アメリカのプログレッシヴ・ロック・グループ「ROCKET SCIENTISTS」。93 年結成。ロサンゼルス出身のキーボーディスト、エリック・ノーランダーを中心とするグループ。
Eric Norlander | keyboards, vocals |
Mark McCrite | guitars, vocals |
Don Schiff | bass, cello, viola, mandolin, vocals |
guest: | |
---|---|
Gregg Bissonette | drums |
Lane Lane | vocals |
Kelly Keeling | vocals |
Emily McCrite | vocals |
John Papenbrook | trumpet |
Richard Hofmann | piccolo trumpet |
Eric Jorgensen | trombone |
2014 年発表の作品「Refuel」。
8 年ぶりのスタジオ・アルバムである。
内容は、プログレ・ハード真正面の古きよきアメリカン・シンフォニック・ロック。
EL&P や YES のようなアナログ・キーボードのサウンドと典型的なプレイ・スタイルが満載である。
なおかつ PINK FLOYD や TAMGERINE DREAM に近しい「薄暗い無機の叙情性」もあるところが、ユニークである。
ドラマーとともにヴォーカリストもラナ・レーン以外はゲストを迎えているので、リード、ハーモニーとも歌唱面は磐石である。
したがって、プログレ・ファンの手遊びにとどまらないクオリティがある。
ジャズ風のインタープレイやクラシカルなアンサンブル、フォーキーな弾き語りなどなど、さりげなく手持ちの豊かな音楽性を散りばめている。
そして、音楽的な効果のないプレイはどんなにテクニカルであろうと切り捨てることのできるセンスがある。
だから、物語が際立つ。
とにかくエンターテインメントとしての安定感は抜群。
タイトル通り、ロケットは燃料の補給を行って再び飛び立った。
昔のプログレのファンにはお薦め。
ASIA っぽいのは ASIA に参加しているだろう。
「Refuel」(2:13)インストゥルメンタル。
「She's Getting Hysterical」(6:05)
「Martial」(3:41)
「It's Over」(6:25)
「Regenerate」(4:33)インストゥルメンタル。
「The Fading Light」(7:29)
「The World Waits for You」(4:20)
「Reconstruct」(1:29)インストゥルメンタル。
「Cheshire Cat Smile」(5:25)華やかなブラスなど 70 年代ロックへのオマージュか、キャッチーな傑作。
「Rome's About to Fall」(8:15)
「Galileo」(5:05)インストゥルメンタル。
「The Lost Years」(5:59)
(TTMD-1057)
Eric Norlander | keyboards, vocals,sampling, sfx, drums, bass programming |
Mark McCrite | vocals, acoustic/electric/slide guitars |
Tommy Amato | drums on1,3,6,11,13, hi-hat on 12 |
Chris Balmer | guitar on 1,3,4,6,13, classical guitar on 13 |
Tim Gehrt | drums on 4,7,12 |
Lana Lane | vocals on 1,3,4,8,10,12,13 |
Don Schiff | bass on 4,6,10,13,14, fretless bass on 2,4,6, stick on 1,11 |
93 年発表の第一作「Earthbound」。
内容は、メロディアスで叙情的なハードロック。
80 年代産業ロックをさらに細身に洗練したような作風であり、アコースティックな音が似合うバラード風の作品が中心である。
甘めだがべたべたしておらず、いわば華奢だが気風のいい愛嬌美人タイプである。(妙な喩えですみません)
ヴォーカリストは、ソフトながらも表現力も美声タイプ。
弾き倒し型キーボーディストが主流である中、超絶プレイの断片の数珠繋ぎではない、幅広いリスナー層にきちんと聴かせるため(売れセン狙いといってしまうとその通りだが)の配慮がすみずみまで行き届いている。
音楽的なセンスという意味ではかなりのものである。
