フランスのジャズロック・グループ「ABUS DANGEREUX」。 80 年結成。作品はベスト盤、ABUS 名義も含めて八枚。ギタリストのピエールジャン・ゴーシェは、ソロ活動も行う。「Dangerous Abuse」って何のこと?
Pierre Jean Gaucher | guitars | Eric Bono | keyboards |
Laurent Kzrewina | saxes | Pascal Gillard | bass |
Alain Mourey | drums | Sylvie Voise | vocals |
Catriona Walsia | vocals | Dan Ken | vibes |
Arnaud Jarlan | percussion | Nigel Warren Green | cello |
80 年発表のアルバム「Le Quatrieme Mouvement」。
内容は、EGG - NATIONAL HEALTH - GONG 直系のカンタベリー・テイストと MAGMA 風女性スキャット、地鳴りベースが絶妙に配合されてオリジナルな音へと昇華されたジャズロック。
開巻劈頭、唸りを上げるベースと妖しいスキャットとエレクトリック・ピアノの和音の響きがすべてを物語る。
さらに、フィル・ミラーをテクニシャンにしたようなギターの表現(後半で凄腕のジャズ・ギタリストであることが判明)とくれば、RETURN TO FOREVER - カンタベリーの路線への傾倒も間違いない。
機械的な変拍子反復は、キーボードに耳をやると RETURN TO FOREVER や SOFT MACHINE に聴こえ、ギターに注目すると NATIONAL HEALTH に KING "DISCIPLINE" CRIMSON を加味したメローかつメカニカルなイメージであり、アンサンブル全体の感じは、なんと HAPPY THE MAN である。
フュージョン・タッチのなめらかなサックス、唐突な変拍子パターン、ハイテクのキーボードがドライヴする強迫的かつスリリングな演奏など、よく似ている。
こういった、カンタベリー、MAGMA といったさまざまな要素が、ほとんどモトネタのまま存在し、それゆえに無理やりな「接木」のようなところもある。
しかし、技巧に任せてノンシャランと開き直って進んでゆくうちに知らず知らず興奮させられているのも確かである。
おそらく、誰もが感じる「唐突さ」は「無邪気な何でもあり」によってカバーされ、じつはそこが雑多なものを吸収しぶちまけるプログレ精神をしっかり受け継いでいるといえる。
そして、スタイルとしてすでに完成していたジャズロック、フュージョンを、パロディ寸前の形ではあるが、高次元で完成度高くまとめあげている。
ベースにはジャズがあり、演奏の端々に明らかなように、ギタリストを中心にその素養は相当に高度だ。
大胆な音響処理含め、70 年代ジャズロックの一つの総括を果たした作品といえるだろう。
チェロを使用したクラシカルなタッチもいい。
6 〜 7 曲目に注目。
「Le Quatrième Mouvement」(5:15)
「Interlude (Percussions)」(1:00)
「Funk Au Chateau」(3:00)
「Thème D'Hiver」(3:05)
「Danse De Påques」(6:02)
「Le Roy Est Mort, Vive Le Roy」(7:45)
「Ballade Courte」(9:10)
(FLVM 3021 / Musiclip 0800)
Pierre Jean Gaucher | guitars |
Arnaud Devos | vibes, marimba, percussion, keyboards |
Bobby Rangell | saxes, flutes |
Alain Mourey | drums |
Philippe Euvrard | bass |
Philippe Eidel | synthesizer programming |
Arnaud Jarlan | synthesizer programming |
82 年発表のアルバム「Bis」。
内容は、マリンバとサックスをフィーチュアしたジャズロック。
前作よりもぐっとメローな音と凝ったリズムの取り合わせが特徴的な作品であり、PIERRE MOERLEN'S GONG をさらにジャジーにした感じである。
メロディアスなサックスがリード役で活躍してフュージョンに踏み込むところや、ランニング・ベース、ブラシ、ギターのプレイのせいで完全にモダン・ジャズになるところもある。
しかし、くねくねとした変拍子テーマ、ディストーションを効かせたギター・プレイ、一体感ある快速アンサンブル、打楽器による反復の多用など、カンタベリーの遠戚のような音楽性が消えたわけではない。
芯の通ったサックスの音が明快な一筆でテーマを描けば、マリンバやリズム・セクションがその周囲を小刻みににじませて、精緻な文様を正確に刻み込んでゆく場面もある。
そういうところの印象は、ヒュー・ホッパーが大陸で結成していたグループや、フィル・ミラーの IN CAHOOTS のテクニカル版といった感じだ。
もちろん、ギターは、さほど数多くない見せ場で、いとも軽やかな自己主張をジャズの文脈で行い、圧倒的な存在感を示している。
パット・メセニーに迫る、まれに見る達人である。
リズム・セクションと打楽器、サックスが変拍子のリフをたたみかけると、ギターは鋭く応じることもあれば、そ知らぬ顔でモダン・ジャズ風のプレイを放ったりもする。
こういうコンビネーションは珍しいと思う。
前作の MAGMA + HATFIELDS という観点で聴くと、やや興ざめかもしれないが、打楽器をフィーチュアしたエレクトリック・ジャズという点では出色の作品であり、80 年代のカンタベリーのバリエーションという見方も可能である。
「Radio Pekin」(4:03)伴奏がやや中華風なのと、軽やかなヴァイブのせいで GONG を思い出す。
軽妙な上ものの調子とは裏腹に、リズム・セクションは変拍子を含めなかなか強圧的。サックスだけ聴いていると西海岸フュージョンなのだが。
「Phaedra」(8:35)
モダン・ジャズから SOFT MACHINE、Zeuhl 系、PIERRE MOERLEN'S GONG など、スピーディな演奏で無限に変転する快作。
不気味に響くベースのリフ、マリンバとギターによる奇天烈なアンサンブルなど、主役はリズムである。
エンディング近くのジャズ・ギター・ソロはみごとの一言。
「Nostalgy Square」(8:43)サックスとギターによるロマンティックなデュオから始まる本曲は、このアルバムのメローで心洗われるジャズ面を代表する。
M.J.Q ばりのヴァイブ、粒だったギターのプレイ、キーボード風のベースなど、ソロをフィーチュアしつつも慎ましやかで気品ある演奏だ。
終盤、さりげなく変拍子をからめて目くらましをするなど、若干ケレン味も出る。
プログレばっかり聴いてちゃダメだと思ったりする。ただ、CARPE DIEM や TERPANDRE に通じるものも確かにもある。不思議。
「Bulletin Meteo」(8:13)
GENTLE GIANT による(中華風のテーマのせいか)ジャズロックのような作品。
ポリリズミックな 8+7 拍子テーマから、リズムを変化させた反復パターンでころころと転がってゆく。ベースの刻むリフが駆動力である。
サックスは終始伸びやかにリードを取って、脈動するアンサンブルに一本芯を通す。
6:20 辺りからの 5+6 拍子によるフルートとギター、ヴァイブのやりとりはきわめてカンタベリー的。
「Summer Homework(dedie a jean-pierre Patillot)」(8:20)
サックスと可愛らしいマリンバのコンビがリードするメローな作品。鮮やかな手並みのギターがパット・メセニーを思わせる。
木管のようにも聴こえるがソプラノ・サックスなのだろう。
(EL 31482)