イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「NEUTRONS」。QUICKSAND、MAN、PIBLOKTO を経たウィル・ユアット、フィル・リアンらによるグループ。作品は二枚。 リアンのキーボードを軸に、多彩な作風を見せるコンパクトなプログレ・ポップ。
Will Youatt | bass, guitar, vocals | Phil Ryan | synthesizer, electric piano, organ, synth bass |
John Weathers | drums on 1,2,4,5,8, vocals | Martin Wallace | acoustic guitar, vocals |
Taff Williams | guitar, bass on 6 | Caromay Dixon | backing vocals |
Pique | hand drums | Stuart Gordon | strings on 3, violins on 6,7 |
Dave Charles | drums on 6,7 | The 4 Skins | back chorus |
The Quickies | background vocals |
74 年発表の第一作「Black Hole Star」。
内容は、シンセサイザー、オルガンをフィーチュアしたリズミカルでサイケデリックなプログレッシヴ・ポップ。
60 年代からつながるビート/R&B 的なノリ、エレクトリックな洗礼を受けつつもアコースティックな感覚を大事にした牧歌調フォーク・ロック、インドな瞑想曲、ストリングスを活かしたクラシカル・タッチまで、さまざまなスタイルを矛盾なくまとめた、英国ロックの伝統に則った内容である。
74 年という時期ではあるが、グラムっぽさは意外なほどなく、エコーに渦巻くシンセサイザーの響きなどむしろサイケからプログレ感覚の方が強く、もっといえば大陸テイストのある幻想的なフォークロックが基調だろう。
一時期の STRAWBS がグラム・ロック扱いされたのと状況は似ている。
まずは、フィル・リアンのキーボードのカラフルにして丹念な筆致を味わうのが最初、そして、そこにユアットの切れのいいギターとリズム・セクションが加わったときのカタルシスが本作のメインである。
聴きものは、ギターとリズムが冴えるサイケデリックにしてシャープな 1 曲目(オルガン・ソロもカッコいい)、なぜか P.F.M などイタリアン・ロックの幻想味に通じる 3 曲目、シンセサイザーが未来を描くインストの 4 曲目、ストリングスと女声ヴォーカルがフィーチュアされたフラーパワーな 7 曲目(英国フォークらしいファンタジー)、そして、白眉は、強靭なリズムとギター、がカッコいい疾走感ある 8 曲目(リアンのオルガン・ソロが炸裂)。
また、5 曲目は、プログレ・テイストこそ皆無だが、ジャジーでヘヴィなブルーズ・ロックの逸品。タメの効いたリズム、そしてここでもギターがカッコいい。
ハードロック寸前のヘヴィ・チューンやルーズにならないドリーミーなサイケ調など、多彩にしてオリジナルな音を楽しむアルバムであり、カテゴリ分けはこの音の前ではむなしい。
旧友ジョン・ウェザース(GENTLE GIANT)が参加。
メンバーには近年ピーター・ハミルを支えるスチュアート・ゴードンの名前も見える。
プロデュースは、アントン・マシューズ、ウィル・ユアット、フィル・リアン。
「Living In The World Today」(6:11)GONG 風ともいえそうな好作品。
「Feel」(3:10)
「Mermaid And Chips」(4:50)ファンタジックな佳作。
「Dangerous Decisions」(6:05)シンセサイザーでひた走るインストゥルメンタル。リズム・チェンジがカッコいい。
「Doom City(Scrino's Revenge)」(4:00)
「Dance Of The Psychadelc Lounge Lizards」(5:03)弦楽器とシンセサイザーをフィーチュアしたほんのりユーモラスな歌ものロック。 独特のミスマッチ感。ポール・マッカートニー的といえなくもない。
「Going To India」(5:03)シタールと奥深いコーラスが印象的な佳曲。
「Snow Covered Eyes」(4:31)
(UAG 296522)
Will Youatt | bass, guitar, acoustic guitar on 5, vocals |
Phil Ryan | synthesizer, electric & acoustic piano, backing vocals |
Martin Wallace | guitar, acoustic guitar, 12 string guitar on 6, vocals |
Taff Williams | guitar, acoustic guitar on 4, vocals |
