フランスのジャズロック・グループ「NOËTRA」。 76 年結成。85 年解散。活動時はアルバム発表はなく、90 年代に入り MUSEA が発掘。 2010 年に続いて、2011 年にも音源発掘され、「Resurgences D'errances」として発表。
Jean Lapouge | guitar | Christian Paboeuf | oboe, flute |
Daniel Renault | drums | Denis Lefranc | bass |
guest: | |||
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Pierre Aubert | violin | Pascal Leberre | clarinet, soprano sax |
Francis Michaud | tenor sax, recorder | Denis Viollet | cello |
Claude Lapouge | trombone | Jacques Nobili | trombone |
Laurent Tardif | alto sax |
92 年発表のアルバム「Neuf Songes」。
79 年から 81 年にかけて録音された作品を、MUSEA が発掘、製作した作品である。
内容は、多彩な管弦とリズム・セクションによる、サロン・ミュージックあるいは現代音楽風の室内楽とカンタベリー風の変拍子ジャズロックの中間に位置する、ユニークなインストゥルメンタル・ミュージック。
楽曲は、ドラムス入りで木管楽器(オーボエ)のリードで走るものから、ドラムレスの管弦アンサンブルまで多様である。
なめらかな管弦にアコースティック・ギターが加わった編成では印象派風のクラシック、室内楽色が強くなり、エレクトリック・ギターとリズム・セクション入りの編成による変拍子アンサンブルでは、HENRY COW のような個性的なジャズロック調になる。
また、リズム・セクションなしの、ギターによるアルペジオ伴奏とメロディアスな管弦というアンサンブルで、クラシックともフォークともロックともつかぬ不思議な(強いていえばサロン・ミュージックか)音の主張を開陳することも多い。
特筆すべきは、アンサンブルの精緻さやスピーディな運動性といった技巧面の冴えとともにフレージングに素朴な暖かみがあること。
管楽器や弦楽器に固有の呼吸がヴォーカルレスの作品に自然な抑揚を与えている。
また、ドラムレスでヴァイオリンがゆったりと歌い上げる場面や、明快でていねいなギターのアルペジオは、豊かな感性と知的なセンスを感じさせる。
クラシカルにして緊張感ある和声や東洋的な旋律、反復の多様など、印象派ら近現代の作曲家からの影響もありそうだ。
しかしながら、ビート感のある躍動的な演奏の自然さから判断すると、どちらかといえば、基盤はジャズ寄りにあるのだろう。
HENRY COW を連想させる木管楽器によるシリアスな場面もあるが、メロディアスな優美さと丹念な作りこみによるモザイクの生み出す幻想性が勝っていると思う。
残念ながら、クラシック、ジャズ、ロックのすべてに跨るという立脚基盤が認められなかったため、「技巧とインパクトに欠ける」という烙印の下、レーベル契約がなされなかったようだが、今ならばこういう音を楽しめるリスナーも多いははずだ。
音楽的な共通点を探すとすれば、同じフランスの CARPE DIEM をややクラシカルにして技巧を高めたイメージ、もしくはゴシック風味のない UNIVERS ZERO、サロン風味の少ない JULVERNE といったところだろうか(木管の響きがミシェル・ベルクマンを思い出させるためだろう)。
何もすることがないときによくこのディスクをかけっ放しにしていますが、いつの間にか部屋が不思議な空気になっています。
全曲インストゥルメンタル。
「Neuf Songes」(9:30)8 分の 5 拍子と 4 拍子を組み合わせた、快調なテンポによるカンタベリー風(イタリアの PICCHIO DAL POZZO によく似ている!)作品。
リズミカルなテーマとともに、シリアス過ぎない管弦(フルート、クラリネット、ヴァイオリン)の響きがいい。
ドビュッシーを思わせる中間部など、木管楽器が美しい。
「Le Voyageur Egare Se Noie Incognito」(3:16)悠然と流れる管弦楽をさざ波のようなギターのアルペジオが支える、奇妙な美しさを持つ作品。重厚さと軽妙さの拮抗は初期 KING CRIMSON に通じる。
「Soir Et Basalte」(4:42)ヴァイオリン、エレクトリック・ギターでリードする躍動感ある室内楽ロック。
なめらかなリフと強めのビートで流れるように展開する。
ヴァイオリン特有のポルタメントが生むフワーっと浮き上がるような効果がおもしろい。
ここまでで一番ロックっぽいニュアンスの演奏であり、CURVED AIR や WOLF の作品に聴こえなくもない。
「Errance」(5:48)
緊張感を高める反復とキャッチーなテーマが交錯するスリリングな傑作。
ギターの変則的なアルペジオ、シンプルなリフ、鮮やかなオーボエのオブリガート、ヴァイオリンのリード、そしてそれらの反復によって音は次第に精緻な紋様を成し、ヘヴィに高まってゆく。
ロックな力強さやモーメンタムをクラシカルなアンサンブルと調和させている。
変則的なギター・アルペジオなど PICCHIO DAL POZZO を思わせる瞬間も。
前曲の弦楽器を管楽器に置き換えたような趣もあり。
名曲。
「Resurgence D'Errange」(2:51)ギター、オーボエをフィーチュアしたややメローなジャズロック。
オーボエの雅な音色とギターとの絡みが印象的。
小品だがいい作品だ。
「Agrements Parfaitement Bleus (II)」(6:20)7 拍子のリフをフィル・ミラー調のギターが刻み、オーボエ、おしゃべりなソプラノ・サックスが応じるカンタベリー直系の名作。
「Agrements Parfaitement Bleus (Epilogue)」(1:06)前曲のエピローグ。
「A Pretendre S'En Detacher」(1:42)古い映画音楽のような弦の調べ。
「Noetra」(6:17)終始悩ましげで、出口の見つからない、閉塞したイメージの作品。自らを的確に表現している?
