イギリスのプログレッシヴ・ロック・ユニット「WILLOWGLASS」。作品は三枚。ひさびさの本格的ネオプログレ。 2013 年新譜発表。 グループ名から連想されるのは「The Wind In The Willows」ですね。
Andrew Marshall | guitars, bass, keyboards |
Hans Jorg Schmitz | drums, percussion |
Steve Unruh | violin, flute, additional guitar |
2013 年発表の第三作「The Dream Harbour」。
内容は、現代的なメロディアス・ロック・テイストも強まったシンフォニック・ロック。
GENESIS の月影を追い求めるような、懐かしきネオ・プログレ風のライトな変拍子アンサンブルもあり。
今回はゲストらしきヴァイオリンもフィーチュアし、格調に花を添えている。
デヴィッド・ヘンチェルがプロデュースしていた頃の、GENESIS と RENAISSANCE を交ぜたような音といってもいいかもしれない。
いずれにしても、徹底した回顧路線からは少し軌道を改めた感ある作風である。
残念ながら、ソロ・パートにおいて、主人公が誰か他の人がいいアイデアをくれないだろうかと待ち続けているような所在無げな演奏を続けてしまう傾向がある。
特に大作のテーマ(GENESIS からの引用が多いと思う)が終わった後の展開部にそれが顕著。
さすがに音色だけではもたせられない。
目を剥くような美旋律か知的に興奮させる手の込んだアンサンブルがなければ、この土俵での勝負は難しい。
ただし、音楽的な「冴え」はいま一つながらも、音色への配慮や一貫したトーンはあり、丹念に作り込まれた作品であることは間違いない。
それだけに惜しい。
5 曲目は佳曲。
メロトロンは抑え目。
全曲インストゥルメンタル。
(WGCD003)
Andrew Marshall | electric & acoustic guitars, 12-string guitar, classical guitar |
bass, keyboards, flute, drums | |
Dave Brightman | drums |
2005 年発表の第一作「Willowglass」。
内容は、アコースティック・ギター、メロトロン、オルガン、ピアノらをフィーチュアした古式ゆかしいシンフォニック・ロック。
初期 GENESIS、KING CRIMSON の深みのある叙情性を丸ごと取り出してパッケージしたような作風である。
シンセサイザーはバロック・トランペットのような輝かしくも気品ある響きで朝露とともに生の高まりを歌い、アコースティック・ギターはトルバドールの竪琴のように夕暮れに遥か遠国の思い出をささやき、メロトロンは夜毎訪れる王の霊を慰めて古城にこだまする幻の聖歌隊である。
英国プログレッシヴ・ロックらしいリリシズムのエキスを抽出できているという点では、ほぼ百点満点。
まんまなところもあるのだが、すべてがほどよく抑制されたところ、やりすぎないところが、奏効していると思う。
趣味的といってしまうと元も子もないが、確かに趣味の方向け。
全編インストゥルメンタル。
2 曲目のソロ・ギターは、CAMEL から出発して KAIPA や KERRS PINK、GANDALF など世界を巡って英国に帰ってきたような音です。
個人的には、アルバム冒頭のピアノの音があまりに昔聴いたレコードのようで驚きました。
(WGCD001)
Andrew Marshall | electric & acoustic guitars, 12-string guitar, classical guitar |
keyboards, bass guitar, bass pedals, flute, recorders, drums, percussion | |
Dave Brightman | drums, percussion |
2008 年発表の第二作「Book Of Hours」。内容は、70 年代 GENESIS/CAMEL 憧憬型の丹念で上品なシンフォニック・ロック・インストゥルメンタルである。
全編クラシカルで柔和で落ちつきがあり、のどかな音の流れが、愛らしく跳ねるかと思えば哀愁の淵でたゆたい、やがて、ほのかな明かりへ手を伸ばすようにゆったりと広がってゆく。
明朗に歌い上げるところの素直な表情と、押しつけがましさが微塵も感じられないうっすらとした哀感がよく、語り口が「濃くない」ところが特徴だろう。
一方、ミステリアスな表情付けやたたみかけるような場面もバランスよく盛り込まれている。