Caromay Dixon | vocals on 2,4,5 |
Stuart Halliday | drums on 1,2, harmony vocals |
Dave Charles | drums on 3,6,7,8 |
75 年発表の第二作「Tales From The Blue Cocoons」。
内容は、リフやバッキング、ソロなどギターの音が増え、作風もビートの効いたインスト・メインのプログレ風味の普通のロックという感じになった。
元々ハードロックというほどハードではなくプログレというほどしかけはなく、シンセサイザーのエレクトリックな光沢と切れのあるリズムによる「尖った」感じが独特のテイストを生んでいたが、それがなくなったためにやや精彩を欠いている。
ただし、相対的に引っ込んだとはいえ、シンセサイザーの大胆な音色はドキリとするようなアクセントにはなっている。
ムーグのプレイはアージェントやケン・エリオットらに比肩しうる鮮やかなものだ。
そして、アコースティックなセンスも活かした楽曲の多彩さは前作以上であり、さまざまな音と抑制の効いた演奏を楽しめる。
ギターはコード・カッティングやオブリガートのピリっとしたプレイが多く、ギター・ファンにはうれしいところだろう。
ヴォーカルはユアット、ウォレス、ウィリアムスで分け合い、さらに女性のディクソンが加わっている。
プログレ・タッチのオールドウェイヴ・ロックの佳作。
プロデュースはグループ。
「No More Straights」(5:16)
ギター、シンセサイザーの快調なリフで走るイージー・リスニング調ポップ・チューン。
書割宇宙風のスペイシーなキーボードのせいでラジオ番組のジングルのように聴こえるが、ベースを効かせたコクのある音に巧みにアクセントを散らしてバランスを取っている。
リード・ヴォーカルはユアット。
「Northern Midnight」(5:55)ギターはケバいが、センチメンタルなバラード。
ウォレスのヴォーカル表現がもう少し丁寧であれば名曲となったはず。
ほのかなスワンプ・テイストはバッキングのオルガンとピアノが PROCOL HARUM を連想させるためか。
華やかなソロ・ギターによる終盤の盛り上がりがいい。
「Come Into My Cave」(4:47)
半覚醒状態らしきヴォーカル・ハーモニーやけたたましくもブルージーなツイン・ギターのかけあい、眠気を誘うビートがマジックを生むサイケデリック・チューン。
原点回帰調。
後半、悪夢テイストのシンセサイザーの爆撃が強烈。
リード・ヴォーカルはユアット。
「Live Your Lie」(1:54)イノセントな女声ヴォーカルによるアコースティックな弾き語り。
アコースティック・ギター伴奏による、冷たい風にコートの襟を立てたくなるような英国フォークである。
リード・ヴォーカルはディクソン。
ほんの少し舌足らずなところがいい。
「L'Hippie Nationale」(3:25)
愛らしい女声によるハーモニー(一人多重か)をフィーチュアしたパストラルなフォーク・ロック。
毛羽立ったオルガンとナチュラル・トーンのギターらによる力強く弾力あるアンサンブルなど、初期の YES と共通するタッチもあり。
これで 8 ビートとドラム・フィルの切れがウェザース並だったならば、もっともっと羽ばたいていっただろう。
「Take You Further」(5:55)
エレピ、シンセサイザーがフィーチュアされた、やわ目の AVERAGE WHITE BAND のようなファンキー・ジャズロック。
ワウ・ギターのコート・カッティングがじつにカッコいい。
ヴォーカル・ハーモニーは都会的な AOR 調を目指すも、やや垢抜けず。
しかし、その洗練され切らなさ、突き抜けなさ、クールになり切れなさにまた味がある。
エレピのアドリヴは長大なわりにはいま一つ色気が足りないが、シンセサイザーがつけるアクセントはいい。
リード・ヴォーカルはウォレス。
「Welsh R.Blunt(Or The Dexidrine Dormouse)」(3:39)
アップテンポのキュートでコミカルなインストゥルメンタル。
たたみ込むようなドラミングで走る忙しない演奏はまさに前作の世界だが、唯一ジャジーなエレピが新機軸。
このエレピのプレイは前曲よいもずっといい。
ブルージーな純ジャズよりも、TV の子ども番組のジングルのように軽やかでアブストラクトなセンスの方が冴えるようだ。
流れるようにメロディアスなファズ・ギターもいい感じだ。
GODREY AND CREME と近いセンスを感じる。
「The Jam Eaters」(4:09)
バロック・トランペットを思わせるクラシカルなムーグが高鳴りオルガンが寄り添うファンファーレ調のイントロから始まるのは、ELO や 10CC に並ぶ輝かしきブリット・ポップである。
ノスタルジックにして未来的で弾けるようなみずみずしさもある。
三枚目のアルバムを聴きたかった。
リード・ヴォーカルはウィリアムス。
(UAG 29726)