「Sens De L'Apres Midi」(4:07)メロディアスな管楽器による室内楽にギターが切り込む異形の 3+2 拍子アンサンブル。1 曲目と同じくこのグループの作風をよく示している。アコースティックな SOFT MACHINE か。
「Galopera」(6:38)前のめりの 7 拍子でドライヴする躍動的でやや厳しい作品。しかし開放的。終盤、オーボエが泣くバラードになる。
「Printemps Noir」(6:51)ややコワれた室内楽ジャズロック。ヴァイオリン、ベース、トロンボーンをフィーチュア。
ほんとうにジャズになる場面もある。
「Periodes I II III IV V VI」(9:49)ヴァイオリン、オーボエ、チェロをフィーチュアしたサティ風の室内楽。
軽やかで優美、そして少し古びた感じがなんともいいです。
(MUSEA FGBG4034.AR)
Jean Lapouge | guitar | Christian Paboeuf | oboe, flute |
Pierre Aubert | violin | Denis Lefranc | bass |
Daniel Renault | drums, violin on 4,5,7 | Pascal Leberre | clarinet, sax |
Francis Michaud | recorder, sax on 6 | Claude Lapouge | trombone |
Jacques Nobili | trombone on 2,12 | Denis Viollet | cello |
Guy Bodet | trumpet on 9 | Michel Bossler | drums on 9 |
2000 年発表のアルバム「Definitivement Bleus」。
前作と同じく 79 年から 82 年にかけて録音された作品集である。
管楽器、弦楽器の伸びる音を中心にした、現代クラシック風にしてジャジーなサウンドは前作と同系ながらも、変拍子を多用したプログレ、カンタベリー調がやや強まった。
小ぶりの MAGMA のような強迫的なトゥッティや込み入った構成もある。
それでも、やはりどことなく素朴でのどかである。
なめらかでメロディアスなソロ楽器を中心に、小刻みなビートが支え、やや不安げな和声も交えつつもアンサンブルが行儀よく進んでゆく。
どの作品も、リードを取る楽器(得に木管楽器がすばらしい)の優しげなテーマがいい。
フレンチ・プログレの異才、CARPE DIEM や TERPANDRE を本格ジャズ、本格現代音楽寄りにしたような感じ、はたまた HATFIELD AND THE NORTH や PICCHIO DAL POZZO をゆったりさせたような感じだろうか。
いや、作曲を担当するギタリストが影響を受けたといっている SOFT MACHINE をクラシカルな室内楽風にした感じ、というのがもっともしっくりくる表現だろう。
全編インストゥルメンタル。
作曲ほどにはテクニックに安定性はないが、凝って編みこんだ音を楽しめる方にはお薦めの作品である。
ライナーにある通りこれらの作品が本当に ECM から出ていたら、世の中変わっていたかもしれません。
一部前作とモチーフを共有する作品あり。
7 曲目「Venise」は力作。ギター、サックスが活躍する 9 曲目「Tintamarre」は、カンタベリー・ジャズロックそのものな傑作。
10 曲目「Ephemere(a M.C.)」はフリーフォームの美しき野心作。
「Mesopotamie」(4:14)サロン・ミュージック風のテーマながらも展開はなかなかアグレッシヴ。
「Qui Est-il Qui Parle Ainsi ?」(4:31)物悲しく雅なオーボエが活躍。
「Reprise Mesopotamie」(1:16)
「Agrements Parfaitement Bleus (III)」(4:03)軽やかだが、実際に合わせるのは相当大変そうなアンサンブル。かっちりした 4+3 拍子のアンサンブルが気持ち悪良い。
「Agrements Parfaitement Bleus (epilogue)」(1:02)ギターのアルペジオ、弦楽器による 7 拍子パターン。
「Alpha De Centaure」(6:48)ジャズとクラシックが合体した音楽としかいいようがないドリーミーな作品。ファズギター、ソプラノ・サックスをフィーチュア。
「Venise」(6:24)
「Transparences」(7:44)
「Tintamarre」(6:36)
「Ephemere (a M.C.)」(13:28)
「Forfanterie」(7:03)
「Printemps Noir (final)」(4:20)
(MUSEA FGBG4034.AR)