怪しい音が高まったかと思うと、すっと退いて厳かなチャーチ・オルガンが静々と入ってくるようなところに言い知れぬセンスを感じてしまう。
加えて、英国調としかいいようのない素朴で密やかなフォーク・ソングの響きがある。
メロトロン・フルートとアコースティック・ギターのアルペジオが重なるだけで、何故にこんなに昔語りの世界のイメージが広がるのだろう。
キーボード(シンセサイザー、メロトロン、オルガンなど)、ギター(アコースティック 12 弦も当然あり)、リズム・セクションすべてが彼の時代の音である。
歌を大事にして音を詰め込まず、しかし、肌理細かく音を紡ぎ上げてゆく。
そして、控えめで穏かな演奏なのだが、多重録音にもかかわらずバンド的なグルーヴある。
ハデハデな見せ場は作らないのだが、EGG を思わせるテクニカルで硬質な演出や、GANDALF のようなシンセサイザー・ミュージック調などは間違いなく意図的だろう。
そして、そのはまり具合は相当なものである。
これは天晴れだ。
同様なアプローチの SUBMARINE SILENCE と比べると、これだけ盛り込んで息苦しくさせない名場面集としての編集の巧みさと、バンドとしての呼吸の良さ、気候風土から来る枯淡の味わいで勝っている。
(もっとも、本アルバムはイタリアでマスタリングされたらしい)
予定調和と眉をひそめる前に、素直に音をあびると、普段忘れているものが心に浮かんでくるはず。
このど真ん中な具合は、おそらくここ数年の間で五指に入る。
とにかく聴き終えた後の余韻がいいです。
ただし、これで味のあるヴォーカリストがいたらと、いけないと知りつつも思ってしまうのですが。
ジャケットとブックレットの絵は決して巧みなものではないのですが、子供の頃に読んだ童話の挿絵のように素朴な味わいと諧謔味があり、郷愁を呼び覚まします。二人の男は、おそらくサンチョ・パンサとドン・キホーテでしょう。
GENESIS の「Trespass」のファンには絶対のオススメ。
「Algamasilla」(11:07) メロトロン、まろやかにして華やかなシンセサイザーの調べに魅せられる傑作。
GENESIS 入ってます。
これだけ自信にあふれて主旋律を歌うメロトロンには久しぶりに出会いました。
全編を通してやさしげな表情と健康的に躍動するリズム(7 拍子)がいい。
プログレ・ファンの永遠の BGM になり得ます。
「Willowglass」(4:02)アコースティック・ギター、フルートをフィーチュアしたフォークタッチの作品。
初期 GENESIS から苦味を抜いた感じ。
「The Maythorne Cross」(10:39)
ややつぎはぎ気味の大作。
GENESIS を中心に昔のプログレから好きなフレーズや音、アンサンブルを抜き出した感じといえばいいだろう。
跳ねるようなフルートの調べが VdGG を思わせる。
「Book Of Hours」(7:13)「Stagnation」や「Dusk」のようなオルガン、アコースティック・ギター、ピアノ、メロトロン・ストリングスらのアンサンブル。
中盤、8 分の 6 拍子のアンサンブルには、ほんのりカンタベリー(EGG か)風味、もしくはよくできたイージー・リスニング調が加わる。
終盤、リプライズするアコースティック・ギターのアルペジオは、英国フォークの滋味をたっぷり含んだみごとなものである。
佳作。
「The Labyrinth」(16:50)
前曲の終りをうまく受け止めるクラシカルなアコースティック・ギターの調べ。芸風は完全にハケットである。
8 分の 6 拍子によるジャジーなアンサンブルは、ここまでになくギターがリードする。
トニー・バンクス風の波打つようなシンセサイザーがリードする 7 拍子アンサンブルで重みあるアクセントを付けて、謎のノイズがチャーチ・オルガンへとつながってゆき、憂鬱ながらも静けさが取り戻される。
みごとな語り口だ。
再び、メロトロン・クワイアとオルガンによる 7 拍子のブリッジから、シンセサイザーがリフレインする 8+7 拍子アンサンブルへ。
そして、すべてをリセットするかのようにチャーチ・オルガンが轟く。
ピアノの和音が決然と刻まれ、やがてロマンティックなテーマが提示されて、高まるシンセサイザーとともにミドル・テンポの歩みが始まる。
最終章、再び冒頭のアコースティック・ギターが現れて丹念なアルペジオを刻む。
ギターの周囲にさまざまな音が集まり、流れを成し、終局への道筋となる。
エンディングの長和音へのカタルシスを目指すためか、やや和声進行に気取りはあるが、シンセサイザーがりゅうりゅうと歌い始めると、もはや拒むすべはない。
そして、意外にも結末を設けずに、そのままフェード・アウトする。これは何かの布石だろうか。
なめらかに展開する気持ちのいい大作です。
(WGCD002)