
間違いなく、80 年代的な意匠を採用したプログレッシヴ・ロックなのだ。
「だからこそ、ネオ・プログレッシヴ・ロックなのだ」と、言葉の定義を再確認した思いである。
また、へヴィなギターが轟くことがあっても単調な HR にならないのは、コケオドシ風の耽美な表現がほとんどない上に、エネルギッシュでポジティヴな疾走から神秘的、呪術的な表情を湛える場面までの変転がナチュラルかつダイナミックだからだ。
そして、透明感のあるネオアコ調のサウンドを使って、へヴィさとのバランスを取っているせいでもある。
さらに、キーボード・サウンドがエッジの立ったパワフルなギター・ロックの背景をしっかりと固めていて、要所でオルガンやアナログ・シンセサイザー風のレゾナンスの効いたサウンドで前面に出て楽曲をリードする。
つるつるとなめらかなシンセサイザーのオブリガートがいかにもネオ・プログレらしくていいではないか。
つまり、描きたいドラマとそのための音の選択は的確に行われており、それゆえに、英国ギター・ロックの主流に近いところにいる。
もちろん、さりげない 7 拍子フレーズや YES を意識し過ぎたような派手めのベースのプレイや尖ったアンサンブルが飛び出すので、基本的なプログレ志向があることは間違いない。
MARILLION や IQ と比べると、過剰に憂鬱で病んだところがなく、TWELFTH NIGHT よりもスタイリッシュ、つまり音楽の見た目がいい。
また、JADIS から男性的な強さを除いてローティーンの中性的な爽やかさを加味したような感じといってもいい。
それほど強烈な存在感があるわけではないが、切々と訴えかけても嫌味がなく意外なほど耳に残るメロディ・ラインには、PENDORAGON と同系のセンスを感じる。
前半はネオアコ調 YES、後半はプログレメタルも視野に入れたへヴィ・チューンという風に、さまざまなスタイルを平然と使い分けるところが特徴であり、ネオプログレという括りに入れてかまわないと思わせるのは、そういう多様さを厭わない姿勢があるからだ。
サウンドと演奏表現については、プログレの現代的な解釈/消化に関して最もセンスがいいといわれた IT BITES に並ぶものを感じさせる。(テクニカルなギタリストの存在が大きい)
最終曲のみ、MARILLION ばりにややウェットな情感をダイレクトに歌いこんだ典型的なネオプログレ・チューンになっているが、バラードとしてのクオリティが高いので問題ない。
英国ネオ・プログレッシヴ・ロックの佳品。90 年代を象徴する作風です。この頃は 60 分を大幅に超える CD が多かったです。
「Closet Skeletons」(10:48)リズミカルでキャッチーな長調の「Musicalbox」。クライマックスでは PENDRAGON 入ってます。
「Tick A Box」(11:19)ネオアコ調 YES な佳作。
唸りをあげるベース・ラインとキラキラまばゆいギター・アルペジオ。シンセサイザーのソロは流麗優美にしてベタであり、本家の魔術師と同系統。
ソロの芸風からしてギタリストはじつは結構年嵩。後半は近年の IQ のようなハードでスリリングなインストゥルメンタル。
「Hobson The Traveller」(04:25)ネオプロ一直線の元気チューン。御伽噺を導くような序奏がいい。シンセサイザーも高鳴る。
「Primrose Days」(09:47)トリッキーなリズムやインド風味も交えたギター・ロックの好作品。
終盤の流しめの演奏にサイケデリックなムードが浮かび上がってくる感じがいい。
「The Missionary」(03:52)グラマラスな 7 拍子ハードロック。
「Bolton-Eeny-Noo」(05:32)CURE 辺りに近いケバ目のギター・ロック。
リズム・チェンジ、鋭いベースのフレージング、メロトロン・クワイヤ風ストリングス、シンセサイザー・ソロなど間奏パートではプログレ魂が炸裂する。
「6's & 7's」(10:07)どこかで聴いた感が激強だが傑作。最後のバロック・トランペットで一気に BEATLES 化。
「The Visitor」(10:59)ウェットでメランコリックな英国調総覧的バラード。
終盤にギタリストの見せ場。
(CYCL 014)
Shaun McGowan | vocals, bass |
David Foster | guitar |
Kieran Twist | keyboards |
Leon Parr | drums, percussion |
Charlotte Evans | backing vocals |
guest: | |
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Steve Rotherey | guitar on 7 |
97 年発表のアルバム「The Overlap」。
内容は、歌ものとしてメロディが冴えわたるオルタナ系ネオ・プログレッシヴ・ロック。
前作のネオアコ、ニューロマ・テイストはほぼ見当たらず、キーボードもシンセサイザーを凌ぐほどにオルガンが目立つ。
そして前作以上に多彩な作風を披露し、一つ一つのクオリティがすばらしく高い。
アメリカンでアーシーなタッチが強まると、SPOCK'S BEARD や ECHOLYN に通じる作風となり、一方、パイプのような響きのシンセサイザーが伴奏するフォーキーな歌ものでは、ケルティックな味わいが強まりいかにも欧州的な、寒々しい灰色の空をイメージさせる。
前作ではあまり意識しなかったが、ヴォーカリストはなかなかの逸材ではないだろうか。
女性のバッキング・ヴォーカルとのハーモニーもいい感じだ。
全体のイメージは、バラードの薄暗さとメランコリックな表情などは、ホガース MARILLIN 系ということになりそうだ。
しかし、どの作品にもいえることは、歌が中心にあり歌を支えるために器楽があるということだ。
歌が物語を安心して綴れるように、リスナーが過たず物語をたどれるように、ギターはオブリガートで歌に応じ、オルガンが雄たけびを上げて歌を称揚して、道案内している。
怒りや憂鬱さではなく、世界をそのままとらえて称えるような自然なフィーリングを緩やかなリリシズムで描いている。
1 曲目「Metaphor」は、アメリカン・オルタナティヴらしい傑作。ハーモニーを活かしたオーガニックでなおかつセンチメンタルな表情がいい。
「Spacewalk」は、英国ポップらしい翳りあるバラード。
「Subterfuge」は、シニシズムとロマンチシズム、ファンタジーの合体のような、一筋縄ではいかない後期 THE BEATLES 的な魅力のある作品。
最終曲「Coup De Grace」ではスタイリッシュなネオ・プログレ・グループの面目躍如を目指したか、みごとな GENESIS 流の再現を見せる。
90 年代終盤から流行し始めた PINK FLOYD 的な詩情の表現法(火付けはもちろん PORCUPINE TREE である)に依拠している部分もある。
何にせよネオ・プログレの完成形の一つといえるだろう。
(DMSS 001CD)