「用賀のファミレス」のような微妙な古めかしさが気になるが、アコースティック・ピアノの響きとメロディアスなヴォーカルの取り合わせには、確かに清潔感と誠実さがある。
メロディック・マイナーのギター・ソロを思い切り抑えているのも正解である。
PINK FLOYD ファンであるらしく、「Welcome To The Machine」のカヴァーが入っている。
(TTMD-1011)
Eric Norlander | keyboards, vocals |
Mark McCrite | vocals, guitar |
Don Schiff | stick |
Tommy Amato | drums, percussion |
95 年発表の第二作「Brutal Architecture」。
内容は、ポップな曲調にメロトロンが迸りピアノがさざめく、キーボード中心のシンフォニック・ロック。
ギターやヴォーカルは、現代的なアメリカン・ロック(カレッジ/オルタナティヴ・ロック風から、ややメタルっぽいものまで種々雑多)だが、そこへ、テクニカルなキーボード・プレイを持ち込んだところが個性である。
そして、キーボード中心ながらも、いわゆる挑戦的/攻撃的な EL&P 調は、全くない。
HR/HM 色もほとんどなく、むしろ、GLASS HAMMER と同じく、御伽噺=ファンタジーものの常套手段ともいえる無国籍風トラディショナル・タッチが散見される。
キーボードは、一曲目の掟破りなメロトロン弾きまくり以外は、ピアノ、シンセサイザーともに、曲のイメージを優先した的確なプレイである。
シンセサイザーのプレイにごく自然なニューエイジ・タッチ、エレクトロニック・ミュージック風のシーケンスなどがあるところは、いかにも若手キーボーディストらしい。
全体に、プログレというよりは、モダン・ロックにキーボードを多めに放り込んだといった方が的確だろう。
曲の流れをじっくりとリードするのは、むしろヴォーカルである。
上質のポップスというには、ユーモア/しかけともにやや材料不足な感は否めないが、真摯な姿勢に好感が持て、今風のメロディ重視のロックとして十分に聴ける内容となっている。
とにもかくにも、テクニックを無駄遣いせずメッセージを聴きやすく伝えるあたりは、かなりのセンスではないでしょうか。
最終曲の「Epitaph」と MARILLION が混ざったようなテーマも、大いに盛り上がります。
また、なんとなく PINK FLOYD の影響も強そうな気がします。
「Dark Water Part 1」(4:11)
「Wake Me Up」(5:43)
「Copernicus」(2:52)
「Brutal Architecture」(6:19)
「Nether」(4:03)
「Dark Water Part 2」(1:38)
「The Fall Of Icarus」(6:30)
「Resolution」(7:30)
「Rainy Days And Pastel Grays」(7:13)
「Millenium 3」(7:15)
「Mariner」(11:29)
(KDCD-1017)
Eric Norlander | keyboards, vocals |
Mark McCrite | vocals, guitars |
guest: | |
---|---|
Don Schiff | stick on 3,4,6,7,9,11, bass on 2,4 |
Neil Citron | guitar on 3(solo), 10 |
Greg Ellis | drums on 3,6,7,9,10, percussion on 2,3,6,7,10 |
Tony Franklin | fretless bass on 2,5 |
Lana Lane | vocal harmony on 2,3,7 |
Arjen Anthony Lucassen | guitar on 2,3,6,7(solo) |
Tommy Amato | drums on 2,3,5,8,11, hi-hat loop on 3, percussion on 5 |
99 年発表の第三作「Oblivion Days」。
内容は、アメリカン・ハードロックらしいリード・ヴォーカル、やや重ためのリズムとギター、そしてメロトロンからシンセサイザー、オルガンまで多彩なキーボードを使用した、ハード・プログレッシヴ・ロック。
キース・エマーソンやエディ・ジョブソンを思わせるキーボード・プレイが、随所に現れる。