Jean Lapouge | guitar |
Christian Paboeuf | oboe, bass flute, flute |
Pierre Aubert | violin |
Denis Lefranc | bass, voice |
Daniel Renault | drums, triangle |
2010 年発表のアルバム「Live 83」。
タイトルとおり、83 年フランスのさる地方ラジオ局におけるスタジオ・ライヴ録音音源である。録音状態は恐ろしいまでに完璧。
木管楽器の響きが印象的な、ジャズでもクラシックでもない不思議のチェンバー・アンサンブルを、じっくりたっぷり味わうことができる。
ポリフォニー、反復、ポリリズム、ジャジーな奔放さ、すべてを備えて、あくまでメロディアス。
そして、スリム・ダウンした編成が奏功し、バンドらしい(たとえるならば四人編成 SOFT MACHINE のような)引き締まった音になっている。
ギターのプレイは思いのほか大胆であり、エレクトリック・ベースはフュージョン風の小粋さも放ち、管弦はセピア色の郷愁をサロンの洒脱さとともに吹き上げる。
明快に分離された音はクリアーな印象を与え、アンサンブルの構成美を隅々まで見通すことができる。
インテリジェンスとエレガンス、ダンサブルなグルーヴの均衡であり、独特の緊張感は、突如異世界に放り込まれたときに湧きあがる興奮と慄きに近いのではないだろうか。
全曲インストゥルメンタル。
「Long Metrage」(22:20)プログレ的としかいいようのない、なめらかでスリリング、密度の高い好作品。
強いていえばカナダの MANEIGE に通じるか。
「Jour De Fete」(12:48)木管は優雅ながらもリズムやギターらはフュージョン風のグルーヴあり。ヴァイオリンもフィーチュア。
「Forfanterie」(8:33)「Definitivement Bleus」にも収録。バロン・ノアール系フレンチ・フォークを思わせる哀愁とエスプリ。
込み入った展開にカンタベリーの血も。
ドラムス・ソロあり。
「Le Voyageur Egare Se Noie Incognito」(3:17)「Neuf Songes」にも収録。
「Casablanca」(9:01)プログレといっていい不思議な宙ぶらりん感覚の作品。
(MUSEA FGBG4851.AR)
Christian Paboeuf | oboe |
Dominique Busson | flute |
Jean Lapouge | guitar |
Denis Lefranc | bass, voice |
Daniel Renault | drums, triangle |
Pierre Aubert | violin |
Francis Michaud | tenor sax |
2011 年発表のアルバム「Resurgences D'errances」。
78 年と 81 年にライヴ録音されたマテリアルを集めた作品。
ギターのアルペジオが緩やかにうねる上でオーボエとサックスが優美に舞うような展開と、フルートも交えて渦を巻くようなミニマルな展開などが主である。
また、エレクトリック・ギターがリードするジャジーな場面もあり。
「Neuf Songes」を中心に既発表曲も含まれている。
未発表曲は三曲。
全曲インストゥルメンタル。
時おりギターのロバート・フリップ風のフレージングとフォーレやドビュッシーを思わせるオーボエの響きにほのかな緊張感が走る以外は、全体に落ちつきと安定感が特徴的であり、幻想性とサロン・ミュージックの癒しがいいバランスで交わっている。
カンタベリー風の諧謔味はほとんどない。
「Arabesques」(4:58)
「Zone D'Ombre」(2:30)
「Transparences」(8:44)「Definitivement Bleus」にも収録。
「Lisière Pourpre」(6:49)
「Agréments Parfaitement Bleus: Partie 1」(2:37)「Definitivement Bleus」にも収録。
「Résurgence D'Errance」(4:50)「Neuf Songes」にも収録。
「Ephémère: Introduction」(4:06)「Definitivement Bleus」にも収録。
「Neuf Songes: Variations Répétitives」(3:43)「Neuf Songes」にも収録。
「Noëtra: Final」(1:26)「Neuf Songes」にも収録。
「Sens De L'Aprés Midi」(4:25)「Neuf Songes」にも収録。
「Noëtra」(7:04)「Neuf Songes」にも収録。
(MUSEA FGBG4891)