イギリスのプログレッシヴ・ロック・グループ「SOFT HEAP(SOFT HEAD)」。 元 SOFT MACHINE の ヒュー・ホッパー、エルトン・ディーンが NATIONAL HEALTH を一時脱退したアラン・ガウエンらと合流し、結成されたセッション・グループ。 カンタベリーの Offshoot の一つ。 すでにオリジナル・メンバー全員が鬼籍に。
Hugh Hopper | bass |
Elton Dean | alto sax, saxello |
Alan Gowen | electric piano, synthesizer |
Dave Sheen | drums |
78 年発表のアルバム「Rogue Element」。
78 年 5 月フランス・ライヴ録音。
ピップ・パイルがツアーに不参加のため、BEN のデイヴ・シーンが代役をつとめる。(したがって、グループ名はシーンの頭文字を入れた SOFT HEAD となっている)
内容は、中期 SOFT MACHINE 的な即興主体のジャズロック。
ホッパーの刻むリフとガウエンのコード・バッキングがディーンの熱っぽくもしなやかなサクセロのプレイを支える。
その一見アブストラクトなイメージの変拍子アンサンブルがスリリングに展開、発展してゆく様子に醍醐味がある。
本家と比べると、管楽器によるインプロヴィゼーションの圧倒的な存在感は変わらないが、ラトリッジやワイアットのアヴァンギャルド、現代音楽志向のようなジャズを異化する要素はさほどでない。
それでも、音響や変拍子やミニマリズムを多用するタイトなアンサンブルによって、フリー・ジャズともフュージョンとも異なる新しい音楽を提示できていると思う。
ホッパーのジャズっぽくないベースのプレイや粗削りなドラミングが音楽をいい方向にもっていってると思う。
一方ガウエンは一部で独特の幾何学模様を描くような美しく技巧的なソロを決めるものの、GILGAMESH や NATIONAL HEALTH で見せたような息を呑むほどの審美センスを発揮するには至っていない。
(もちろん自分のスペースにおいては技巧を凝らしてはいるが)
ディーンとガウエンのエレクトリック・ピアノのインタープレイが初期の RETURN TO FOREVER を思わせるところもあり。
2 曲のボーナス・トラックもソロが堪能できる秀作。
挑戦的な演奏ながら意外にもゆったりと楽しめるアルバムだと思います。
「Seven For Lee」(8:51)ディーン作。
7 拍子のテーマとベースのリフにのってクールにグラマラスに歌い上げるサクセロ。
弛まない緊張感あり。
傑作。
「Seven Drones」(4:25)ホッパー作。
集団即興の応酬の中にアルト・サックスとエレクトリック・ピアノのコンビネーションが官能的なシーンを浮き上がらせる。
「Remain So」(4:48)ガウエン作。
カンタベリーの原点が初期 RETURN TO FOREVER にあることがよく分かる佳曲。
切れ味いいテクニックと繊細なメロディの配合が絶妙。
エレクトリック・ピアノのソロがフィーチュアされる。
「Ranova」(16:52)ディーン作。
ヒップホップ調のリズムでサックスをリードにアイデアをどんどん発展させながらグルーヴィな演奏を繰り広げる。
序盤のマジカルなサックス(ここでも Calyx のテーマが形を変えて使われているように思う)に魅せられる。
10 分過ぎ辺りからシンセサイザーのアドリヴあり。
基本はディーン独壇場。
ボーナス・トラック。
「C You Again」(4:13)ディーンのインプロが導くたゆとう如きアンサンブル。
サックスの熱気も謎めいた演奏に取り込まれてゆく。クロスオーヴァーという表現が似合う。
ガウエン作。
ボーナス・トラック。
「C.R.R.C.」(14:00)ガウエン作。
むせび泣くアルト・サックスのブルージーなよろめきがファンタジックなエレクトリック・ピアノや理知的なベースをモダン・ジャズへと誘う。
ドラムスも 4 ビートの誘惑に悩んでいる。
前半はサックス、後半はエレクトリック・ピアノがリードする(ディーンも後半はピアノをプレイか)。
緩急自在に一体感あるアンサンブルがカッコいい。
テンポとリズムも変化するが基本はリリカルな「ジャズ」。
「One Three Nine」(6:33)ディーン作。
軽快なテーマでビッグ・バンド風に盛り上がるモダン・ジャズ。
ベースはランニングを披露。
(Ogun OGCD 013B)
Elton Dean | saxes |
Alan Gowen | piano, synthesizer |
Hugh Hopper | bass |
Pip Pyle | drums |
guest: | |
---|---|
Radu Malfatti | trombone on 5 |
Marc Charig | trumpet on 5 |
79 年発表の作品「Soft Heap」。
内容は、フリー・ジャズによってロックのへヴィネスを高め、ジャズのブルース・フィーリングでロックらしい感傷を支えたジャズロック。
イマジネイティヴな即興の連発という意味では、フュージョンにならなかった SOFT MACHINE の継続形ともいえる内容だ。
ディーンのプレイを軸にして即興を盛り込みつつも、テーマに凝ったアンサンブルや構成やサウンドに工夫を凝らすなどプログレッシヴ・ロック的な作風を随所に見せている。
ガウエンはバッキングの割合が大きく、その分ディーンのスペースが広い。
もちろん、ガウエンとディーンでいい呼吸のインタープレイを見せるところもある。
おもしろいのは、ディーンが奔放なフリージャズ・インプロヴァイザとして振舞うだけではなく、テーマを奏でるときに感傷的な歌心を見せて、じつにデリケートなセンスを発揮することだ。