タイトル・ナンバーのテーマが象徴するように、基本的なスタイルは、全盛時の EL&P のようにハードロック、プログレという線引きを気にする必要のない、古典的/王道的なロックである。
もっとも、キャッチーだがヒネったリフや空ろで叙情的な表現などブリティッシュ・ロックの影響は強いと思う。(何はともあれ PINK FLOYD ファンである)
しかしながら、4 曲目のように一部ではファンキーなプレイも見せたり、前作に続き、オルタナティヴ・ロック的な面も見せるなど音楽的な間口は広い。
現代のグループだけあって、HM 的なダイナミズムもごく自然に取り込まれている。
特に、ゲストによるギターのプレイがキーボードと刺激し合って、新しい面を生み出しているようだ。
それでも、全体の印象は、ヘヴィ過ぎず尖り過ぎず、適度にメロディアスで丸みがある。
明快にして誠実、痛快、といってもいい。
6 曲目は、懐かしい SF TV ドラマのテーマの翻案。
EL&P が好みそうなクラシカルで邪悪な演奏に、モダンな HM テイストたっぷり盛り込んだカッコいい作品となっている。
プロデュースは、エリック・ノーランダー。
オープニングとエンディングの曲は前のアルバムから続いている作品のようだ。
「Dark Water Part Three: Neptune's Sun 」(1:46)
「Aqua Vitae」(6:26)デリケートなヴォーカルとヘヴィなサウンドが均衡する佳作。
ムーグ・シンセサイザーが光り輝く。終盤の内省的なヴォーカル表現がこういうシンフォニック・ハードの文脈では新鮮。
「Oblivion Days」(7:06)MASTER MIND のようなヘヴィ・キーボード・シンフォニック・チューン。
歌唱表現やギターのオブリガートはみごとなまでに古典的ハードロック。さりげなくメロトロンでバッキングし、流麗なシンセサイザー・ソロを決める。
「Archimedes」(5:35)ややファンキー・テイストあるスリリングなインストゥルメンタル。
オープニングが非常にカッコいい。
GENTLE GIANT を思わせるクラヴィネットのような音もシンセサイザーなのだろうか。
素材は GG と EL&P と RTF かもしれないが緊張感は KING CRIMSON に通じるキーボード・ロックの佳曲。
「Banquo's Ghost」(5:57)アコースティック・ギター弾き語りのバラードとへヴィなキーボード・プログレをつなげた作品。懐かしめ。
「Space: 1999」(4:35)宇宙を漂流する基地のドラマを描いた TV 作品のテーマ曲を重厚に、スリルたっぷりに(やや漫画チックに)アレンジ。レゾナンスを効かせたシンセサイザー、ストリングス/ブラスが真骨頂を発揮。
「Escape」(10:00)
キーボード伴奏によるクラシカルなシーンとへヴィなシーンを交差・対比させて激情の揺らぎを描くような劇的な大作。
なめらかなシンセサイザーによるスペイシーなソロのみならず、チェロやチェンバロ伴奏による内省的なバラード、パーカッション系シンセサイザーによるアンビエントな表現など HM に留まらない幅広い変化がいい。
「Compass Variation」(3:56)
日本盤ボーナス・トラック。
「Break The Silence」(5:55)トラジックで叙情的な作品。再びアコースティックな音を使っている。
「Dark Water Part Four: Heavy Water」(4:38)
「Wake Me Up - Live in Tokyo」(6:20)ボーナス・トラック。
(MYCY-1146)
Eric Norlander | keyboards |
Don Schiff | bass |
Greg Ellis | drums |
97 年発表のソロ・アルバム第一作「Threshold」。
現在は 2004 年のリマスター・スペシャル・エディション(ライヴ音源を収めたボーナス・ディスク付き)で置きかえられている。
内容は、ヴィンテージ・キーボードを中心としたアメプロ・ハード調シンフォニック・ロック。
冒頭鳴り響くメロトロンのように 70 年代英国プログレ・キーボード・サウンドに対するこだわりと、根っからのアメリカン・ロックらしさという、矛盾しないのか、と心配になるファクターを、これまたアメリカンに無造作にくっ付けて、意外やしっかりとまとまっている。ポイントは、おそらくへヴィさを適度に抑えて、キーボードのテーマを中心に明快なアンサンブルで、リズミカルに、スピーディに迫っていることだろう。
ハードロックとプログレの区別が大してなかった時代を思い出させるところもあれば、高度情報処理社会らしい整理が行き届いている感じもある。
以降の一部の作品のようにヘヴィ過ぎると勢いステレオタイプ化してしまうが、本作は、その危険地帯の手前で独特な位置をキープしている。
本人も、第三作のライナーで、プログレ・メタルのスタイルを抑えてエレクトロニクスを強調した作風にしたと語っている。
(ソロ第二作は、プログレ・メタル的な作風とのこと)
もちろん、軽快な運動性と対照を成すためのストリングス系キーボードによる重厚荘厳さや、スペイシーで SF チックな雰囲気の演出などは怠りない。
イージーなロックンロール風かと思えば、サイケデリック調から TANGERINE DREAM、初期 Virgin 風アンビエント、ファンキーさやジャズっぽさ(キース・エマーソン経由というのはあるとしても)もあって、荘厳さ、重厚さ、邪悪さ一本槍になりがちなこの手のアルバムとしては、例外的にきわめて多彩な印象である。
本場のせいか英国経由か R&B も遺伝子レベルで刻まれていそうだし、PINK FLOYD の「狂気」の力がここまで響いているような気もする。
何にせよ、70 年代と同じく現代プログレも、ドラムンベースやヒップホップ、ハウスといった同時代のポップの基調と無縁ではないことが明らかになっている。
全体にキーボードのテーマが旋律としてさほどすさまじいインパクトをもつわけではないが、その旋律を中心とした、シンプルだが小気味よく堂々とした筋運びがいい。
パーカッシヴなハモンド・オルガンやまろやかにしてスペイシーなムーグ・シンセサイザーなど、キーボード・ファン御用達のプレイは、もちろん満載である。
全編ギター・レスのオール・インストゥルメンタルである。
オール・インストのキーボード・トリオとしては、かなり独特の位置を維持しているといえるだろう。EL&P というよりは、THE NICE だし、TANGERINE DREAM とくれば、アンディ・ティリソン(PARALLEL OR 90 DEGREES、TANGENT)と仲良かったりして。
メタル・ファンが見捨てても僕は見捨てません。
YMO のような組曲「Waltz Of The Biots」は佳作。
日本盤ボーナスのインスト「Hyperspace」では、EL&P の「トッカータ」の音でロカビリーをやっている。
プロデュースは、エリック・ノーランダー。
(TTMD-1035)
Eric Norlander | keyboards | Kelly Keeling | vocals |
Scott Kail | vocals | Mark Boals | vocals |
Robert Soeterboek | vocals | Donald Roeser | vocals, guitars |
Peer Verschuren | guitars | Neil Citron | guitars |
Vinny Appice | drums | Gregg Bissonette | drums |
Virgil Donati | drums | Tony Franklin | fretless bass, acoustic guitar |
Don Schiff | NS/Stick |
2003 年発表のソロ・アルバム第三作「Music Machine」。
近未来、巨大資本の作り出したハイプなポップスターの数奇な運命を描く、重厚なトータルアルバムである。
多数のゲスト・ミュージシャンを動員し、オーガナイズした一大プロジェクトだ。
作風は、物語を構成する楽曲ごとにじつにさまざまだが、あえていうなら、第一作のキーボード・ロック路線と第二作のプログレ・メタル路線の融合であり、ポップなハードロック、シンセサイザーが唸りを上げる EL&P 系キーボード・シンフォニック・チューン、重厚なバラードなど、色とりどりの作品を楽しめる。
この人は、今のキーボーディストにもかかわらず自然なポジションがメタルよりも 70 年代プログレ(フュージョンも?)に寄っているので、個人的には、見過ごせない存在となっている。
キーボードの演奏スタイルは、王道プログレ・キーボードから、やや電子系、果てはフュージョン風のライトなタッチまで、幅広い。
これだけの大作をリラックスして聴かせる自然なポップ・センスと、ミドルテンポで朗々と綴られるシンセサイザー・ソロの説得力は、ともに並ではないが、遠くに PINK FLOYD の姿が見えるような気がする。
テーマとなる 2 曲目「Music Machine」は、キャッチーなアメリカン・ハードロック。王道である。
8 曲目「Lost Highway」は、コテコテのバラードながらジンとくる佳作。9 曲目との落差も楽しい。
CD は二枚組。
プロデュースは、エリック・ノーランダー。
(MICP-90010)