この人はジャズ・ミュージシャンには珍しく、ロック的な感性を大量に保持していたのだろう。
もちろんホッパーのファズ・ベースはギンギンに前面に出る。
パイルのドラムスのスタイルがややオーソドックスなフュージョン調に流れることがあり、そこだけが少し残念。
「Circle Line」(6:53)ホッパー作。
ホッパーらしい融通無碍な音響世界をパワフルかつロマンティックなサックスがリードする、初期 WEATHER REPORT 風の演奏。
エレクトリック・ピアノとシンセサイザーは、サックスにからみつきながら、幻想的な世界を作り上げている。
リズムも自由。
「A.W.O.L」(9:34)グループ作。
攻撃的なムードの横溢するヘヴィな即興ジャズロック。
ギターのようなファズ・ベースが気まぐれかつ凶暴なリフで唸りを上げると、サックスもフラジオで応じ、その荒々しく金属的な重量感は後期 KING CRIMSON に迫る。
ライド・シンバルの連打もそういう連想を強める。
電気処理による効果音や終盤に衝撃的に出現するシンセサイザーは、BRAND X に似た耽美さやスペイシーな効果を演出する。
フェイドアウト。
「Petit 3's」(6:17)ガウエン作。
ディーンのロマンチシズムをガウエンらしいクロスオーヴァー趣味で支えるバラード調の作品。
SOFT MACHINE の「Third」や「Fourth」を思わせるリリカルなサックスとやや生硬ながらも品良く抑制し、なおかつ流暢に歌うエレクトリック・ピアノの交歓であり、ややナイト・ミュージック調である。
エレクトリック・ピアノは、ラトリッジのオルガンの現代音楽的な険しさと比べると格段にメローだ。
薄味の SOFT MACHINE と揶揄するよりは、ガウエンらしいデリケートな美感を味わうべし。
それにしてもディーンの歌うようなサックスが美しい。
フェイドアウト。
「Terra Nova」(10:03)ディーン作。
本編はフュージョン・タッチながらも、全体としては謎めいた諧謔味のあるジャズロック(つまりカンタベリーであるということ)。
サックスとベースのひそやかなユニゾンが、長いイントロダクションになっている。
軽やかでファンキーだが、ディーンがフリー・ジャズ独特の毒気を放って迫る。
エレクトリック・ピアノでなくファズ・オルガンだったら、SOFT MACHINE の名作「4」に接近したかもしれない。
テーマは「Calyx」を意識しているのでしょうか。
好演。
「Fara」(6:42)ディーン作。
ゲストのトロンボーン、トランペットをフィーチュアしたスローなモダン・ジャズ。
意図的かどうか分からないが、なんともいえない黄昏感とユーモアがある。
テーマにはまたしても「Calyx」が見えるような。
バッキングのエレクトリック・ピアノが夕焼け少し前の空のように美しい。
「Short Hand」(3:10)ガウエン作。
挑発的かつキュートな変拍子テーマと爆発的即興によるレコメンな小品。
キレキレのサックスとドラムスがいかにもフリー・ジャズなデュオを披露する。
(CRL 5014 / Spalax 14839)
John Greaves | bass, voice, organ |
Elton Dean | alto sax, saxello, flute |
Mark Hewins | guitars, voice, echo unit |
Pip Pyle | drums, electric drums |
guest: | |
---|---|
Alain Eckhart | synthesizer guitars on 3 |
95 年発表のアルバム「A Veritable Centaur」。
急逝したアラン・ガウエンに代わってエルトン・ディーンの朋友マーク・ヒュウィンズが加わり、音楽活動から身を引いていたホッパーに代わってジョン・グリーヴスがベーシストとして参加している。(スリーヴには "Lost line-ups" と称してフレッド・フリス、フィル・ミントン、ロル・コクスヒルらの名前もある)
82 年のフランス・ツアーのライヴ録音のようだ。(最後の一曲のみ、 88 年ロンドンでの録音)
内容は、エレクトリックな音響を駆使した緩めの即興演奏。
「Dying Dolphins」(1:51)
「A Veritable Centaur」(6:37)
「Space Funk」(2:24)アラン・エッカルがゲスト参加。
「Tunnel Vision」(1:59)
「Nutty Dread」(1:12)
「Bossa Nochance」(5:41)
「Jackie's Acrylic Coat」(4:41)
「Thaid Up」(4:38)
「A Flap」(3:38)
「Day The Thirst Stood Still」(9:55)
「Toot De Sweet」(26:25)
(IMP CD 18219)
Hugh Hopper | bass |
Elton Dean | alto sax, saxello |
Alan Gowen | electric piano, synthesizer |
Pip Pyle | drums |
2008 年発表のライヴ・アルバム「Al Dente」。
1978 年ロンドン、フェニックス・クラブでのライヴ録音。
フランス・ツアー終了後にピップ・パイルが合流し、「Soft Heap」を製作していた時期のギグのようだ。
楽曲は、「Rogue Element」からのものと「Soft Heap」からのものがある。
ジャズ・ピアニストとしてのアラン・ガウエンの才能がほとばしり、インプロヴァイザーのディーンのギア・アップもすごい。音質は最上級の海賊盤程度。
「Fara」
「Sleeping House」
「C.R.R.C」
「Circle Line」
「Remain So」
「One For Lee」
(RR 008)